すれ違う思いやり
報道によると全国各地にこの症状が広まっているらしく、自衛隊も警察も餌食になり人数が減っているとのことだった。
しかし一点集中で集まり、他の地方を放っておくわけにもいかないため、事態は悪化する一方、政府からは自宅から出ないようにとの勧告があった。
「ほんとひどいもんだったよ」
華の足首に抗生物質入りの軟膏を塗る。引っかかれて3日経つもかさぶたが出来ない傷を心配そうに見る華は、昼から機嫌が悪いようだった。
「もう、危険なことしないで……」
「でも華のためだよ」
そういうと、華はボタボタと大粒の涙を流した。
「それが、分かってないんじゃん」
「なにが」
華のために命がけでとってきたにも関わらず、華本人からそんな言い草で言われたら雄太だとていい気持ちではなかった。華は膝を曲げ体育座り、雄太は正座で向かいあう。俯いてる華の顔を雄太が覗き込むようしていた。
「分かんない?」
「分かんないよ。華が良くなればと思って」
「ゆうくんが噛まれたら意味ないじゃん」
「噛まれなかったでしょ」
そういうことじゃない、と華はメソメソと泣くばかりであった。その様子に雄太はイライラしたように頭を大げさに書いた。
「心配で心配で、待ってたら危険な事あったっていうし」
「……報告するなって事?」
「そういうんじゃないの」
夜は外から唸り声が聞こえ、ニュースではいい報道は一つもない。華も雄太も、余裕がなかった。
「私が悪いんでしょ」
「は?」
グスグスと鼻をすする。
「足首、引っかかれて、ああなるかもしれなくて、ゆうちゃんに迷惑かけて、華のためだって、無茶して」
無茶して噛まれたら私のせいなんじゃん、もう嫌、と華はメソメソと泣く。華はお昼、雄太が帰ってくるまで窓とドアを行ったり来たりしていた。噛まれてるんじゃないか、暑さで倒れてるんじゃないか、そんなことを考えていたらなだれ込むように雄太が帰ってきた。
危なかった、1メートル先に発症者がいた、でも無事だったと少し意気揚々に語る雄太が心配でたまらなかった。緊張の糸が切れ、外の出来事で疲れ切っていた雄太には、そんなことないよ、俺は噛まれないから大丈夫と言い切れる自信と余裕はなかった。
「大丈夫だったっていってるだろ」
雄太は強い口調で言った。2人の間に沈黙が流れる。
「……おれ、今日ソファで寝るわ」
その夜、外から聞こえる唸り声とベットから聞こえる華の泣き声に、雄太は下唇を噛みながら夢に落ちようと必死であった。