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先生との出会い クシナダ視点前編

 私は強かった。

 生まれた時から天才として、世界に尽くすことを望まれた女神。それが私。

 検査と鍛錬の日々の中で、その才能は加速度的に開花させられていく。


「もっと効率よくこなせ。お前はそのためにいる」


「まだ修練が足りないわ。トレーニングメニューを変えます。すぐ手配して」


 何人もの研究者が私についた。研究所と職員だけが私のすべて。

 世界を救うため、よりよい平和を求め、私は女神としてここにいる。


「いいぞ、平均を大幅に超えている」


 同期の女神で私に勝てるものはおらず、勝負になるものすら年々減っていった。

 訓練の相手を頼んでも、みんな申し訳なさそうに断ってくる。


「無理よ。あなたと戦ったら死んじゃうわ」


「ごめんなさい。他の子を探して」


「私では力不足だ。申し訳ないが……」


 専属のトレーナーですらそうだった。

 女神として異世界へ派遣される前には、既に完成していたのかもしれない。

 それでも上を目指し続けた。

 そして私は簡単な異世界の担当となる。


「ようこそ勇者よ。あなたにこの世界を救うための力を授けます」


 最初にほんの少しの失敗はあれど、私の加護を与え、助言をすれば解決した。

 いくつもの世界を救い、女神用の空間から勇者と世界を観察する。

 それが私の日常。


『もうおしまいか勇者よ』


『まだだ! この一撃にすべてをかける!!』


 今日も勇者と魔王を観察する。決戦の日だ。

 気合は十分。けれど少し押し負けている。

 そこでほんの少し、本当に少しだけ勇者の力を上げる加護を渡してみた。


『バカな!? 魔王であるこの我があああぁぁぁ!?』


 あっけなく散っていく魔王。耐えることすらできない。


「…………脆い」


 勇者も魔王も邪神も、そのすべてが私を大きく下回る力しか無い。

 それも仕方のないこと。女神とその他では圧倒的な開きがある。他を寄せ付けることはない。


「帰還いたしました」


「ご苦労」


 帰還と成果報告を終える。あとは次に備えて鍛錬の日々。近いうちに、また別の世界ヘと行くことになるだろう。

 それまで調整を繰り返す。睡眠も食事も必要ない体だ、休息の必要も消えていく。

 休む時間すら惜しいのか、専用の治療室と回復薬を投与された。


「クシナダヒメ。この世界にもう一度行ってきて」


 どれくらいの時間が経ったかわからない。

 上層部からの指令で久しぶりに外へ出た。

 前に担当した世界で邪神が現れ、勇者が敗北したらしい。


「あなたでも失敗することがあるのね」


 加護が足りなかったのか。悪の目も完全に摘みきれていなかったということだ。

 まだ甘かった。もっと徹底的にやらなければ。

 私にできる唯一の使命。これこそが女神の役目だ。


「ようこそ勇者よ。あなたにこれから加護を与えます」


 考え方を変えた。

 より効率よく、より安全に、より最短の道を模索し、実行する。

 異世界の敵を調べ、今後どんな敵が現れても勝てるようにしよう。


「あなたが平和を愛する心を持ち続ける限り、念じればどんな敵でも消去可能です。あなた自身も不老不死となり、常に魔力と世界によって防御され、誰よりも幸運となるでしょう」


 より強い異世界を担当し、勇者を思うように無敵の存在へと変えていく。

 それでも心にしこりが残る。私と対等に戦えそうなものが、ほんの一握りだと知ってしまう。

 …………それの何がいけないのだろう? わからない。私は何を考えているのだろう。


「もっともっと強い加護が与えられるように。もっと同期よりも強く、もっと成績を上げて、もっと……」


 私はただ忠実に命令をこなそう。

 登り続ければ、成長し続ければ、頂上には誰かいるはず。

 私はその誰かに会ってみたい。この気持ちの答えがあるかもしれない。

 そして意外な呼び出しがかかる。


「クシナダヒメ、女神女王神様がお呼びだ」


 女神女王神様。女神界を統べる女神のトップ。

 私が目指す強さの頂にいるお方。あの方のように強くなることこそ、私の目標。


「いらっしゃい。こうしてちゃんと会うのは初めてかしら?」


「お初にお目にかかります。クシナダヒメと申します」


 近くで感じる魔力はまさに無限。

 無限程度の力なら、私でも出せるはずなのに。

 なのに明確にまだ勝てないと感じた。

 少し救われた気がしたのに、なぜだか心の奥がざわついている。


「物凄く頑張ってるのね。世界のために尽くして、そこまで強くなって」


「恐縮です」


「確かにあなたは強いわ。でもね。力だけじゃダメよ? わたしたちは女神。いたずらに力を振りかざす暴徒ではないわ」


「承知しております。世界の平和のため、女神としての使命に殉じます」


 なぜか難しい顔をしている女王神様。

 困っているようだけれど、原因がわからない。


「うーん……こういう真っ直ぐな子ってあんまり会わなかったし……あのね、加護をいっぱい与えてるでしょ? あのなんか凄いやつ」


「はい。あれならばより安全に、世界の平和維持を可能とするはずです」


「でもそれはハッピーエンドじゃないわ」


 本格的にわからなくなってきた。そして次に来たのは謝罪だった。


「ごめんね。あなたと同じくらい強い女神は少なくて、忙しいの」


「おっしゃっている意味が……」


 謝罪される心当たりはない。私はまだまだ未熟ということだろうか。


「本当はあんな研究もいけないんだけど、どうも面倒な連中がいるっぽいのよ……」


 しばらく悩む様子を見せていた。その悩みが何なのか理解できない。

 私が考えることでも、解決できることでもないのだろう。

 ただ世界を平和に、女神とはそのための存在なのだから。


「うーん……なんて言ったらいいのかしらね。そうだ! ちょっと知り合いの勇者と難しい世界救ってきてよ! 戦闘を許可するから!」


 戦闘を許可する。それは女神が世界に降り立ち、敵と戦っていいということ。

 本来人間に解決させるだけの女神が戦うということは、相当な危険地域だ。

 でもそれよりも気になることがある。


「勇者? 女王神様と知り合いの勇者ですか?」


 かつてはいち女神として異世界を救っていたとは聞くけれど、その時の知り合いだろうか。

 特定の人間と交流があるとは聞いていない。


「そうそう。悩みとかぶちまけてきちゃいなさいよ。解決してくれるわ」


「お言葉ですが、人間に解決できるようなことでは……」


「へーきへーき。先生は本物の勇者だから」


 そこには絶対なる信頼と、憧れが見て取れた。

 そうまで言わしめる勇者が、少しだけ気になっていく。

 だから会うことに決め、専用空間で待つことにした。


「よろしく。女王神から聞いたと思うけど、勇者だよ」


 ごく普通の男だった。

 黒髪黒目の日本人男性。取り立てて強そうでもない。

 特別な武器も持っていない。というか私服だ。スニーカーと普通の冬服。


「私はクシナダヒメ。あなたに加護を与え、異世界救済に協力します」


「おう、頼む」


 笑顔で軽く返事をされる。

 本当にこの男なのだろうか。

 動作から武術の動きが感じられず、強者特有のオーラや覇気すら感じない。


「今あなたに加護を与えました」


 いつものように手早くわかりやすく加護の譲渡を終わらせる。


「なるほど、あいつも妙なやつ抱え込んだな」


「何か?」


「いーやなんでも。一緒に行くんだろ? 気楽にいこうぜ。景色見たり、うまいもんとか調べてさ」


 観光気分だ。これから行く世界の危険性も話したのに、なぜかより楽しそうだった。


「おー……えぇ……なんか暗いんだけど」


「ここは暗黒の雲によって光の入らぬ地域です。人類と女神が巨大な結界で封印し、この大陸だけ完全に別次元へと隔離しました。ここに邪神が大量に発生していて、どうも徒党を組んでいる可能性があるとか」


 この大陸は私が知り限り、最初からこうだ。

 魔物が発生しやすい土壌があり、だからこそ邪神や魔王が住み着く。

 早く救わなくては、人類どころか生物が消える。

 女王神様はなぜこんな普通の人を呼んだのだろう。


「世界をまたいだ邪神連合か。なんでそんなもんできたんだ?」


「居場所がなくなったと聞いています」


「意味がわからん」


「あらゆる世界を救い続ける何者かによって潜伏を余儀なくされ、ひっそりと力を磨くために最適なのがこの封印次元らしいです」


「あぁ……うん、まあそう……そういうこともあるよな、うん。偶然そういうこともあるさ。偶然だよ」


 勇者の歯切れが悪い。

 いきなりこんな話をされても信じられないのも無理はないか。


「女王神め……知ってて俺を指名しやがったな」


 何か呟いている勇者に気を取られ、かかる声に反応が遅れた。


「ほう、ついに女神界が重い腰を上げたか」


 邪神の接近を許してしまった。

 30メートルほどの体。全身緑色で、どこか昆虫のような外皮だ。


「貴様勇者だな? 吾輩は究極邪神バーズガ。勇者よ、この世界に来たことが運の尽き。全世界は我らのリゾートとして作り変えるのだ」


 バーズガ、それは女神界ブラックリストの上位に君臨する邪神。

 あらゆる運命や因果の根源であり、強大なアカシックレコード。

 その概念は数兆の次元や宇宙に根付いており、ほんの少し世界に干渉するだけで、あらゆる運命を捻じ曲げる。


「手始めにこの結界を砕き、世界を死の運命で染めてくれるわ!」


「迷惑だからやめろ」


「ぺっひゃわい!?」


 勇者が軽く右手を振るだけで、邪神は破裂して消えた。

 どうやら死の加護は順調に作動しているようだ。


「なんかうまいもん食おうぜ。街とかあるんだろ?」


「私に食事は必要ありません。女神ですから」


「なるほど、じゃあ俺が食うから、一緒に食おうぜ」


「……では結界の外にある王都へ転移します。掴まってください」


 王都へ行き、少し値段が高い店へと入った。

 楽しそうにメニューを見ている勇者を、私はどうすればいいのかわからない。


「食事はできるんだろ?」


「機能として存在しています。ですが投薬と水分以外の摂取は、ほぼ経験がありません」


「んじゃシンプルなのからいこうぜ」


 向かい合わせに座り、高級なコースメニューが運ばれてくる。

 マナーは学習装置で習得済みだ。


「おっ、うまいじゃないか」


「それはなによりです」


 勇者が喜んでいるのならそれでいい。そう思ってスプーを口に運ぶ。


「どうだ? うまいか?」


「おいしいのだと……思います。味のついたものを口にする経験が少ないもので」


 単純に良し悪しが理解できていない。でも不快感はない。


「成分と材料の判別は、おそらく可能ですが」


 調味料も材料も、この世界に来る前にデータとして手に入れてある。

 成分解析も魔法で可能だろう。


「うーむ……それは俺でもわかるよ。そうじゃなくて好きな味とかさ」


「すべてが、初めての味です」


「そうか、じゃあもっと色々と食ってみようぜ。好きな味を見つけるんだ」


「それはどういう効果があるのですか?」


「楽しいし強くなる」


 言い切られた。なぜだろう、おかしな説得力と自信がある。

 今まで見たことのないタイプだ。

 そこまで考えて、私の周囲には、誰が何人いただろうと思う。


「よしよしもっと食おうぜ」


「わかりました」


 結局、おいしいのだろうという結論で終わった。


「次はどこに行くかな。食いたいもん決めておいてくれ」


 そこから数日間、暗黒の大陸で邪神を倒し、別大陸を観光する日々が続いた。

 勇者は完全に楽しんでいる。世界を救う使命の重さや、邪神がいかに強いかを理解していないのかも。

 この危機感のなさは今後の課題かもしれない。


「ここだな?」


「はい、まさか人の住む大陸に、こんな魔物がいるとは」


 敵はあの暗黒次元だけではなかった。

 巨大なドラゴンの群れが、別の大陸を支配するため集結し始めている。そんな情報を耳にし、私と勇者は現場へやってきた。


「何者だ。ここを真龍魔団の味とと知っての狼藉か」


「そうだよ」


「ペギャン!?」


 いつも通りに一撃で粉砕されるボス。加護は順調に作動している。


「さて、ボスを探すぞ」


「今のがボスです」


「……マジかよ」


 勇者の手に透明な球体が現れる。その中に次々と転移される悪しきドラゴン。


「じゃあぱぱっと片付けて帰るぞ」


 球体が握り潰され、周囲の魔物が全て消えた。

 おそらく球体の中に質量を無視してワープさせ、まとめて握ったのだろう。

 それを疑問に思えなかった。死の加護しか渡していないのに。

 疑問に思えないくらい、無傷で終わることが日常になっていたから。


「よし休憩」


 適当な岩に腰掛け、なにかを取り出して食べている。あれはなんという食べ物だったか。


「食うか?」


「それはなんという食べ物ですか?」


「おにぎり。長引きそうなら必要かなと思って、作ってきた」


「私に食事の必要はありませんと言ったはずです」


「俺もないよ。けど必要だ。食うか?」


 自然と手を伸ばし、一個もらっていた。

 米にのりを巻いた、三角の食べ物だ。

 ひとくち食べて、中には塩気のある何か。


「これは?」


「鮭だよ。こっちおかかな」


「……あったかい」


 感想はそれで支配されていた。今までの料理も温かいものが出てきていたのに、なぜだろう。なぜこれをあたたかいと感じたのだろう。


「おう、あったかいうちに食った方がうまいぞ」


「いえ、そうではなく……」


 今までとは違う気がする。

 事実今まで食べたもので、一番おいしかったから。

 あまり料理が得意なタイプには見えなかったのに、不思議な人だな、と思った。


「あったかい、です」


 私に、好きな食べ物ができた。


「よし、今晩は俺が作ってやる。何が食いたい?」


「人間に栄養があって、変な味さえしなければ」


「それじゃダメだ。もっと異世界は楽しむもんだよ」


 そして宿に帰ると料理が出てくる。この世界の郷土料理だ。


「…………とても、おいしいです」


 手作りらしい。とてもおいしい。これまでの旅でおいしいを理解した。

 それは不思議な感覚で、嫌いではなかった。


「ついでに悩みも聞くぜ。話してみな」


 そう言って次の料理を出してくる。これもおいしい。

 心が軽くなった気がした。


「……わかりません。心に引っかかりがあって。わかるのはそこまでです」


「うーむ……なんか願いとか無いのか?」


「世界を平和にすることです」


「女神としての願いか。クシナダの願いは無いか?」


「わかりません……あなたはどうして勇者をやる気になったんですか?」


 言ってから思い出した。女王神様の知り合いの勇者。

 つまり私と会う前から、この人は勇者だ。

 勇者も女神も世界を救うという点では同じ存在。

 少しだけ、この人に興味が湧いて聞いてみた。


「なりたかったから。子供の頃からなりたくってさ。かっこいいじゃん」


 実にシンプルで子供じみた答えが返ってきた。

 あまりの直球に、少しだけ思考が止まる。


「それだけ?」


「きっかけなんてそんなもんだろ? あとはなっちまえばいい。楽しいぞ。一緒に勇者やってみるか?」


「私は生まれた時から女神です。絶大な力を持って生まれ、より早く効率的に異世界のトラブルを終結させることが存在意義」


「それだ。俺は『終わり』じゃなく『続く』になって欲しいんだよ。終わるのは悲劇だけでいい」


「女王神様が言っていた、ハッピーエンドというものですか?」


「そうそう。そんな感じ」


 論理的ではない。凄く感覚的な会話だけれど、なんだか納得できる気がした。

 この人は不思議だ。他の女神とは違う目で私を見ている気がする。

 女王神様が私を見る目と似ているような。


「……よくわかりません」


「なら一緒に探してみようぜ。まず楽しいってことを探すんだ。そしたらクシナダの願いもわかる」


 一緒に、と言われて、私の心が動いた。

 むず痒いような怖いような、不思議なあたたかさだった。


「私の、願い……」


「女神だって、お願いの一つや二つあっていいんだよ」


 その日から、勇者は私に料理を教え、綺麗な景色を見に行くことを提案しだす。


「よーし次は温泉街だ。風呂入ったら卓球やるぞ」


 温泉やスポーツから船旅まで、いろいろと遊びに行くようになった。

 もちろん雲に閉ざされた次元の邪神は狩り続けて。

 そんな毎日は私にとって、初めて誰かと遊び続けた日々だった。

 こんなに長く誰かと何かをしたことはない。


「次はどこに行こうかね」


「雪の降る場所はどうでしょう? まだ行っていませんし」


「いいね、楽しさを見つけようって気になってきたな」


「勇者様のおかげです」


 これは休暇というものなのかもしれない。

 この人といると、気分が安らかになる。

 これが狙いで女王神様は私を派遣したのだろうか。


「そうか。じゃあ願いは叶いそうか?」


「まだ願い自体がぼんやりしていて……」


「ならゆっくり考えればいいさ」


 そして観光ついでに暗黒大陸で邪神を狩る。

 そんな生活が充実していると感じた。

 たまに宿に誰かが来るようになる。


「失礼、勇者殿はおられるか?」


 今日は豪華な鎧を着た人だ。あれはどこかの騎士団の紋章だったはず。


「今は留守にしています。勇者様がなにか……?」


「むっ、そうか留守か。また来るとしよう。国を救ってくれてありがとうと、伝えて欲しい」


「国を?」


 行く先々で言われるようになっていく。日常の1ページに組み込まれるまで、そう時間はかからなかった。


「おっ、勇者様の仲間だね? この前助けてもらったお礼だ。野菜持っていってくれ」


「いえ、そんな……」


「なんだい勇者さんの仲間きてんのかい? じゃあうちの果物も持っていってくれ。うちの子を治してくれてありがとうって、言っといてくれないかい? いつも行っても宿にいないからさ」


「わかりました」


 いったいいつ救っているのだろう。

 暗黒次元へ行き、私と料理を作り、就寝までの数時間で、ふらりとどこかへ行く。

 そんな場面も見ているが、まさかその短時間で国を救っているとでもいうのだろうか。


「今日はどうだった?」


「街の人に、たくさんお礼を言われました。勇者様にって」


「クシナダも言われてたな」


「帰り道で魔物が出まして」


 偶然だった。町の外で魔物に襲われている人々を発見し、退治して怪我人に回復魔法をかけた。そして勇者様のようにお礼を言われた。他人が笑顔を向けてくるのは、あまり経験がなくて戸惑ってしまう。


「どうだった?」


「わかりません。けれど……」


 勇者様に助けられた人々を、自分が助けた人たちを思い出す。

 勇者様は穏やかな笑みで私の回答を待つ。


「やってよかったと、思います」


 これが今の私の精一杯の結論だった。

 今までも勇者に加護を与えて世界を救ってきた。間接的に助けていた。

 なのに、なぜだろう。この気持ちの名前がわからない。


「そうか。ならもうちょっと続けてみようぜ」


「私の願いは、続けていれば見つかるでしょうか?」


「かもな。見つからなくても無駄にはならないよ。見つかるまで一緒にいてやる」


 悪くない。それでもまだ、足りていない気がする。

 私の願いもはっきりせず、本当の勇者の力すら、私は理解していなかったのだ。

 それをこれから思い知ることになる。


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― 新着の感想 ―
[一言] このころのクシナダは生きているだけで本当に何も楽しいことがなさそうですね。 これからどう変わっていくのか楽しみです。
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