ティアラの戦い3
「静粛に! 聞いてくれ、皆の衆!」
戦闘が終わって緊張が抜けたのか、ざわつき出した卒業生たちを一旦黙らせる。それでは始めようか。
「まず初めに言っておこう、私がローラスの言う国家転覆を企んでいたということは事実無根である、と」
ローラスは憎悪の籠った顔でこちらを見ている。知っていたことだが、私を黙らせようと私兵を繰り出すのは悪手だぞ。それではこの国を引っ張っていくなど到底無理だろう。大方、戦場での話もプロパガンダなのだろう。小さい男だ。虚飾にまみれた道化が。
「前に出てくれ、コールドウェル子爵令嬢アリアナよ」
彼女がフードを取って姿を晒すと、ローラスとその付き人は明らかに狼狽した。
会場には知り合いでもいたのか、アリアナを見て涙を流している者が見受けられる。
彼女は死んだとされていたのだから、当然の反応だ。
お前が慰み者にした子だ。勇気を持ってこの場に立っている。
「わ、わたくしは……そこにいる第一王子ローラス様に、情婦のような扱いを受けておりました。そして、飽きたという理由で、わたくしを処分しようとしたのです」
「で、出鱈目を……言うな! 第一、証拠がないではないか!」
おやおや、そんな言い方をしてはもはや私がやりました、と言っているのとあまり変わらんぞ。
おっと、今の王子の物言いから、会場は段々と私が正しいという空気になって来たな。
「ありがとうアリアナ。君の勇気に最大限の称賛を」
では次だ。
「ここに、一枚の羊皮紙がある」私は懐からそれを取り出す。
「これは、ローラス王子が内内で極秘に履行した契約書だ。今から読み上げる」
「やめろ、やめるんだ! ぐっ……!」
うるさい男だ。怒りによってこの身から溢れ出る魔力に任せて、肉体に負荷を掛けてやった。しばらくは黙っているだろう。
「私、フェルグラント王国第一王子ローラス・フェルグラントが命じる。本署名に賛同した者は、ローゼンブルグ家へと我々の人体実験の責任を移し替えるよう動くように。これは、命令である。いかなる理由があろうとも順守するように」
場内がにわかに騒がしくなったな。
これを聞いて、一人の男が声を上げる。
「ローゼンブルグ殿、それはまさか、先日発生した大規模な事故に関することを言っているのであろうか? 王子殿の領地にて発生したという」
「ああ、その通りだ。聞き及んでいる者も多いだろう」
彼の発言に、口々に生徒たちが大衆には隠蔽された事件のことを話し始めた。
ローラスは青ざめている。それもその筈。事件を起こした張本人だからな。
最後の手を打とう。