冬のカテドラル
何もない……
誰もいない……
いえ、ここには確かにあなたがいる
闇はあなたそのものなのだから
がらんどうの空間に薄闇が満ちる
すべてのステンドグラスが取り払われた巨大なカテドラル
ミサもオルガンも終えて、硬く凍り付いたドームに靴音がこだまするだけの
突如、天上から
はるか高く穿たれた窓から眩い光が現れた
光もあなたの姿
いえ、光こそあなたの姿だとあなたは言う
かつてあなたは言った
隣人を愛せよと
愛を尽くせと
ああ…… それなのに
あなたが崇めるあなたの父は容赦なく人を殺し続け
世界は何度も何度も果てることなく地獄を見る
そして人々は愛する人を理不尽に失うのだ
生きることは苦しみであることをやめない
愛する人はもう二度と帰らないのだから
愛が大きければ大きいほど
愛は苦しみを増やし
愛は悲しみを生む
愛は不完全で残酷だ
愛は矛盾に満ちている
生きることに苦しむのは
愛するがゆえ
なのに、ああ…… それなのに
私はあなたを愛する
なぜならあなたが不完全な存在だから
あなたの言葉が矛盾に満ち満ちているから
正午の鐘が鳴る
悲しみも、喜びも、残虐も、慈愛も、すべて
容赦なく人を殺すための武器を溶かして鋳た平和の鐘が
人の、あらゆる矛盾を許す愛しい愛の音色が天空に響き渡る
あの鐘が再び武器になることも、再び平和の鐘になることも、すべて
✧
あなたは弱く、力なく、歩くこともままならず
それなのにあきらめることなく前へ進み続ける
自らをすべての人々に捧げるために
ただそれだけのために
きっと僕は古いタイプの人間なのです。
思慕、憧憬、あこがれ、情熱。そういうものを心に注ぎ入れていなければ生きていけない、古い人間なのです。
今、ブラームスの二つのラプソディを聴きながら思います。第一番の冒頭は、まさに古いタイプの情熱そのもののようにも聞こえます。音楽は僕に善も悪も求めません。音楽が僕に要求するのは、あなたそのもの。それ以外のなにものでもありません。
夢、希望、愛、恋、友情……僕は多くのそれらのものを断念しなければならないでしょう。けれど、音楽は僕を見つけ出してくれるでしょう。僕はあなたを失わないために、このラプソディを聴くのです。あなたへの思慕、憧憬、あこがれ、情熱。僕はそれらの多くを断念しなければならないでしょう。それでもあなたは音楽に姿を変えて、僕の前に現れるでしょう。きっとあなたは、あなたの魂は、僕を見つけ出してくれるから。
静かに、あなたへの思慕を胸に抱いて、涙もしまって、美しい日々を思い出すこともあるでしょう。
いつの日か、清らかな気持ちだけを抱いて、あなたに会いたいのです。いつの日か。