表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
42/59

黄色い花と灰色の光

 

 目の前に飛び込んできたのは、眩しい黄色と、透き通るような白。ここはどこだと脳で処理するのは少し時間がかかった。ああ、近所の菜の花畑かと思いつく。黄色い葉の花の中に、華が佇んでいる。華奢で、両側の菜の花に埋もれてしまいそうな華はニッコリ、可愛らしく、可憐に微笑んでいる。


「綺麗だね!」


 華の方が綺麗だよ、なんてセリフを吐くような男でもないような雄太は、微笑み歩きながら花に近づく。菜の花の独特の匂いが、眩しいほどの黄色が、雄太の目鼻を眩ませた。


「蜂いるから気をつけてよ」

「ゆうくんも、早く!」


 綺麗に咲き乱れている菜の花畑の道を、女の子らしい小さな足跡をつけながら歩いて行った。

 パタパタと走っていく華は遠くなっていく。


「ちょっと、華、待ってよ」


 土に足を取られうまく走れない。一方、華は軽やかに走って行ってしまう。どんどん足はぬかるみ、サンダルを履いた足はズブズブと地面につかってゆく。くるぶし、ひざ、沼のように埋まっていく雄太は、抜けようと、華に追いつこうと必死だった。


「は、はな」

「ゆうくん」


 その声にバッと顔を上げる。もう腰まで地面に埋まってしまっている。そんな状況でないはずなのに、青空に映える華の黒髪と、瞬く大きな瞳をきれいだと思った。


「はな……」

「ゆうくん、もういいよ」


 埋まってゆく雄太の頬に手を当てる。


「い、いいよって」

「ありがとう」


 大好きだよ。其れだけいうと、頬の手を外した。白いサンダルを履いた華が遠くなっていく。


「待って、華、おれ」


 口の中にゴボゴボと土が入り込んでいく


 おれは、諦めないから

 もう一度この光景をみたいから

 華


 はな


 目の前が真っ暗になり、ハと目がさめる。

 見慣れた天井に、ああ、夢かと起き上がった。カーテンの隙間からはまだ光は漏れておらず、まだ明け方前なんだなとわかった。


 隣では、スウスウと華が眠っている。あの菜の花畑、春に行った所だった。綺麗なところだった。夏には海に行った。水着姿の華は可愛くてデレデレしっぱなしだった。秋は紅葉を見に行ったな、と思い出す。


「懐かしいな」


 雄太の頬に、脂汗と涙が混じった液体が顎へ伝った。


「あれ」


 なぜ涙が出るんだろう


 これから、また、元に戻るというのに。また2人で行けるのに。なんでこんな涙が出てくるんだろう


 夢で会った、思い出の華の笑顔が、いま思い出すのが苦しい。


 もう戻れないと思ってるから?


「戻れるよ」


 震える声でつぶやく。フウフウと、嗚咽を鼻に逃がす。


 戻れるに決まってるんだ


 雄太は拳で胸を叩く。今言ったことを刻み込むために、忘れないために、揺らがないように。


「戻れる」


 叩いた胸が、心が痛い。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ