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焦燥の始まり

 

 ガタガタと、瓦礫が散らばる道路を車が駆け抜ける。薬を届けるといい、笹川と森宮、そして研究員が乗っていた。相変わらず厳しい顔で外を眺めている。足を引きずる発症者たちの足は、ぐずぐずに腐り、見るも無残な姿であった。


「……悲惨なものね」

「でもまあ、あいつらが段差を登ってこれないのは救いですけど」


 ガンガンと壁に体を打ち付けている発症者を見て、顔をしかめる。生前……いや、人間だった時を忘れ、痛覚も感じない人々は、壁に顔を打ち付け鼻が折れようとも、足に釘がささろうとも、歩みを止めようとはしなかった。

 笹川は、ふと、親のことを思い出す。笹川を押しやり、2人飛び出して行った親はあのように、何処かで、何処かにぶつかっているのだろうか。人を襲っているのだろうか、だが、真実は知る由もなかった。

 一つの段差にぶつかり、転び、這っている人を、笹川は目で追う。


「……いずれ登ってくるわよ」

「そうですかね」

「知らないけど」


 運転していた研究員が、口を挟む。


「その前に、薬でかさないとな」


 もう、人口もかなり減っただろう。と呟く。毎日ニュースは発症当日のことばかりを流し、政府は屋外に出ないようにとだけの注意喚起であった。外に出たら噛まれると、デモや官邸に群がる記者はほとんどいなかった。政府にはちょうどよいのだろう。


 そのため、SNSなどで政府の対応や病院、薬の対応などの批判が拡散されているようだったが、無闇に外にでれない人々は、そうして拡散する他に、何も方法はなかった。


 早く、薬を作らねば


 こうして街を走っていると、どこからか叫び声がたまに聞こえた。きっと、噛まれている人の声だろう。しかし、ガソリンも限りがある。毎度毎度、助けているわけにはいかなかった。


 助けるために薬を作っている人が、と笹川は自分を責めた。私たちが、早く薬を作らねばと、目の下にクマを作った目で、窓を見つめる。


 ごつんとガラスに額をぶつける。ついたため息で窓が白く曇った。自身の心の曇りも消すように、腕を窓に擦り、曇りを取る。つよく押し付けた腕は、ギュ、と擦れる音が大きく車内に響く。そんな笹川をみて、森宮は痛々しいように眉間にしわを寄せた。


「笹川さんをゾンビにはさせませんよ」


 私がいますから、と森宮はいった。ぽろりとこぼしたその言葉は、笹川を少し驚かせた。もっとも、顔には出なかったが。


「なになに、森宮さん、笹川さんのこと口説いてんの?」


 ニヤニヤとにやけてバックミラーを覗く研究員の顔で、まずいことを言ったと森宮は慌てた。


「そ、そういうわけでは……みなさんが噛まれたら、薬が……」

「さては、天然のたらしだな。森宮さんは」


 ケラケラと笑う研究員をよそに、笹川は変わらず窓の外を見ていた。


「冗談言ってないで、行くわよ」

「はいよ、お気をつけて」


 ガラリと開けたドアから、熱くなったアスファルトへ一歩踏み出す。地面から上がってくるじんわりとした熱さは、まるで体を侵食していくようで、気味が悪いと笹川は思う。片手に持っている薬の入っているカバンを握りしめながら、2人は走った。

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