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第二話 レべル=正義


 教室中が眩い光に包まれ、目を開けるとそこは中世ヨーロッパのような豪華絢爛なお城の玉座の間であった。


 華奢な衣服を纏った貴族のような風貌な者達や長いローブを着た如何にも魔法使いですと言っているような顔が隠れていて見えない人間や、剣を携えて立派な鎧を着こなす騎士。この光景だけで洋画が一本取れそうな感じだった。


 吉田先生を始め、他のクラスメイト達は突然の事態に困惑している様子の中、引きこもっていたおかげか、僕は今、どういった状況なのかを、理解できていた。



(なるほど、漫画やラノベやアニメで見る異世界転移という奴か)



 本来であれば喜んでいただろう。しかし、僕は何故か感じる既視感のせいで、喜びよりも思い出そうと頭の中を回転させる方に集中していた。


 だが、他のクラスメイト達の方は不安で胸を押しつぶされてしまいそうな感じだった。そんな中、状況を少し把握したのか、吉田先生が広間にいる人間に尋ねる。



「君達、ここは何処かね? それにその珍妙な恰好はなんだ?!」



 明らかに日本人ではなさそうだったが、意外な事に、この場にいる人を代表して一人の白髪の老人が前に出て、日本語で答える。もしくは不思議な力で勝手に翻訳されているだけかもしれないが。



「ようこそ、お越し下さいました。勇者様方。どうか、この世界を征服せんと企む魔王を討伐してください」



 その老人が頭を下げると、玉座の間に座る冠を被ったおじさん以外の全ての人間もまた頭を下げた。大勢の大人達にお願いされて一層困惑するクラスメイト達、そんな中、吉田先生だけが、冷静に問いかける。



「待て、話が良く分からない。一度詳しく聞かせてもらおう」



 その後、吉田先生が僕達の代表という事になり、玉座の間にいた人間から詳しい話を聞いている間、僕達生徒は、王宮内の用意された別室で待機することになった。


 地球であれば最高級のホテルの一室のような部屋で、待機する僕達。窓から見える中世ヨーロッパのような街並みと空に浮かぶ二つの月を見て、僕達は声には出さなかったが、ここが地球とは違う場所だと認識するのであった。




 時計がないので詳しい時間は分からないが、多分一時間くらいだろうか。吉田先生が戻って来た。そして、今の状況を説明した。



 漫画やアニメを良く見ている僕は予想していたが、やはりここは、地球とは異なる魔法がある異世界で、この異世界で暴れる魔王を倒すために僕達は日本から召喚されたそうだ。


 吉田先生曰く、魔王とやらを倒さないと元の世界には帰れないらしい。そして、魔王を倒すために我々を召喚したこのアルゼス王国はできる限りの支援をするとの事だ。



 吉田先生は冗談を言うような人間ではない。吉田先生の話が終わると一部の女子達が泣き叫んだ。



「いや!!! 早くお家に帰らせて!!」


「私達が戦うってこと? それじゃ、最悪、死んじゃうかもしれないの?」


「怖い、怖いよ。ママ」



 幸い言葉は通じるが、それでも見知らぬ土地だ。その上で、家族から切り離されて、見ず知らずの人間のために命を掛けて戦えと言われれば、誰だった萎縮するだろう。


 女子は涙を流し、男子も顔をうつ伏せにして、皆絶望的な顔をしていた。


 そんな状況下で意外な事に唯一顔を下に向けていない人物がいた。その人物、吉田先生は、大きな音を立てて拳を壁にぶつけると、鬱憤を晴らすかのように怒鳴り散らした。



「帰りたいだと? ふざけるな!! それは俺のセリフだ!!!」



 冷徹ではあるが、今まで感情を表に出さなかった吉田先生の怒りの形相にクラスメイト達がビクリと震えあがったのが見て取れた。



「いいか、俺の授業について行けるとは言え、将来が定かではないお前達とは違い、俺の将来は既に約束されていたんだ! 今年、お前達の中から半分以上をうちの高校のレベルでは毎年二、三人が限度の難関大学に入学させる。そうやって目に見える実績を重ねないと、いくら身内が学校の上層部を占めているからと言っても、校長や理事長のような職に俺が若い時からなることを世間が認めないんだよ! その最初の段階で躓かせるな!!」


 

 吉田先生の事は詳しく分からない。ただ、少なくともこの人は自分のために教師をしていることだけは、この短い時間で理解できた。



「いいか、泣き言は許さない。だが、今の状態が異常事態であることは確かだ。だから、俺の指示だけに従え。お前達は何も考えず、迷わず、ただひたすらに俺の指示だけを聞け。そうすれば、こんな未開の世界から、平和で快適で文明的な生活を送れる日本に帰してやる」



 僕以外のクラスメイトも、吉田先生が生徒を自分が出世するための道具くらいしか見ていないのは理解できただろう。でも、それでも誰も吉田先生に異論は唱えない。


 ここが見知らぬ地である以上、吉田先生が他よりは信頼できることは確かだからだ。




 全員が納得した所で、吉田先生は魔法使いのようなローブ着たこの世界の人間達を室内に呼んだ。彼らは、僕達生徒全員に、銀色のプレートを渡し、力を込めるように言う。すると日本語で文字がゆっくり浮かび上がった。



 既に、説明を受けていたのであろう。吉田先生はローブの人達に代わり、自分のプレートがみんなに見えるように掲げた。遠くて僕の目では見えなかったが吉田先生は口頭で何を書かれているか説明してくれた。



「これはステータスプレートと呼ぶそうだ。この世界では主に、身分証として扱われる。原理は知らんが、プレートには持ち主の名前と職業、後レベルが表示される」



 ゲームとアニメとか見そうにない吉田先生がレベルとか言うと違和感を感じる。



「職業というのは、お前達がイメージするような弁護士や医者、パイロットとかではない。お前達の持つプレートには戦士とか魔法使いとかの非現実的な職業が表示されているはずだ」



 自身のプレートを見て何人かの生徒が頷いた。



「私も完全には理解していないが、例えば魔法使いであれば、魔法に対して優れた適正を持つそうだ。戦士なら武器の扱いが上手になるらしい」



 僕もゆっくりと浮かび上がった自分のプレートの文字を見る。そして驚いて思わず、声を出してしまったが、吉田先生は気にせずに話を続ける。



「次にレベルだ。この世界に住む者にはレベルという強さを表す指標があるらしい。レベルが高い者ほど、筋力や魔力、使えるスキルとかが増えるそうだ。後、先程聞いた話だと、この世界の兵士の平均レベルは、20前後、この城を守っている精鋭である騎士の平均レベル30ほどらしい。ちなみにレベル差が20以上あると一対一ではどう頑張っても正面からは勝てないそうだ。さて、それで俺のレベルは51だが、お前達のレベルはどうなっている?」



 国の精鋭部隊のレベルが30前後で、20以上差があると勝負にならないと言った矢先に、やや自慢するかのように吉田先生は51と言う圧倒的なまでの己のレベルを告げる。


 流石は、先生と言葉を漏らしながら、何人かの生徒も自分のレベルを発表する。


 聞いている感じだと、生徒達のレベルは35から45の間くらいだった。自分よりもレベルが高い生徒がいない事に満足そうな笑みを浮かべる吉田先生だが、申し訳なさそうに二人の生徒が手を挙げてレベルを申告する。


 一人は、黒髪ロングの才女、城ケ崎さん。もう一人は、生徒会長にして完璧イケメンと言われる麻生君だ。



「……私のレベルも、先生と同じ51でした」


「俺は、60でした……」



 これには、生徒だけではなく、ローブを着た人達も驚いている。吉田先生も驚きの余り固まっている。すると、これはいいと愉快な声を上げながら、先程広間にいた白髪の老人が入って来た。



「吉田殿、勝ちましたな。貴殿に匹敵する強者が二人もいるとは……おっと、失礼、自己紹介がまだでしたな。初めまして、皆様、私の名前はバルドレイ、この国の宰相でございます。それで御二方、できれば職業の方も教えてくれますかな?」



「……聖女です」


「勇者だ」



 自分で言っていて恥ずかしいのか、城ケ崎さん少しだけ顔を赤く染めて下を向くが、二人の職業を聞き宰相は舞い上がった。



「す、素晴らしい……希少な上位職業を持ちが三人もいるとは、レベル51の賢者である吉田殿に、レベル51の聖女、そしてレベル60の勇者。もはや我々の勝利は決まったと言っても過言ではないでしょう」


 

 しっかりと理解できている訳ではないが、そこまで言われると多少は気分が上がる。


 宰相の勝利宣言に、ローブを着た人達だけでなく、クラスメイト達も自信を持ったのか、目を輝かせる。先程までの絶望的な雰囲気は消えて希望に満ち溢れた。





「あの~先生、少しいいですか?」


 ある程度、余韻に浸った後、僕は吉田先生に自分の職業とレベルを報告しようと声を上げた。僕は、単に自分の情報を開示しようとしただけであったのだが、僕の声を聞き、僕の方を向くと、いつもの冷徹な瞳に戻って吉田先生は冷たい口調になる。



「? ああ、そうか。例の書類を書かせるために学校に呼んだんだっけな。で、将来性のない屑が一体何の用だ? 貴様の要件は何だ? レベル51で賢者の俺に時間を取らせるほどの事なのか?」



 吉田先生の余りの変わりように、宰相は疑問符を浮かべる。



「吉田殿、この子は? やけに冷たく当たっておられるようですが」


「ああ、元の世界で私が見捨てた屑ですよ。私の授業について行けず、テストの点数も満足に取れない、将来性がない落ちこぼれです。それでも一応最低限の処置はしてやったので感謝して欲しいですがね」


「それはそれは、先程貴殿には説明しましたが、異世界人は、元の世界で優秀であればあるほどこの世界での初期レベルが高くなるそうです。なので、あなた方の世界で落ちこぼれという事は、我々が求める高レベルの強者ではないしょうな」



 異世界に来て先程吹っ切れたからか。レベルという明確に他者より優れているという証明を手に入れたからか。今まで、落伍者だと相手にせず、無視してきた吉田先生は、僕の事を心底見下す素振りを見せる。何人かの生徒もそれに便乗するように、クスクスと笑い声を上げる。



「おい久我。てめえ、レベルいくつだ?」


「俺達の中で最低レベルは浅間の35レベルで、最高は麻生の60だ。俺達と対等な関係でいたいのあれば、この中にいるんだろうな?」


「雑魚や屑は俺達、勝ち組エリートの仲間には入れないぜ」



 余り好きなタイプではない相馬君を筆頭に何人かが僕の事を茶化している。


 それらを心の中で無視して、僕は正直に相馬君の質問に答えた。



「……残念ながら、君達と肩を並べられるようなレベルではないよ」



 僕の一言で、クラスメイトたちの大半が吹き出した。



「きゃはあああああ!!」


「流石、落ちこぼれは期待を裏切らねえ!!」


「レベルが低いと、考えがすぐに読める」



 そして最後に、吉田先生が、突き放すように、僕に告げた。



「悪いが、出来の悪い奴の面倒を見るほど私には余裕がなくてね。バルドレイ宰相。王国の方も役立たずのお荷物を養う余裕はないでしょう? 私として目障りな落ちこぼれなど視界にも入れたくないので、王宮から追い出したいのですが?」


「ま、打倒な判断でしょうな。今後、あなた方を貴族待遇で迎えるのは、あなた方が魔王と戦う上で有益な存在であるからです。正直に言って、役に立たないお荷物の面倒を見るのは避けたいところです。金の無駄ですから」





 こうして、僕は笑われながら、そのまま王宮の外へと案内された、せめてもの情けで、一週間分の生活費であるお金が入った袋を貰って。


 だがしかし、悲しみなど微塵もなかった。むしろ、その反対。僕の心の中は高揚感で満たされていた。


 何故ならば。



「それにしても、漫画やアニメで、自分がプレイしていたゲームに良く似た世界に転移や転生するという作品をいくつか見てきたが、まさか自分で体験する事になるとはな」



 日本でもこっちの世界でも勝ち組らしい吉田先生とクラスの諸君、精々頑張って魔王とやらを倒してくれ。僕は日本には帰らずに、こっちの世界で悠々自適に暮らすとするよ。


 なんせ、僕が日本で大成しないのは、かの吉田大先生のお墨付きだからね。故郷である日本に思うところはあるが、それは帰還手段が判明するまで置いておいて、今は難しい事を考えずに、こちらの世界で伸び伸びと暮らすとしよう。


 当面の目的は働かなくても生きていけるように不労所得を得ることにしようかな。でも、とりあえずは、情報収集だな。どうやら、ゲームの世界と完全に同じ訳ではないようだし。


 等と色々と思いを膨らませながら、僕は、ステータスプレートを学ランのポケットに仕舞う。

 


「この世界が、ついこの前までプレイしていたオンラインゲーム、アナザーファンタジアと似たような世界で、しかも外見は違うけど、今の僕は、ゲームをプレイしていた時のキャラのレベルや職業を引き継いでいるとは。驚きだよ」



 ポケットに仕舞った僕のステータスプレートにはこう書かれていた。

 


久我翔馬 レベル100 

上位職業・陰陽師

属性 闇




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