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凄腕Player Killerは、死亡遊戯の地にて罪を重ねる  作者: 不来 末才
「◾️◾️の◾️◾️」
8/14

1-7

こんばんはおはようございます。

 助けを求めていたということもあり、先に俺から事情を伝えることになった。といってもメールの内容と大差ない。少し内容を付け加えたぐらいだ。

 それにしても改めてこの数日間を振り返ると、あまりのひどさに思わず笑ってしまう。デスゲームに巻き込まれて、タイミング悪く人殺し(PK)をしてしまい、その結果殺されそう(PKK)になっているとは……。まず間違えなく、NOに閉じ込められたプレイヤーの中で二番目に不幸だという自信がある。因みに、一番はもう死んだ(キャラロスト)した奴らだ。間違いない。命あっての物種。生きているだけマシだ。むしろこの状況で生き残っているという点だけに注目すれば、運がいいといえるかもしれない。まぁ現状維持だとあと数日後には俺も一番不幸な人たちの仲間入りをはたしてしまうのだが。


「さて、これが俺のろくでもない状況なわけだけど」

「本当にどうしようもないですね」

「……ほんとにな」


 ノーシャの言う通り、どうしようもない。ほぼほぼ対応策がなく、お手上げといった感じだった。わかってはいても改めて第三者から指摘されると気分が沈む。

 だが、落ち込んでいる暇はないのだ。なによりこの目も当てられないような現状を打開するために、今話し合っているのだから。生き残るために、あらゆる手を尽くさなければならない。そしてそのきっかけになることを、恐る恐る確認する。


「で、こんなどうしようもない俺なんだけど、助けてくれるかな?」


 緊張で身体が強張るのを感じる。

 普通に考えて、彼女も助けが必要だからこそ来たはず。

 だが予想は、しょせん予想でしかない。外れることも間々ある。例えばこちらの事情に手を出すことへのリスクが、自分の問題解決というメリットより大きければ、彼女は断るかもしれない。もしくは最悪の仮定、はなから協力する気なんてなくて他の――それこそ今俺を追いかけてきている――奴らと徒党を組んで俺を害そうとしているのかもしれない。

 本来は一笑に付すような考えが浮かび、脳内を埋めていく。だがそれは長く続かなかった。


「いいでしょう。よろしくお願いいたします」

「……それは嬉しいよ。ありがとう」

「そういう割にはあまりうれしそうに見えませんが」


 気が抜けて、その場に座り込みそうになるのをグッとこらえる。胸からあふれ出しそうになる気持ちを押し込め、顔に出ないようにする。

 そりゃあ嬉しいさ。うれしくないはずがない。地獄のような日々に垂らされた一本のクモの糸だ。飛びつきたくて仕方がない。だからこそ慎重になるべきだった。人間、いや生物というものはそのことごとくが、目の前のことに夢中になると周りが見えなくなる。そうなってしまったらいいカモだ。今、手に入れた幸運もその類のもののように思えた。

 フルフルと揺れるクモの糸は注意深く眺めてみると、諸手をあげて喜べる代物でもなかった。あの極悪人でさえクモを助けたから仏は慈悲を与えたのだ。俺は一切そんなことをノーシャにはしていない。勿論彼女が無償で助けてくれるような人間でないことも分かっている。ということは今からその対価を求められるのはわかりきったことだった。


「ただ代わりにですね……」

「分かった。いいよ」

「はい?」

「なにか困りごとがあるんだろ? 何でもいいから手伝うよ。俺も助けてもらうわけだし。助け合いってやつだよ」


 だから俺は気前よく言いきる。初回サービスってやつだ。


「いいんですか? まだ内容にも触れていませんが」

「大丈夫。どちらにせよ断れない状況にあるし。それに俺よりひどいことだとは思わないし」


 そもそもこちらに文句をいう権利はない。俺にとってノーシャの助けはまさしく命綱なのだから。崖登りの最中にちぎれそうだなと言って、命綱を外してしまうバカなんていない。どれだけ不安を感じても使うしかないのだ。問題はそれをどううまく使うかということだ。そのためにしなければならないことは協力しようという姿勢を見せることで、俺が価値のある人材だと思わせるということだ。彼女は助けてくれるといったけれども、そんな約束守ってくれるかどうかはわからない。だからこそ彼女には俺と組むメリットを少しでも感じてもらう必要があった。その為には多少の無茶だってやるつもりだ。


「なるほど……確かにそうですね。その思いきりの良さは必要なことですね。見習いたいものです」

「世辞でもありがたく受け取っておくよ。それで何を俺はすればいいんだ?」

「まぁ一言で言うなら私を対象にした無期限の護衛です。護衛といっても、戦闘が起きた時は可能な限りサポートをします。正しく言うのであれば、パートナーとして組むということになるでしょうか」


 肩すかしを食らった気分だった。

 それは願ってもない提案だった。ただ、だからこそ意図が分からない。


「…………それはまたどうして? 身の安全で言ったらノーシャ一人で活動したほうがいいと思うんだけど。俺と一緒にいると、PKKプレイヤーに襲われることになるが」


 なぜ彼女はわざわざそんなことを?

 別に弱っているようには見えなかった。仮に困っているのであれば街に戻ればいいんじゃ……。そこまで考えてある可能性を見出してしまった。もしかして……。

 俺は恐る恐るノーシャに尋ねる。


「なぁ。いま、他のプレイヤーって何をしているんだ?」

「…………。そういえばロストはこの世界に閉じ込められてから街を訪ねてないんですね。それだったらまずは現状ついて話す必要がありますね。あなたが知るには少し、いや、かなり刺激が強いかもしれませんが、我慢していただければと思います」


 そこまで言うと、ノーシャは少し考えこむ。そして話を始める。

 変わることのなかったポーカーフェイスがほんの僅かだけ歪んだ。


「端的にお伝えすると、今のNOは狂乱の世界になっています」


読んでいただきありがとうございました。

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