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凄腕Player Killerは、死亡遊戯の地にて罪を重ねる  作者: 不来 末才
「◾️◾️の◾️◾️」
7/14

1-6 〈魔眼の射手〉

こんばんはおはようございます。

 〈魔眼の射手〉

 そう呼ばれる彼女は初めて会った頃と全く変わっていなかった。

 月の光を吸い青みを帯びた濡烏色の髪、人形のような顔つき、余計な肉をそぎ落としたスタイリッシュな身体。

 地獄の始まりを告げたクエスの美貌と比べても遜色ないプロモーションを彼女は持っていた。本人がその気であれば定期的に行われるキャラクターモデルコンテストで上位に食い込めただろう。ただしそれは二つ名の由来たるところさえなければだが。

 確かに顔は整っている。だが右目とそのまわりが全てを台無しにしていた。そこは彼女の白磁の肌を隠すかのように、羽毛が生えていた。羽の独特な模様も相まって、まるでお面が顔に食い込んでいるような錯覚を抱く。そしてその中で埋もれることなく存在感を出す右目は人間のものではなく、猛禽類――フクロウだろうか――のものだった。

 丸く見開かれた右目は、爛々と黄金色に輝いていた。


 契約魔術。このゲームに綺羅星のごとく存在する魔術の中では比較的ポピュラーといわれるものである。何者かと契約を結び対価を支払うことで、力を得るある種原始的な魔術。その使い手である彼女はとある悪魔侯爵を調伏し、契約を結んだという。どんな対価を支払ったのかは決して教えてはくれなかったが、その見てくれと二つ名から何を求めたかは明らかだった。

 彼女もまた歴戦の人殺し(PKer)だ。勿論彼女の二つ名も赤く輝いている。


 そんな彼女の魔眼が自分のことを捉えていると思うと、自然と動悸が激しくなる。

 腰に下げた武器を確認してしまう。だがそれは彼女の前でやるのは悪手だった。見逃すわけがないのだ。


「怪しいと思っているのであれば、もう立ち去りますが?」

「あ、いや。そういうわけじゃ。申し訳ない。俺が悪かった」


 気に障ったのだろうか。やや不機嫌そうな声で彼女が話しかけてきた。

 ここで帰られてはたまらない。しどろもどろになりつつ素直に平謝りする。少し情けない。


「まぁ、いいでしょう。今後は気を付けてくださいね」

「それは助かるよ」

「では早速ですが……なんと呼べば?」

「えっ」

「名前です。名前。以前お会いした時と二つ名が違うように見受けられますが」

「あ、ああ。そういうことか」


 彼女の指摘はもっともだった。以前とは初めて会った時のことを言っているのだろう。確かにあの時の二つ名は〈雨天の訪問者(ティアコート)〉だったし、パーティーを組んでいた時は二つ名に関するニックネームで呼んでもらっていた。恐らく、再び会うまでメールの名前欄は、この表記だったはずだ。だが今この瞬間に二つ名の更新が行われ、〈恩寵棄てし者(ロストマン)〉に変わったため、俺のことをどう呼べばいいのか分かりかね、ゆえに聞いてくれたのだろう。こう言っては失礼だが、予想していたよりも彼女は社交的なようだ。


「ス、……いや、ちょっと待ってくれ。」


 名前を告げようとして、踏みとどまる。

 彼女に情報を渡してしまっていいのか。

 たかがキャラクターネーム、されどキャラクターネームだ。ましてや彼女は契約魔術を使う人間、教えていいのだろうか……。勿論契約魔術はそこまで万能なものでもないし、ネームだけで好き勝手できるものでもなないものを理解はしている。だが、一度浮かんだ疑念を晴らすのは難しい。


「ロスト。〈恩寵棄てし者(ロストマン)〉だから、そう呼んでもらえると助かる」

「そうですか。まぁそれぐらいの保険は必要なことですね。わかりました。ロストと呼ばせてもらいます」

「君のことはなんと呼べばいいかな?」


 以前、俺は彼女のことを「射手」とだけしか読んでいなかった。あの時はもう会うこともないと思っていたが、これからのことを考えるとそれは改めるべきだろう。


「そうですね。では私もロストに倣ってノーシャと呼んでもらうことにしましょう」


 ノーシャが皮肉気味に言い返してきた。

 マガンノシャシュだから、ノーシャ。明らかにこちらの偽名への意趣返しだ。確かめるまでもなく偽名だろうな。


 「はは……じゃあよろしくな。ノーシャ」


 苦笑いしながら、右手を差し出す。


「これは?」

「握手……のつもりで出したんだけど、迷惑だったかな?」

「…………まぁ、互いの信頼関係のためには必要なことですか」


 渋々といった様子で、近寄りつつノーシャは握手を交わしてくれた。お互い手袋をつけているため、体温は感じられないが、しっかりとした質感は伝わる。

 相変わらず動悸は激しいままだが、ひとまずここまでくれば安心だ。苦笑いを浮かべつつ、様々な可能性を考える。

 あまり好意的でないにせよ、ノーシャは握手に応じてくれた。交渉の余地はある。それが分かっただけでも大きな収穫だった。


 自分はNOでずっとPKをしてきた。その過程で得られたものは何かと聞かれたら、真っ先に観察眼と答えるだろう。

 何気ない動作や言動は、色々な情報を与えてくれる。それは日常生活でも、PVP中でも同じだ。それを一つ一つ手繰り寄せて、自分の有利につながるよう活用していけば勝ちの目はおのずと見えてくる。現に今のノーシャとのやり取りにも、いろいろな情報が隠されている。

 俺が武器の位置を確認し、彼女が不機嫌になったあのやり取り。あの時確かに彼女は「()()は気を付けてくださいね」と言った。

 メールでも助けを求めていたし、彼女はそれに返信してくれた。だがそれはまだ確約ではない。彼女はメールの中で一度も「助ける」とは言っていない、ただ単に「会って話がしたい」と言っただけだ。それは交渉がうまくいかなければそれまでという意味を暗に含んでいる。助けるかどうかは彼女次第なのだ。正直な話、俺は素直に助けてくれるとは思っていなかった。

 だというのに、彼女は「今後」と言っていた。これはすでに彼女の中では協力関係になるということは確定事項なのだ。うれしい誤算だ。

 ではなぜ彼女は助けてくれるのか。簡単だ。彼女も困りごとがあるのだ。それこそすぐに仲間を欲しがるくらいには。


 まぁ勿論、ここまで予想してものの見事に読み外れということもある。彼女が自分以上にやり手で、そう思わせているのかもしれない。

 そうなったら詰みだ。間違えなく死ぬことになる。

 冷汗が流れる。もしそうなったら、やけだ。せめて目の前の彼女には一泡吹かせてやる。


「あの、いつまでしているつもりですか」

「あ、すまんすまん。ちょっと考え事をね」


 怪訝な顔を浮かべる彼女に対して、なるべくフレンドリーな笑みを浮かべながら手を放す。

 まぁそんな万が一の可能性について悩むのはここまでにしよう。そんなことよりも、一番いいのは彼女と協力関係になれることなのだから。


「じゃあ、お話を始めよう」


 うまくいってくれよ。

 いまだに動悸は収まりそうにない。


読んでいただきありがとうございます。

ヒロインの登場です。皆様の趣味にあえば幸いです。

ちなみにあと一人出てくる予定です。

頑張る系いい子の予定なので、今回のヒロインが口に合わなくても、その子が出てくるまで読んで頂ければ嬉しいです。

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