暖かな夕暮れ
ずしりと重い雰囲気をシャワーで流し終わった2人がリビングに戻ると、賑やかな笑い声が聞こえてきた。
「なに、どうしたの?」
不思議そうに、眉間にしわを寄せながら、笹川はゲラゲラと笑う雄太をみる。
「ああ、いや、森宮さんが、懐かしいのするからさあ」
そういって目尻に溜まった涙を人さし指に滲ませる。当然、華と笹川2人の目線は森宮に注がれた。その女子2人の眼差しを大きな体に受けた森宮は、すこし慌て、なにを思ったのか何故か会釈をした。
「ゆうくんなに? なつかしいのって」
「ほら、中学校くらいに流行ったさぁ……」
「ええ? なにそれ」
もだもだと流れる会話と、少し照れている森宮の雰囲気に痺れを切らしたのか、笹川がそんな雰囲気をバッサリと切った。
「してみればいいじゃない、ハイ」
そうパンと手を叩く。それを合図のように少し背を丸めていた森宮は背をシャキッと伸ばし、口をすぼめる。そして手をクネクネとさせながら、森宮は言った。
「突撃!タコ人間!いや人間やないか〜〜い!」
ビシッと効果音が聞こえそうなほど決まった後、部屋にはシンと、静かな雰囲気が流れた。ご察しの通り、面白くない。つまり、滑ったのである。
森宮の額からはタラリと冷や汗が流れる。森宮は、腹を抱えながらクツクツと笑っている雄太しか見れなかった。
しかし、横から感じる、笹川の冷ややかな目線は確かに感じ取っていた。
「……流行ったっけ?」
「面白くないわね」
横からまたもバッサリと切られる森宮はシュンとした様子で呟く。
「このご時世にあんなギャグの振り方、パワハラですよ……」
「言うようになったわね」
「笹川さんらしいし、森宮さんらしい……」
そう華が微笑む。雄太はその顔を見て少し安心したような顔をすると、またフフッと笑いがこみ上げてきた。
「フッ……たこ……フフッ……」
また腹を抱えてクツクツと笑う雄太に、次は3人が冷ややかな目線を送った。
「あなたの彼氏、ツボ浅いのね」
「俺のあのギャグでつぼっちゃったんですかねぇ…」
華は2人からそう話かれられ苦笑いしつつ、雄太をみる。笑いすぎで耳が赤くなるのは常であったが、ここのところ、事件が発生してからというもの、全く見てなかった光景に胸がジワリと暖かくなった。
「……もっとしてあげてください、タコ」
「ええ?! 笹川さんよりパワハラじゃないですか」
そう素でいう森宮に、華も笑う。
「してあげなさいよ」
「ちょっと、ひどいですよ皆さん」
雄太は爆笑、華と笹川は微笑み、森宮も焦りがらも笑っている。
4人が4人とも、緊張から解き放たれたような空間は、外を、足を忘れさせてくれるような時間であった。そんな光景をみながら、ずっとこれであればいいのにと、心から笑いながら華の心にすこしだけ、一欠片だけ、寂しさを落としていった。




