2章
002
ふとした時、車が止まった。ガタンと振動したおかげで目が覚めた。どうやらいつの間にか眠っていたらしい。うなだれた首を起こすと激痛が走った。寝違えちゃったかな?痛みに顔が歪みつつ私は周囲を見た。車は大本営の入口に止まっていた。
「海軍大本営に到着。合流地点までエスコートしますよ。」
と臥煙と龍崎は二人して後部座席のドアを開けた。我々はされるがままになり車を降りた。
「こちらです。」
と臥煙は我々に背を向け歩き出した。我々は臥煙の後に続き歩いた。我々の後ろに龍崎がいる。ガードの役割でもしてるのだろうか。とミコトは考えつつ大本営内に入る。
「…走り屋。」
大本営に入ってすぐ、桂木君が呟いた。1階エントランスに一人提督の姿があった。白髪で物静かそうな人物、桂木君曰く走り屋提督。
「来たか。こっちだ、もう他の全員集合しているから急いだ方がいい。」
「え、本当か。すまない」
「事態が事態だから仕方ない。それより、よく生きてたな」
少しの会話の後走り屋、臥煙、桂木、ミコト、龍崎の順で建物内を歩く。床には1面赤カーペット。壁や天井に中世のヨーロッパ風なシャンデリア等があった。エントランス中央にある階段を登り3階へ。登った奥に一つだけ部屋がある。我々はなんの疑問もなくその扉に行き開いた。
ギジギシと若干立て付けの悪そうな感じの音がしてドアが開かされた。中に入ると異質な雰囲気が漂っていた。なんというか、受験のテスト前の待機時間と言ってもいい異質な雰囲気。提督と憲兵、それから多分臥煙らEDRと思われる人々が後方の方に固まっていた。
「臥煙君、大丈夫?」
EDRの集まりの中から女性が出てきて臥煙に話しかけた。
「大丈夫だ。戸崎、これで全員か?」
女性はちらりと周りを見て全員よ、と言った。分かった、と簡素に臥煙は言いそこらの壁に腕を組みもたれかかった。
「皆、集まったか。」
初老そうな感じの声で全員が整列した。提督、憲兵いづれもビシッと並び前方にいる提督と…セーラー服の女の子御二方に敬礼をした。そしてそれの返事をしたかのように御二方も敬礼をする。
「急な呼び出し申し訳ない。」
初老そうな男性はゆっくりと椅子に腰掛ける。セーラー服の女の子はその男性の横の壁にもたれかかっている。男性は横目で女の子を見た後視線を提督らに向けた。
「皆も知ってると思うが、今回の呼び出しは緊急事態だ。国家のそのものにも影響する可能性がある。」
そう言った時、一気に部屋の空気が変わったのを龍崎は逃さなかった。一気ににこやか…とは言えないが居やすい空気だったのが一変して気まづい空気になった。ちらりと臥煙の方を見たが相変わらず体制は変わらず腕を組みもたれかかっているまま。よく冷静でいられるな。お前は。
「現在、8つの鎮守府が敵に陥落した。桂木、走り屋、上条、猫目、ゲス、ドM。」
淡々と話が続けられていく。
「その前に…」
と男性の横にいた女の子が口を挟んだ。
「山本、まずは彼からだろう?」
横目で男性を見た。その目は鬼とも言える目。それを遠目で見ただけでも背筋が凍った。怖い!!
「あぁ…そうだった。すまない、エラー娘」
山本は顎を手で擦りつつ言った。
「おい、臥煙」
女の子は唐突に臥煙の名前を呼んだ。当の本人はビクッ、と驚いて目を見開いた後なにかを悟り女の子の方へ行った。
「あー、はいはい。分かってますよ」
寝かけてた時に名前呼ばれたらビビるわな、と心中で思いつつ欠伸を仕掛けそれを咬み殺す。頬が少し膨らんだ程度ですんだか。
エラー娘に呼ばれなるがままに私は前方に立った。提督と憲兵らがこちらを見ている。ちと緊張するものだな。
「初めまして、私は臥煙宗。今回の事件はご愁傷さま。後、残念ながらエラー娘に出せそうな有意義な情報はない。検討はついてるがな。」
横目で臥煙はエラー娘に言う。エラー娘はそうか、と言い口を閉じた。
「その敵の検討とは?」
提督陣の中の1人、猫目が厳しい表情で聞いていた。臥煙は片眉を上げただけでまた普通の顔に戻り言う。
「敵の1人には、って所だがな。そいつぁ恐らく我々の責任。」
目を伏せ、臥煙は遠慮がちに言い腕を組んだ。そして、続けた。
「だがそれを仕方ない事。始まったもんはどうしょうもない。君らの保身は我々が全力を尽くそう。」
後は頼む、とエラー娘にその場を引き渡し臥煙はそそくさと部屋から出ていった。
「…そういうことらしい。…とりあえず今夜は全員大本営にいろ。」
エラー娘はとりあえず気味にそう言う。さすがにこの展開は想定外。龍崎も口をぽかんと開け愕然としていた。それは1600の事だった。
「臥煙」
大本営を出て夕暮れになりつつある外の景色を見ていた。くるりと振り向くとそこには1人の男が立っていた。黒い帽子に黒いコート。全身黒ずくめ見るからに怪しい男が、臥煙の後ろにただずんでいた。
「来てたのか。」
臥煙は特に驚きも何もせずに無表情で言った。見慣れた光景だから、としか言えない。
「ここにもいるのか?お前」
「正確にゃ違う。君も分かってるだろう?」
黒ずくめ男が言う。臥煙はなるほど、と何かを納得した。
「で、用件はなんだ?わざわざ君らが登場したという事は何かあるんだろう?」
臥煙は片頬に笑みを浮かべ聞いた。相変わらずだな、と男は苦笑して用件を言った。
「…なるほど、分かった。」
言った瞬間、眼前の男は消えていた。臥煙はため息をついた後大本営へと戻って言行った。