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「うわぁ……失敗したなぁ……」


 近くにあった軒下から見上げた曇天からは大粒の雨。勢いよく落ちてきて地面で弾けるそれは、容赦なく膝丈のブーツを濡らす。

 朝に見た天気予報は、雨は夕方からと言っていた。仕事は昼過ぎには終わるから傘はいらないだろうと考えたのが間違いだったか。

 外出前に必死にストレートにブローした紺色の髪もいつもの癖が。周りの人は、パーマかけなくてもゆるふわなんて羨ましいと言うが、元々癖っ毛の人間はストレートに憧れるものである。


 少し濡れた髪を手櫛でざっと梳かしてまた空を見上げた。


「やっぱり傘借りればよかったなぁ」


 仕事で訪れた家を出るときにはポツポツと降りだしていた。

 自宅はその家から歩いて20分程。傘を貸すというのを断って、走って帰れば酷くならないうちに着くだろうと、高を括ったのがダメだった。

 まさか出て5分で土砂降りになるとは。


 とりあえず適当な場所で雨宿りしたはいいが……さて、ここからどうするか。

 頭の中で地図を開いて小さく唸る。

 近道はある。あるが、暗い路地裏を通らなければならない。一応、年頃の娘なので暗い道は避けたいし近寄りたくも無い。理由はそれだけでは無いけれど、


「こんな土砂降りなら少しでも早く着く方がいいか」


 よし、と覚悟を決めて右斜め向かいの道を見る。相変わらず暗い。ずっと昔、3歳くらいだったか。この道で父親に驚かされてから暗い路地裏が苦手になってしまった。けれど仕方ない。風邪をひくよりはマシだ。


 足元に置いていた大きめのカバンを持ち上げて走り出した。

 首元で銀のロケットブローチが揺れる。チラチラと見えるブローチの裏に掘られている文字は セラ・エーベルト。




 路地裏をバシャバシャと水飛沫を上げながら走る。


 脚が濡れて冷たい。けど早く抜けたい一心で走り続ける。


 そして路地裏は暗いだけじゃなかった。汚かった。それに若干……いや、結構臭い。不衛生の匂いだ。

 そこらに落ちているゴミに顔をしかめ、足元をチョロチョロするGやネズミに悲鳴をあげながら駆け抜ける。


「よしっ、抜けられ……たぁっっ!?」


 と思ったらド派手に転んだ。

 路地裏脱出まであと数歩というところで何かに躓いた。


「ぃった……ぃ。手擦りむいた……膝痛い……」


 ドシャァッという音と共に打った右膝を抱えて悶える。絶対痣になる。そしてこの感覚。暗くて見えないが、きっとズボンの膝部分が赤く染まっているだろう。そして全身泥だらけだ。あと臭い。


 だんだん腹が立ってきた。私は一体何に躓いたというのか。Gの山だったらそれは地獄。白いシャツは真っ黒。あぁ、もう。泥だらけの服は洗濯が大変だというのに。カバンもベチャベチャだ。


「なんなの!? 何につまず、い……?





 ……大丈夫、ですか?」


 パッチリとしたグレーの瞳が見開かれる。

 痛みなんて飛んで行ってしまった。


 そこにあったのはゴミでもなく、段差でもなく、




 うつ伏せでずぶ濡れの薄汚い人だった。




 嗚呼……とんでもないものに躓いてしまった。

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