女子会という名のお料理バトル
「女子会をします!」
フォルテの家で研究が終わり、適当にくつろいでいた。
そしたらリコがアホみたいなこと言い出したよ。うわあめんどくっせえ。
「おいアキラ、あいつ帰らせろ」
「俺に言わんでくれ」
「第一回チキチキ、アキラ様の好みを調べようー!!」
なんであいつあんな元気なの。たくさん食べるから?
「えー今回はアキラ様の好みを調べます」
「却下で」
「三人の中で、一番アキラ様の好みに近いお料理を出せた人が優勝です!」
「なぜ吾輩は巻き込まれたのだ……?」
フォルテが嫌そうな顔を隠しもしていない。
すまない。俺も今聞いたから止められなかったんだ。
「食材はクシナダさんが自由自在に出してくれます!」
「お前もなんで協力してんだよ」
「あら、こういうのって楽しそうじゃない。私はあまり経験がないんだもの」
ノリが軽い。随分前から、こういうの楽しむ側だったか。それは成長なんだけど、なにもこんな面倒なイベントせんでもいいのでは。
「吾輩帰っていいか? アキラの好みなど興味がない」
「ダメです! みんなでやるんです!」
いや解放してやれって。すげえテンション下がってるぞこいつ。
「賞品はアキラ様からなんか貰えます!!」
「お前が用意しろや!」
「帰りたい……吾輩の家だけど帰りたい……自室にいたい」
「すまん。俺も知らんかった」
それとなくフォロー入れておこう。料理そのものは晩飯があるので、どっちみち誰かが作るのだ。それをイベント化しただけだろうし、大目に見てやる。
「アキラ様ならなんでもくれますよきっと」
「いやまあ……詫びと礼はするさ」
「アイテムでも星でも全能の力でもくれるわよ」
「本当にどういうことだ」
この世界をくれとか言われたら拒否るけど、研究に必要なアイテムとかならいいだろう。欲しい物でもあれば、モチベが上がるだろ。
「というわけで厨房をお借りします!」
「迷惑かけんなよ?」
「大丈夫です!」
そして三人で料理を始めている。エプロンつけて、広い厨房で楽しそうにしているのは、悪い気はしない。がんばれ。
「ふんふーん」
「リコちゃん、包丁さばきがよくなったわね」
「こっちに来てから、お料理の機会が増えましたから!」
「家事は基本だ。できて損はないぞ」
フォルテは万能である。一人での生活が長いのか、ほとんどのことを人並み以上にこなす。天才だねえ。
「ふっふっふっふー。わたしもちゃんとできるんですよー」
「筋がいいわ。もっともっとおいしいお料理ができるようになるわね」
「ですよねー。がんばっちゃいますよー」
「ならば他人を巻き込むな。吾輩はとばっちりだぞ」
野菜切る手つきもちゃんとしている。料理の腕が着実に上っているようだが、料理自慢がしたいわけじゃないだろう。
「料理を見せびらかしたいのか?」
「いえいえ、それならクシナダさんが一番でしょう」
「なぬ? ならばクシナダが有利ではないのか?」
「そうね、付き合いは長いわよ」
「いいんです。こうやって、お友達とみんなでお料理とかしたいんですー」
単純に遊びたいのだろうか。リコの考えはよくわからんが、仲良くしたいというのは伝わってきた。
「女神というやつは暇なのか?」
「勇者が優秀なほど暇ですね」
「素質はあるが、あいつらはそこまで優秀か?」
「だからわたしがいて、アキラ様やクシナダさんに手伝っていただいているのです」
会話内容が女子会っぽくないことは気にしない。
俺はのんびり待っていればいいのだ。割って入るもんじゃないだろう。
「材料が足りんぞ」
「ちょっとお鍋見てて。追加の材料出すわ」
「これ対決ではないのか?」
「気にしない気にしない」
順調に進んでいるようだ。女神と人間の交流とだけ書くと、なんか神秘的ですよね。実際には料理してるだけなんですが。
「ふふふふーん」
「たまには先生以外とこういうのも、悪くないわね」
「アキラと一緒の時間が長いのだな」
「それはそうよ。生きがいだもの」
「言い切りましたよアキラ様!」
「報告せんでいい」
なつかれたなあ。別に嫌ではないが、あいつは自立してもやっていける。
女神界でも伝説クラスだろうし、少々申し訳ない。
俺に対して罪の意識でもあるのだろうか。
「別のこと考えてるわねあれは」
「わかるんですか?」
「わかるわ。妙なところでにぶいというか……」
「吾輩には理解できんな。助手を任せているのだから、少しは歩み寄るべきか?」
「いいのよ、余計なライバルは増やさないの。ただでさえ私が付いてきちゃったんだから、他の女神まで押しかけてきそうだし……」
俺の静かで穏やかな日々は、もう半分壊れかけている。ここに過去の駄女神どもがくれば、間違いなく崩壊する。スローライフが崩れるだろう。
なので俺がこの世界に入り、女神はこの地を見守るもののみ。そういう約束だった。
「まだ女神が来るというのか」
「すごい数来るわよ。基本的に先生に干渉禁止にして、この世界へもコンタクトできないようになってるから、この程度の騒動で済んでいるの」
「…………アキラ様ってそんなに有名なんですか?」
「リコちゃんも知っていて来たんじゃないの?」
「異世界を何個も救った勇者様が、こっそり隠れ家にしている世界があるって言われて、なら助言してもらえないかなーと思ったらこの世界だったんです」
妙なところで運がいいなリコは。俺にとっては最悪だったわけだが。
「おい勇者とは何だ。あいつスローなんとかではないのか?」
「アキラ様は元勇者様ですよ。千個救ったことで、やりすぎ謹慎処分みたいなものです」
「そんな勇者の情報は入ってきていないが、救った? 人か? 国か?」
「文字通り異世界を千個救い続けたのよ」
鍋をかき混ぜるフォルテの手が止まる。大賢者の脳が処理しきれていないようだ。
「………………あいついくつだ!? いやいや、というか千個!? できるわけないだろう!?」
「それをやっちゃったのよ、あの人」
「無理だろ!?」
いかんフォルテの鍋が焦げる。魔法を使ってサポートしようとしたら、クシナダが鍋を回し始めた。本当にサポートできるいい子だなあ。
「千個はわたしも初耳です。はえー……すごいんですねえ」
「お前はお前でふんわりしすぎだ! ちょっと待てじゃあ今の勇者いらないだろ! さてはアキラだけで魔王軍潰せるな!? 潰せる手段くらいあるのだろう!?」
「あるぞ」
「あるのか!?」
めっちゃあるよ。念じれば今すぐに消せるし。言うと説明が長くなるからカット。
「最初に勇者活動は禁止されたって言ったろ」
「言われたけど伝わるかそんなもん!! おま……お前もうなんなのだ!!」
大賢者として、いつも堂々とした佇まいのフォルテが混乱している。面白い。
こういう顔もできるんだなこいつ。めっちゃ焦っている。
「先生は活動禁止されているの。最悪もっと何もない世界に移動命令がくるか、さらに追放帰還が延長されるわ」
「意味がわからんぞ。それでか……それで接触できんとかアホみたいなこと言い出したのか」
「新鮮な反応だわ。まず異世界を救ったと信じるのね。嘘だと思うものでしょう」
「……妙に納得できた。明らかに次元が違う強さだったからな。それくらいでなければできるはずのない壁を感じた」
やっぱりこいつ強いな。優秀だ。世界有数というのは伊達じゃない。
たまにこういう人材が見つかると楽しい。育てたいし、なにができるのか教えて欲しくなる。
「そんなことよりご飯作りましょうよー」
「そんなこと!?」
「ご飯が食べたいです!」
「はいはい、失敗しないように作るわよ。食材もったいないから」
「いいのか? それでいいのか? 吾輩がおかしいのか?」
がんばれフォルテ。なぜ応援しているのか俺自身わからんが、がんばれ。
そしてそれぞれの料理が完成。食卓へと運ばれてきた。
まずはフォルテからだ。
「吾輩の奥義、七色のハンバーグリゾットだ」
普通のリゾットにハンバーグが乗っている。てりやきっぽいソースだな。
「七色?」
七色にあたる部分がわからん。もったいぶりおって。
「食ってみればわかる。最初だけあまりかき混ぜずに食べるのだ」
「ほうほう、ならさっそく」
スプーンを入れて、まずは米からいこう。
そして答えは見つかった。
「米を変えてきたか」
白米玄米ケチャップライスに、ガーリックライス、ターメリックなど色とりどりの米が七色に分けて入っている。
「おおー! きれいです!」
「うん、うまいな。どこから食べてもうまいし、混ざっても味が崩れない。しっかり溶け合っている」
米の炊き具合も完璧だ。様々な味が喧嘩せず、クリームと合わさり最高の風味となっている。
「半分食ったら混ぜるがいい」
混ざると味が混雑するものだが、こいつ料理でも天才だったか。
より深く口の中に世界が広がっていく。
「ふっふっふ、何度でも、どこから食ってもうまいのだ!」
「こりゃすごいな! 素晴らしい!」
ハンバーグにより、腹が満たされていく。こっちも肉汁がにじみ出て大変よろしい。パーフェクトだ。あっさりと完食した。
「いいもん食わせてもらったぜ」
「ふっふっふ、そうだろうそうだろう」
「やるわね。じゃあ続いてリコちゃん」
「はい! 男性ですし、直球がいいでしょう! 大盛りからあげカレーライスです!」
でっかいからあげが五個乗ったカレーが出てきた。
野菜も入っているし、香ばしいスパイスの匂いがする。
「いいね。ちゃんとうまそうじゃないか」
「カレールーはどろっとしたタイプです。より食べているという気持ちになりますし、お腹が満たされます」
「完全におっさんの思考回路だな」
「食べざかりの男の子みたいね」
冷めないうちに食べよう。味が濃い目で、まさに男の食事だ。辛さも来るが、激辛というわけじゃない。
「からあげは最高ですよ。わたしも大好物です!」
こいつ女の子らしい食べ物より、むしろこういうメニュー好きだな。
俺と食の好みがにているのかも。
「おっ、これはまたぱりっと」
ぱりぱりとした食感と肉汁のコンボが華麗に決まる。
米がすすむ味付けである。中もしっかり火が通っていて、歯ごたえもばっちりだ。
「いいね。がんがん食えるぞ」
がっついて食うには最適な塩梅だ。いいぞいいぞ。野菜もよく煮込まれて柔らかい。それでいて特有の臭みがない。ちゃんと上達してんだなあ。感動だよ。
「感動した。うまかったぞリコ」
白米とルー全部食うまでに、からあげがちょうど五個消化できる。ナイスバランス。
「やったー!」
大喜びのリコ。うむ、よくやった。努力の成果が出ているぞ。
「やればできる子だな。最後はクシナダか」
「ふふっ、私のはこれ。特製天ぷらそばよ」
「ほう、和食できたか」
蕎麦の香りと、揚げたての天ぷらが美しい一品だ。
ざるそばタイプで、ネギと刻み海苔もある。
「わしょく?」
「こっちの世界にはない料理だと思うわ」
「ほほう」
さっそくそばからいただこう。つゆに付け、ささっとすすると香りが鼻を抜ける。
「冷たくてちょうどいいな」
「そうでしょう。熱いの大盛りだったから、最後は冷たくて簡単に食べられるものにしようかなって」
気配りのできる子だねえ。天ぷらも多彩だ。エビ多めなのが実に俺の好みを理解している。
「さくさくだな。いいぞ」
塩とつゆどっちでも食えるようになっている。衣がさくさく。中に味が凝縮されていて、天ぷらの極意を堪能できる。極意習得した女神ってなんだよという疑問は頭から消そう。
「久々にこういうもん食ったなあ……やっぱうまいわ」
当然だが完食である。薬味も全部使った。懐かしい味だったよ。
「さあ、誰が一番でしたか?」
「正直決められん……全部うまいもん出てくるとは思わんかった」
「そうね。別にみんなおいしいでいいわね」
「吾輩はもとよりアキラの好みなど知ったことではない」
本気で一番を決めるつもりはなかったのだろう。三人で料理して、いいものができて、それで満足らしい。目的が女子会だからかね。
「そうですよ! 天ぷらがこんなにもおいしいと再確認できましたし!」
「お前はなんで天ぷら食ってんだよ!」
「ちゃんと全員分作ってあるのよ」
エビを二本同時に食ってやがる。贅沢な食い方しおって。
「お前その食い方はすげえ勇気いるやつだぞ」
「勇者でしょ先生」
「魔王倒す百倍くらい勇気いるんだぞ。なんかもったいない気がしてだな……」
「どんな勇者だまったく。和食というものに興味がある。そちらをいただこう」
「いいわよ。じゃあ私はリゾットを」
「わたしは全部で!」
そんな感じで楽しく飯を食って、女子会というやつは終わりを告げる。
今日は最高にスローライフできていた気がするし、かなり楽しかった。
よしよし、こういう日々を積み重ねていこう。




