勇者パーティーVS四天王マオマナ
フォルテの家で、モニター越しに勇者を見守る俺たち。
「さて、がっかりさせるなよ。吾輩が鍛えてやったのだからな」
鍛えられた勇者たちは、四天王マオマナの待つ火山地帯へと出発した。
ザコを散らしていく姿を見るに、格段に強くなっている。
「おー……やるなあ」
結構暑いはずなのに、平然と、的確にザコを倒して先へ進む。
スタミナもついたようで、フォルテには感謝せねばなるまい。
「順調ね」
「これならいけますよ!」
四人で大画面を見ながら応援中だ。
フォルテのやつも、なんだかんだ心配らしく、真剣な顔で画面を見つめている。
『この先から、悪しき波動を感じます』
『いよいよでやんすな』
『大丈夫よ。何が来ても、今のあたしたちなら勝てるわ』
『フォルテ師匠からもらったオーブを使いましょう』
宝玉が輝き、パーティーの力を全回復させる。
『すごい……疲れがふっ飛んだわ』
『大賢者というのは、とんでもないでやんす』
「なんですあれ?」
「俺が作ってフォルテに渡した、全回復できるオーブ。ただし使い切り」
オーブは砕けて空気に混ざって消えていく。
これくらいのサービスはいいだろう。ここからは勇者の実力勝負だ。
門出を祝うだけ。さあ期待に応えてくれよ。
『来たよ、勇者』
『来たわね、勇者』
火山地帯の奥にある開けた場所。そこにマオマナはいた。
そこはとても広く、周囲を岩山と溶岩がぐるりと囲む、まるでコロシアムのようである。
『魔王軍四天王マオマナ、あなたを倒します!!』
『今度はあんたなんかに負けないわ!』
『平和を脅かす妖魔よ、ここで滅してくれるでやんす!』
決して勝てない実力差ではない。あとはどこまでうまく立ち回れるかの勝負だな。
『今度は外さないよ』
熱光線がほとばしり、勇者に向かって飛んでいく。
だが発射を予測した時には、全員が分散して避けている。
『雷遁、千本クナイ!』
『アクアバスター!』
左右から大量の魔法がマオマナを襲う。威力も密度も上がっているが。
『無駄だね』
『無駄よね』
だが波と熱がそれを阻む。フォルテがつけた傷は、完全に癒えていたようだ。
「まずは様子見だな」
「ああ、吾輩の奥義は秘密兵器だ」
『いきます!』
連携のトレーニングもさせていたため、緩急をつけつつフェイントも混ぜて攻撃が続く。
『こいつら、強くなってるね』
『強くなってるわ』
さすがに対処が厳しくなっているようだ。よしよし、特訓の成果が出ているな。
剣と魔法の乱打戦へと突入したが、あいつらは一歩も退いていない。
『強くて当然よ!』
『二度も敗れる勇者パーティーではないでやんす!』
お互いを補い、長所を相手にぶつけていく。完璧な連携だ。
これは言うだけなら簡単だが、長所のない足手まといがいると、この戦法は脆く瓦解しやすい。高水準でまとまっている証拠だろう。
「いけますよ!」
「ああ、油断しなきゃ勝てるぞ」
マオマナの攻略法は、シンプルに短期決戦だ。
場所と熱攻撃により、周囲の温度は上がっていく。
波が少し温度を下げようとも、水蒸気が邪魔をする。
『消えろ』
『消えなさい』
練度な上がった技に、さすがのマオマナも焦って大技に移行するが、それを見逃す勇者たちではない。
『今よ!』
『シャイニングセイバー!!』
二人が背後から術を邪魔し、その隙にミルフィが突っ込む。
光の剣がマオマナの胴体に深々と突き刺さる。
『ガアアァ!?』
初めて叫び声に変わった。確実に効いている。
『邪魔だあぁぁぁ!!』
『危ない!』
後先考えずに熱を放出し、無理矢理に距離を取らせた。それはマオマナの中に無視できない焦りと恐怖が生まれている証拠だ。
『四方結界! 天昇!!』
離脱を終えたミルフィの代わりに、カラスマが御札をばら撒く。
マオマナの四方を囲み、四角い結界が発動。熱はすべて、天高くに空いた穴から吹き出ていった。
「やるなあいつ!」
「的確な判断ね」
無駄に力に張り合わず、一方向に流してしまう。悪いやり方じゃない。
敵の力が強ければ、かなりの力で立ち向かう必要が出てきてしまう。
『ミント!』
『ダメよ! まだどっちも倒せてない!』
片方を倒したのち、確実に奥義で足止めして倒す作戦か。
「ここからだ、ここからだぞミント。吾輩との特訓の成果、見せてやれ!」
『雷遁!』
『ライジングバレット!』
カラスマとミントの電撃魔法が収束し、雷のボールをミルフィが蹴り飛ばす。
『ライトニングシュート!!』
波の中を稲妻が突き進み、マオマナの全身へと駆け巡る。
『ぐぐぐ……うざいんだよ!』
『アアァァ!!』
波を引っ込め、熱光線主体で攻めてくるが、狙いをつけて撃っているわけではない。苦し紛れというやつだろう。やがてぐったりと両腕を下げて止まった。
『もういいよな』
『もういいよね』
「様子がおかしいわ」
『弾けろオオオォォォ!!』
熱を下に打ち込んでいる? ヤケを起こしたわけではない。下に何かがあるということに……。
「まずい! 噴火するぞ!!」
勇者たちの足元が大きく揺れ始める。
「どういうことですか!?」
「火山を刺激して、あの場所をマグマで埋めようとしてやがる!!」
「ええぇぇぇ!?」
魔王軍は別に自然なんてどうでもいいんだろう。しかもあの場所は火山地帯だ。噴火くらい起きるし、必要な土地でもない。やられたな。
『なになに!? どうなってんの!?』
「勇者よ、聞こえていますか? 火山が噴火しようとしています。急いで決着をつけるか逃げるかしてください!!」
『女神様!』
女神のお告げを使って事態を知らせ、後は勇者に託す。戦っているのはあいつらだ。なら決定権はあいつらにある。
『このままやるわよ!』
『もちろんです!!』
『二度も逃げるのはごめんでやんす』
即答で続行を決意したか。嫌いじゃないぜ。
「よく聞いてください。まだ完全な噴火までは到達していません。これ以上火山を荒らされる前に、マオマナを倒してください! 時間がありません!」
『了解!』
『やってみせます!』
『どうするでやんす? まだ片方倒せていないのに』
片方を倒されることを警戒してか、分裂する気配もない。
これはジリ貧になるかもしれないぞ。
『消えろオオオォォォォォ!!』
もう勇者たちを見てもいない。全方位に熱と波をばら撒き続けている。
『やってやる。師匠から教えてもらった奥義を使うわ!』
『ならば拙者が時間を稼ぐでやんす。ミルフィ殿は必殺技の準備を』
カラスマが目立って注意を引いていく。忍者の得意分野なのだろう。あの手この手で行動を阻害する。
『はあああぁぁぁぁ!!』
「ミントがどれだけ完成しているか……」
「がんばってください! 四天王なんかに負けるはずありません!」
ミントの両手に収束する、膨大な魔力は、やがて合わさり必殺の奥義となる。
『何か来るぞ』
『何か来るわ』
『天魔封神波!!』
光の渦がマオマナの全身を包み、その動きを封じていく。
『動けない!? アアアアァァァァ!!』
じたばたともがいているが、魔力が吸われているのは明白だ。
熱と波を巻き込んで、さらに勢いを増していく。
「完成している。しているが……」
『ギイイイイィィィィィ!!』
『おとなしく……しなさいよ!!』
ミントの想定を超えて、マオマナの魔力が膨大だったのだろう。光の勢いが失われつつある。
『ミルフィ! 今のうちにお願い!』
『シャイニングウウゥゥセイバアアァァァ!!』
『ウオアアァアァアァァ!?』
本日一番の威力で斬りつける。マオマナを頭から一刀両断し、右半分が消し飛んだ。
「やりましたよ!」
「いや……あれは……」
残った左半分が、じわじわと右側を作り出す。まだ生きている。
ミルフィの技とぶつかったためか、光の渦も消失した。
「ちょっと……まずいんじゃないかしら」
「ええい何をやっている! さっさともう一発くれてやれ!!」
『消えろ!』
その手がミルフィへと伸びる。瞬間、煙に包まれ、ミルフィとカラスマが入れ替わった。
『忍法身代わりの術……でやんす』
『カラスマさん!!』
入れ替えるだけで精一杯だったのだろう。服を掴まれ、熱光線がカラスマに浴びせられる。
『うああああぁぁぁぁ!?』
『カラスマ! この……天魔封神波!!』
『カラスマさんを離して!!』
再度奥義を展開し、ミルフィが強引にカラスマを助け出す。
回復魔法をかけながら距離をとっているが、火傷が治らない。
『しっかりして!!』
『早く……マオマナを……今は……敵を』
『まだ息があるのか。いいよ、マナが生き返るまでに、全員殺してあげるよ』
『そいつはもう生き返ることなんてないわ!』
力の半減したマオマナは、魔力を吸われて身動きが取れない。
だが二発目を行使しているミントも、疲労がピークに達する。
「どうしましょうどうしましょう!?」
「まだだ。まだあいつらは諦めちゃいない」
「信じるのよリコちゃん。女神は勇者を信じなきゃ」
そして火山が噴火を始め、戦いの大地が揺れていく。
『きゃっ!? なんなの!?』
『……ミルフィ殿』
『喋っちゃだめです!』
カラスマはまだ回復しきっていない。なのにミルフィの肩に手を置き、魔力がミルフィへと注がれる。
『これで……もっと強い必殺技が撃てるはず……』
『なにやってんのよ! あんた死ぬわよ!』
『今やるべきことを……見誤るな……勇者なんだから……』
『カラスマさん……』
ここで手を止めれば、噴火に巻き込まれるか、奥義から抜けたマオマナに倒される。やるしかないぞ。
『終わりだ! お前たちはこの地で燃え尽きるんだよ!!』
『アタシたちは負けない! 絶対に!!』
『これが、今の私にできる最大最後の必殺技! 剣よ、力を貸して!!』
ミルフィの力がかつてないほどに膨れ上がる。
ここにきてその力を覚醒させたか。
膨大な魔力が剣に乗り、巨大な刃となって敵を討つ。
『湧き出す勇気。刀身は絆。そこに乗せるは己が魂! ファイナルシャイニングウウウゥゥゥ……セイバー!!』
『バカな……消える……消えて……ギイイイアアァァァァ!?』
抵抗もできず消えていくことしかできないマオマナを見送り、。
『はあ……はあ……やった……?』
『やったでやんすな』
『やったわ! やったのよミルフィ! あたしたち勝ったのよ!!』
回復しながら大喜びしている。見ているこちらも一気に緊張感が消えた。
「やったー!!」
「よくやった。それでこそ吾輩の弟子だ」
「おめでとう。お前たちはもう本物の勇者さ」
「よく頑張ったわ。偉いわよみんな」
完全なるお祝いムードである。そしてミントの前に、赤い宝石のついた豪華な杖が現れた。
『これは……』
「それはその地に封印されていた大賢者の杖です。あなたの魔力に呼応し、使い手と認めたのでしょう」
『女神様……あたしが、この杖の……』
恐る恐る触れてみると、淡い光が三人を包み、その傷を回復させる。
『なんとも凄い杖でやんす』
カラスマの火傷も完治していた。たいしたもんだな。
そして三人が杖に導かれ、出口へと帰還する。
『杖により出口まで転送されたのです。本当にお疲れさまでした』
『いつも見守ってくださり、ありがとうございます!』
『わたしは見守っているだけ。今回の戦いは、紛れもなくあなたたちの力で勝ち取った勝利です』
『胸を張って凱旋でやんす』
『師匠にお礼言いに行かないとね』
勝利を喜び、分かち合う。それが自然とできているいいパーティーだ。
今回のことで、この世界は大丈夫だと、希望が見えた。それが一番の収穫だったかもしれない。




