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みんなで料理とかしてみよう

 今日も今日とてしっかりスローライフをしていこう。

 一日くらい真面目でいいやという気の緩みこそ、スローライフを遠ざけるのだ。


「よし、まずは……クシナダ! 今後の予定を考えるぞ!」


「思いつかなかったのね……お昼ごはんでも作りましょう」


「そうだな。今日は昼まで寝てやったぜ!」


「次はまた夜ふかしでゲームでもしましょう」


 今後のスロー予定を考えつつ、台所に向かうとリコがいた。ハム食ってやがる。


「なにやってんだお前は」


「お昼ごはんを取りに来ました!」


 取られると思ったのか、胸にしっかりハムを抱きかかえている。アホか。


「せめてちゃんと料理を作れ。ハムをまるごと持っていこうとするな」


「冷蔵庫と自室の往復でカロリーを使いますので、余計な運動はできません」


「燃費がクソすぎる」


 こいつ今までどう生活していたんだろう。

 料理ができるタイプには見えないぞ。


「お前はなぜか居候みたいな雰囲気出してるけど、本来ここの住人じゃないんだぞ」


「家賃とか必要ですか?」


「ぶっちゃけ金は必要ない」


 無限に出せる。家は俺のだし、食料も出せるから、本当に金の使い道がない。


「あとはそうですね……女神空間にずっといたので、これとかどうでしょう?」


 なんかプラスチックの……なにこれ? なんかこうAの字になったプラスチックの小さい……なんか見たことあるわこれ。


「食パンを止めるプラスチックのあれです」


「いるかボケエ!!」


 なんでそんなもん集めてんだよこいつ。どういう精神状態なの。


「なんか集めちゃいました」


「なぜそれでいけると思った?」


「だめですか? あとはビー玉とか……」


「ビンの飲み物に入ってたやつだろそれ!」


 ガラクタばっかりだった。食い物関連しかないし、こいつ暇だったんだろうか。


「じゃあ今度出版されるわたしのグルメ本を……」


「一番いらねえ」


「どうして!?」


「ろくなもん持ってないなお前は」


「じゃあお料理するから、リコちゃんも手伝って」


 クシナダから助け舟が出る。とりあえずやらせてみるか。

 いやよく考えたらなぜ住む前提なんだろう。


「わかりました。ご飯のためです。不詳このリコ、全力で試食します!」


「料理を手伝えっつってんだよ!」


「わかりました。もうハムはなくなったので、別の料理にしましょう」


「お前が食ったからだろうが!」


 今日は小籠包と天津飯にします。なんとなく中華の気分だったのさ。


「天津飯は俺が作るから、そっちは小籠包の中身を包め。何を入れるかは任せる」


「ハズレとか入れます?」


「いらん。普通に食わせろ」


「お肉とネギと……こっちはタコとかどうですか?」


「魚介で攻めるのね。いいわ、じゃあこっちはイカとカニを入れるわね」


 クシナダはとても素早く正確に、テキパキとこなす。

 リコはつたないながらも真面目にやっているようだ。

 一応勇者と食事関連は真面目なのか。


「エビとかメジャーだと思うぜ」


「採用。もっと研究してみましょう」


「肉汁が命だからな」


「ふっふっふ、わかってますって。あのスープじゅわあ現象を作ってみせます」


 不安だが任せよう。いざとなればクシナダがやってくれるはず。


「頑張れクシナダ」


「そうやって私に押し付けるんだから……しょうがないわね」


「わたしだってお料理くらい、餓死しそうになったらするんですよ」


「普段どうしてんだ?」


 こいつ俺たちが来るまでどうやって生活していたのだろう。

 女神界から支給される金でやりくりしてんのかな。


「作るまで待ちきれないので、レンジでチンしたり、お湯を入れるやつを」


「横着しとるな。いや、それこそスローライフなのでは?」


「先生、またおかしな思考になってるわ」


「よし、明日はカップ麺とレトルト食品で過ごしてみるぞ!」


「先生、完全におかしいわ」


 俺のスローライフ道に、新たなる光が差し込んだのだ。

 気分がいいので、ちょいガチで作ってやることにした。


「いくぜ」


 食材選びから包丁さばき、火加減までを料理大会で優勝できるくらいまで上げる。

 さっきまでの家庭料理として美味しければいいという領域をぶっちぎってやるのだ。


「おおぉぉ……速くて手が見えない!」


「妙な所で本気出すわね」


「よっしゃ完成! 俺式天津飯大盛りだ!」


 小籠包が出来上がるタイミングに合わせた。

 完璧だ。久しぶりに真面目に作ったけど、これは勇者活動じゃないからセーフのはず。


「はいじゃあいただきましょう!」


 リコがテーブルまで料理を運んでいく。素早い。いつもそういう感じで仕事しろお前は。


「おいしそうです! これは期待できますよー!!」


 そしてひとくち食べたリコのスプーンがテーブルに落ちる。


「リコちゃん?」


 完全に動きが止まっている。時間停止魔法みたいだなこれ。


「ふおおおおおぉぉぉぉ!!」


「うるせえ叫ぶな!」


「なんですかなんなんですか! どういうことですかこのクオリティは!」


 言いながら天津飯に食らいついていくリコ。女神の威厳とか神々しさが完全にない。


「落ち着いてリコちゃん」


「うっひょおおおおぉぉぉ!!」


「女神がうっひょうはやめましょう」


 小籠包もいいできだ。ちゃんとスープじゅわあ現象が発生する。

 これがないと魅力半減だからな。


「こっちもよくできてるぞ」


「頑張って作ったもの」


 ゆったり食事を楽しむ俺とクシナダの横で、ひたすら天津飯食ってるリコ。


「毎日わたしのご飯を作ってください!」


「嫌です」


「どうして!?」


「自分で作れや!」


 完全に俺をコックだと思ってやがる。まず口の周りの汚れを拭けお前は。


「自分で料理を覚えろ。無駄にならないから」


「うぅ……お料理は嫌いじゃないですけど」


「なら作れ。そういう経験は大切だぞ」


 こいつ別に料理下手ってわけじゃない。ちゃんと作れているし、味もいい。


「食材があると食べたくなりません?」


「食い意地が張りすぎなんだよ」


「わたしがお料理する間、完成品を口に入れてくれる係の人が必要ですね」


「なんのために料理してんだよそれ」


 雑談しながら食事は続く。なんだかんだこの空気は嫌いじゃないよ。


「クシナダさんも料理上手ですね」


「先生と一緒に旅をしていた頃は、交代で作っていたから」


「料理バトルとかで優勝経験あるんだぞ」


「おぉーすごいです! クシナダさんはいい奥さんになれますよ」


「よしリコちゃん、そういうことはもっと大きな声で言っていこう」


 楽しく飯を食い終わり、食器も洗った所でお告げの時間だ。

 リコがテレビの前で集中し始めた。


「勇者よ、ちゃんとおいしいものを食べていますか? 食事は基本です。たまにはみんなでお料理でもしてみてください」


『お料理ですか?』


 画面の勇者ちゃんが、少し困惑している。


「おいしいごはんは気持ちを和らげ、健康にも影響します。仲間との絆を深めるにもいいのです」


『なるほど……ありがとうございます女神様!』


 まあ間違っちゃいないよ。食事は栄養管理にも楽しみにもなる。

 かなり有効なアドバイスができたと思うよ。


「というわけで明日も作りましょう!」


「まあいいか。それもスローライフっぽいし」


 俺もまだまだ道半ばということだ。これからも楽しく生活できるよう、いろいろやってみることを誓った。


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[一言] いちばん大変なのは駄女神に振り回されてる勇者たちかw
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