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第七話 模擬戦1

いつも応援ありがとうございます。

「また会いましたね。でも自己紹介するのはこれが初めてなので、名乗らせてもらいます。はじめまして、私の名前はメロディアと言います。同じ初心者冒険者なので、気軽にメロディアと呼んでください」



 メロディアと名乗った活発そうなオレンジ色の髪の少女。


 簡単に自己紹介を聞くと、彼女は王都から遠く離れた田舎の村から、一流の冒険者になることを夢見て、王都のこの場所まで一人で来たそうだ。


 丁寧に挨拶をしてくれたメロディアに対し、僕は先程アンさんにしたのと同じショーマという名前と適当に創作した生い立ちを話してから、共に武器を取り向かい合った。


 そして、僕達の準備が整ったのを確認したパリスさんは、アンさんと一緒に安全な訓練所の端にある観客席へと移動すると手を振り下ろして模擬戦の開始を宣言した。




 パリス視点~




 この世界の人間の中で一部の者は、生まれながらに職業と呼ばれる特殊な力を持つ。その方面で高い能力を発揮でき、もっと分かりやすく言うとその職業に適した魔法やスキルを会得できる。


 そのような職業を持って生まれる者の割合は約十人に一人。その中で三分の二が生産系、三分の一が戦闘系で、戦闘系の職業の場合は、その中で更に五種類の職業がある。


 剣や槍等の武器を持って戦う戦士。

 武器無しで己の拳を武器とする闘士。

 気配を消すのが得意な狩人。

 攻撃系の魔法を使う黒魔法使い。

 回復や防御などの補助系の魔法が得意な白魔法使い


 の五種だ。


 生憎と俺には、相手のステータスを見抜く技能はないが、ショーマの小僧の方は黒魔法使い。メロディアの嬢ちゃん方は剣士だと事前に教えてくれた。


 それらの事前情報を知っている、この場にいるもう一人の観客であるアンちゃんが、俺にどちらが勝つのかと尋ねてきたので、俺は訓練場の中央で真剣な眼差しで心の準備をしている二人には聞こえないように嘘偽りなく答えた。



「そりゃあ、当然。メロディアの嬢ちゃんだ」


「あ、やっぱり、そうですか……」



 アンちゃんは、ギルドの受付としてつい最近働き出した新人だ。書類仕事は一通りマスターしたようだが、こういう面はまだまだのようだ。



「やっぱり、魔法使いが、お一人で戦うのは難しいんですね」



 アンちゃんの予想は正しい。黒も白も、後衛職に属する魔法使いというのは本来、一人で戦うような職業ではない。


 パーティを組み、戦士や闘士のような前衛職に守られながら、必殺の一撃を放ったり、仲間の治癒や防御をするのが正しい役割だ。


 まあ、ギルド長のように一人で戦えるような規格外の強さを持つ魔法使いもいるにはいるが、あの人は、レベル51以上がなれる上位職の人間なので例外だ。


 なのではっきり言って、この模擬戦は、いじめではないかと思う人もいるだろう。


 だが、それでも俺は、こう言った状況でどれだけ戦えるかが魔法使いには必要な力だと思う。なんせ、魔物の討伐では何が起きるか分からない。


 クエスト中に、前衛職と分断され、孤立し命を落とす魔法使いの死体を俺はいくつも見てきた。


 だからこその、今回の模擬戦だ。


 恐らく瞬殺だろうが、ショーマの小僧には、ここでの敗戦から、実際に戦地に行く前に魔法使いも単独で戦うための備えがあることを学んで欲しい。



「それでは、開始!!」



 そう考えながら、俺は模擬戦の開始を宣言した。






「やあああああああーーーーーー!!!!」



 最初に動いたのは、メロディアの嬢ちゃんだ。ショーマのレベルは聞いていないが、メロディアの嬢ちゃんからは、ショーマが来る前に、「私のレベルは26です」と聞いていた。


 村で、引退した冒険者に稽古をつけてもらっていたそうだが、初心者冒険者の平均レベルが12前後であると言われていることから考えてみても、あの若さでレベル26という数字はかなり高い。


 しかもレベル26の剣士にしては動きも速い。きっと、パワーではなくスピード重視のタイプなのだろう。


 一撃よりも手数で攻めるのは女性の剣士には多く見られるタイプで、俺もかなりの数を見てきたが、レベルも技能も、新人という枠の中で見れば、メロディアの嬢ちゃんは、俺が見てきた中でもトップクラスの素質を持っていると思われた。



 流石に、いくらなんでも相手が悪すぎるな。


 予想していてはいたが、これでは、本当に一切の見せ場なくショーマは瞬殺だ。


 長年の経験から俺は、当然のようにそう読んだ。


 だが……




「あれ? パリスさん、メロディアちゃんの攻撃、ちゃんと当たっていますよね?」


「……ああ、俺もそう思う。だが……」



 不思議な事に、メロディアの嬢ちゃんの息も止まらぬ高速の剣戟を受けても、ショーマはダメージを受けているようには見えない。


 メロディアの嬢ちゃんの高速の剣戟には全く対応できずに、サンドバックのようにレイピアで斬られっぱなしではあるが、メロディアの嬢ちゃんの一撃が軽いのか、それとも他に要因があるのか。


 ともかく、あれだけ斬られれば、普通に考えれば、もう立つのも困難のはずのダメージを受けているのに、やられっぱなしでほとんど抵抗できない有様ではあるが、理由は分からないものの、ショーマがダメージを負っているようには見えなかった。



「ハァハァハァ、やりますね。ショーマさん……」


「君もな。メロディア」



 優勢なのは明らかにメロディアの嬢ちゃんのはずであるが、息一つついていないため、ショーマの方が優勢に見える。


 アンちゃんは当然のように、俺もメロディアの嬢ちゃんも、ショーマがどういう手品で攻撃を防いでいるのかが、分からない。



 そのため、初心者冒険者であるはずのショーマに俺は、少しだけ不気味さを感じるのであった。






 ショーマ視点〜




 ひぇー! MPがゴリゴリ削られていく!!!


 明らかに反則ではあるが、実は、模擬戦が開始される直前に、こっそり魔法を発動させていた。レベルが高い、もしくは感知系や調査系の魔法やスキルを持っていれば、看破できたかもしれないが、レベル差が70以上あり、尚且つ、発動させた魔法が見た目が地味な補助系の魔法だったのでバレる事はなかった。


 僕がこっそり発動した魔法の名前は、マジックシール。レベル51以上。上位魔法職であれば、誰でも会得できる魔法だ。


 その効果は、一定時間、ダメージを受けた場合はHPではなくMPが減少するというもの。奇襲を受けても生存できる廃人魔法職御用達の魔法の使用を決意したのは、目の前に立つ少女のステータスを自己紹介時に鑑定眼で見て、この魔法を戦う前から発動しないとすぐに負けるかもしれないと考えたからだ。


 おかげで、向こうが息切れを起こし、攻撃を一時中断して距離を取って休息を取るまで耐えることができた。さて一息付けたので、もう一度スキルを発動しメロディアのステータスを再確認することにする。



 名前 メロディア

 レベル26

 下位職業 戦士

 属性 光


 ステータス

 HP 2400

 MP 500

 物理攻撃力 320 スキル補正+330

 魔法攻撃力 130

 物理防御力 650

 魔法防御力 530

 俊敏性 120 スキル補正+330


 保有スキル

 アクティブスキル

 連撃(C)→(B)


 パッシブスキル

 器用上昇

 速力上昇

 アクティブスキルランクアップ


 装備品

 武器 ローズレイピア 星3


 頭 イエローイヤリング 星2

 胴 シルバーメイル 星3

 腕 初心者用アーム 星2

 腰 ブロンズアンダー 星2

 靴 カバーブーツ 星2

 装飾品 絶対に見えないパンツ 星1


 使用可能魔法

 フラッシュスラッシュ

 フラッシュブースト




 やはり見間違いではない。彼女は何故かあの伝説の装飾品を装備していた。


 レア度詐欺。初心者でも使える実質星10装備。チートにも程がある。女性プレイヤーばかりずるい。エロ装備のはずなのにエロさが欠片もない。発光パンツ。せめて見せろ!


 ゲーム時代、様々なクレームやらブーイングが飛び込んだ最強のネタ装備の一つと言われた装備品。


 その名も絶対に見えないパンツ。



 ゲーム時代はカメラの視点を変える事でスカートの中を覗き見ることができた。その際に見えるのは、装備に応じた下着なのだが、これに対し一部の女性プレイヤーが運営にセクハラだとクレームを付けた。


 その対応策として、運営が取った行動こそが、この絶対に見えないパンツを全女性プレイヤーに配布した事だ。(当然、ネカマプレイしている奴にも配布された)


 アナザーファンタジアにおける装飾品とは、防御力はなく見た目重視で、他の防具よりも強力なパッシブスキルを与える装備であったが、リボンなら頭に、腕輪なら腕にと、装飾品の種類によって付ける位置が変わっていた。そして、当然の事ながら、絶対に見えないパンツは、腰装備の下、スカートの中に装着される。


 その結果、この装備を付けて、スカートの中を覗くとアニメとかで出てくる謎の光に遮られ何も見えなくなった。下着自体が発光していると言う方が分かりやすいかもしれない。


 本来腰装備を外すと、男女共に色気のない下着が姿を現すのだが、この絶対に見えないパンツを装備していると、外しても下半身の部分が謎の光に覆われるように見えるため、むしろ逆にエロさを感じるようなる。


 そのため、外見に関する逸話は山のようにあるが、僕の精神安定上の観点から、この装備の見た目に関する話はここらで、止めにしようと思う。


 不可抗力だったとは言え、鑑定眼(B)を使って、メロディアが今履いているパンツを知ってしまい少し罪悪感のような物を感じてしまったからと。興味はあるが、現在彼女はスカートではなく短いズボンを履いているので、ズボンを脱がないとパンツが見えないのが余計に立ちが悪いからだ。


 よって、この話は、これくらいにしよう。今、問題なのは性能の方だ。


 全身星10の装備品を纏う廃人女性プレイヤーが、装備枠を一つ潰してまでスカートの中を見えなくするのは男性プレイヤーとの間に格差を生まれると運営側が考慮した結果、彼らは絶対に見えないパンツにあるスキルを持たせた。


 それが、アクティブスキルランクアップだ。


 これは、スキル枠を一つ潰す代わりに、習得しているアクティブスキルのランクを全て一段階上げるというとんでもないチートスキルである。


 ゲームにおいて、アクティブスキルの場合は、レベル11、レベル51、レベル81の時にそれぞれ倒した敵の種類や数によって複数のスキルの選択肢が出て、その中から好きなスキルを一つ選択するシステムになっていた。


 このシステムのせいで、同じ職業でも保有しているアクティブスキルの構成はプレイヤーによって違うのだが、その話は一先ず置いておいて、今重要なのはスキルのランクの方だ。


 スキルのランクの強さを示すランクには(C)(B)(A)(S)とあるが、取得時は絶対にCランクで、そこからランクが一つ上昇すると、全く別のスキルと言っても過言ではないほどに強化される。


 例えば、僕の持つ鑑定眼(B)は相手のステータスやスキル名を暴くが、鑑定眼(A)になると、そのスキルがどのような効果を持つのかまで判明するようになり、更に相手のスキルが(C)ランクであれば、一つだけコピーできるようになる。


 このように一段階上がるだけで凄まじく強化される反面、スキルを上げる事ができる機会は、購入回数に限度があった課金アイテムのみと異常なまでに限られていた。


 しかも、(A)から(S)に上げる更に特別なアイテムに至っては、半年でサービスが終了した事もあり、一度しか販売されなかった


 おまけにこれらのスキル上げのアイテムを使用できるのは上位職になってからであるレベル51以降だ。


 さて、これまで話を聞けば、如何にこの世界で、スキルのランクを上げるのが困難であるか理解できるだろう。


 そう、もしこの世界がゲームの時と同じシステムを引き継いでいるとして考えた場合、現在レベル26のメロディアの持つアクティブスキルが(B)になるはずがないのだ。


 にも関わらず目の前の少女メロディアは、絶対に見えないパンツを装備する事で、熟練冒険者のパリスさんですら不可能を可能にしている。




 そして何より、メロディアが唯一保有するランクアップしないと会得できない連撃(B)はかなり厄介なスキルだ。


 デメリット無しで任意で発動できる連撃(C)の効果は、連続攻撃を与える度に、物理攻撃力と俊敏性が少しずつ上昇するというもの。(B)では、上昇時の値が増えるだけでなく、HPが回復する効果が追加され、相手にダメージを与えながら強化・回復するという機動要塞と化す。今の彼女がこの状態である。


 ちなみに(A)は置いておいて、最終段階の(S)まで行くと、上昇できる数値の限界が取り払われて無限に強化できるようになるので、どこまで強化されるかを実験した動画が多数投稿されていた。


 また、攻撃を中断しても上昇した数値は、状態異常にならなければ、ゆっくりと下降していくので、直ぐに攻撃すれば後れを取り戻せる。なので、メロディアも一息ついたら、またすぐに攻撃してくるだろう。




 今の僕ではまともにやり合う事も難しい。俊敏性で圧倒的に劣るので、懐に入られて連続攻撃をされると全く対応できないからだ。


 だからこそ、こうなる事を見越した僕は事前にマジックシールを発動していた。お陰で受けたダメージは未だにゼロではあるが、安く買った星1防具の防御力では、スキルにより強化されたメロディアの物理攻撃力の前では紙切れでしかないので、ダメージを軽減できずに僅か数分の攻撃で、HPの身代わりになったこちらのMP残量は四分の三近くにまで低下していた。


 素早さ重視のレイピアの攻撃力は低いとは言え、これ以上は他の魔法の使用にも影響が出る。



「ふ~、休憩終わり。そろそろ再開しますね」



 再び剣を構えるメロディア。このままでは、いずれ魔法を撃つためのMPがなくなる。彼女のスタミナが切れるのが先か、僕のMPが切れるのが先か。


 悪いが、これでもレベル100なので、レベル100のプライドとしてレベル26を相手に勝つか負けるかのギリギリの消耗性をするのは看過できなかった。


 なので、僕は、こちらもMPに頼らないアクティブスキルである式神召喚(S)を使用することを決意した。



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