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第十一話 出発

「あ! いたいた! ショーマさんおはようございます」



 宿屋で一晩泊まり翌日、王都の門の前でメロディアと再会した。



「ああ、おはよう」



 ネタ武器屋で王宮内に僕がゲーム時代に使っていた武具があるかもしれないという情報は掴んだものの、いきなり王宮に突入するのは流石にリスクが高すぎる。そう判断した僕は、一先ず今後の生活基盤と情報収集に勤しむことにした。


 そのための一環として手始めに、これから昨日メロディアと約束したクエストに一緒に行くのだ。



「ん? おお! それは昨日あのお店で購入した杖ですね?」



 待ち合わせの場所で出会うなり、彼女は僕が手に持つ短めの杖に注目する。


 この杖は、昨日所持金も少なかったので、店で一番安い杖を見せてくれとあの老人に尋ねたところ、じゃあこれなんかどうじゃと出してきた奴だ。


 価値が分からないあの老人は、この杖を昼食一食分という安値で売りつけたが、価値を知っている僕としては、表には出さなかったが心の中で飛び跳ねるほどの衝撃だった。



「ピンク色で、先端部分にお星様の装飾品がついていて、何だか少し可愛いですね」



 まあ外見については目を瞑ろう。というより仕方ない。


 何故なら、この杖はゲーム時代に和風関係のアイテムや魔物や職業が実装されるきっかけとなった深夜アニメ陰陽少女カナタという和風魔法少女作品とコラボした時に実装された武具だからだ。


 アニメ陰陽少女カナタは、ひょんなことから現代まで生き残る陰陽師が作った変身アイテムを手にしてしまった中学生の主人公カナタが、陰陽少女に変身して悪い陰陽師とその一味と戦うオリジナルアニメだ。


 残念ながら、ひっそりと始まって、ひっそりと終わったので、あまり話題にはならなかったが、アナザーファンタジアとコラボしていたため僕は全話視聴していた。面白いかどうか聞かれると正直微妙だったけど。


 話がそれてしまった。ともかくこの杖は、その主人公のカナタが使用していた武器アストラル・ロッドを模したもの。


 星9の武器で、廃人御用達の武器には一歩遅れるが、それでもこの世界のレベルから考えれば十分無双できるはずだ。


 魔法少女が持つような可愛いらしいデザインが難点だが、性能を考えれば精神的にも余裕で耐えられる。


 全く良い買い物だったと、僕がスリスリと杖を撫でていると、少しだけ呆れたような目をしながらメロディアが真剣な顔付きをして尋ねてくる。



「それでもう一回確認しますけど、これから行うクエストの内容は王都の近郊にあるハガー村と言う場所に出る奇妙な現象を調査することですよね?」



 メロディアの問いに杖を頬から離し静かに頷く。奇妙な声というのはよく分からないが、ハガー村というのはゲーム時代にもあった村だ。だから、どこにあるかも知っていた。



「じゃあ、早く行きましょう!」



 メロディアも生活費が掛かっているせいか急かして来る。そんな彼女に遅れまいと僕も一緒に門をくぐるのであった。







 目的地に向け王都を出て一時間ほど歩き、道の左右が平野から森になったところで、ふと思い出したようにメロディアが口を開いた。



「あ! そういえばこの道、私が王都に来た時に通った道なんですけど、丁度この辺りで山賊に襲われたんですよね」



 何気ない感じで言うのであまり緊張感は感じられなかったが、それでも山賊という言葉を聞いてビビった。



「え? まじで? いるの山賊?」


「え? いますよね。何を当たり前の事を言っているんですか? 街道で山賊と遭遇する確率ゴブリンに出会う確率と同じ。これって常識ですよ。ん? そういえば、ショーマさんも田舎から王都に来たって聞きましたけど、まさか一度も山賊と遭遇しなかったんですか?」


「ああ、運が良かったんだな僕。ハハハハ」


「まあ、山賊と言ってもレベル15くらいの強さなんで、見た事のない魔法を使うショーマさんの敵ではないでしょうけど。私だって正面を突破して振りきれましたし」



 あまりにも、さも当然のようにメロディアが語るので、僕は乾いた笑みをしてそうなんだと言う他なかった。


 メロディアの言葉を信じれば、山賊はそれほど強くはなさそうだが、それでも流石は異世界と言ったところか、日本とは治安が違い過ぎる。


 こちらの方が圧倒的に強くても、魔物ではなく武器を持った強面の男達が集団で迫ってきたら、ビビッてしまうな。


 そんな事を考えながら、歩を進めると、突然僕達の目の前に、凄惨な光景が広がった。



「酷い……」



 メロディアの言葉に静かに同意する。


 街道のあちらこちらに武装していたと思われる血まみれの人間の死体が転がっていた。数は二十人ほど。道を赤く染めるほどの大量の血を見て、全員すでに息絶えていると判断できた。


 正直に言って、これほどの数の死体を実際に見て今にも吐き出しそうになったが、隣にいる女の子が気弱なところを見せていなかったためか、何とか踏みとどまっていた。



「この人達、山賊でしょうか?」



 少しクラクラしてきた僕とは異なりメロディアは冷静に分析する。だが、ふいに何かを見つけたようで、表情が固まった。僕も一体どうしたのかと、尋ねながらメロディアが見ている方を見て、驚きのあまり息を止めた。



 道の真ん中には、二本の角を額から生やす一体の鬼がいた。


 アナザーファンタジアの中には様々な魔物が出現するが、その中で目の前にいる奴に一番近いのはオーガだろう。


 だが、ゲームに出てくるオーガの肌色は緑色だった。しかし目の前にいる鬼の肌色は赤色で、オーガよりも人間に近い外見をしており、オーガよりもよっぽど顔が怖い。そして何より、武士が着るような甲冑と巨大な太刀を背負っていた。



「あ、あの赤いオーガが山賊さん達を皆殺しにしてしまったのでしょうか……」



 メロディアは恐怖で体を震わせながらもゆっくりと口を開く。その声に鬼はこちらを見るが、興味はないのか、すぐに視線を転がっている死体の方に戻す。


 あの化け物のターゲットから外れたためか、メロディアが安堵したのが分かった。無理もない、あれは恐怖そのものだ。初めて見たのであれば小便を漏らしたって誰も笑わないだろう。


 しかしながら、あの化け物について心当たりがあった僕は、恐怖で縮こまるのではなく、その者の名前を呟いた。



「まさか、マスラオか?」



 そのたった一言は、場の空気を劇的に変えた。



「ああん? てめえ俺様の名前を知っているのか?」



 鬼は、ゆっくりとこちらをにらめつけながら殺気を放ってくる。メロディアは今にも崩れ落ちそうだが、僕は強烈な殺気に懸命に抗いながら、心の中であの化け物の正体に確信を持つ。


 間違いない。


 どうしてこんな場所にいるのかは分からないが、あれはアニメ陰陽少女カナタに出てきた敵側の三人の幹部の一人。鬼武者のマスラオだ。


 アニメでも見た目は十分に怖かったが、実写というか本物の怖さはそれ以上だ。だが、恐れるな。見た目こそ強そうで怖いが、コラボイベントで実装された時の奴が、神器と同じようにこの世界にいるだけなら、そこまで強くはないはずだ。


 陰陽少女カナタとのコラボイベントは、アナザーファンタジアの世界に迷い込んできたマスラオ達敵勢力を同じく迷い込んできた主人公一行とプレイヤー達が協力して戦い撃退した。


 そのため、戦闘よりもシナリオがメインだった。というか同時に実装された和風アイテムや職業のほうが話題になっており、戦闘はチュートリアルのように極めて低い難易度だったため大して思い出に残っていない。


 なので敵キャラクター達は、はっきり言って雑魚であり、マスラオのレベルも20くらいでアニメから入ってきた初心者プレイヤーがすぐに倒せる弱さだった。


 だから見た目ほど強くはない、きっと楽勝のはずだ。



 と僕は考えていたが、こちらを観察していたマスラオは突然ある物に気が付いたのか、驚きの表情を見せ、一瞬にして視界から姿を晦ませる。



「てめえ、どうしてあの小娘と同じ杖を持っている? 髪の色も似ているな。俺様達が殺したはずのあいつらの生き残りか?」



 そして、次の瞬間僕の目の前に突如として現れ、一言呟いたのを聞いた直後、腹部に強い痛みを感じながら、僕は後方に吹き飛ばされていた。



「ぐう……」



 何が起きたのかわからないが、どうやら思いっきり腹を殴られたようだ。泣きそうなほど痛いが、幸いにも不意打ちを食らった割には、出血もないし骨とかが折れたわけではなさそうだ。


 それにしても、レベル100の僕に対しこの攻撃力は異常だ。一体どうなっている?


 僕はスキルを発動させ奴のステータスを確認する。



マスラオ 種族・鬼 職業・侍 レベル90 属性・炎



 は? 何だこれは……俺の知っているマスラオのレベルじゃないぞ! 何だよレベル高過ぎだろう!! 



 わけが分からないまま混乱していると、マスラオの隣に立つメロディアが地面に尻餅をついて、震えながらもマスラオの方を指刺す。



「い、今マスラオって言いました? それじゃ。この方が魔王軍四天王の一人の怒将のマスラオですか?……ハハハハ。私死んだかも」



 メロディアの言葉で知った。これが魔王軍との初めての邂逅であると。僕は杖を握り締めて決意した。



「これはもう、出し惜しみしている場合ではないな」


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