マオマナと大賢者フォルテ
どうも強そうな敵が出てきた。
魔法でローブが吹き飛び出てきたのは、紫でメタリックな肌をした化け物だ。
頭髪はなく、鎧も来ていない。
人に近い形はしているが、まともじゃないな。
「ありゃ誰だ?」
「レジャー四天王最後の一人、マオマナです。今の勇者では厳しいかもしれません」
「レジャーに向いている身体には見えないわね」
「右が夏の熱を、左が夏の波を自在に使えます。そして」
マオマナが二人に別れ、熱光線と水の渦をぶちまける。
「あいつらは二人で一人なんです」
「納得」
「ホーリースラッシュ!」
「フレイムシュート!」
「火遁、爆炎龍!」
周囲に被害を出さないよう、勇者パーティーが技でかき消そうとする。
だがむしろ勇者の技すら飲み込んでいった。
「攻撃が消えません!」
「ちょっと厄介でやんすね」
光も炎も、敵が上だ。撃ち合いでは不利なのか、勇者のレベルが足りないな。
「どうするの先生」
「見守ろう。俺は勇者活動禁止だし」
あまり現地勇者の成長を阻害したくない。
本気で死にそうなら、逃がすくらいは考えようかな。
「つまらないな」
「つまらないわ」
さらにマオマナの火力が上がる。
うすーく結界を張り、ビーチの外へ熱が出ないようにした。
あとは勇者が勝ってくれりゃいいんだが。
「倒れなさいよ! ウォータードライブ!!」
魔法使いの水流も、焼け石に水だ。一切ダメージを受ける様子がない。
「長期戦はまずい。ここは本気でお相手するでやんす!!」
忍者から凍気と影が溢れ出す。
「分身の術!!」
分身へと氷と影がまとわり付き、より戦闘力を増していく。
「一人で敵わないなら十人。十人でダメなら二十人。二人に合わせて四十人」
一気に四十体に増えた。一体一体が音速を遥かに超えた存在へと昇華される。
やるね。面白い術だ。練度と精度が違う。
「氷影四十奏!!」
氷と影で作られた刀が、マオマナの首へ、いや全身へと突き刺さり切り刻む。
「やるじゃないあんた!」
「凄いですカラスマさん!!」
ビーチ全体を冷気が包んでも、忍者の攻撃は終わらない。
完全に息の根を止めるまで、魔力のすべてを使ってでも続けるつもりだろう。
「今のは痛かったぞ」
「今のは痛かったわ」
マオマナが合体し、両手に膨大な熱が集まる。
氷を無理やり溶かし、影の暴風を消し飛ばしていく。
「仕留めそこねた……? くっ、術の反動が……」
動けない忍者を庇うように、勇者の光の剣が熱を斬る。
「危ないカラスマさん! シャイニングセイバー!!」
「ああ、これは痛いね」
「ええ、これは痛いわ」
勇者の攻撃でも、わずかに血を流させただけに見えるが、命の反応が一つ消えているな。
「そう、寝ちゃったのね、マオ」
「なーるほど。命が二個あるのか」
「アキラ様にはわかるんですか?」
「ああ、マオとマナのどっちかが死んでも、合体すりゃ自然回復するんだ。まとめて消すか、最速で二人消すしか無いな」
そこそこよく見るタイプの敵だ。
人間とは別の存在だからできることだな。
「人間は、水で死ぬのよね」
砂浜から水が吹き出し、海から大津波がやってくる。
ちょいと厳しそうだな。
「助ける?」
「いや、その必要はなくなったみたいだ」
海が凍り始めている。砂浜が氷漬けにされているし、マオマナの動きすらも封じていた。
「少し様子を見に来てみれば、随分と派手に暴れているようだな」
知らん顔だ。魔法使いっぽいローブと、何枚ものカードを持っている。
「大賢者フォルテ」
「何だ今度は賢者四天王か?」
「違います! この地方に住むという、伝説の大賢者様ですよ!」
「ほー……大賢者ねえ」
見た目は十代後半だな。紫の髪で長いツインテール。スタイルはまあ普通かね。
特殊な魔道技術が融合した服だな。アニメとかである魔法少女と、空を飛べるパワードスーツの中間といったところか。確かに勇者より魔力量が多いな。
「また邪魔が入ったわ」
「ほざけ。吾輩のいる島で暴れた報いを受けろ」
マオマナの熱光線を、魔力の道を作って受け流し、そのまま相手に返している。
元々熱を操るだけにダメージはないようだが、その顔が驚きで染まっていく。
「面白いな」
「面白いね」
もう片方の回復が終わったらしい。早いな。
「あ、あの……」
「邪魔だ。弱いやつは引っ込んでいろ」
声をかける勇者を、明確に拒絶するその態度。
目に憐れみと同情がありありと出ている。
「消えなよ」
「消えなさい」
音速で大賢者の背後に回るマオマナ。あいつ動けるなあ。
右手にそこそこの熱が集まっている。
「くだらん。吾輩に手間を掛けさせるな」
大賢者はそれを目と気配で追えている。
魔力でコーティングした右手で受け止め、そのまま投げ飛ばし、両拳の連打を浴びせていた。
「がはっ!?」
「うあうっ!?」
「ザコ四天王ならこの程度か。つまらん」
熟練の腕だな。ほぼ無意識で最適な行動と魔力を練れる。
それは戦場では絶対に損をしないスキルだ。
「接近戦もできるタイプか。面白いな、あいつ」
「いいわね。やるじゃない」
「大賢者だけありますね!」
うちの女神陣にも高評価だ。
勇者パーティーも強さに気づいたのか、駆け寄り共闘を持ちかけている。
「すっ、すごい……あの、わたしたちもお手伝いします!」
「協力してあいつを倒しましょう!」
「協力? 足手まといにしかならないのにか?」
「うっ……」
完全に邪魔者としか見ていないな。まあ無理もない。
「未完成の勇者と、そこのアサシンはまだいい。お前」
「あたし?」
「同じ魔導に身を置くものとして忠告する。そんな腕で戦場に出るな」
「なっ……」
一見厳しい意見だが、わからなくもない。
未熟なまま戦場に出るということは、死に直結するパターンが多いのだ。
これがかなり厄介で、成長する前に死なれては元も子もない。
「吾輩のリゾートを邪魔すると、こうなるぞ」
水と冷気のビームが舞い、マオマナの身体を貫いていく。
「うがっ!?」
「あうう!!」
「どうあがいても無駄だ。消えるがいい」
「逃げよっか」
「逃げましょ」
マオマナは逃げの一手か。引き際をわきまえているのは面倒だな。
しかも勇者パーティーを狙って熱光線をぶっ放した。
「ちっ、役立たずどもが!!」
賢者がバリアを張り、勇者を助けているうちに、マオマナは全速力で去っていった。
「逃げちゃいますよアキラ様!」
「はいはい」
ぱぱっと未来予知して、マオマナがどこに行くのか調査する。
ついでに今後の行動を見ておこう。
あとは魔法で声を変えて、勇者にヒントを残してやるか。
『さらばだ。実力を磨いてから南国大火山へ来るがいい。一ヶ月は動かず待っているぞ。戦うに足る相手でなければ結界は解けんからな』
「えっ?」
「んんん?」
一瞬動きが止まる勇者たち。
まあこんなものだろう。あとはどうやって経験を積ませるかだな。
「くだらん。吾輩は帰るぞ」
「あの、ありがとうございました!」
「助かったでやんす」
「今度はせいぜい修行してから挑むんだな。お前らにリゾートはまだ早い」
そして転移魔法で消えていった。
「うぅ……確かにわたしたちは未熟です」
「魔王討伐どころではないでやんすね……」
「魔法が……通じなかった……あたし、何もできない……」
落ち込んでいるな。敵も味方も自分たちより遥かに上では、目標とすることも難しいだろう。
そこに到達するまでのビジョンが見えないのだ。
「どうしましょう……アキラ様ならなんとかできますか?」
さすがのリコも神妙な面持ちである。
しかし、俺が鍛えていいものだろうか。
勇者活動は禁止だし、表立って勇者と会うのはいかがなものかね。
「当面の課題はレベル上げと、魔法使いちゃんの強化でしょう? ならあの賢者さんでいいんじゃないかしら?」
「なるほど、ならあいつに師匠やってもらおうぜ」
そんなわけで、大賢者様にお願いしに行くことに決めたのだった。




