黄色い花と灰色の光
目の前に飛び込んできたのは、眩しい黄色と、透き通るような白。ここはどこだと脳で処理するのは少し時間がかかった。ああ、近所の菜の花畑かと思いつく。黄色い葉の花の中に、華が佇んでいる。華奢で、両側の菜の花に埋もれてしまいそうな華はニッコリ、可愛らしく、可憐に微笑んでいる。
「綺麗だね!」
華の方が綺麗だよ、なんてセリフを吐くような男でもないような雄太は、微笑み歩きながら花に近づく。菜の花の独特の匂いが、眩しいほどの黄色が、雄太の目鼻を眩ませた。
「蜂いるから気をつけてよ」
「ゆうくんも、早く!」
綺麗に咲き乱れている菜の花畑の道を、女の子らしい小さな足跡をつけながら歩いて行った。
パタパタと走っていく華は遠くなっていく。
「ちょっと、華、待ってよ」
土に足を取られうまく走れない。一方、華は軽やかに走って行ってしまう。どんどん足はぬかるみ、サンダルを履いた足はズブズブと地面につかってゆく。くるぶし、ひざ、沼のように埋まっていく雄太は、抜けようと、華に追いつこうと必死だった。
「は、はな」
「ゆうくん」
その声にバッと顔を上げる。もう腰まで地面に埋まってしまっている。そんな状況でないはずなのに、青空に映える華の黒髪と、瞬く大きな瞳をきれいだと思った。
「はな……」
「ゆうくん、もういいよ」
埋まってゆく雄太の頬に手を当てる。
「い、いいよって」
「ありがとう」
大好きだよ。其れだけいうと、頬の手を外した。白いサンダルを履いた華が遠くなっていく。
「待って、華、おれ」
口の中にゴボゴボと土が入り込んでいく
おれは、諦めないから
もう一度この光景をみたいから
華
はな
目の前が真っ暗になり、ハと目がさめる。
見慣れた天井に、ああ、夢かと起き上がった。カーテンの隙間からはまだ光は漏れておらず、まだ明け方前なんだなとわかった。
隣では、スウスウと華が眠っている。あの菜の花畑、春に行った所だった。綺麗なところだった。夏には海に行った。水着姿の華は可愛くてデレデレしっぱなしだった。秋は紅葉を見に行ったな、と思い出す。
「懐かしいな」
雄太の頬に、脂汗と涙が混じった液体が顎へ伝った。
「あれ」
なぜ涙が出るんだろう
これから、また、元に戻るというのに。また2人で行けるのに。なんでこんな涙が出てくるんだろう
夢で会った、思い出の華の笑顔が、いま思い出すのが苦しい。
もう戻れないと思ってるから?
「戻れるよ」
震える声でつぶやく。フウフウと、嗚咽を鼻に逃がす。
戻れるに決まってるんだ
雄太は拳で胸を叩く。今言ったことを刻み込むために、忘れないために、揺らがないように。
「戻れる」
叩いた胸が、心が痛い。




