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第九話 メロディアの秘密

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「う~ん。やはり下から二番目では大したクエストは受けれないな」



 金銭的に非常にピンチである僕は、日銭を稼ぐために、銅級冒険者までが受けられるクエストが貼り出されている掲示板を確認し、そのレベルの低さにかなり落ち込んでいた。



「マロ草、七本の納品。こっちはアカイロキノコ、五個の納品。近隣の森のパトロール。お! 商隊の警護がある。あっ、でもこれ、四人以上のパーティのみか。うん? これは、二人以上であれば、階級は問わないのか。まあ、一人しかいないし、今すぐには受けられないな。それにしても、どれもビックリするほど、低報酬だ」



 下から二番目の階級の冒険者が受けられるクエストの難易度は、ゲーム時代で言うとチュートリアルレベルだった。納品系のクエストであれば、手元にある素材を出せば即終わるような奴ばかり。おまけに、商隊警護と近隣の村の調査のクエスト以外の報酬金は、そこら辺の宿屋一泊分程度しかない。


 大量の素材や資金を稼げるようなクエストが一つも見当たらない。このままでは、一日一クエスト行って、一泊分の賃金を得るような生活を送りかねなかった。


 するとふと、銅級のクエストでこの有様では最下位の青銅級は一体どうなっているんだと思い、青銅級のクエストが多く張り出されている方に移動した。


 そしてすぐに、掲示板とにらめっこしていたメロディアを発見して声を掛けた。



「あ! ショーマさん。どうですか? 何かいいクエストを見つけましたか? あ! 後で、あのワンちゃん達にまた会わせてくださいね」



 僕が近づいてくるのを発見したメロディアが手を挙げて、天真爛漫な笑顔で声を上げる。そのフレッシュな感じから、日本で部活をやっていた時の新入部員の姿が思い起こされた。


 僕は狛犬の方はまた後で召喚させると約束してから、彼女にどんなクエストがあるのか聞いてみた。



「銅級の方は、正直どれも微妙だったよ。そちらは?」


「村にいた引退した冒険者の方から聞いていた通り、青銅級冒険者の受けられるクエストでは、はっきり言って、全くお金を稼げないですね」


「そうなの、どれどれ……」



 迷子の猫探し、地方から来る荷物の荷役、王都の城壁の上で警備、飲食店の一日バイト。


 ゲーム時代にはあまり見かけなかったクエストばかりではあるが、魔物のいない安全な王都内で行うクエストばかりでもある。


 確かに、初心者をいきなり魔物の住む森に放り込むわけにはいかない冒険者ギルドの育成方針もあるかもしれないが、命の保障があるせいか、報酬金はどれも銅級冒険者のクエスト報酬金の半分以下である。


 何だか、安い賃金でこき使われるようにしか見えないのは気のせいだろうか?



「う~ん。私あんまり、お金持っていないんですよ。早く、ショーマさんと同じ階級に昇格しないと餓死するかもしれませんね」



 メロディアは、アハハと気軽な感じで笑うが、彼女の瞳の奥からは焦りのようなものを感じられた。


 まあ実際、クエストを一定以上こなし、早く昇格しなければ餓死はまだしも、近い内に生活に困窮するだろう。


 この世界に来て、一番印象に残っている人物なので、助けてやりたいのは山々ではあるが、生憎こちらも、お金に余裕がない。



「でも、こういった下積みが後の冒険者生活では役に立つかもしれないと言っていましたし、頑張ります」



 両手を握りしめて、頑張りますアピールをするメロディアを見て、やっぱり、何とかして上げたいと思った僕は、先程青銅級冒険者用の掲示板に貼られていたクエストを思い出す。


 内容は、王都の近くにある村で最近、不気味な鳴き声が聞こえてきたので、調査して欲しいという依頼で、最低二人以上で、その内の一人が銅級以上であれば、もう一人の階級は問わないというクエストだった。



「それじゃ、一緒に……」



 と、言い掛けた所で、僕はある事を思い出す。


 かなり悩んだが、不思議そうな顔をして心配してくれるメロディアに罪悪感は感じながらも、疑問は早々に解決した方がいいと考えて、彼女に嫌われるかもしれないのを承知の上で、メロディアに質問に答えてくれたら、青銅級でも参加できる銅級のクエストに連れていくと提案した。


 彼女は目を輝かせて、是非お願いしますと頭を下げた。対価を聞く前から、こちらを全く疑いもしない彼女の姿を見て更に罪悪感で胸が痛いが、僕は意を決して、周囲に聞こえないように彼女の耳元で囁いた。



「えええっ!!!!! 何で、知っているんですか?!!!」



 僕の質問を聞き、恥ずかしそうに、大声を出して赤面するメロディア。その声に周囲の目が彼女を見つめるので、彼女は自分の口を手で塞いだ。


 今の質問は、日本では間違いなくセクハラ案件だが、きっと異世界なら大丈夫なはずと、根拠のない自信で僕は自分の心を鋼に変えていた。


 そして、メロディアの方はと言うと、もじもじと、どうしようかと体をくねらせ、そして、背に腹は代えられないと強い決意の瞳で、こくりと頷いた。









 僕とメロディアは、ギルドの建物を一旦出て、彼女の案内で少し離れた場所にあった小さな雑貨屋の前に立った。



「本当にここで買ったの?」


「はい、その……丁度、王都に入る直前に、雨で下着が濡れてしまった代えの下着を買おうと」



 僕がメロディアに要求した対価、それは、彼女が履いている絶対に見えないパンツをどこから入手したかについてだ。


 あの装備はNPCでも作成できる星1の装備品に該当するが、運営がゲーム時代に女性プレイヤーにのみ配布した限定武具なのである。なので、女性プレイヤーしか持っていない筈の絶対に見えないパンツがここにあるのはおかしい。


 僕のマイホームに勝手に住んでいたあのおじさんの言葉を聞いてから、恐らく僕のゲーム時代の装備品は、盗賊に奪われはしたものの、まだこの世界の何処かに残っているのではないかと推測していた。


 なので、男性キャラを使っていた僕は所持したことはないが、絶対に見えないパンツというメロディアの装備するプレイヤー専用装備は、奪われた我が収集品を回収するための手掛かりとして、とても重要な鍵なのである。



「あの下着……。お店の人が安売りしている品だから、と安値で買いましたけど、宿に帰って履いてみたら、あれが装備扱いになる装飾品で、しかも、あんなに凄いスキルがあるなんて知らなくて。誰かにバレたら酷い目にあると勝手に思い込んで誰にも話さずに黙っていました」



 もし誰かに、あの下着の秘密が知られたらどうなるか予想もできず、一人秘密を抱えこんでいたメロディアは、精神的負担から、今にも泣き崩れそうだった。


 そんなメロディアに対し、僕が何かできるか分からないが、一応励ましてみた。



「大丈夫。僕が知りたいのは、そのアイテムがどこから来たかについてだけだ。それに男である僕は、そのパンツを装備できないし、したくもない」



 僕の言葉を聞き、メロディアは指で頬から流れる涙をふき取る。やがて彼女の精神が落ちついたのを見計らって、僕は色々と謎が解明するかもしれないという期待を胸に、店の中に入った。




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