景之漆 風の響き
涼しげな風にのって、胡弓の調べが流れてくる。
町中を飾る雪洞の灯りの中に、町流しの踊り手たちの姿が浮かんでいた。法被を着た男衆と、楚々とした浴衣に黒い帯を締めた女衆が、優雅な仕草で踊りながら進んでいく。その貌は、半月の形をした編み笠に隠れてはっきりとは分からない。
それがまた、胡弓のどこかもの悲しい旋律とともに、踊りに不可思議な深みを与えていると思う。
町流しは、夏を惜しむかのように、静かに町の中を流れていった。
浴衣のたもとに手を突っ込んで腕を組みながら、町のあちこちで踊られている町流しを堪能していく。これで、うまい地酒があればさらにいいのだが。
道の両脇を飾る雪洞を辿るようにしてそぞろ歩いていくと、観客もまばらな場所で、ゆっくりと進んでいる新たな踊りの列に出会った。
もうずいぶんと町外れだろうに、雪洞の列はさらに続いており、それを辿るようにして踊りの列も進んでいく。誘われるように踊りについて行くと、雪洞の列と踊りの列はいつしか町を飛び出して、静かな竹林の中へと進んでいった。
さわさわと、風が竹の葉をゆらす。どこまできてしまったのだろうと周囲を見回すと、ささやかな酒宴の席が目に飛び込んできた。町流しの踊りの列は、そのそばに行って輪踊りへと変わっていた。
「おや、これはお客かな。まあいい、今日は無礼講だ。どうですかな、一献」
演奏をする地方のそばで、酒を飲んでいた男が誘う。もちろん、ここで断るいわれはない。
「これはこれは」
注がれた酒を飲み干して、思わず感嘆の言葉をもらした。華やかな香りが、ふわりと広がる。
「ささ、もう一杯いかがかな」
勧められるままに、喜んで酒のお代わりをいただいた。
町中の祭りもいいものだが、自然の中での小宴も悪くはない。こうしていると、時間の経つのも忘れてしまいそうだ。
胡弓の調べにあわせて、風が吹く。しなった竹同士がぶつかって、こーんと澄んだ音を響かせた。
その音に、踊りの者たちが編み笠の陰から微笑んだ。
「今日は、無礼講」
酒を掲げた男が、周りの者たちに言った。
「今日は、無礼講」
軽く杯を持ち上げて、周囲の者たちが応える。
「これもまた一興」