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第十話 神器屋

 どうやらメロディアに案内されたこのお店は、ゲーム時代にはなかったが武具屋のようだ。


 店内には、お客も店員もいないが、陳列されていた武具を数々を見て、このお店は武具屋だと伺える。


 最も、小奇麗に棚に置かれている武具はどれも星3以下の低ランクの物ばかりで、僕が目を引くような高いレア度の武具も、メロディアの絶対に見えないパンツのようなレア度詐欺のような装備品も見つからなかった。


 やはり、この世界相当の低ランクの武具が売られているのだろうと、勝手に想像していたが、そんな時何だか、楽しそうな声が聞こえたきた。



「あの時は、急いでいたのであまり他の品を見られかったんですけど。よく見ると色々と面白い物がありますね」



 声のする方に視線を移すと、店内の隅に設置されたみすぼらしい古い大きな箱から、商品を手に取り物色しているメロディアがいた。


 さっきまで、ぐずぐず泣いていたはずだが、今は先ほど流した涙をさっぱりと忘れているようにしか見えない。


 立ち直ってくれたのは、結構だが、正直早すぎて少し引く。僕よりも遥かにメンタルが高いようなのは確かなようだ。まあ、メロディアの事は一旦置いておいて、僕は目の前の問題を片付けるとしよう。



 メロディアが漁っているあの売れ残り商品をまとめて放り込んだような箱は一体なんだ?


 しかも、箱の中の商品は、どれも凄いはした金で売られているが、この店の連中どういうつもりだ? 物の価値が分からないのか?



「見てください!! どうですか?」



 深く考えていると、メロディアに呼び止められて振り向く、すると彼女の頭部に猫耳がついていた。


 あまりにも、似合っていたので、一瞬ドキリとしたが、店内にある鏡で自分の姿を見たメロディアは、少し残念そうだった。



「う~ん。いまいち可愛くないですね。なんか、こうもっと、インパクトが欲しいです」



 インパクトってなんだよ?! やっぱり、こいつのセンス少しおかしいんじゃねえ?


 と思ったが、口には出さないようにしようと決めた矢先、店の奥から一人の老人が姿を現した。



「あ! この前はありがとうございました!」


「ん? ああ、この前、パンツを買ってったお嬢さんか」


「すみません。私が買った物を口に出すのはやめてください。恥ずかしいです……」



 おじいさんを見るなり、すぐにメロディアが頭を下げてお礼を言う。どうやら、この老人がここの店主のようだ。


 そのことを把握した僕は、老人とメロディアの会話に割り込んだ。



「すみません。少し聞きたいんですが、あの箱の中に投げ売りされている商品は一体何なんですか?」



 僕が指さした先にあるのは、メロディアが漁っている大きな箱、その中には、剣と魔法の世界であるはずのこのゲームの世界観には余りにもそぐわない場違いな物が押し込まれていた。


 百歩譲って一般的な武器と同じサイズのナイフやフォーク、この世界には存在しない銃やバズーカの類は技術の発展であるのかなとギリギリ許容できるが、ハリウッド映画で使うような大変良くできた魔物の顔と瓜二つのマスク、宴会芸で使うような小道具、挙句の果てには、日本で放映されていた深夜アニメのキャラクターが使用していたオリジナルの武器らしきものがあるのは絶対に不自然だ。


 うん、どう考えてもこれらのアイテムや武具は、この世界原産の物でないことが、日本から来た僕には一目見て判断がついた。


 というか、これはあれだ。ゲームでネタ装備と言われていた武具やアイテムだ。見た目はあれだが、レア度も性能も、そこに陳列されている装備品よりも遥かに上だぞ。それが、なんでこんな部屋の隅で投げ売りされているんだ?



「ほ~う、お前さん。実際に見るのは初めてかね?」



 老人は自慢の品をひけらかすように、満面の笑みで説明する。



「あの箱に入っている物は、全て神器じゃよ」 



 神器? ゲーム時代には聞き慣れぬ言葉に疑問符を浮かべた僕に対し、隣にいたメロディアは驚きの声を上げる。



「じ、神器って、あの神器ですか?!」


「そうじゃ、あの神器じゃ。そう言えば、お嬢さんにはまだ話していなかったな」


「へえ~。話には聞いていましたけど、実際に神器を見るのは初めてです」



 あの神器って何だよ。


 僕は二人だけで納得していないで、こちらにも教えてくれと老人にもっと詳しい説明を求めた。



「いいか、神器と言うのは、今から百年以上昔にこの世界に降臨し、そして去った神々が使っていたとされる装飾品やアイテムの総称で、天界に帰る際に神々は己の神器を地上に残して去っていた。それらの残された伝説の武具がこうして今も残されているのじゃ」


「なるほど、確かに神様が使っていたと言うだけの事はありますね。これとかどうやって使うか私には分からないんですが、神様の武具じゃ私なんかが装備してもレベルが低いので力を引き出せないですよね」


「そうじゃ、そうじゃ。お嬢さんは反応が可愛くてええの。見ていて飽きないのお。それに比べ、そっちの小僧は大して驚いておらんようでつまらん」



 先程の猫耳カチューシャを装着して、装備と叫ぶが何も反応がないなと呟くメロディアを微笑ましい笑顔で眺めていた老人は、次につまらんと冷めた方で僕の方を見るが、僕の頭の中は、老人からの好感度など吹っ飛ぶほどに、激しく回転していた。


 不思議そうな顔をする二人を横目に、僕も箱の中に手を伸ばして中を漁る。そして一つの答えに行きついた。だが、そうなると、新たな疑問が生じた。



「なるほど。ねえ、おじいさん。一つ聞きたいんだけど。もっとこう、まともな外見の武器とか鎧とかはないの?」



 僕の問いを聞き、老人はため息をつく。



「ハァ~。なんじゃ。もしかして、お主も王宮の連中と同じく、ここにある神器をまがい物の神器とケチをつけて認めないのか?」


「王宮?」


「そうじゃ、神器には大きく分けて二種類ある。一つは王宮がこれは神器だと認めて高値で買い取った、連中の言う真の神器。もうひとつは、連中がまがい物だと罵ったここにある神器達じゃよ」



 僕としては今の言葉で大凡の予想はついたが、ゲームの知識を持たないメロディアは挙手をして質問をする。



「え~と。でも私が装備しても力を引き出せないってことは、ここにある武具はレベル51以上でないと装備できない武具、つまりは世間一般的には神様が使っていたとされる神器と呼ばれる伝説の装備品なんですよね?」


「そうじゃ、鑑定系の魔法やアイテムを使えば分かるが、ここにあるのは星6以上、紛れもない神器と呼べる代物じゃ。まあ、儂らの力じゃ星がいくつかまでしか分からないから詳しい効果までは分からないがね」


「じゃあ、なんで王宮の人達は、ここにある神器をまがい物と呼ぶんですか?」



 何も知らない純真無垢なメロディアの問いかけに対し、老人は残念そうな顔をするが、老人が何を言いたいのか察していた僕は、次の老人の言葉で「ああ、やっぱりか」と一人納得していた。



「……それはな。ここにあるのは、見栄えが良くないからじゃ」


「え、見栄えですか?」


「ああ、そうじゃ。王宮の連中が言う本物の神器とやらは、見た目が美しかったり、禍々しかったり、希少な鉱石や素材が使われていたり、見るだけで、神々しいオーラを放っているそうじゃ。それに比べ……」



 老人は、箱の方に目をやる。老人の目線の先には、装備した者の精神耐性を大きく向上させるちょんまげのかつらがあった。



「ステータス上の格は同じでも、見た目が王宮の連中にとっては、自分達が管理するには相応しくないので、これらを神器とは認めないと言ったのじゃ」


「そうなんですか? ふ~ん。私的には素敵なデザインだと思いますけど……」



 メロディアはちょんまげのかつらを被ると、鏡を見ながら結構いいのにと、心底理解できないような様子だった。


 その様子を見ながら僕の方はと言うとコイツの美的センスは絶対におかしいと確信を持ちながら、これまでの事をまとめた。



 まず、ゲーム時代、まだサービス開始から半年という短い期間であったため、いわゆるネタ武器やコラボ武器の数は少なかった。


 何と言うか、まともな外見の武器の方が圧倒的に多かった。だが、その均衡がサービス終了の直前で大きく傾く。


 そう、サービスが終了する半日くらい前に、突如運営から全プレイヤーにプレゼント付きのメッセージが送られてきたのだ。


 内容は、運営からの最後の贈り物。今後実装する予定だった装備品やらアイテムだった。


 後日ニュースで知ったが、サービス終了に反対していた運営の人間が、すでに製作していて日の目を見る事がないであろう装備品を最後に使ってくれとプレイヤーに配布したのだ。


 認可されていないコラボ装備品などもあったため、ゲームは配布物回収のための緊急メンテナンスに突入して、まさかのそのままサービス終了という運びになってしまう。


 そのため、未実装の装備品やらネタ装備が使用できたあの三時間は、伝説の三時間と、色んな意味でネット上で大きな話題になった。


 なので、大量に贈られて、かつ試運転する機会も少なかったため、あの三時間をフルで楽しんだ僕も、それらの未実装の装備品をほとんど知らない。


 あの箱の中に、ガラクタの山のように無造作に突っ込まれているまがい物の神器とやらのレア度が、レベル51以上の上位職のみが装備できる星6以上であることは、スキル鑑定眼を使い容易に判断できた。


 しかしながら残念な事に、その性能までは実際に装備して使用するか、回数制限のあるスキルの機能を解放するしかないなと考えている矢先、僕はある事に気が付いた。



「おじいさん。ってことは、もしかして、王宮にはあるんですか? その、神々が使っていた神々しい真の神器が?」



 僕の問いに老人は頷き、悔しそうに拳を握りしめる。



「そうじゃ。昔、お隣にも武具屋があって、儂の店と同じく先祖伝来の神器を受け継いでいたが、その店にあった神器は儂のとは異なり、数年前に王宮に高値で買い取られていった。おかげで、お隣は、店を畳み、一等地に屋敷を構えて貴族のような暮らしをしているよ。持っていた神器の数は儂の方がずーっと多かったのに、何で、儂の方は一つも神器だと認定してくれなかったんだ。悔しいのお……」

 


 正直、大金を得るチャンスを逃した老人の涙など、どうでもいい。


 それよりも、王宮に僕がゲーム時代に使っていたかもしれないガチ装備があるかもしれないという可能性の方がずっと重要だった。


 自分が苦労して素材を集め、色んなイベントをこなしてやっとのことで、入手した装備品が奪われている事もそうだが、それ以上に、僕や、他の廃人ゲーム達が青春や、まともな日常生活を捨ててまで、作ったガチ装備を、勉強一辺倒のクラスの連中に使われるのが我慢ならなかった。



 奪還せねば。あれらは、アナザーファンタジアに何の思い入れのない連中が勝手に使っていいものではない。


 異世界転移の初日の夕方。僕は心の中で、王宮からのガチ装備奪還作戦を一人練るのであった。



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