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食尽地【ぐづち】

 アーク森ビルの最上階で舞浜と輝夜の戦いが繰り広げている中、ビルの二階にあるカラヤン広場では黒月と雷花、雛月の三人が戦っていた。

 周囲は雷花の能力によって、ライトが白昼と言っても過言ではないほどに輝いている空間となっていた。

 背中から彼女の終符である一対の槍の手を伸ばしている黒月は、それまで対峙していた雷花を無視して雛月の方へと向かった。

 黒い残光が尾を引きながら雛月へと向かってくるが、雛月は動揺するでもなく落ち着いて黒月を見据えていた。

 

 (彼女の背中から出ている槍の手は、間違いなく終符(ついふ)ですね。となれば、彼女の初符(しょふ)は、先ほどの瞬間移動。おおよそですが、彼女のことが分かってきました)

 

 黒月の━━大まかとは言えど━━全貌が見えてくれば、雛月は慌てることなく対処にあたった。

 雛月は、まずシラユリの能力で全身を水の球に包み込み、槍の手による攻撃を止めさせる防御策をとった。

 たゆたう水球が迫り来る攻撃を受け止め、中にいる雛月には攻撃が届いていない。

 雛月は片手をクルクルと回転させると、中の水が渦巻きながら渦と一体化し、さながらしぼり切った矢のような青く太い渦巻きができた。

 攻撃の予兆を感じたのか、黒月は攻撃の最中に能力を使って突如目の前から姿を消した。

 黒月は雛月の後方斜め横あたりに現れると死角からの刺突を繰り出そうとしたが、前触れなく現れたオダマキのアッパーが黒月の顎を貫いた。

 装甲を着ている黒月の体が宙に浮くと、オダマキはアッパーで振り上げた腕で浮いた黒月の顔面を掴み、叩きつけるように地面へ投げつけた。

 ボールのようにバウンドした黒月に向かって、雛月の体と手の前に渦巻く青い渦巻きが向けられ、放たれた。

 直撃した黒月は、弾丸の如き勢いでサントリーホールのガラスドアを派手に割りながら、エントランスロビーの奥へと突っ込んでいった。

 

 (すごい……。さすが輝夜さんの従者だけありますね)

 

 雷花の感心をよそに、雛月はエントランスの奥へと消えた黒月のことに意識を向けていた。

 依然として緊張した面持ちは解けておらず、いつでも迎撃できるように構えていた。

 すると、雛月の背後に音もなく黒月が屈んだ姿勢で現れた。

 黒月の背中から生えた槍の手が雛月を切り裂こうとするも、シラユリが作り出した水壁が黒月の行く手をさえぎり、動きが止まった一瞬を電気の体になって突進した雷花によって攻撃は阻止された。

 広場の滝に吹っ飛んだ黒月は、壁にめり込んでいたのも束の間、自力で出てくると雷花を無視して雛月の方へと駆けて行った。

 黒月にとって、雷花はいつでも仕留められる手負いの存在。そんな彼女を仕留めるよりも、雛月という最重要の相手を仕留める方を黒月は選んだ。

 黒月の背後から放たれる電気の弾丸には全く目もくれず、一直線に雛月へと向かう。

 おもむろにオダマキが雛月の前へと出ると、向かってくる黒月に臆することなく両手で取っ組み合いの形となって黒月を止めた。

 拮抗(きっこう)し合う力。一瞬でも力を抜けば瞬く間に押し出される状態で、黒月はオダマキを見ながら終符を発動し、背中から槍の手を出した。

 槍の手が出てきたと雛月が認識した次には、オダマキの顔面めがけて槍の手が空を切りながら放たれた。

 するとオダマキは素早く口を開くと、向かってきた槍の手を、噛んで受け止めた。

 黒月が抜こうとしても、獲物に食らいついたワニのようにピクリとも動かない。

 黒月は、すかさずもう一つの槍の手で追撃をしようとしたが、オダマキの垂直蹴りが黒月の顎を再び真上に貫いた。

 黒月の掴んでいた力が緩んだところを見計らい、オダマキは噛んで止めていた槍の手を思いきり()()()()()吐き捨てると、自由になった両手で拳による猛攻を浴びせた。

 一通り攻撃をし終えると、アッパーを腹部に打ち込んで、浮いた黒月に締めの飛び回し蹴りを正確に腹部へと食い込ませた。

 吹っ飛ばされた黒月が転がり倒れるも、すぐさま態勢を戻すと再びオダマキの後方にいる雛月へと走り出した。

 

 (なんて我慢強い人。さっきから顔色一つ変えずに戦っている。あの装甲に麻酔剤を投与する機能でもあるのでしょうか)

 

 黒月が無痛症であることを知らない雛月は、向かってくる黒月に構えるが直後にまた姿が消えた。

 素早く雛月は周囲を見渡すが、黒月が現れた場所は雛月の頭上だった。

 黒月の目線が真下の雛月に向き、押しつぶそうとしたところを、雷花が放った電気の弾丸が黒月を吹き飛ばした。

 

 「私を忘れていませんか。私はやられたらやり返しますよ。それが生徒を守るためなら尚更ね」

 

 雷花が雛月のそばに寄ると、吹っ飛ばされた黒月が立ち上がり、再び雛月たちの元へと駆けようとした。

 すると、突然黒月はその場で跪くように崩れ落ちた。

 当の本人は、突然の出来事に━━表情こそ変わらないが━━驚いているようであった。

 それでも彼女は前へ行こうとする。が、その度に膝の笑いが大きくなり、立ち上がっては崩れの繰り返しをするようになった。

 

 「もう止めなさい。いくら麻酔を投与しているとは言え、体の方は正直です。もう限界なんですよ、貴女は」

 

 諭すように言う雛月を無視して、黒月は笑い続ける膝を黙らせるように殴りつけた。

 風と車音のせせらぎしか流れていない広場で、銃声にも似た音が静寂を破る。

 常人からすれば、重体の身にムチを打つようなやり方が黒月にとっては幸運にも通ってしまい、膝の笑いはピタリと止まった。

 すぐさま弾かれたように黒月が雛月の元へと駆け寄り、背中から伸びる槍の手で突撃した。

 強ばった顔の雷花とオダマキが並び迎え撃とうとすると、さほど時間が経っていないにも関わらず黒月が消えた。

 しかし雛月は一切動揺せず、雛月を中心にシラユリの能力で周囲に薄い水の膜を出した。

 瞬間移動をした黒月は、その一瞬を捉えられず移動した先で水の膜を破るように現れた。

 雛月のほぼ真後ろから水を撒いたような音がすると、雛月は振り向くこともなく指を鳴らした。

 黒月の目の前で光が炸裂し、攻撃が大きくズレた黒月の視界が晴れると、目の前にはオダマキが左手を大きく引いていて、空を切り裂きながら黒月の顔面を殴った。

 広大な広場に肉が叩きつけられるような音が響き渡り、黒月は緩やかな弧を描きながら吹き飛んだ。

 それでも黒月は起き上がり、右目で三人を見据える。

 オダマキが雷花の方を睨むと、「行くぞ」と言う風に首を動かした。

 雷花は若干怯えながらも、右手を強く握りしめて雷を纏うと、二人で同時に黒月へとアッパーを打ち込んだ。

 夏の夜空に飛んだ黒月は、顔から多量の血を出して倒れた。

 木を折るような、氷がヒビ割れるような音を立てながら、黒月は上半身を起こして機械的な動きで辺りを見渡し、雛月たちを見ると再び距離を詰めようとした。

 しかし、彼女の体はついに限界を迎えた。

 黒月が歩こうとして立ち上がったものの、膝は笑うことさえせずに崩れ、黒月は重力に引っ張られるように地面へと倒れた。

 それでも黒月は、芋虫のように這って前へと進んでくる。そして、相変わらず表情は全く変わっていない。

 そんな黒月を見て、雛月は戦慄していた。

 

 (……こんな状態になって、なおも立ち向かってくるなんて異常すぎる。それに相変わらず表情に全く変化がない。いくら麻酔の効果であっても、心理的な恐怖までは緩和できないはず。彼女は一体?)

 

 雛月の心を読んだように、雷花は「違いますよ雛月さん」と割り込んだ。

 

 「アイツは麻酔なんか投与していません。無痛症を患っているのです。さっきから攻撃を受けているのに全く声すら上げないのは、それが理由なのです」

 

 雛月が黒月の方を見やる。

 最早手足が使い物にならなくなっている黒月は、遂にその場で止まっていた。

 雛月は、恐れと憐憫の両方を持ち合わせたように唾を飲んだ。

 

 「無痛症。……なんでよりにもよってこんな形で……」

 

 雷花と全く同じ心境だった雛月は、言葉を失って哀れみの目を向けていた。

 そこへ、「話は済んだか」と言いたげなオダマキが自らの獲物であるハンマーを実体化させると、勝手に近寄ってトドメを刺そうとした。

 冷たい眼差しで見下すオダマキを、揺らぐことなく見返している黒月は、不意に聞き取りできないほどの小さな声で呟き始めた。

 その事態にいち早く勘づいたオダマキは、ハンマーでこれでもかと黒月を潰し始めた。

 突然の出来事に雛月と雷花は困惑したものの、直後に黒月の体から決壊したように漏れ出した黒い泥水と、不快感を催す粘ついた暑さを持った風を感じて黒月の身に何が起きたかを察した。

 

 「これは━━暗符(あんふ)!! ボタン! 今すぐ黒月を消し飛ばし━━」

 

 命ずるよりも前に、迫り来る大量の泥が目の前まで来たとき、二人の周りを淡い紅色の光が包み込み、泥は光に包まれた二人を境に二手に別れて辺りを満たしていった。

 二人の元に戻ってきたオダマキは、とめどなく出続ける泥を忌々しく見ているだけで、雛月と雷花も手の打ちようがなく見守ることしかできない現状に歯噛みしているようであった。

  

 「ひ、雛月さん……」

 

 「ええ……存じています。ですが私には、輝夜様のような能力を封じる技を持っていません。それに……来るのを待っていても、状況は悪化するだけ」

 

 「つまり」

 

 「私たちで、やるしかありません」

 

 天月人が持つ三つ目の能力。発動すれば命の危機に落ちいる禁断の奥義を、黒月は何のためらいもなく発動した。

 あっという間に広場を泥の海で満たすと、未だ吐出している水源から白い光が煌々と光った。

 

 「来る」

 

 三人を見据える白い光が泥中に沈んで一旦消えると、水柱を上げながら巨大な怪物が現れた。

 白く曇ったゴムのようなもので出来た前後に長い頭部には、左右二つずつ存在する目が夜空を仰ぎながら見ている。

 体はアルビノの肌を持った人間の男性を思わせるが、両脇腹辺りには未発達の金属の腕が生えていて、甲虫のような硬質さを持っている腹筋がある。

 下半身は泥に浸かっていて見えないが、上半身だけでビルの三十階までは優に届く巨躯だ。

 これだけでも大きく異様な姿形だが、一番目を引くのは両手であった。

 躯体と同じほどに巨大な腕は人間の腕骨のようであるが、関節部はドールに見られる球体関節があり、手の部分は指が三本だけという異様な見た目だった。

 かつての姿が寡黙な黒月だったことを思わせない、大気を震わせる獣の咆哮を上げると、黒月━━もとい暗符の名『食尽地(ぐづち)』━━は巨体を使って雛月たちへと向かってきた。

 

 「雷花さん、オダマキと共にお願いします。私はこの付近にいる人たちを助けますので」

 

 雛月の言葉を瞬時に理解した雷花は、身体中を白く光らせて。オダマキはそのまま宙に浮くと、滑るように飛びながらに反撃をしていった。

 巨体と暗符の性質故に小回りや正確性がないものの、一撃の威力は格段に上昇している。

 腕が泥の海へ振り下ろされれば広場に巨大な水柱を生み出し、薙げば建物の外壁が呆気なく壊れていく。

 オダマキが黒月の振り下ろされた手をかわすと、手の上を伝いながら頭部へと駆け上り、肩のところで大きくジャンプすると、頭部に勢いよくハンマーを叩きつけた。

 黒月が低い鳴き声をあげて顔を下げたところを、オダマキは体をひねってアッパーさながらにハンマーを顎部に当てた。

 背中から倒れた黒月は、両腕でオダマキを左右から潰そうとした。

 それに対してオダマキは、持っていたハンマーを手放すと、それを足場にして飛んだ。

 ハンマーはオダマキが飛ぶと同時に光の粒になって消え、黒月の両手は虚空を潰した。

 オダマキの目が赤い光を灯し、仰向けの黒月に片手でハンマーを叩きつけようとした。

 すると黒月の口がおもむろに開き、黒い霧が口へと集まると、高圧の水流を吐き出した。

 攻撃を察したオダマキが射線上から身を逸らしたが、直撃こそ免れたものの右足を負傷してしまった。が、オダマキは特段気にする様子もなく、水流を吐き出し続ける黒月の顔面を叩き潰した。

 

 ※

 

 「オダマキ(あいつ)は……もう……」

 

 影で悪態を吐く雛月は、オダマキと雷花が応戦している最中、負傷して半分抉れている右足を引きずりながら近隣のマンションやビルの下層にいた人々を助け出していた。

 集められた人々でマンションの屋上はごった返し、半分の人間が対岸で行われている黒月と二人による激闘を、ヒーローショー感覚でみていた。

 明らかに人間ではない雛月にも、漏れなく好奇の目が向けられるが、彼女には目の前の懸念が最優先課題だった。

 それは下層に取り残されていた人々だった。

 ざっと見ても、五十名以上の人たちが昏睡状態に陥っている。

 そして全員の体には、薄黒い根っこのようなものが全身に張っている。

 非常におかしな話ではあるが、昏睡状態でありながら全員毒に侵されたように苦悶の表情を浮かべている。

 側に落ちている泥を雛月が二本指で軽く取ると、泥に触れているところから昏睡状態の人たちと同じような薄黒い細かな根が足を伸ばし始め、雛月の顔は険しさを増した。

 

 (これはただの泥じゃない。心身を蝕む猛毒の泥だ。治療はできますが、かなりの魔力を消費してしまう。この数を全部治すとなると、あの変身した黒月を倒すのは……)

 

 雛月が考えに知恵を回らせていると、黒月との戦いを観ていた野次馬が大きな歓声が上がる。

 雛月が顔を向けると、見た目にそぐわない俊敏な動きでオダマキと戦っていたところに、雷花が放った極太の電磁砲が巨体を貫いて黒月が泥の海へと倒れこもうとしていた。

 そのとき、アーク森ビルから離れたビルにいるにも関わらず、倒れた黒月と雛月の目が合った。

 盛大な水柱としぶきを上げながら倒れた黒月が泥の海に沈むと、まるでサメのように口を開けながら雛月がいるビルへ突進してきた。

 進行上にある公園やら建物は根こそぎなぎ倒しながら迫る黒月に、屋上に避難した人々は潮が引くように後方へと下がるが、二十三階建てのマンションには逃げ場はない。

 迫り来る黒月に雛月は「もはやこれまで」と言うと、シラユリを目の前に出して二人合わせて手を前に出した。

 白く細かな水の粒が一点に集約すると、全方位に拡散するようにぶ厚い水壁が作られ、黒月の突進を止めた。

 目一杯に映る黒月は、なおも突撃を止めず雛月ごと屋上を食らい尽くそうと大口を開けて、両手で掻くように壁を剥がそうとしている。

 巨大な体躯を生かして叩きつけるように体当たりをする度に、水壁を作っている雛月の顔が大きく歪む。

 それでも壁が壊れないと見ると、水の壁が激しく揺らめくほどの咆哮をあげ、身を起こしながら大きく万歳をする形で両手を上げた。

 

 「あっ……」

 

 そびえ立つ巨塔を思わせる姿に、雛月とシラユリはこの後に待ち受ける状況を瞬時に察して顔を青ざめた。

 黒月の両手が振り下ろされ、雛月とシラユリが身構えると、黒月の背後からオダマキが前へと割り込んでハンマーで顔面を殴りつけた。

 低い呻き声を上げて倒れる直前、口から高圧水流をマンションの屋上から下層へと流れるように放った。

 根にあたる部分が抉られたマンションは、轟音と若干の揺れを伴いながらゆっくりと崩れ始める。

 直すのは許さぬと言わんばかりに黒月の手が水の壁を殴りつけ、飛び跳ねるように体当たりをしようとしたが、オダマキのハンマーが頭頂部へ勢いよく振り下ろされ、怯んだところを雷花の放つ高出力の光線が黒月を飲み込んだ。

 しかし黒月は、両手を使って泥の海に倒れるのを持ちこたえる。

 そこへ雷花の片手に、ほとんどビルと同じくらいの太さと高さを持った電気が集まり、すくい上げるような大ぶりのアッパーを黒月に当てた。

 泥の海に沈んで隠れていた、縦に長いムカデのような下半身が露呈するほどに吹っ飛んだ黒月は、元いた森アークビルの広場に沈んだ。

 

 「感謝します、雷花さん」

 

 崩れゆくマンションで冷静に呟くと、雛月は周囲に響かんばかりに指を鳴らした。

 倒壊しかかっていたマンションの動きが緩やかに止まると、逆再生をかけたように元へと戻っていく。そして、完全に元どおりになった途端、雛月の顔に黒いヒビが音を立てて現れた。

 荒い息遣いの雛月は、シラユリを見やると「構いません」と言った。

 意思を汲み取ったシラユリは小さく頷くと、屋上にいる全員に行き届くように瑠璃色の雨を降らした。

 昏睡状態に陥った人たちの体から黒い根のようなものが消えていき、解放されたように柔らかな顔つきに戻って深い息を吐いた。

 それに反して、雛月の顔に出ている黒いヒビは更に足を伸ばしていき、やつれた面持ちになっていく。

 

 「死にたくなかったら、絶対にここから動かないで下さい」

 

 後方で縮こまっている人々に告げると、雛月は屋上から光の粒になって霧散し、一瞬で森アークビルの広場へと戻った。

 

 (事を成し終えた後に彼らの記憶を消しても、これだけの事態だ。他のところでも被害は出ている。全ての整合性を整えつつ、今起きていることの記憶だけを消しても、この世界で、もう天月人わたしたちの存在をごまかすことは不可能だろう)


 目の光が弱々しい雛月に、雷花が大層心配しながら「雛月さん、しっかりして下さい」と言いながら寄った。

 

 「私はいいです。それより雷花さんは、後どれくらい電力が残っていますか?」

 

 「……半分を切っています。ありったけの電磁砲を食らわせても、あの状態です。……あまり言いたくありませんが……これ以上長引けば、私は……」

 

 沈痛な表情の雷花を見て、雛月は静かにまぶたを閉じた。

 二人の背後から水柱を上げて現れた黒月が、覆いかぶさるように来るが、オダマキが乱入してハンマーで殴りつけたことで、またしても攻撃は届かずに終わった。

 いい加減学べと言いたげなオダマキの背後で、雷花に支えられながら雛月はゆっくりと振り返り、虚ろな目に光を取り戻して黒月と向き合った。

 

 「ここまで来たなら、もはや手段を選びません。ここで確実に終わらせるために、私も切り札を使いましょう」

 

 雛月は頭部の両側に付けている、丸みをもった大きな青いネコの耳に触れると、飾りの内側から眩ゆい光が灯った。

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