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優しい月

「ゆうくんみて」


 ベランダの窓にべたりとおでこをつけていた華が雄太を呼ぶ。テレビを見ていた雄太は、重い腰を上げ近寄ると華に話しかけた。


「どしたの」

「満月、まんまる」


 そう指差す先には、暗い夜の空がまるでぽっかりと穴が空いたような丸い月が浮いていた。その月のおかげで、昼のように影ができている。


「ほんと、まんまる。」

「ね〜、完全なる、丸。」


 いつもなら真っ先にベランダに出ているはずの華がベランダに出ないのは、道の発症者を見たくないためか、足が痛むのか、どちらにせよいつもとは違う華に、雄太はいまだに胸が痛む。


「……ゆうくん」

「ん?」


 窓ガラスに手をあて、雄太を見る。


「この騒動が解決したらさ、回転寿司行きたい」

「……行きたいなあ、生魚を食べたいな」


 華は、フフと微笑む。


「あと、北海道旅行行きたいね。」

「北海道、行こう行こうって行けてないもんな。」

「カニでしょ、海鮮おいしいよ」


 雄太も、花の笑顔につられて笑う。


「海鮮のことばっかだな」

「生魚不足なんだよ〜」


 そういうと、2人で月を見上げた。前より幾分か明るくなった華に、雄太は安堵していた。


「……あのね……この足ね」


 雄太の心臓がピクリと跳ねた。タブーに触れたような気がして、うまく反応できなかったのだ。


「あの、医学会の権威って人が見てくれてるし、笹川さんも協力してくれてる……打ってもらった注射で、よくなる気がする。」


 月に照らされた左足は、何処と無く腫れが引いているようである。


「私が、くよくよしてたら行けないと思うの……だから、これからは、頑張る。」


 いままで、ごめんねと雄太に微笑みかける。ネガティブなことをいうと思っていた雄太はあっけに取られ、言葉を飲み込むのに時間がかかった。


「……ゆうくん?」

「あ……う、うん……」


 少しずつ、少しずつではあるが、いつもの華が戻ってきている。きっとこのまま足も治ってくるはずだと思うと、雄太の目には涙が浮かんだ。


「なに、ゆうくん、泣いて」

「いや……うれしくて……」


 頑張ろうな、そんな励ましを2人でしながら夜は更けていった。

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