首都高追走劇
今回、字数が多いです。次話で展開を動かしたいから、一話に凝縮させていますが故。何卒ご了承ください。
タクシーが雄叫びをあげながら疾走する。
対向車線の車やビルの明かり、道路照明灯に灯る光という光が流星のように現れては消えていく。
首都高の制限速度を十キロ超え、かつ無免許で運転する龍吾には、警察よりも恐ろしい追っ手の姿を、ドアミラーでしきりに見ながら目的地へと向かっていた。
その途中、駒澤大学から三軒茶屋間にさしかかったところで前方を走る二台の車に出くわした。一台は走行車線に。一台は追い越し車線にいて先を塞いでいる。
追い越しの最中なのだろうが、緊迫した状況下では異様に遅く見えるのが人の不可思議な感覚なのだ。
スピードを下げて走るのは自殺行為。しかし相手を急かすような行為はできないという風に、龍吾の気が咎めていた。
後方からはどんどん黒月が迫り、バンパーとマフラーが今にも接触する距離まで詰められた。
すると、追い越し車線を走っていた車両がスピードを上げて走行車線へと入っていく。
この機を逃すはずもなく、龍吾は律儀にウィンカーを点灯させながらアクセルを踏み込み、滑るように前に出て直進した。
残された黒月は、迷うことなくアクセルを踏み込んで後を追う。
車と車の間をぶつからないように慎重に、縫うように移動している龍吾たちとは異なり、黒月は進路上に車両があっても、平然とぶつかって道を開こうとしている。
追突された運転手はパニックに陥ってしまい、横で並走する車や防音壁にぶつかったりしていた。
二台の車両からクラクションが強く鳴っても黒月はなおも押すことを止めない。そこをどけ、と行動で言い表す。
たまらなくなった運転手がスピードを上げて前へ出て道を開けると荒々しく突き進み、抜き去った。
「ムチャクチャだろ……」
ドアミラーから一部始終を見ていた龍吾が、気の毒そうに漏らす。
窓から身を乗り出した雷花が指先に充電された電気の弾丸を放ち、黒月の乗るタクシーをみるみるうちに歪ませていく。
地球の車に関する知識が皆無な雷花でも、動力源と思しきところは予想がついたようで、ボンネットを目がけて弾丸を集中させて撃つ。
着弾する度に銃声にも似た音が轟き、ヘッドライトが砕け、メーカーのエンブレムが付いているフロント部分がへこんでいく。
弾は黒月にも当たっているはずなのだが微動だにしない。無駄なく正確にハンドルを切り、離されても着実に距離を詰めていく。
「雷花、撃つのをやめてくれ」
月島が雷花を止めさせると、今度は月島が車外に身を乗り出し手から青白い帯を出した。
進路先に狙いを定めると青白い帯が進路上の防音壁と防護柵にゴールテープよろしく、真横へ弛みなく固定された。
龍吾たちが乗ったタクシーは何事もなくすり抜けられたが、タクシーが通過すると帯が青白い光が強く放たれる。
黒月の乗るタクシーが通過するとルーフ部分がごっそり刈り取られ、オープンハッチのタクシーへと変わっていた。
月島の口角がほんのわずかに上がったが、身を倒して難を逃れていた黒月が起き上がると残されたフロントガラスを手で払いのけて運転を再開した。
舌打ちをする月島に、雷花は「月島、今の罠をもう一度!」と、呼びかけた。
月島が再び帯を出し始めたのを視認した黒月はスピードを限界まで上げ、開いていたスペースにフロントバンパーを食い込ませた。
一瞬の油断と判断の遅れが、黒月の介入を許してしまった。
黒月の車体が火花を散水させながら、こじ開けるように前へ出ようとする。
黒月の乗る車と龍吾たちの乗る車の距離が近すぎるので、月島は「これでは出せない」と慌てている。
「分かりました。それならば予定変更です」
落ち着いて言うと、雷花は窓から身を乗り出した。
黒月の車体に手が触れられる距離で、雷花の手の周りに電気の輪が浮かび狙いを定める。
「龍吾さん、思いっきり加速してください!」
雷花の指示通り龍吾は反射的にアクセルを踏み、黒月の車両と距離を開けた。
瞬間、破裂したような音をたてて電気の弾丸━━というよりは砲弾に近い━━が放たれ、ボンネットに着弾した。
ボンネットをたやすく貫通し内部のエンジンルームを破壊すると、小さな爆発の後、瞬く間に火を吹き始める。
目の前で爆発が起きても黒月は顔色一つ変えず、更には瞬きすらしていない。精々スピードメーターの針が徐々に落ちていることに目を配っているくらいだ。
一方で龍吾たちの乗るタクシーは、どんどん黒月と距離を離していく。それでもなお、黒煙と火の手を上げる車体は最後の力を振りしぼって追いかけてきてはいる。
緩やかなカーブを曲がると神泉町から伸びる料金所が見え、そこから騒ぎを聞きつけた高速隊のパトカーがサイレンを鳴らして四台向かって来ていた。
「黄色のタクシーの運転手さん。黄色のタクシーの運転手さん。タクシー止められますか? タクシーを止められますか?」
黒月が呼び止められているとは全く思わずアクセルを踏み込んでいるものの限界を迎えたエンジンルームが再び爆発すると、とうとう車は減速しながら止まった。
二台のパトカーが黒月の車に。もう二台のパトカーは、龍吾たちを追って通過していく。
警察の一人が停止表示器材を出して十分な安全区間を確保し、もう一人は車内にいる黒月の元へと駆け寄った。
「運転手さん、大丈夫ですか? 車から降りれますか?」
ボンネットから上がる火の手は勢いを増していくが、黒月には恐怖や怯えといった感情は一切なく、目の前で轟々と燃え上がる火の手を静観していた。
おもむろに黒月は車外にあるパトカーに視線を移すと、タクシーから降りた。
警察が「大丈夫ですか」というよりも前に、黒月が身につけている漆黒のエンジニアアーマーを見て、唖然としていた。
「……え、え〜と。ケガとか、していないですか?」
警察の問いかけに黒月は答えない。白い虹彩を割るように、縦長の瞳孔が冷たく警察を見据えるだけだ。
黒月は視線を警察からパトカーに移して歩いていくと、パトカーの中で残った警察が本部へと状況を報告している最中に割り込むように黒月はドアを開けた。
「ちょっ、ちょっと! 何をやっているんですか!」
警察の制止も聞かず、黒月は「降りろ」と、一言だけ言った。中にいる警察は、マイクの向こうから応答を請う本部の声も無視して呆気にとられている。
しびれを切らした警察が、手を強引に掴み「いい加減にしてください」と声を荒げた。
中にいる警察も我に戻り、それ見たことかと思ったように呆れ顔でドアを閉めて本部に連絡を再開した。
(なんだコイツ。もしかして薬でもやってるのか?)
外で注意をする警察の声を聞きながら、一通りの連絡が終わろうとしたときだった。
外で注意していた警察が、歯切れの悪いところでピタリと注意が止まった。
再度ドアが開かれ、黒月が「降りろ」と命じる。
「あのねぇ、いい加減にしましょうよ。アナタはね」
溜息を吐きつつ心底バカにしたように警察が言おうとしたが、黒月の背後で倒れている相方の姿を見て戦慄した。
警察の頭部と胴体が分かれた姿で、血の海に浸って倒れていたからだ。
さっきまで隣に座っていた相方は別れの言葉はおろか、断末魔の叫びすら上げれず呆気なくこの世から去っていった。
我に返った警察が黒月に意識を移すが、直後に黒月が片手で首根っこを掴んでパトカーから引きずり出す。
軽々と持ち上げて勢いよく力を込めると、がっしりした首が砂時計のように変形し「きゅっ」という短い声を出して警察の命は空へと搾り出された。
消火にあたっていた警官が事態に気づき怒号を上げていると、掴んでいた警察を投げつけて走りだした。
意表を突かれた警察は、咄嗟の対処ができず投げつけられた死体をその場で受け止める形となった。
「終符。死産葬爪」
黒月が呟くと、背中から筋繊維がむき出しになった槍の腕が生え、隙だらけになっている受け止めた警察を左脇腹から右肩にかけて両断した。
上半身が分離した警察は裂くような叫びでも金切り声でもなく「うわぁ」という非常に間の抜けた声を上げて、路面に転げ落ちた。
もう一人の警察は目の前で起きた異常と惨劇に怖気づき、後ずさりしつつ絶叫を上げた。
直後に踏み込んだ勢いを使って、黒月の拳が警察の腹部を文字通りに貫いた。
痛みよりも腹部から広がっていく不快感に顔が歪んでいき、込み上げるような咳をたどたどしくしている。その間も腹部の前後ではおびただしい出血が続いている。
黒月の背中から伸びる槍の腕がゆっくりと警察の眼前に添えられ、警察の方は最後の力を振り絞って腰からリボルバーを取り出した。が、銃口を黒月に向けるよりも前に警察の頭部に槍の腕が勢いよく突き刺さり、先に逝った二人の後を追いかけていった。
小さく痙攣している警察の手から重い音をたててリボルバーが落ちると、黒月は警官を払い捨て、表情こそ変えないものの不思議そうにリボルバーを見ている。
銃口を明後日の方向に向けつつトリガーに指をかけて引くと、湿ったような破裂音が鳴って弾丸が夜の空へと消えていった。
そこで黒月は、今手にしているのが地球の銃器であると理解してしまった。上半身だけになって泣き声が小さくなりつつある警察の元に寄ると、ためらうことなく首元に発砲した。
硝煙立ちのぼるリボルバーを一瞥し終えると黒月は殺害した警察官全員の銃を奪い、無人となったパトカーに乗り込んで追跡を再開した。
※
一方で龍吾は背後から迫る二台のパトカーに追われつつ、フロントガラス越しの世界を見ていた。
向かって左側にセルリアンタワー。真向かいにヒカリエが見えてくると、そこでようやく龍吾はハッと気づく。
(あれは……ヒカリエ? ってことは、ここ渋谷か? 俺たちはもうそこまで来ていたのか?)
彼方にあったヒカリエがあっという間に後方へ過ぎ去ると、二台のパトカーからの勧告が届いた。
「タクシーの運転手さん、運転手さん。交通違反です。パトカーについて来てください」
高速隊のパトカーから勧告が届く。しかし止まるわけにはいかない。
「世田谷◯◯。◇の△△━××のタクシーの運転手さん。世田谷◯◯。◇の△△━××のタクシーさん。交通違反です、パトカーについて来てください」
「うるさいですね! こっちの事情も考えなさいよ警察犬ども!」
後方のパトカーを見据えながら、雷花が教師らしからぬ暴言を吐く。その姿に月島は呆気にとられている。
一方で龍吾は自分に課せられた罪状を冷静に分析していた。
無免許運転、速度超過、警察からの勧告無視。捕まれば投獄間違いなしの罪状だが、彼はアクセルを緩めず刻々と姿を変える彼方を見ながら眼の中の光を煌々と燃やしている。
パトカーがサイレンを鳴らし、赤いランプが点灯したとき、サイレンよりも大きな衝突音が後方から響く。
警察も龍吾たちもこぞって後方を確認すると、パトカーの一台に黒月が運転している。
「何をやっている! 今すぐ運転をやめろ!」
無線から怒号が響く中、黒月は槍の腕でフロントガラスを割るとリボルバーを取り出して運転席へと狙いを定める。
パトカーに乗っていた一人が運転席から向けられている黒の凝縮に気づいた時には、サイレンに混じって湿り気のある銃声が轟いた。
リアガラスにクモの巣が張られると同時に運転していた警察の頭部から紅い花が咲き、力なくうなだれて二度と動かなくなった。
黒月の車両が蛇行気味になったパトカーの後方から無理やり割り込み、走行車線を走るもう一台のパトカーに並ぶ。
左のフロントガラスを槍の手で薙ぎながら壊すと、運転手へと狙いを定めた。
事態に気づいた警察がブレーキをかけて、わずかに下がったその一瞬。銃声とともに音速の弾丸が吐き出され、正確に運転手の頭部を撃ち抜いた。
助手席の警察が慌てているのを尻目に、黒月は車体をぶつけて追い討ちをかける。
途端、腰ほどの高さしかない防護柵に押し付けられていたパトカーは、重力という概念や物理法則を感じられないように軽々と跳ね上がった。
助手席の警察は不意に消えた重力の中で、直後に待っている現実に顔面を蒼白させながらパトカーと共に高架の下へと消えた。
龍吾のこめかみから汗が滴り落ち、追いかけてきている黒月に大きく恐怖する。
(アイツは今までの天月人以上にヤバい。目的のためなら誰だろうと殺すことに、何のためらいを持っていない!)
龍吾の顔が不安に飲まれようとしていると、後方で雷花が「しつこいですよ!」と喝破を上げた。
両サイドの窓から月島と雷花が身を乗り出し、片や電気弾を腕に充電。片や手から青白い帯を無数に垂れ流している。
細いものや太いものが混然とした帯が幾重にも路上に拡がり、さながら青白い池のようだ。
やがて機会を伺っていた雷花の腕から大型の電気弾が放たれフロント部分を穿ち、合わせて月島は垂れ流していた帯を握りしめる。
すると青白く光る帯の池が急勾配に隆起し、パトカーは車二台分ほど飛び上がってひっくり返った。
「たかが魔力で出来た帯と侮った、貴女の不覚です」
月島が得意げに言うと、実体化していた帯は青い粒子になって霧散した。
仰向けになったパトカーが小さくなっていくのをバックミラーで見ながら、龍吾は肩の荷が降りたように深く息を吐いた。
「さすがに……ああなったら、もう追ってこれんだろ」
龍吾たちのタクシーが彼方へと遠ざかる中、黒煙の濃さが増すパトカーのドアが吹き飛び、ぬるりと黒月が出てきた。
頭部からわずかに血を流している黒月は、それすら気づいていないように龍吾たちが向かった先を見ている。
やがて黒月の足が弾むような足取りで動き出すと、スピードを徐々に上げつつ走りはじめた。
※
渋谷を抜けた龍吾たちは、再び一直線に伸びる高速道を走り抜けていた。
追っ手を撒いた龍吾は、再び訪れた安心感に肩の力を落としている。
目線の先には六本木ヒルズ森タワーが摩天楼の如く光り輝き、ナビが目的地まで後数キロ先と告げていた。
「龍吾くん。そろそろ目的地に着くかな?」
「あぁ、どうやらもうすぐのようだ。ナビが……じゃなくて。案内装置が後もう少しだけって言っているから」
「あのー。もしかして、あの先にそびえている大きな建物ですか?」
「アレは……。アレは六本木ヒルズって建物だから、多分アレじゃない。もっと先にある━━」
龍吾が話しながらバックミラーを見た途端、龍吾の口がピタリと止まった。
二人が異変に気づいてバックミラーへ目線を移したとき、車内の空気が凍りついた。
黒月が、走って追いかけてきたからである。
「そ、そんなバカな! 時速七十五キロだぞ!?」
本能的にアクセルを踏み込んで速度を上げるが、龍吾たちの車両と黒月の距離はどんどん縮まっていく。
黒月の背中から槍の腕が生えるとトランクへ飛びつき、四足歩行の獣さながらにルーフへと登りあがり運転席を槍の腕でめちゃくちゃに刺していく。
間一髪のところで龍吾は月島に引き寄せられて難を逃れていた。
即座にスミレが双剣を持って黒月に向かうと、黒月は背中から生える槍の手だけでスミレと戦った。
火花が散らせ合う中、当の黒月は槍の手で刺した跡に手をねじ込ませ、めくるようにルーフパネルを持ち上げた。
運転席の部分だけ口を開けたルーフからは黒月の目が黒く輝きながら覗いており、龍吾目がけて槍の手を矢継ぎ早に刺していく。
月島の帯が龍吾を覆って守り、雷花が電気の弾丸を立て続けに撃ちまくる。
だが弾丸が何発も当たっているのに黒月は全く動じない。
黒月が運転席の前へおどり出るとフロントガラスをぶち破り、龍吾の胸ぐらを掴んで引きずり出そうとする。
フワリと浮かんだ龍吾が絶叫を上げると、血相を変えたスミレが黒月へと摑みかかった。
槍の腕の一本はスミレを。一本は龍吾を仕留めようと動く。
無数の帯と電気の弾丸が黒月をめった打ちにしても、彼女は微動だにしない。
いよいよ龍吾の体が運転席から離れようとしたとき月島の帯が黒月の体を掴み、雷花の弾丸が頭部へと直撃。そこに間髪入れずスミレの突き一撃と、シラユリの水弾がゼロ距離で腹部に撃ち込まれた。
体勢を崩して吹っ飛んだ黒月だが、槍の腕をボンネットに刺して落下を免れた。
すかさずスミレの双剣が斬撃の嵐を繰り出すも、黒月は痛みに顔を歪ませるどころか、全く表情を崩さずにスミレを掴み、防音壁へと叩きつけようとした。
「やめろ!」と龍吾が叫ぶと急ブレーキをかける。黒月は慣性で吹き飛ぶよりも前に、槍の腕をボンネットに深く刺し込んだ。
うつ伏せになりながらも、依然として黒月は龍吾を見据えながら背中から生えている槍の腕で、スミレの攻撃をさばきつつ龍吾を仕留めようとする。
しかし龍吾の目の前にはシラユリの出した、ぶ厚い水の膜が張られて攻撃は目の前で止まっていた。
「いい加減にしろ、このクソ野郎!」
堪忍袋の尾が切れた雷花が包み隠さない暴言を荒々しく言うと、龍吾を片手で抱き寄せる形でもう片方の手から電気の光線を放った。
弾丸は黒月の顔面に直撃。槍の腕がボンネットを引き裂きながら、うつ伏せのまま大きく後退する。
しかし黒月はなおも無表情のままだ。
不意に、目線だけ奥の方へと移すとそこには運転手が呆然とした表情で運転している大型のトラックがあった。
狙いをつけたように対象を見据えた黒月は突然駆け出すと、トラックへと飛び移った。
運転手が驚きの声を上げようとしたとき、槍の腕が勢いよく運転手の口から頸椎を貫いた。
生命活動を強制停止させられて痙攣をしている運転手を無理やり車外へ放り捨てると、速やかに運転席へ滑り込んでハンドルを握る。
入れ替わった運転手はそのままトラックの下へと吸い込まれ、果肉を潰したような音を盛大に立てて後方へと流れていった。
「ウソだろ!?」
うなり声を上げて迫り来る鋼鉄の獣。
煌々と光るライトは、血肉に飢えた目のように龍吾たちを照らす。
威圧感も質量も倍増しているトラックからの体当たりは、見た目と違わずぶつかるだけで車内を大きく揺らす。
道中に走行している車両を龍吾は冷静に避けていく。しかし黒月はスピードを上げてぶつかりながらも直進する。
暗い車内がライトに照らされて、白昼のように眩しい。それが却って、密室という環境下で迫りくる存在の恐怖を煽りたてる。
「月島、合図でやりますよ。もう我慢なりません」
「分かった。龍吾くん、君は目的地まで全速力で頼む」
二人を信じるしかない龍吾は、エンジンがやや不調気味になってきているのを承知で、アクセルを全開まで踏み込んだ。
雷花がめくれ上がったルーフを、電気で作り出した腕でもぎ取ると、さながらフリスビーのように黒月めがけて思いきり投げつけた。
素早く身を倒して避けたところを見計らい、雷花が「今です!」と叫ぶ。
月島の腕に集約した帯が雷花の溜め込んでいた電気弾と同じように弾丸の形になると、ほぼ同時にトラックのフロントを貫いた。
内部から次々と爆発が起きる中、黒月は早々にトラックの運転席から飛び出し龍吾たちの車両へと映ろうとした。
その瞬間さえ待っていたと言わんばかりに、スミレのソバットが黒月の胸部へ刺さる。
防御は間に合わず、黒月は爆発に飲み込まれているトラックの方へと転がっていった。が、即座に体勢を立て直すと、再び走って追いかけ始めた。
「不死身かよ、アイツ」
走る速度は先ほどよりも増している。
難なく追いついてトランクに飛び乗ると、二人が迎撃の体勢に移った直後、龍吾が「二人とも、掴まって!」と力強く叫んだ。
黒月が目線を前に向けると、高速道の終わりを示す料金所が迫ってきている。
途端、急ブレーキがかかり不意をつかれた黒月は慣性によってトランクに引きづられる格好になった。
よじ登る時間を与えず再びアクセルを全開にした車両は、そのままETC専用通路に直進した。
ゲートが目前に迫ると、龍吾は車両後部を軽く引くように曲がらせた。
ゲートに差し掛かるまさに直前で、龍吾は曲がらせた後部の部分を思いきりETCの機械へ叩きつけるようにハンドルを切った。
後部を起点に激しい揺れと耳をつんざく騒音が響く。
ゲートを通過した龍吾は、うつ伏せのまま動かない黒月をバックミラーで確認すると、ほんの一瞬だけ頭をハンドルにぶつけて後悔の念に駆られた。
(終わった……)
ことが済んだら酌量の余地なく少年院に送られることを覚悟したのか、龍吾は開き直ったように前を向いて運転を再開した。
アーク森ビルをやや過ぎたものの、目的地は最早目の前である。
一方、ゲートに倒れていた黒月は当たり前のように立ち上がって首を回しながら周りを見渡した。
左肩のアーマーが破損し、ゲートの破片が深々と突き刺さっていることに気がついたが、黒月は無表情のまま破片を見ている。
無造作に破片を掴んで引っこ抜くと足下に放り捨てて、そのまま龍吾たちを追い始めた。
照明灯が、点々と滴り落ちている血痕を、誰に見せるわけでもなく照らしていた。




