第四話 クラスメイトside1
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三年二組の生徒とその担任である吉田先生が、この世界に召喚されてすぐに、対魔王軍に備えて様々なトレーニングが開始された。
最初は、地球とは明らかに違う慣れない環境に最初は戸惑う生徒達だったが、王国側の至れり尽くせりの接待と日本への帰還願望、そして吉田先生の統率力もあり、あっさりと座学でこの世界の基本的な知識を学び、実技の訓練に突入した。
実技では、地球にいた時には感じなかった、彼らの体の中にある不思議な力を把握する事から始まる。それから、その力を感覚で操る術を身に着ける。
これには、生徒だけではなく吉田先生も苦労したものの、蓋を開けて見れば、二週間という短期間の間で、既に半数以上の生徒が魔法やスキルを行使することが可能になっていた。
この世界の人間であれば、数年はかかる事をあっさりとやってのけ、王国側の関係者は大いに驚き、初期レベルの高さ=異世界人の優秀さという説がより一層際立つこととなる。
生徒側も、短期間で、目に見えるほどに自分達が強くなっていることに対し大いに自信をつけ、自ら進んで積極的に訓練に臨んでいた。
そして現在、彼らは来るべき戦いに備えて、本格的な実戦の訓練をして決戦の日に備えている。
そんな日々の中で、吉田先生は度々バルドレイ宰相と二人きりで夕食を共にしていた。
この席では、生徒達には出せないこの世界のお酒をふるまわれ、その味に満足し、更に、バルドレイ宰相は吉田先生の高い能力を大いに評価した結果、召喚された当初は距離を置いていた吉田先生も随分と気をよくし、少しずつではあるが日本にいた時では決して他人に開かなかった自らの心の扉を少しずつ開きつつあった。
さて、これは彼らが異世界に召喚されてから三週間が過ぎた頃の話だ。
もう数えて十回近くになる吉田先生との会食の後、バルドレイ宰相は、彼を王宮の地下に案内した。二人は護衛もつけずに、硬い扉に閉ざされて厳重に管理された地下にある部屋に足を踏み入れる。
そして、部屋の中に広がる光景を見て、吉田先生は思わず言葉を溢す。
「これは……凄いですな」
その部屋には、眩いまでの宝物が満ちていた。
金貨や宝石が部屋の中央付近に積み重なり山脈となっており、更に、芸術にあまり詳しくない吉田先生ですら、最高級の工芸品と分かるような代物が壁を埋め尽くすように配置されていた棚の中に保管され、更に地球には恐らく生息していないであろう巨大な生物の鱗や牙などの体の一部も置かれていた。
また、吉田先生は知らなかったが、部屋のあちこちにタンスほどの大きさの箱が置かれて、収納ボックスと呼ばれるその箱の中には、魔法の力で箱の大きさを遥かに超えるほどの量の宝物が納められており、この部屋にある実際の宝物の総量は目に見える量の数十倍にも及ぶ。
収納ボックスを抜きにしても、目に見える宝物を両手で持てる分だけでも地球に持ち帰れることができれば、億万長者になれる。吉田先生はそう確信していた。
そんな吉田先生の心を見透かすように、バルドレイ宰相は全てが終わり、帰還する時に、報酬として幾らかお渡ししますよと気軽な口調で言うと、吉田先生の心の中にこれまでにはなかった新たな感情が芽生え口元を緩ませる。
だが、今回、王国の財が集まる宝物殿に案内してまで見せたい物は、この程度の宝物ではないと言わんばかりに、バルドレイ宰相は宝物殿の中を一切目を奪われずに真っ直ぐ進み、最奥にある黒い扉を開ける。
映画の中でしか見れないような財宝の山すら超える物があるのかと、疑問に思いながらも、吉田先生もまた周囲に輝く宝に目を奪われながら、宰相の後ろについて歩き、王国の最秘宝を目撃し、そして言葉を奪われた。
その部屋には、無数の武器が保管されていた。
剣、槍、斧、弓、杖、刀、それ以外にも見た事のないような形状をした武器があった。
いや、武器だけではない。鎧や盾、アクセサリーなどの装備品もある。
それら全ての武具の材質は、どれも決して高価な物ではない。勿論、黄金やダイヤ、見た事のないような色をした宝石を素材にしている武具もあったが、木製や茶色に錆びた鉄で作られた粗末な武器もあった。
この世界に来た当初の吉田先生であれば、何故、希少な素材で作られた武具とありふれた素材で作られた武具を同じ場所に保管しておくのかと疑問に思っただろうが、修行により力を付けた今の吉田先生は、そんな低次元な事など一切思わない。
「驚きました、背後にある財宝の山が前座に見えます。ここにある全ての武具から騎士団長殿が所持していた国剣と同じくらいの力を感じる、つまり、高レベルの人間でないと装備できない武具という訳ですね?」
「すぐにお分かり頂けて何よりです。その通り。ここにある武具は、かつて地上にいたとされる神々の武器だそうです」
「神々?」
コレクションを自慢するかのように、バルドレイ宰相は気分を良くして答える。
「今から百年以上昔、この地上に突如現れた超常の存在、その数は一万に届くほどでしたが、そのどれもが、凄まじいほどの成長力、レベル100という圧倒的な強さ、しかも死んでもすぐに蘇った事から、当時の人々は彼らを神と讃えていたそうです」
魔法がある世界だ。今更、神が出てきても驚かないが、一万は多すぎだろうと思うも、吉田先生を口を開かずに話を聞いた。
「だが、ある日突然、全ての神は地上を去った。そして神々が去った後に残された物は 彼らが蓄えていた莫大な富、そして、神々が使用したと言われる神器です」
ここまで、説明されて吉田先生はこの場所にある膨大な富の出どころを知った。
「なるほど、つまり、この宝物殿にあるのは、神々が残した遺産なのですね」
「全部ではありませんがね。神々が去った後、その遺産を巡って多くの血が流れ、失われた遺産も多数あったそうです」
ここにある膨大な量の財宝ですら神々の遺産の一部に過ぎない。一体神々とやらは、どれだけの量の富を独占していたんだと、もはや呆れ始めた吉田先生だが、バルドレイ宰相が何故自分をこの場所に連れてきたという理由は理解できた。
「魔王軍との決戦の時に、我々はここにある神が使っていた武具、神器を身に纏い出陣する……なるほど、高いレベルを持つ我々に見合う武具があるのかと実は心配していたのですが、どうやら大丈夫そうですね」
吉田先生の言葉にバルドレイ宰相は静かに頷くと、再び扉を閉ざした。