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落ちていく

「あのクソ真面目な新人?どうせ、コネで入学してしたんだろ」


違うわよ、あなたたちよりいい成績で入学してしたわよ


「いつも教授の横にいてさ、贔屓されちゃって……枕してるんじゃねえ?」


「まじかよ!きもちわりい」


バカ言わないで、授業をほっぽって飲み会やコンパばかりしてるあなたたちに言われたくない


「舞子、くだらない研究なんかしてないで、はやく医者になりなさい」


くだらなくなんかない


「くだらなくない?何も治せていないのに?」


絶対につくれるわ


「笹川さん、それっていつ?いつ、この足は治るの?」


「笹川さん、華は治るんですよね?」


ああ、急がないと


1秒たりとも私に休んでる暇なんてない


追いつかれてしまう

バカにされる

救えない



早く、早く


早く





「……しないと……」


「あ、笹川さん!起きました?」


先ほどまで、夢の中にいた笹川の目に白い蛍光灯の光が差し込んだ。起き抜けにぼんやりと聞こえた森宮の声と、被さっている布団の柔らかさで自分がベットに入っているのだと理解するのに、少しだけ時間がかかった。


ガバリと勢いよく起き上がると、目線がふわりと回り、頭に水の貼ったタライでもぶつけられたかよのうにグラリと揺れた。


「ダメですよ!今日は寝てないと」


「寝てる暇なんてない……」


「笹川さん、血のついた針が刺さるところだったんですよ?!」


肩を両手でガシと掴まれると、半ば強制的にベットにおしもどされた。ばふりと枕の埃が舞う。屈強な男の力に、どちらかといえば細身の笹川が敵うはずもなかった。


「注射器落としてそのままぶっ倒れて……血が体内に入ってゾンビにでもなったらどうしたんです?!だいたい、ぶっ続けでやって頭が回るわけないでしょう!」


肩をがっしり捕まれたまま、森宮は笹川にヤイヤイと言葉を投げかける。揺れる頭の中で、自分を心配しているとわかる直球の言葉がグサグサと刺さる。


「私が身を削って何百……何千の人が助かるなら、安いもんでしょう」


どいて、と言わんばかりに腕をどかそうと力を入れるが、ビクともしなかった。


「削ればいいってものじゃありません」


「でも」


「……自分が犠牲になって守れれば、と……ゾンビになった仲間を何人と見てきました」


お願いですから今日だけ休んでください。そういう森宮の顔は泣きそうになりながら懇願していた。


「笹川さんは、1人しかいないんですから……」


その捨てられた犬のような顔と、どかせそうにない屈強な腕に笹川はため息をついた。押し付けられて痛くなりそうな肩を抑えている腕を、ペチペチとタップする。


「……護衛のくせに、泣いてるんじゃないわよ」


「……泣いてないです……」


泣いてるじゃない


情けない泣き顔に微笑む。笹川はまた、夢の世界に落ちて行った。

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