現状を確認しよう
フォルテの研究は今日はおやすみ。
自宅でだらだらゲームしているわけだが、ここでひとつ現状を整理してみよう。
「まず勇者だな」
モニターをもう一個作って、そこに勇者の情報を写す。
俺くらいになれば、ゲーム画面と並行してできるのだ。
「面白そうなことをしているわね」
クシナダが目ざとく見つけてきた。こいつも暇なんだろう。
「ちょっとな。まず勇者。順調にステータスが上がっている。戦闘経験も積んできた」
「優等生ね」
「伝説の剣は持っているから、あとは本人次第だな」
フォルテによって鍛えられ、スタミナと戦闘の勘が磨かれている。
このまま育てば、ほぼ問題はない。防具も欲しいし、必殺技も増えて欲しいが、そこはゆっくり確実にやるべきだろう。
「四天王はお告げで倒せそうなやつを狙っていけばよし。慎重に攻略だな。別にRTAやってるわけじゃないし」
「先生ならできそう……前にやってなかった?」
「実際にやってみたが、記録狙いで平和にもするって難しくてな」
俺のことはいいや。この勇者ミルフィちゃん、とてもいい子である。
優しくて真面目なので、このまま育ってくれ。
才能に溢れた万能型だし、ある程度は冒険で成長してくれるだろう。
「フォルテに訓練つけてもらって、魔法を複数覚えつつ、スタミナアップだな」
「そうね。万能型になりそう」
「勇者はそういうもんさ。次に忍者カラスマ」
こいつは身体能力のステが突出して高い。
知力とか魔力も平均以上だし、なんでもできるサポート主体だな。
経験からくる作戦参謀のようなポジションもできるし、豊富な忍術も素晴らしい。
「こいつの課題は……なんだ?」
「伝説の忍具じゃないですか?」
リコがアイス食いながらやってきた。買った覚えがないぞ。
さては勝手に家の冷蔵庫に入れてやがったな。
「そういえば最初に聞いたわね」
「伝説の忍具。それは忍装束と忍者刀らしいです。選ばれしものだけが身につけることを許された、伝説の秘宝だとか」
「どうすれば手に入るの?」
「忍者の里の初代が、自分と戦うに値すると判断すれば、導かれるらしいですよ」
「漠然としちゃいるが、つまりまだ届かないと」
「だと思います」
本人の実力不足か。初代がどれほど強かったか知らんが、カラスマは里の若手エース。こいつでダメなら相当にハードルは高いだろう。
「経過を見守る方向で」
「じゃあ魔法使いちゃんね」
魔法使いミント。才能はある。だが持て余している。使い方を知らないのだ。
「フォルテ次第だな」
「そうね。使える魔法が増えれば増えるほど汎用性も上がるわ」
「まだまだ魔力に伸びしろがありますし、当分は修行ですね」
地味な基礎練習と、魔法の知識を貯める作業だ。そこはフォルテに任せる。
才能を順番に開花させるだけで、ステ爆上がりするだろう。
「こいつもなんかあるんだろ? 伝説の装備とか」
「伝説の魔導書とか、太古の魔術師の装備とかありますよ」
「もしかして、忍者もまだあるの?」
「忍術のすべてを記した巻物、秘伝書とかあるはずです」
「お使いイベント多いなこの世界」
異常に手間がかかるはず。だがパワーアップイベントは嬉しい。
現地勇者ってのは、大抵完成されていない。徐々に強化していく必要がある。
それでも倒せない敵のために、装備が必要だ。
「アキラ様もあったんじゃないですか?」
「あったよ。もう倉庫に入れっぱなしだけど」
「必要なくなるものね」
「どういうことですか?」
「どんな武器より拳が固くて強いし、どんな鎧よりも肉体が頑丈になる」
ぶっちゃけ装備とか邪魔。俺が対処する敵っていうのは、もうそういうレベルじゃない。全能力無限とか、全知全能とかが基本装備だ。
「あくまで現地勇者の必需品よね」
「また話がそれたな。装備が手に入れば、強化は簡単だろうが、まだ知らせない方向で」
「楽をさせると、装備がなくなったら危険だものね」
あのメンバーに限って横着はしないと思うが、一応念の為である。
「どっちみち見つけられなきゃ使えないしな」
「アキラ様なら、場所と条件がわかったりしないんですか?」
「できるけど、あんまり予知とか使うと楽しみが減るからなあ」
異世界漫遊記はRTAではない。よって全部検索と予知で済ませると、自然と最短距離を走破してしまう。楽しみが無駄になるのだ。
「でも魔王を倒すには、あった方がいいですよ?」
「勇者なんだから、主人公補正とかで都合よくイベントが起きるだろ。俺もそうだったよ」
「また剣みたいに壊れてたりしませんか?」
「それは……ちょいきついな」
伝説の勇者の剣はかなり劣化していた。
ああいうのが多いとしんどい。勇者に非がないため、純粋にかわいそうだ。
「魔法使いちゃん、かなり苦しんでるわ。自分が足かせになってるって」
「なんとかしてあげましょうよー」
「妙な所で団結しおって」
急に仲良くしやがって。助けると言っても塩梅が難しいんだよ。下手に手出しすると、こちらの存在がバレる。勇者活動は禁止なのだ。
「私もわかるもの。大切な人に、どうしても届かない。何をしてあげられるかわからない。それは辛くて苦しいわ」
「ご飯が食べたいのに、食材も電子レンジもないみたいな感じですね」
「台無しよリコちゃん」
「調べてみるか……うーわ」
調べなきゃよかったかも。伝説の魔道士が使っていた杖。それは四天王マオマナが帰った場所の奥深くに安置されていた。
「どうしたの?」
「こんな感じ」
画面に杖とその入手経路をまとめて表示してやる。
理解してあちゃーという顔になる二人。
「どうしましょうこれ」
「あいつを倒すのには、あの杖があった方がいいわ」
「けどその前に倒さないと手に入らない」
ゲームとかにもあるよな。ボス前においておいてくれっていう武器とか。
あるとわかると、なんか苦労が倍になった気がして損な気分だからなあ。
「どうしましょう?」
「こっそり取ってきて、賢者さんに卒業祝いだーとか言って渡してもらえば?」
それも手段のうちだろう。誰にも知られずアイテムをゲットし、フォルテに話せばやってくれなくもない。だが、それはそれ。今回の俺の考えは少し違う。
「いや、いい機会だ。あいつらの素の実力を把握しよう」
今回は成長のチャンスだ。どれくらいできるか見物させてもらう。
「実力はさっき見たでしょう?」
「追い込まれた時、どれほど勇者としての爆発力があるか。実践の中で浮き彫りになる、戦士としての力。まあそういったものが見たいのさ」
ちと野蛮な言い方だが、闘争本能というやつを開花させてやる。
戦場の空気により多く触れ、闘気というものを感じ取るのだ。
「杖は壊れちゃいないし、劣化しているわけでもない。俺が手を加えなくてもいい」
「またおそば出るように改造したりしないでくださいよ」
「食い物が確保できるのは便利なんだぞ」
「人間は不便よね」
普通は飲み食いしないと死ぬからな。生き物ってめんどいよなあ。
「改造はな、やってみると面白いし、エンチャントとかそれっぽい単語つけると世界観に馴染むのだ」
「今までどんな改造したの?」
問われて記憶の海から引っ張り出す。なんとなく思いつきでやったものとしては。
「押すと魔王が死ぬスイッチとか」
「冒険終わりますよね?」
「魔王が複数いる世界でな。次々出てくるから面倒になった」
「突然死ぬ魔王の気持ち考えましょうって」
だって幹部が次の魔王は俺だーとか言い出すんだもん。
終わんねえじゃん。なんかイラッとしたんだよ。
「もっとこう、明るく楽しくなる改造にしましょうよ」
「あるぞ。ゲーミング魔王城とか」
「もう名前からして最悪じゃない」
「押すと七色に輝き続ける魔王城になるスイッチをだな……」
「物理的に明るくなるんですか!?」
ファンタジー世界の一個前に、プロゲーマーが大統領の次くらいに偉い世界を救っていたので、そこから発想を得たはず。
「どこにあるかわかんない城ってのが鬱陶しくってな。目立たせた」
「怖い雰囲気消えちゃうでしょう」
「四天王とかが別の城へどんどん引っ越していったな」
「住んでいる人の気持ち考えましょうって」
あれは実に面白かった。しばらくゲーミングなんとかっていうシリーズ作ったな。
「あとはロボ魔王城っていうスイッチ作ったんだけど」
「嫌な予感しかしないわ」
「押すと魔王城が飛んで、一回バラバラになってからロボに変わるんだよ」
「魔王城に迷惑かけ過ぎじゃないですかね?」
だってデザインが似てくるから飽きるんだもん。大抵が怖くて暗いデザインだし、ちょっと雰囲気変えたい時ってあるじゃん。
「無論、七色に光る」
「これがゲーム脳ですか」
「かっこいいBGMとか鳴るようにしてな。アニメの変身バンクみたいにして……」
「魔王城にどんだけ詰め込むんですか。っていうかどうやってるんですかそれ……」
「先生は全知全能だから、不可能がない分、下手に遊び始めると止まらないのよ」
楽しくなっちゃうからね。これを専門用語で悪ふざけといいます。
「杖にもなんかスイッチつけるか?」
「無改造でいきましょう」
結局俺が考えたおもしろスイッチはボツになった。
何事も地道にやるのが一番なんだな、きっと。




