表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
凄腕Player Killerは、死亡遊戯の地にて罪を重ねる  作者: 不来 末才
「◾️◾️の◾️◾️」
6/14

1-5

こんばんはおはようございます。

 闇夜が分厚い幕を下ろす。わずかばかりの月光を頼りに、周囲を見渡す。木々は月を飲み込まんとばかりにおどろおどろしく枝葉を広げており、枝にぶら下がる地衣類が風を受けて少しばかり揺れるさまは恐ろしさを感じる。感じるが、これまでの決死の逃走の中で抱いていたそれと比べれば大したことはなかった。


「助かったか……」


 人影はなかった。どうやら今日の追跡を振り切れたようだ。

 逃走劇は、二日目を終えた。

 早速休むための場所を探す。貴重な時間だ。一刻も無駄にすることはできない。

 俺に復讐をしたくてたまらない奴らは、夜を迎えるとその足を止めるようだった。さすがに暗い森を歩むのはためらうらしい。不気味な森は逃げる俺に味方してくれている。PKをした場所がたまたま水の国の森林エリアでよかった。これがもし風の国の草原エリアや、火の国の砂漠エリアだったら、今頃自分はもう――――。

 恐ろしい想像に思わず身体がびくついてしまう。今はそんなことにおびえている暇はない。一刻も早く打開策を……。ここまで考えて、歩みは遅くなる。

 打開策。打開策ってなんだ?

 今追いかけてきている連中に馬鹿正直に謝る? 許してもらえるはずがない。

 どこかのプレイヤーが集まっている場所にいって助けを乞う? うまくいくかどうか。

 じゃあこのまま逃げ続ける? いつまで?


 アイテムを確認する。このゲームを長い間遊んでいたおかげか、上限レベルまで達した俺のアバターのアイテムボックスはそれなりの量がある。だが、そこに貯めていた備蓄も残りわずかになりつつあった。追跡者の猛攻をどうにか凌いではいるが、無傷とはいかない。実際、何度か危ない場面もあった。どうにか切り抜けたが、その都度回復薬などは消費されていく。

 装備にしても同じだ。PKで稼いだ金に物いわせて作成させた装備は優秀ではあるものの、永久に使えるわけではない。武器は振れば、防具は防げば、耐久値はすり減っていく。戦闘に特化している自分では手入れもままならない。いずれ使い物にならなくなる。

 無論相手も同じくアイテム、装備の消耗はあるはずだ。だが、それに期待するのは難しそうだ。三人で追いかけてきている彼らは持ち合わせているアイテムの量も違うだろうし、こちらからの攻撃によるダメージがほとんどないため消費も少ない。つまり彼らは俺とは違って、常にほぼ万全の状態で追いかけてきている。

 限界を迎えつつあるのは火を見るより明らかであった。このままではもってよくて三日、悪くて二日だろうか。

 それまでに、どうにかしなければならない。

 言いようのない焦燥感に襲われる。

 すがるようにフレンドのメール欄を確認する。

 俺だってただ闇雲に逃げていたわけではない。追跡の手が緩む夜の間に、フレンドに助けを求めるメールを送っていた。もともとそこまで他のプレイヤーと交流がなかったうえに、貴重なフレンドもデスゲーム開始時にログインしていたのは半数以下だったため、本当にわずかな数しかいなかったが。

 それでも、そこに一縷の望みをかけるほかなかった。

 だがメールの返信は一通もない。

 予想通りの結果に落胆するが、仕方ないと思う気持ちもあった。自分がメールを受け取る主であったら、まず返信しない。考えてみてほしい、デスゲームになった次の日、普段からPKをしていた人物から「殺されそうだ。助けてほしい」といった内容のメールが届いたらと。よほどのお人よしじゃなければ怪しくて、相手にしないだろう。残念ながら俺のフレンドによほどのお人よしなる人物はいなかったらしい。

 空っぽの受信ボックスを見ながら、ぼんやりと思考をめぐらす。

 しかし、いい考えは何一つ浮かばなかった。


 

 この後俺は洞窟を見つけ、明日に備えて身体を休めることにした。

 横になる。しかし、一向に目は覚めたままだ。

 もしかしたら、もしかしたらこれが最後の休息になるかもしれない。

 そう思うと、眠るに眠れなかった。


 どう考えても状況はどん詰まりで、命運はついえたように思えた。

 だが運の女神というのは中々に嫌らしいやつらしい。絶体絶命の愚者にわずかな希望を持たせてあがくさまを見るのが好きなようだ。

 受信ボックスに一通のメールが来ていることに気が付いたのは、命からがら逃げきれた次の日の夜だった。

 メールには簡潔に一言「会って話がしたい」とだけ記されていた。





 メールに気が付いた俺は、いますぐ会えないかお願いした。藁にもすがる思いだ。その思いが通じたのか、向こうも了解してくれた。

 たまたまメール主が俺のいるエリアと隣接しているところにいるのも幸いした。もはや奇跡的ともいえる偶然だ。神の慈悲……というやつなのだろうか。


「それだったら最初っから救っといてくれよ神様」


 思わず苦笑いが出る。できればそういうのは罪を犯してしまう前にしてほしかった。もしPKする前にでも――。

 そこまで考えて、無駄な仮定だと切り捨てる。

 覆水盆に返らず。もう手遅れなのだ。

 それよりも今、どう生き延びるかを考えなければ。


「それにしても、彼女ねぇ……」


 改めて、メールの送り主の名前を確認する。



 〈魔眼の射手〉

 名前のところは簡潔にそれだけが書かれていた。彼女のキャラクターの名前ではない。二つ名だ。

 NOはキャラクターの名前表記が独特なゲームである。

 基本的に初対面で他のプレイヤーの名前、二つ名を見ることはある特定の条件を満たさない限りはできない。このゲームの、二つ名システムを考えれば至極当たり前の話だ。

 二つ名とはそのプレイヤーのプレイスタイルの塊といって差し支えない。そんな大切な情報をほいほい見ることができたらゲームのが面白みが激減してしまう。そのために関わりのないプレイヤーの情報は、簡単に見ることができないようになっていた。

 名前や二つ名を知る方法はいくつかある。

 その中で最も一般的なのは、相手に教えてもらうことだ。教えてもらえれば勝手にそのプレイヤーの上に情報が表示されるようになる。裏返せば教えてくれることだけしか分からないし、嘘の情報の可能性もあるのだが。

メールを送ってきてくれた彼女の名前が分からず、二つ名だけが分かっているのもそういう事情からだった。つまり、俺たちは二つ名の情報閲覧権しか開放していないため、名前を知らない。そして恐らく向こうも俺の名前を知らないだろう。

 ここからもわかるように、彼女とはそこまで親しいわけではない。昔、数少ないフレンド――そいつもPKerだったが――に誘われて、同業者で集まってあるイベントを荒らしたことがあった。その時にたまたまパーティーが同じだったから、二つ名だけやりとりしフレンド登録しただけというのが実情だった。その後、特に連絡を取っていたわけでもなく、なんだったら今回のメールが初めてかもしれないぐらいだった。

 それだけに返信がきたのは驚きだった。疑うようで悪いが、もしかしたら罠かもしれない。

 まぁだからといって、会わないという選択肢はないが。

 切羽詰まってるのだ。現状を打開する可能性のものには飛びつくしかなかった。


「うまくいってくれよ……」


 向こうを待たせないために、歩を進める。

 あと少しで目的の場所に着く。




 合流する場所は森林エリアにも関わらず、木々が生えていない小さな空地だった。整備された道からは大きく外れており、何か特別な理由がなければ使わないような場所だ。前にたまたま見つけて、それ以降ここら辺で何かするときによく使っていた。

 まだ彼女は到着していないようだ。

 それまで遮っていた枝葉が鬱陶しかったというかの如く、月が輝く。満月だったらと、そう思わずにはいられないほどの明るさだった。

 月を眺めつつ、この後の話し合いについていろいろ考えていた。だからだろうか、俺は彼女が来たことに気が付かなかった。


「そういう必要のないことをしていると死にますよ」


 そう忠告する声は自分のいた場所から見て、はす向かいの木々の陰から聞こえた。冷たさを感じる声だった。

 慌ててそちらのほうを向くと、暗闇からにじみ出るように彼女は出てきた。

 〈魔眼の射手〉がやってきたのだ。


読んでいただきありがとうございます。

次話でようやくヒロインの登場です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ