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そして現在の勇者先生

 朝飯を食って、フォルテの実験に付き合って、勇者の活動を見守る。

 これがすっかり俺の日常となった。


「順調だな勇者」


「吾輩の修行の成果だ」


「全員のレベルが上がれば、自然と順調になるものよ」


「もうわたしが心配する必要もない気がしますね」


 激闘を超えて、勇者たちはグッと成長していた。

 ザコ狩りくらいなら安心して見られるのだ。


『よーし終わったわね。おつかれ』


『お疲れさまですー』


 魔物討伐を終えての休憩タイムに入った。安定しているな。

 敵が来たらわかるよう、少し結界を張ってあるのもポイントが高い。


『やっぱまだ敵は強いわね』


『こちらは三人でやんすからね。負担は増えるでやんす』


『といっても、新しい味方さんがそんなに増えてくれるとは思えませんし……』


『マオマナ見ちゃうとねえ……邪魔になるくらいなら、今の三人でいいわ』


 勇者パーティーは増やせばいいというものではない。

 最初から一緒なら、一緒に成長していける。

 だが途中加入だと、半端な人材では足手まといになる。


「難しい問題よね」


「基本的に軍隊よりフットワークの軽い、強力な遊撃部隊みたいな位置付けだからな」


「アキラ様はどうしていたのですか?」


「初期は一緒にいたよ。中盤から固定になって、異世界を百個救う頃には、もう固定か、女神と二人だったな」


 俺が強くなり、難易度の高い世界に行けば行くほど、ついていける人間も減る。

 その世界の強者もいるのだが、勇者PTに同行してくれるフリーな存在は希少だ。


『地道にできることを増やすしかないでやんすな』


『そうだ、カラスマさんの剣術とか忍術を教えてもらえませんか?』


『いいわね。それでミルフィの足しになれば、戦闘も楽になるじゃない』


『おすすめしないでやんすよ』


『どうして?』


『自分の戦闘術は暗殺剣。人でも魔物でも効率よく殺すためだけの剣でやんす』


 少しだけカラスマの表情に影が差す。あまりおすすめできんものらしいな。


『ミルフィ殿のような優しい勇者には、暗殺剣は似合わないでやんすよ』


『まあ忍者なんてやらせたら目立つでしょうね、ミルフィは』


『ひどいです! ちゃんと忍べますよ!』


『あんた昔から目立つしお人好しだし、向いてないのよ』


『そうそう、忍者なんてしなくてもいいのでやんすよ』


 和やかなムードに戻ったな。あいつは特別な事情がありそうだし、いずれ掘り下げる機会もあるだろう。


「まだレベル上げの時期かな」


「そうね。あとは次の四天王に行く前に、武具を伝説級のものにできると理想ね」


「早々あるものなのか?」


「俺が調べて、リコが教えればいい」


「便利だなお前」


 そこから三人の装備を探す。賢者の杖があったのだ、世界各地にアイテムがあると見ていいだろう。

 四人でミルフィとカラスマの武器を調べていく。

 それだけで結構いい時間になっていた。


「結構朝早かったのに、もう昼過ぎだな」


「それじゃあお昼にしましょうか」


「第一回、白米を美味しく食べよう選手権ー!!」


 まーたリコが意味わからんこと言い出したよ。


「はい、今回は白米にぴったりのおかずを各自提出してもらいます!」


「なぜ吾輩は巻き込まれたのだ……」


「お前はまだいい。俺なんて自宅だから逃げられんぞ」


「リコちゃんは元気ねえ」


 俺の昼飯前のひとときが邪魔されている。平穏はこうして壊れていくのだなあ。


「適当に麺類と白米のどっちかで終わる食事が増えている昨今。ここで食の楽しみ、食育について考える時期です。わかりますね?」


「わからん。まずお前のポジションがわからん」


「では各自白米のおかずを作ってください! 王道から変化球まで、自慢の一品をお願いします!」


「リコちゃんはどうするの?」


「公平に判定するため、試食係です!」


 こいつ珍しいもん食いたいだけだな。

 仕方ないので厨房へ行き、今日のメニューを考えよう。


「お前も素直な男だな」


「どうせ今日は俺が食事当番なのさ」


「それで? 先生は何を作るの?」


「そこだ。普通に唐揚げかハンバーグで納得してくれりゃいいが」


「無駄に舌が肥え始めているわ」


 本当に面倒だ。そもそもメニューが多すぎても、それはそれでまとまりがない。ならばどうするか。方法は様々だが。


「いっそ合作にしようぜ。白米を前提として、ふりかけとか、味噌汁とか」


「和食にしちゃうのね。いいと思うわ」


「味噌汁とはどういう食べ物だ?」


「じゃあ私が作るわ。見ていていいわよ」


 クシナダに味噌汁を任せよう。俺とフォルテでメインを作る。


「漬物とかあったかな……フォルテ、米に合うおかずって何だと思う?」


「魚か肉だろう。全員で食べることを考えれば、あまり奇をてらったものは避けたい」


 ごもっとも。そして完全に定食にする方針が固まった。


「サラダとメインが必要だな。味噌汁は名前からしてスープなのだろう?」


「その通り。肉はこっちにある」


 横にある冷蔵室へご招待だ。ここは冷蔵庫として作ってあり、各種材料がある。


「妙な術式が編まれているな」


「時間の冷蔵庫だ」


「意味がわからんぞ」


「腐らないように、食材の時間だけ止まる冷蔵庫を作った」


「またぶっ飛んだものを……ならば吾輩が見繕うのを手伝おう」


 しばらく考える。鳥と豚と牛は普通だから却下。だが味噌汁と合わせるためには、なるべく和食っぽく作れる材料が好ましい。


「おいこれ……どこかで討伐されたと聞いたが……」


 フォルテが何かに目をつけた。でかい肉だな。あのサイズは牛でも不可能だし……思い出した。


「ああ、ファイナルダークなんとかドラゴンだな。別の調理法を試したくて残しておいたんだ」


 無駄にでかいドラゴンだったので、全部食い切らなくてもいいと思った。

 リコが食い尽くしそうだったが、新作料理に使いたいと言って止めたのだ。


「こいつかなり強くて凶暴……いや、どうとでもなるか。勇者活動とかいう怪しいものは禁止なのだろう? 倒していいのか?」


「庭で焼いて食ったらスローライフっぽいかなって。リコが提案してきた」


「ほうほう、さてはアホだな? スローライフとやらのためなら見境無いな?」


「いやいやちゃんとわきまえて……るよな?」


 ちょっと不安になってきた。でも俺は元勇者だ。ちゃんと常識人だし、やっちゃいけないことくらい理解しているはず。


「残りっぱなしも邪魔だな。よし、ドラゴン処理するか」


「異論はないが、何を作るつもりだ?」


「そこだよなあ……」


 とりあえずキッチンへ肉を持っていく。

 クシナダが味噌汁を作っているが、出汁から本格的に作るみたいだな。


「お前も凝り性だな」


「先生が色々教えてくれたからよ。そっちはドラゴンのお肉?」


「ああ、そっちの味噌汁の具は豆腐か」


「シンプルでいいでしょう?」


「豆腐とは珍しい食材だな」


 フォルテは和食全般の知識が少ないようだ。これを機に色々教えておこう。


「料理は覚えて損はないし……リコは何やってんだ?」


 テーブルで工具っぽいものを広げてなんかやっている。


「暇なので作りかけのプラモ作ってます!」


「生体部品にするぞお前」


「プラモとはどういうものだ?」


「やめろ興味持つな」


 フォルテが興味持ってしまった。異世界の技術に興味を持つのは自然なことだが、これはいいことなのだろうか。


「ほう、模型か。随分と精巧にできているものだな」


「女神界の最新型です!」


 妙な所で遊び心と好奇心がシンクロしているらしい。

 こいつら相性悪いわけじゃないんだな。


「いや料理作ってくれ」


「すまんな。調理法は決まったか?」


「ああ、おいしい食べ方ガイドを見て、少し思いついた。炭を用意しろ」


「炭火焼きか。悪くはないが……その壺は何だ?」


「これが今回の決め手さ。クシナダ、漬物も用意してくれ」


「なるほど、いいわね」


 こうして料理は進む。フォルテは和食の作り方に感心し、よく手伝ってくれた。

 リコはプラモを作り終えて、ビー玉を飛ばすおもちゃで遊んでいた。

 手伝うという意識がゼロなんですがそれは。


「はい完成!!」


「おおおー! やったーご飯だー!!」


 全員分をテーブルへと運ぶ。メニューは味噌汁と漬物とメインの一品だ。

 四角い箱に入れて、蓋をしてある。


「おいしそう……ふふふふふふふ……」


 リコのテンションがおかしくなっているので、さっさと食べよう。


「今回のメインは、ダークなんとかドラゴンの蒲焼きだ!!」


 蓋を開けると、白い湯気が立ち上り、食欲をそそる匂いが溢れてくる。


「おおおおお!! なんかうなぎっぽいです!!」


「そのまんまうなぎの蒲焼きだよ。俺特製のタレで焼いた」


「うな重にしてくるとは……やりますねアキラ様!」


 しばらくこういう食事をしていなかったので、異文化交流的な意味も込めて作った。フォークとスプーンで切れるほど、ドラゴンの肉が切りやすくなったのもポイント。薄目に焼くとこうなるらしい。


「言ってくれればお味噌汁をお吸い物にしたのに」


「それも考えたんだが、うなぎじゃないからな。炭火で焼いたら、思いの外油っぽさが消えたんだ。多少淡白な味になるから味噌汁が合う」


「ふむ、独特だが米に合うな」


「おいしいです!!」


 やはり食べごたえのある肉だ。魚とは違って、身が崩れるわけじゃない。上品なステーキのような食感である。これなら米に合うし、味噌汁の邪魔にもならない。


「出汁は昆布とかつおか」


「ささっと作れる範囲で凝ってみたわ」


 上品な味だ。家庭的な料理の範疇から出ず。かといって粗野な味でもない。

 食卓に並ぶと得した気分になる程度の高級感だ。

 これを狙って出すのは、とても難しい。


「漬物はナスとたくあんだ」


「ほほう、ぽりぽりした歯ごたえと、ほのかな甘味に野菜のうまみか……面白いな」


 そんな感じで好評のまま、食事は終わりを告げた。


「ごちそうさまでした!」


「ふう……満足だ。料理人に転向しても食っていけるぞ、アキラよ」


「昔料理バトルで飯食ってたからな」


「先生はそういう世界も好きよね」


 片付けが終わり、リラックスタイムの予定だった。なのにリコがペットボトルキャップを飛ばすおもちゃを持ってきて、なぜか撃ち合いになった。


「運動はお腹が空きますね。晩御飯は何を作ってくれるんです?」


「気が早いわ」


 まあこういう生活も悪くはないな。もうしばらくスローライフについて考えていこうと思った。


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― 新着の感想 ―
[一言] あいかわらずリコがフリーダムすぎますねw
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