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南国リゾートに行ってみよう

 よく晴れた昼下がり。二階のテラスからぼーっと外を見る。

 今日もいい天気だ。風もほどよく温かい。


「ねむ……」


「先生、顔がだらしないよ」


「いいんだよ。顔すらもスローライフの一部として組み込むのだ」


「そのこだわりは捨てましょう」


「断る。俺は決めたんだ。絶対にスローライフをやり遂げるってな」


 椅子をマッサージチェアに変え、テーブルにトロピカルジュースを出す。

 さらにサングラスかけて、アロハシャツを着れば完成だ。


「よし」


「よくないよくない。それは南国リゾートの格好でしょう」


「いいじゃん今日あったかいし」


「じゃあココナッツジュースをお願いします!」


 まーたリコが来た。こいついつも食い物か飲み物ねだってんな。


「帰ってくれ。マジで帰れ。自分の女神空間あるだろ」


「今日も異世界グルメですよ!」


「聞けや」


「今日はですね、南の国に伝わるラフテーとミミガー定食っていうのが気になります!」


「沖縄だろそれ。異世界に沖縄はねえんだよ」


 地球タイプの異世界にしかねえぞ。こいつの食欲はどうなってやがる。


「じゃあ南国のご飯が食べたいです。このお店とか評判いいみたいですよ」


 なんか観光パンフ見せられた。行けというのか。


「俺は家から出ないぞ。行くならお前だけで行け」


「そうそう、先生は怠惰な生活をするのよ」


「えー……勇者も南を目指すらしいですよ? ついでに行ってみません?」


「余計ダメだろ。鉢合わせたらどうするんだよ」


 勇者と顔合わせたら最悪だ。特にリコは顔を知られているはず。

 間違いなく厄介事につながるだろう。


「会釈でもすればいいじゃないですか」


「登山じゃねえんだぞ」


「先生と南国リゾート……」


「どうした?」


「先生、ちょっとくらい南の島に行ってみない?」


 味方のはずのクシナダが、行きたいと言い出した。

 ちょいと予想外だ。どういう心境の変化なんだろう。


「おおおぉぉ! クシナダさんもロブスターとか食べたいんですね!!」


 リコの目がキラキラしている。完全にロブスター食えると思ってやがるな。


「いや別に」


「勇者はなんで南に行くんだ? 最初の地方から近いのか?」


「それもありますし、倒しやすそうな『南国レジャー四天王』っていうのがいまして」


「もう滅びちまえ魔王軍」


 遊び気分で侵略してんのか。猛烈に行きたくなくなったぞ。


「でも先生、南国リゾートよ? 豪遊よ? 遊ぶのも、戦闘や勇者行為からは離れたもの。これもスローライフじゃないかしら?」


 言われてみれば一理あるか。一般的にリゾートって休暇だもんな。

 つまり休暇を満喫するという、それはそれはわかりやすい自由時間である。


「悪くない。南国のスローライフを極めてみるか」


「やったー! それじゃあすぐ行きましょう! 今行って、お昼にはロブスターとサメ食べましょう!!」


「サメは食い物じゃねえだろ!?」


 はいテレポートで南国へ。高級ホテルをとってみた。金なんて腐るほどある。


「じゃあ泳ぎましょうか」


「ロブスターが先です!」


 水着に着替えてリゾートビーチへ。

 ホテルの私有地らしく、綺麗に整備されていた。


「ビーチに飯屋があるだろ。あれでいい」


「そうですね。じゃあ夜はサメにしましょう」


「お前マジでサメ食う気なのかよ」


 そしてロブスターがこんがり焼かれて出てくる。

 これはうまそうだ。焼きたてのいい香りがするぞ。


「おおぉぉぉ! おいしそうです! いただきます!」


 リコが食い尽くす前に食おう。

 一口目でわかる新鮮さと質の良さ。シェフもいい腕をしている。


「おいしいわ。たまには外出してみるものね」


「そうだな。これなら勇者活動にはあたらないだろう」


 トロピカルジュースもいい感じ。

 生搾りジュースらしいが、こいつがまた鮮烈で後味スッキリ。


「大満足だ」


「エビパエリアがきましたよー!」


「まだ食うのか。俺にもよこせ」


「アキラ様、結構大食いですね?」


「大食いで世界の覇権が決まる異世界を救ったことがある」


 そんなこんなで満足するまで食った。

 あとはホテルに帰って寝ればいいかな。


「四天王が出たぞー!!」


 なんか騒がしくなってきた。


「スイカ割りのジュースイーと、バナナボートのバナボーが出たああああぁぁ!!」


「ツッコミ放棄していいか?」


「私も聞かなかったことにするわ」


「えー、ちゃんとしましょうよー」


「アホか、なんで異名がスイカ割りとバナナボートなんだよ。何の四天王だ。ツッコミどころが多すぎるだろうが」


 スイカを小脇に抱えた大男と、バナナボートに乗って、海でも砂浜でも駆け巡っているおっさんだ。

 ともに海パンである。あれ敵なのかね。


「あれが南国レジャー四天王ですよ」


「あれもう魔王軍じゃないよな。どこが魔王軍? ただの迷惑なおっさんだよ」


「スイカ割りで負けたものの脳天を割り、バナナボートで落ちたものを地獄へ叩き落とす。遊びに真面目な魔王軍です」


「ただのアホだろうが!!」


 でも客が逃げ出している。本当に魔王軍なのかな。信じたくないけども。


「待ちなさい!」


 そして勇者一行が登場。よしよし、このまま勝っちまえ。


「隠れるぞ」


 そっと俺たちが見えない魔法をかけ、安全な場所でロブスターパエリアを食う。


「出たな勇者どもめ! ならばまずは……」


 そしておっさん一号が砂浜にスイカを設置。


「スイカ割りで勝負だ!!」


「アホかあああぁぁ!!」


 声が届かない魔法かけといてよかった。

 あいつらやっぱ遊びたいだけの一般人じゃないのか。


「まずはオレからだ! いくぞバナボー!」


「いいだろう、ナビは任せろ」


「おいなんだよあれ。もう普通に南国満喫してるじゃねえか。何目隠ししてんだよ。後ろから斬っちまえよ」


 自分から目隠ししてスイカに向き合うアホ。

 あいつ名前なんだっけ。アホ一号が真剣なオーラ出してやがる。


「よーし右だ! もっと右! そうだそのままだ!!」


「感じるぜ……スイカを……レジャーの波動を!!」


「なんかすげえイラッとするんだけど。あいつら遊んでるだけだよな。遊び呆けているおっさんだよな」


「つまりアキラ様と一緒ですね」


「俺と!? 俺あれと一緒!?」


 いかん、あいつらがいる限り俺が同類になる。


「頼むから倒してくれ勇者……」


「助けを待つ民衆の気持ちね」


「そうか、これがスローライフマンの正しい心境か」


「なんですかその名前」


 そして木刀はスイカを割り、アホ二人が抱き合って喜んでいる。


「やっぱりレジャーは!」


「海だよね!!」


 なんかポーズ取っている。殴っていいかあれ。


「さあ次は貴様らの番だ!」


「勇者いきます!!」


 やる気だ。目隠しして剣を構えている。アホなのか。


「そのままゆっくりでヤンス」


「ちょっとだけ右よ右!」


 仲間も指示出しを頑張っていた。遊んでるようにしか見えんぞ。


「みいいぎだああぁぁ!!」


「ひいいいいだああありいいいぃぃぃ!!」


 アホ二人がうっせえ。大声出して撹乱する戦法なんだろう。


「バカの集まりだな」


「大変ね現地勇者さん」


「このままじゃ負けちゃいますよ!」


「リコ、お告げでもしてやれ」


「そうか! ナイスですアキラ様!」


 リコのお告げは直接勇者に届く。これなら雑音も気にならない。


「勇者よ、聞こえますか?」


「女神様?」


「静かに。これよりわたしが導きます。まずそのまま前に五歩」


「ありがとうございます!」


 リコのナビだけを頼りに、大声の飛び交う砂浜を歩いていく勇者。


「そこです!」


「えええい!!」


 見事ヒット。本日一番の歓声が場を支配した。


「やったー!」


「いいわよミルフィ!」


「やったでヤンス!!」


「ありえん……こいつまさか……スイカ割りのプロか!」


「そんなプロがいるかああぁ!! 生活成り立たねえだろ!」


 本当に魔王軍なのだろうか。ただ遊びに来たおっさんじゃないだろうな。


「許せん……オレにスイカ割りで勝つなど……絶対に認めるものかああああぁぁ!!」


 アホ一号が赤く巨漢の鬼へと変わる。2メートルくらいかな。

 一応敵っぽい外見もあるのね。ちょっと安心したわ。


「さあ始めようぜ。お前らの頭をスイカみてえに砕いてやるよ!!」


「面倒なことになったわね」


「こんなやつ、三人でかかれば……」


「おっと、勇者はこいつに乗ってもらうぜ!!」


 背後からバナナボートが迫る。反射的に飛び乗ってしまった勇者は、そのままもう一本のバナナボートに乗るアホと、海で対決することになった。


「ミルフィ!」


「こちらは私に任せてください!」


「わかったわ。フレイムシュート!」


「ぬるいぜ!」


 炎の玉を、金棒で打ち返している。無駄に器用だな。


「あたしの魔法が!?」


「こんなもんかあ?」


「バーニング……ストライク!!」


 それなりのビームだ。だが効いていない。

 魔法は本人の魔力と技量によって変わる。

 まだまだミントは魔法使いとしては半人前か。


「さて先生。この勝負どうかしら?」


「そうだな。とりあえず見てみようか」


「いいんですか? そんなのんびりしちゃって」


「いいさ。どうやら忍者の方は、戦闘経験が豊富っぽいんでね」


 まだまだバトルは始まったばかり。

 のんびりエビ食いながら見るとするか。


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