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第八話 模擬戦2

応援ありがとうございます

 式神召喚。


 陰陽師専用のスキルであり、簡単に言えば、式神という一種の召喚獣を召喚するというスキルだ。


 ゲーム時代では、スキルを発動させると、式神と言う名の一種の召喚獣が出現して、敵に対して自動的に攻撃して一定時間が経過もしくは任意で消えるという仕組みだった。


 現実世界であるこの場で式神を呼び出して、どうなるかは分からないものの、現状の打開のために式神の使用を決断する。


 僕の式神召喚スキルのランクはS。ほとんどの式神が召喚できるはずなので、今回は、その中から狛犬を選択した。


 僕は頭の中で、ゲーム時代の光景を思い出して、式神を召喚する。



「来い、狛犬!!」



 すると、ボンッと音を立てて、目の前に小さな犬が姿を現した。すると、召喚した瞬間に自分と式神の間に目に見えない線のようなものを感じ、僕が指示を出さないと動かないと実感できた。


 なので、すぐに攻撃するように命令を出そうとしたが、突然割り込んできたメロディアの嬉しそうな声に遮られた。



「きゃーーーー、凄く可愛い!!」



 え……。


 ゲーム時代でも話題になっていたが、ブルドックのような顔が何倍にも不細工になって、顔の彫りが深いおじさんみたいな顔をしているため、ブサ可愛い好きの中でも特に濃い極一部の物好きからは評判だったが、僕を含め大多数は正直微妙なデザインだと感じていた。



「え、何ですか? その可愛い生き物は?」



 戦いの場に突然現れた狛犬に目の色を変えるメロディアに、どうやら彼女の感性は一般人とは異なるようだ。



「僕の式神です」


「式神? 召喚獣とは違うのですか?」



 メロディアが誤認した召喚獣とは、陰陽師や式神が実装される前、サービス開始時からゲームに実装されていたシステムだ。


 元々アナザーファンタジアでは、サービス開始の時点で、召喚獣を呼び出し使役する手段としてスキルや上位職業・召喚士、アイテムクリスタルがあったが、それらのシステムで呼び出されるのは、西洋をモチーフとした生物がほとんどで和風の生物は呼び出せなかった。


 だが、サービス開始から三か月後に、初となる陰陽師を題材としてアニメとのコラボを行い、それに伴い、陰陽師や結界師、侍や忍者などの和風の上位職業が実装された。


 式神もその時に陰陽師と共の実装されたのだ。



「キャーー可愛い!!  パリスさん、見てください!! 凄く可愛いワンちゃんですよ」


「いや……それよりも、あの少年がレアスキルである召喚を持っている方が俺は驚きなんだが」



 外野からは何やら聞こえてきた。最初の方は無視するとして、都合が良かったので、僕は式神の事を召喚獣と言い張ることにした。



「まあ、召喚獣みたいな物ですよ」


「そうなんですか!! じゃあ、模擬戦が終わったら触して貰っていいですか?」


「私も! 私も!!」



 なんだが、おかしな方へと方向が進んでしまったが、狛犬を召喚を召喚するために必要なコストは、それほど大してたことないので、了承した。



「良し! 行け狛犬!」



 話が一段落した所で、メロディアに攻撃しているように命令を下す。すると、狛犬は待っていましたとばかりにメロディアに向かって襲い掛かった。


 先程まで戦闘中だったのを忘れていたメロディアも、我に帰り、レイピアを慌てて構えて迎え撃つが、その光景からは、何だが真剣さを感じなかった。



「えい、ええい!!」



 僕の時とは大違いで、鋭い突きではなく狛犬を傷つけまいと、レイピアを振り回して、狛犬を追い払っているようにしか見えない。


 狛犬は偵察系の式神で、実在の犬のように飛び掛かるくらいしか攻撃能力はないせいか、傍から見ると、じゃれつく犬を、少し嬉しそうに追い払っているようにしか見えなかった。


 だが、レベル差と非戦闘系の式神である事から、数分後には、許容以上のダメージを負ったのか、狛犬は最後にクーンと鳴き煙と共に姿を消した。



「ああ!! そんな……」



 自らの手で、狛犬を倒してしまったことにメロディアは嘆く。数秒だけ落ち込む素振りを見せるも、気合を入れ直したのか、すぐに立ち上がって僕の方にレイピアを構え、打って変わって気迫の籠った顔立ちになる。



「それで、これでお終いですか?」



 その凛々しい顔立ちの裏には、とっと模擬戦を終わらせたいと言う気持ちがうっすらと見え隠れしたのを感じた僕は首を横に振った。



「まさか、今のはただのデモンストレーション。本番はこれからだよ」


「ふふふ、いいですよ。私の方もやる気が出てきました。ドンドン来いです」



 メロディアも、ここから先は本気の全力ですと、改めて更なる力を得物に込める。


 そんな彼女の期待に応えるためにも、僕は更なるスキルの使用を決断した。










「ギブ、ギブです。 もう私の負けでいいです。えへへへっ……」



 数分後、そこにはレイピアを手放し、大量の狛犬に囲まれ押し倒されて、顔や体中をペロペロ舌で舐められて、恍惚の表情を浮かべながら地面に横たわるメロディアがいた。


 最大で百匹同時召喚できる狛犬の内、三十匹ほどを一気に召喚したところ、高波に呑まれるかの如く、メロディアが狛犬の群れに飲み込まれたので、その時点で僕は狛犬達に攻撃を中止するように命じ、気が付いたら、メロディアは無力化されてこうなっていた。



「可愛いです。一匹でいいから貰えませんか?」



 残念ながら、式神なのであげられません。それにしても、外野から聞こえてくるアンさんの嬌声と言い、こんな不細工の犬にメロメロな、この二人の感性は大丈夫なのだろうか?



 まあ、こうして何だか消化不良ではあるが、一応は、冒険者登録のための模擬戦は僕の勝利で幕を下ろした。



 この勝敗の結果を監督したパリスの審査により、メロディアは、大半の新人冒険者と同じ最下位の青銅級

、僕は一段上の銅級からスタートする形となった。


 パリスさんは、大量の狛犬を召喚した僕の力に期待してメロディアよりも上の評価を下したそうだ。階級が高い方が、色々なクエストを受けられてその分、報酬が増えるのでラッキーと思いながら、アンさんから、この場で証明書を受け取ると、一人訓練場を後にし、一刻も早く金を稼ぐためにも、ロビーにあるクエスト依頼の掲示板に駆け足で移動した。



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