気持ちの防備
華に巻かれた包帯をスルスルと外す。どうなっているかとドキドキにしながら見つめる雄太は、ツウと汗を流す。無論、楽しみからくる動悸ではない。
「どう?」
「……なんかちょっと、膿んできたかも」
華は一心不乱にガシュガシュと消毒をかけた。発症者に引っ掻かれた傷でなくても、膿むことはあるが不安に掻き立てられるのは当たり前であった。その痛々しい姿に雄太は、決心したように言う。
「俺、外見てくる」
「どうして?」
雄太は、薬局なら抗生物質入りの軟膏でもあるだろうと踏んだ。膿んでいるなら抗生物質であろう。腫れ止めなどもあったら持ってこようという算段であった。
「えー、でも、盗んでくるってこと?」
「人がいたら説明してもらってくるし…居なかったら居なかったであとで説明すれば」
こんな緊急事態だし、と言った。華はその提案にいい顔はしなかったものの、仕方がないと諦めた様子であった。消毒液でダラダラになった傷にまた包帯を巻く。
「大丈夫なの?」
「まあ、外を視察してくるのも兼ねて」
華は私も付いて行くと言ったが、危険すぎると雄太1人で行くことになった。そうなればと華は立ち上がる。
「噛まれないようにしていかないと」
そういうと華はクローゼットを漁り、ポイポイと服を雄太に投げていった。雄太に投げられたのは、革ジャン、分厚いジーンズに分厚い靴下。そして華のマフラーだった。
「……ちょっと華、今夏だよ?」
「ばか、こんなゾンビうじゃうじゃいるところに涼しい格好でいけないでしょ!」
暑くてもゾンビの歯が通らないものを着て! と雄太は腕に乗せられて行く衣服で筋トレでも出来るんじゃないかと思ったほどだった。
ちらりと外に目をやると、白い雲から明るい太陽がのぞいていて、なんともいい天気であった。自分の腕にのっている服の量を改めて見ると、嘘だろうといいそうになる。
クローゼットを漁る華の姿は、前に会社の忘年会に行く時「服がダサすぎる!」と言われコーディネートしてもらった時以来だなぁ……と雄太はぼんやりと考える。あの時は、適当な格好をして行こうとしたら、もったいない! 雄太はかっこいいんだから! と、服を貶され、でも褒められ複雑だったな……と遠い目で考える雄太に、華はズイッと何かを差し出した。
「ながぐつ!」
これで完璧だよ、と華は親指を立てて言った。
雄太の格好を上から説明すると、ニット帽にサングラス、革ジャンの襟に入れ込んだマフラー。分厚いジーンズに長靴だった。しかも、長靴で見えないがジーンズは靴下の中に入れてある。
センスなんてあったもんではなかった。
「……ねえ華」
「ん?」
「……サングラスはいらなくない?」
「……いらなかったね」
改めて見たらすごい格好、と2人笑いながら雄太はサングラスを外した。部屋の中からもう、雄太は汗が噴き出している。
「じゃあ、行ってくるから」
「絶対帰ってきてね」
「大丈夫」
心配そうな華のおでこを撫でると1日目と同様、片手に傘をもって雄太は出て行った。