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科学と魔法と貴族の義務

作者: よぼ

 少女は船の後部に設えた展望室から窓越しに離れていく町を見下ろしていた。

 窓越しに見える町はほとんどが背の低い建物だ。あってもせいぜい四階や五階建て。ただ、それらは頑丈な煉瓦作りの建物であり、一○○年以上前に建てられた建物ばかりということを少女は知っていた。

 船の速度はグングン速くなり、かき分けられた海が白い泡となりながら波打ち際のような水音を立てる。

 離れるに連れて、少女の視界が広がる。そのうち、右側には煉瓦の町並とは不釣り合いな近代的な埠頭が見えてきた。お話に出て来るドラゴンのような巨大で威圧的な赤いクレーンと長い長い桟橋、城壁のような倉庫群だ。近代的で立派な設備なのにどこか閑散とした雰囲気がある。並んでいる船もあまり大きくはない。そんな光景に少女は小さなため息をつく。

 埠頭から十分距離を取った少女が乗る船は、ゆっくりと傾き出した。船首を持ち上げる傾きに少女は手摺りを掴む力を少し強める。

 十数秒後、傾きは収まる。同時に波の音が嘘のように消え、船は静かになるが、町との距離はどんどん離れていく。

 少女が海面に視線を落とすとその高さは先程よりもずっと高くなり、さらに海面から急速に離れていく。船は飛び上がっているのだ。しかし、やかましいブロペラやジェットエンジンのような音は聞こえない。

 飛び上がった船から見える小高い山の上には城があった。城は山をそのまま城に作り変えたようで、山を巡る申し訳程度の城壁と見張り台兼灯台となる高い塔が特徴的だ。城本体は小さいように見えるが、それもそのはずで、城のほとんどは地下に作られていた。

 そんな城塞と中世的な町並みにとって付けられたような埠頭は見事にアンバランスな光景だが、田舎ではよくある光景だった。

 なにしろ近代化した埠頭でないと輸送船から効率的なコンテナのやり取りはできないし、非効率はそのまま運用コストに跳ね返る。それに、近代化していない場所は農産物などの一次産業が輸出を占める割合が高くなるが、一部の農産物は鮮度を維持するために一定時間内に船に積み込まなければならない事情もある。

 しかし、そうした事情を知っている少女から見ても、閑散とした港はなお寂しいものに見えてしまっていた。

 そんな憂鬱な少女を乗せて、飛行貨客船エステルは出港した。


 フィセルド王国軍、魔法艦マリアスの艦長、クルフは艦橋で今日もテレビのニュースを見ていた。特に注目して見るのは王族関係の話題だ。彼は長く職業軍人として過ごし国への忠誠は揺るぎないものだったが、それにも増して敬愛している王族への気持ちは信仰に近い。

 その気持ちの下、自らも同じように範となれと精進し、クルフ艦長は結果として、魔法を使えないにも関わらず、艦長の席に座る大役を預かることとなっていた。たまに部下を辟易させてしまうこともあるが、彼の王族への忠誠心は誰もが認めていた。

「テレビとはなかなかいいものですね」

 そう言ったのは赴任したばかりの魔法使いの一人のアスコルだった。長身の割にまるっこい顔つきで、見た目に愛嬌がある若者だ。若い分、科学への偏見は少ないはずだが、テレビとはあまり縁がなかったようだ。

「うむ、便利な機械だ。なかなか認めてはもらえんのがちともったいないがな」

 クルフは白いヒゲをさすりながら上機嫌に答える。フィセルドでは長らく魔法主体の文化が紡がれていた土地であり、異次元からの来訪者達と開国した後も工業製品の導入はなかなか進まなかった。

 このテレビに関してもマリアスが軍艦だから簡単に載せられるが、一般家庭への普及への道のりは遠い。まずは電源となる電線の設置から始めなければならないからだ。しかし、人々はそうした事業にあまり積極的ではなく、場所によっては反対運動すら行われた。そもそも通信や光源は魔法文化の力ですでに普及していたから、電気で同じ事ができると言われても、さあ導入しようというわけにはいかなかった。既得権益の大きい者ほどなおさらだ。

 しかし、軍事の分野では性能を方程式で計る。故にマジックアイテムよりも安価で性能の勝る工業製品は積極的に導入されていた。あくまで比較の問題だが。

 そもそもフィセルドが工業製品を取り入れるきっかけとなったのは異次元から現れた来訪者、知らない国の飛行艦だった。それはある日突然現れ、その飛行艦はそのとき睨み合っていた二隻の魔法艦を武力をもって下し、国交を開くことを要求した。

 当時、フィセルド王国や周辺国では絶対的な力であった魔法艦の敗北は強い衝撃を与えた。だから、軍では早い時期から科学の力を取り入れていた。

 その一端はマリアスにも現れていた。マリアスは武装や慣性制御こそ魔法由来だが、船体は重工業の申し子である鋼鉄の体、一万トン級の巡洋艦の船体を利用して建造されていた。

 科学への不信感は感情的な問題が多かった。感情では解決できない事柄にはためらいなく科学が使用されていたのだから。

「こうして映すだけでも士気を鼓舞するのに十分な力がある」

 テレビに限らず、魔法を使わない製品は、いろいろと苦労の多かったクルフにとっては大変意味があった。なにせ誰が使っても同じように動くのだ。その上、毎日のように国王のご尊顔を拝せる有り難さまで発揮しており、手を合わせたい思いである。

 ちなみに今映っているのは第三王女のマリアス・フィセルドだ。国王譲りの精悍な顔立ちにまだあどけさなを残すが、あと数年もすれば立派な女性となるだろう。

「王子はまたご病気か」

 聞こえてくるナレーターの話では弟となるライシス王子はご病気らしい。魔法の力は高いそうだが、あまり丈夫な方ではないと知られていた。ただ、王子は継承権も低いので、王族としての責務に無理をさせることもないのが救いだろう。

「一つ上の姉のマリアス姫がご看病を成されているらしいです」

 すると、いま映っている映像は録画らしい。

「耳が早いな、アスコル」

「今朝の電子新聞です」

 アスコルは懐から小さな端末を取り出す。携帯電話という機械だ。テレビには縁がなかった割に携帯電話を使いこなす、この辺りはフィセルドのアンバランスな工業製品の導入が理由だった。

 異次元の科学を持った国と国交を開いて一〇年余り、魔法国家フィセルドは科学の恩恵をまるでつまみ食いするかのように、味を確かめるようにしか受け取っていなかった。その理由が怠惰なのか意地なのか、導入派のクルフにもよくわからない。

 ただはっきりと言えるのは、このマリアスが象徴するように、工業製品は確実にフィセルドへ浸透しているということだ。

 ふとクルフはマリアスが就航したばかりのころを思い出す。そのときにはテレビの画面に写っているマリアス王女はもう少し幼い顔つきをしていて、その手を繋ぐのはまるで妹のように愛らしいライシス王子を連れて乗艦されたことを。二人共、初めて見る鋼鉄の船によくはしゃいでいたことをクルフは昨日のことのように思い出せた。しかも、そのときの同年代だったクルフの孫、ライアがお相手をさせていただいのだ。そんな思い出に浸る彼の視線にはもう思い残すことはないような雰囲気があった。

「それよりも艦長、エステルですが」

 アスコルの言葉に無理やり現実に引き戻される。

「ああ、様子はどうだ?」

「今しがた出港したそうです、次元移動航行まではまだ時間がありますが」

「ふむ、作戦開始だな。全艦に伝えろ」

 静かだった艦橋がにわかに慌ただしくなった。


 オムザート国、戦艦ディザストリアの艦橋に声が響く。

「次元間通信、目標がマリーク港を出港しました」

 コンソールの画面から顔をあげた情報参謀が報告をする。

「航路計画書通りか」

 ディザストリアの艦長、ドウト艦長が手元のノートパソコンの作戦資料に視線を落とす。パソコンにはエステルとマリアスの予想航路が示されていた。そこに、たった今エステルの情報が更新されたことを示すマークが表示され、エステルのマークが外洋へと移動する。

「いよいよですね、艦長、腕が鳴ります」

 砲術長が鼻息を荒くしている。

「ああ、しかし、こちらに到着するまでは半日はかかる。今から気張っていては実戦で力は発揮できんぞ」

「はい、すみません」

 塩をかけられたような砲術長に苦笑しながらドウトは声をかける。

「いや、気概は結構。それに始まれば存分に撃てる」

 ドウトはノートパソコンの画面から艦橋の外に視線を向ける。視線の先には二基の巨大な連装砲塔が静かに鎮座していた。

 オムザート国は、一〇年ほど前にまでいわゆる産業革命を起こして、工業国の道を歩み始めていた国だった。道には馬の代わりに自動車が走り、空には飛行船、船も小さな木造船から鋼鉄の体を持った艦船へと発展を続けていた。

 そんなときに現れたのが異次元から来訪者たちだ。彼らはオムザートよりも何十年も進んだ技術と、慣性制御を応用した次元移動航行の技術があった。

 当時はいかに戦うか真剣に議論されたが、幸い来訪者は友好的であった。今から考えれば、相手にならなかったというほうが正しい。

 来訪者はオムザートに技術と資金を投下し、発展を手助けしてくれた。

 しかし、工業国の発展には高い購買力を持った人々が必要だ。ある程度はオムザートや同じ星の周辺国でも売ることはできるが、同じ星の中では急速な発展には限界がある。そこでオムザート近い次元でいまだ工業化を果たしておらず、同時に購買力のある場所を探した。すると隣接する次元にフィセルドという魔法国家があった。距離も近く輸送コストも低い、さらにほとんどのものが手作業で作られていたフィセルドでは工業製品はいくらでも売れるはずだった。しかし、フィセルド王国は魔法文化が根強く、工業製品の導入には慎重、悪く言えば否定的だ。そもそも魔法を発達させたフィセルドというのは、科学と工業を発達させたオムザートは相入れない道理で動く国家だ。一応、全く導入していないわけではないものの、工業製品の導入はまだまだ一部の公的機関しか行なっていなかった。

 はじめのうちは訪問販売と押しかけられて困惑する客のような咬み合わないだけの関係だったのが、お互いの無知から次第に対立構造となった。そもそもの原因たる来訪者たちからみれば、その程度の対立など、些細なものに思えていたので、あえて介入はしなかった。それに二国は国交断絶などの表面化は避けていた経緯もある。しかし、現在では両国を繋ぐ航路には船の姿はなく、人や物資を運ぶときは必ず第三国を経由させられていた。

 そんな彼らフィセルド王国がオムザートに対して、何らか軍事行動を計画している。突然もたらせた確度の高い情報にオムザートは水面下で対応を検討した。

 対応には武力的な方法も想定されており、魔法文化との距離間がつかめないことが、その対応に拍車をかけていた。魔法をまだオカルトの一種だと思っている人物は、オムザートでは珍しくない。有識者やマニアにはちゃんと体系も機能も理解しているものもいるが、それは少数派だった。

 フィセルドの武力に対向するため、オムザートは自身が持つ最新鋭の空中戦艦ディザストリアをその対処の任務に就かせた。と言えば聞こえはいいが、わずか一〇年前に国交を開いたオムザートには戦艦と呼べる空中艦はディザストリアしかなかった。

 ディザストリアは次元航行能力を持つ戦艦だ。主砲は最新の三〇センチ連装砲を前部に二基、後部には無数の垂直ミサイル発射管、さらに副砲や機銃、強力なバリアを備えた文字通りの戦う船だった。

 建造はオムザートで行われ、国産の戦艦として喧伝されている。もっとも、艤装のほとんどが来訪者からの輸入品であるし、ディザストリアに導入されている次元航行能力、つまり慣性制御装置やバリアは実は魔法由来の技術をマジックアイテムの機能を持った工業製品として生産され、それをコンピュータで制御したものに過ぎなかった。

「各部署の様子はどうだ?」

「はい、各部署から異常の報告は受けておりません」

 参謀の一人が待っていたかのように返答する。

「反応炉も問題なし、慣性エネルギーの充填も終え、いつでも全力で戦えます」

 反応炉とは、いわゆる核分裂の反応を利用した発電機だ。この発電機によってディザストリアの航続距離は運用レベルにおいて無限に近い航続距離が得られる。

「セイレス、ハミアとも準備は万端との連絡」

 護衛の僚艦からもそう通信が入る。

「よし、艦は万全。あとはエステルとマリアスが来るのを待つだけだ」

 ドウトの指揮するディザストリアは、オムザートの次元移動用の空域で待機を続ける。

 次元移動可能な飛行貨客船エステルはバスタブを空に浮かべたそうな不恰好な船だった。着水と着陸を考え、かつ容積を最大にしようと思えばそうなってしまうので仕方ないことであるが、それでも格好わるいことには変わりはない。

 上部にコンテナスペースを設け、コンテナスペースの上部はシャッターで開閉することができた。おかげで上半分は箱を積んでいるように見える。その下に客室を備えていていて、航行中は窓から外を見るだけで、緊急時以外客室から外に出ることはできない。また下部にはランプウェーも備え、自動車が乗り入れることができた。船底は平べったく、何本かの太い出っ張りが前後に伸びている。陸地に着陸することも想定されているのだ。と、いろいろと機能があるため、同クラスの輸送船に比べて絶対的な積載量はいまいちであるが、需要の低い航路では、多種の貨物を載せられることは、むしろ都合のよい船だった。

 そんなエステルは少し特異な行程で運用されていた。

 まずオムザートから工業製品を運び、シンペイという中継港で書類上積荷を載せ替え、フィセルドに入港して積荷を下ろす。帰りにはフィセルドからは農産物や工芸品、マジックアイテムなどをまたシンペイを経由して、今度はオムザートに運んでいた。

 いわゆる第三国経由の三角貿易だ。直通の航路が使えないのであれば、こうした手順を踏むしかない。もっとも、どちらも需要自体は少ない上に、輸入出に設定されている関税を考えれば、旨みは微妙なラインだった。なので今のところ、エステルにとっては人間の方が主な積荷となっていた。

 ただこうした構図は、今後両者の交流が進めば収益は良くなるということでもある。エステルの船会社が手間を掛けてまで両国の貿易を行うのは、その航路は先行投資の意味も持っていた。

 エステルの客船としての能力は短距離フェリーと同等だ。乗客向けの船室は広く作られた二等船室が主で、個室や寝台は少ない。その広い二等船室には移動中の時間を快適に過ごすために大画面液晶テレビが据えられ、区切られた反対側にはゲームコーナーや売店などがあった。一応食堂もあるが、喫茶店のように手狭だ。

 副長兼航海士のライネンは、船内の見回りの途中で船室に足を運んでいた。

 広々とした船室にはくつろぐ乗客達の姿がある。本や雑誌、友人とのおしゃべりで思い思いの時間を過ごしている。

 その奥にはプロジェクタでも使っているのかというほどの大きさのテレビが据えられている。映っているのはフィセルドのニュースの配信映像だ。つまりは録画だが、電波は次元移動すれば途切れてしまうからこっちのほうが都合がいい。

 フィセルドでは放送設備が導入されたのが最近のため、放送設備は最新だ。おかげではじめから配信されることを前提されたソースは文字通りほぼ最新のニュースを流し続けることができる。

 ニュースへ王族関係の話題が流れると何人かの視線がニュースに向かう。魔法が息づくフィセルドではテレビの普及が思うように進まず、こうした王族の人気にあやかった内容で視聴率を稼がなくてはならないらしい。

 そこに映った女性の姿にライネンは思わず足を止める。意外と精悍な顔つきだが、いわゆるお姫様らしい純白のドレスに、銀色の軽くウエーブが掛かった髪がどこかはかない印象を与えている。フィセルド第三王女のマリアスの姿がそこにはあった。

 一部では極めて高い人気があるものの、立場上、テレビに映ることはあまり多くはないので、ライネンはちょっと得した気分になる。

 そのまま進み、船室の出口の先にあるゲースコーナーに向かった。そこには例によって子供の姿がある。家族連れも多いエステルでは、ビデオゲームが人気だ。しかも会社の方針で最新のゲーム筐体を導入するため、なかなかいい稼ぎをする。余剰となった旧式は、技術格差の大きい地域に売ると、意外な利益を生んでくれる。

「ジョシアはやっぱり銃のゲームうまんだね」

 ジュニアハイスクールぐらいの少女がその脇にいる青年に話しかけていた。

 男女の二人連れなど珍しくないが、二人の雰囲気はやや微妙にライネンには思えた。なぜそう思ったのかは、その時はわからなかったが。

 男性は二十代半ば、格好は短髪にジーパンにポロシャツを着た非常にラフな格好だ。ただ、男性のその手には大きなスーツケースがあるのがライネンには気になった。そうした荷物は預けるのが普通のはずだ。

 一方、女性はまだまだ少女と呼べる上に、顔は太っているわけでもないのに丸みを帯びた童顔で、着ている白いブラウスと比べても幼い印象を持ってしまう。目元が隠れそうな長い前髪、後ろ髪も長いストレートヘアをしている。服は白で統一され、真っ黒な髪と相まって、わざとらしいほど清楚な感じを抱かせる。もっとも顔立ちはいいので、似合っていることに異議をとなえるものはいないだろう。ただ、そこから発せられるセリフはとても清楚とは言いがたかった。

「あのゲーム、ゾンビを撃つのはいいんだけど、ぜんぜん当たんないんだもん、嫌になるよ。ホントならあれぐらい簡単なのに」

「ライアは女の子らしく、写真のゲームなんてどうでしょうか?」

「あれはどんな顔していいかわかんない」

 不機嫌そうな顔をしてそっぽを向く。すると、なにか見つけたらしく、パタパタとサンダルを鳴らして、あるゲーム筐体に駆け寄った。

「これってどうやるの?」

 青年はまゆをひそめた。ライネンは心のなかで小さく笑う。案の定、やり方がわからないようだ。

「どうしましたか?」

 ライネンは二人に声を掛けた。二人の目の前にあったゲームはリズムに合わせて矢印を踏む、音楽のゲームだ。

 リズムの良い音楽と多色電球の華やかさで人目は引くが、最新のゲームな分はじめて見ると難しく見えてしまうし、フィセルドの出身者はまま機械の操作には疎いものが多い。

 ライネンはやり方の説明すると、自分のポケットからコインを取り出して、投入した。

 それから五分後、ライネンの説明とプレイを見ていたのは十数人に膨れ上がり、ノーミスクリアを人々の拍手が包む。同時にそのゲーム筐体はさらなる稼ぎを約束してくれることとなった。


「船長、船内点検終了、異常なしです」

 ライネンは扉は船橋の扉をくぐると、その中央に座っている壮年の男性、船長のトワダに報告をした。

「おう、ご苦労。少し時間がかかったな、またゲームのところに行ったのか?」

「ええ、客引きは上々でしたよ」

 勤務中にゲームするのはどうよ、という疑問を持つかもしれないが、ライネンのプレイは一種の客引き、大道芸のたぐいだ。

「可愛い子が乗ってましたよ。どこかのテレビに出てきそうなぐらいに」

「そう言って、口説いたのか?」

「いえいえ、ちゃんと男連れでした、なんだか彼氏って感じはしませんでしたが」

「美少女が男連れって、ボディーガードかよ。まさか貴族様でもあるまいし」

 フィセルドは王国制であり、実務を担うのは貴族の仕事だ。お陰で今時でも古典的な貴族の令嬢というものが存在している。

 彼女がそうした人物であるとしても不思議ではないが、オムザート行きの船に乗っているというのはちょっと不自然だ。しかも、ライネンの印象からするとお忍びのようでもある。

「貴族のお姫様とはなんか違った感じですけど。でもそうですね、可愛さでは負けてないと思います」

「ライネンが言うなら間違いないだろう。まあなにもないとは思うが、一応覚えてはおこう」

「了解です」

 三角貿易という微妙な立場のエステルにはちょっとしたことが大きな問題になりかねない。

「それはいいとして、そろそろ次元移動航行だ。船内放送の準備をしておいてくれ」


 マリーク港を出たエステルは船内アナウンスの後、次元移動航行に移った。

 次元移動航行に入っても、特に衝撃や違和感などを先ほどの少女、ライアは覚えなかった。ただ、窓の外の景色が青い海と空から暗転したことが、次元移動航行に移ったことを教えてくれる。

 次元移動航行は慣性制御を応用して、一種の次元を飛び越えるトンネルを発生させ、別の星に移動する航行方法である。もちろん、慣性を制御できただけでこんな便利な航行ができるはずはなく、航行の際にはもう一つの方程式が組み込まれる。この方程式は古代文明の最大の遺産とも言われているが、詳しくはわからない。現在も解明中であり、使用方法だけが広く伝わっていた。

「次元移動航行を終了しました」

 二〇分ほど時間が経つと、再びアナウンスが流れた。船内の雰囲気が心なしが落ち着くのをライアは感じた。

 そうしてエステルは中継港のシンペイへ移動した。少女に知識によれば、エステルは一度シンペイに寄港し書類上で積み荷を積み替えたら、すぐに出発だ。つまり、積み替えない。手続きも簡素に済むので手間もない。

 遠回りして中継港を使うことは、移動や次元移動航行へのエネルギー充填、手続きなどのロスで数時間から半日ほど時間がかかる。三角貿易なのだからしかたないが、エステルの船会社としてはできればなくなってほしいロスだ。

 エステルは船首を港へ向ける。次元移動を終えたエステルの高度は三〇〇〇メートル、港からは二〇キロほど南だ。その高さと距離から見下ろした港町はライアにはあまり大きくはないように見えた。

 大きな湾の一角に埠頭が並ぶ。町は湾と比べれば小さい。しかし、停泊している船の一隻は船橋の大きさから巨大タンカーのそれとわかる。湾があまりにも大きいために町の大きさを錯覚して見えているのだ。

「わあ、すっごい」

 ライアは初めて目にする科学文明の町に、窓に張り付きながら黄色い声をあげる。

 数万トンの貨物船やタンカーから運ばれる物資、そして人々の中継地点として急ピッチで拡張を続けるのがシンペイの姿だった。

「あまりはしたないことはなさらないで下さい。へい……いえ、お父様に叱られますよ」

「今の私をわかる人がここにいるとは思えないけど」

「であっても、レディであることに変わりはないのですから」

「はい、わかりました」

 澄ました顔で答えるが、視線は窓の外から離れない。まるで新しいおもちゃを見つけた少年の目だ。

 巨大な湾で活用されているのはほんの一部に過ぎないが、今も新しい埠頭や設備が建設されていた。もとが無人世界で、既得権益はないため、開発は効率的な計画の元に行われていた。環境には配慮されているだろうが、開発中の湾の環境が目まぐるしく変わっていくのは止められないだろう。

 高度を落とし、低速で進みながらエステルは船底をシンペイの海で濡らす。最初は撫でるような動きだったが、速度がある一定まで落ちると、船底を一気に海に沈めて速度を殺していく。

 航空機の速度から船舶の速度まで落としたエステルは、そのあと湾内に入る。

 時間だけで言えば、湾内で着水した方が早いのだが、そうした行為は不慮の事故や着水したときの衝撃で湾岸設備を壊す恐れがあるために禁止されていた。

 エステルが停泊したのは、埠頭でも端っこの埠頭だった。

 それもそのはずで、エステルは次元移動航行に必要なエネルギーの急速充填だけを行い、充填を終えたらすぐに出港するからだ。交通の便が悪くても、全く問題にはならない。

 一応、エステルの発電機でも必要な発電はできるのだが、その場合の燃料代は高いし、なにより時間がかかる。一方、埠頭からの給電ならば、原発の豊富で安価な電力で、安く早く必要なエネルギーを得られる。

 早々と充填を終えると、エステルは再び湾外に向かってから離水し、二回目の移動航行で目的地のオムザートへ向かう手順を進めていた。

 その時だった。

「航路許可取り消しですって?」

 報告を受けたライネンは、やや裏返った声をあげた。

「停船命令が来てます!」

 慌てたライネンの声を聞きながら、トワダは次元移動のシーケンスを確認した。既に次元移動のトンネルは開いている。中止できなくはないが、中止した場合はもう一度充填のやり直しとなってしまう。

「このまま飛ぶ」

「そんな、いいのですか?」

「予定よりも早くシークエンスに入っていただけだ」

 目の前にはすでに展開された次元移動航行のゲートがまばゆい光を放っていた。安全規定ではゲートに入った段階での停止は禁止されている。ゲートに入った途中で無理に停止すれば、最悪、船体の破壊もまぬがれない。

「それに今やめたら充填のやり直しだ」

 充填料は安くはない。

「それよりも理由が知りたい、どうして今のタイミングでそんな命令が出たんだ?」

「それは、なんとか調べてみます」

 その時、やや幼めの高い声が船橋に響いた。

「その必要はありません」

 船橋にいた乗員は思わす入口へ振り向く。

「あの停船命令を出したのは私たちです」

 そこには白いブラウスに長い黒髪の少女、ライアが立っていた。


「エステルが次元移動航行に入ります」

 マリアスの艦橋で報告が上がった。

「次元移動航行開始、エステル、現次元から消失」

 魔法艦マリアスの探索魔法はエステルの行動を完全に把握していた。レーダーを用いた現代型の軍艦でも同様のことはできるが、マリアスはさらに外からはわかりにくい次元移動航行へ移る兆候やエネルギー状態までも把握できる。電磁波とは違い探索魔法を使用する魔法艦マリアスならではの探査能力であった。

「停船命令は受信されています」

 アスコルが言った。停船命令を出したのはマリアスだった。デジタル通信なので受信も確認できる。そのタイミングから考えて次元移動は中止もできるはずだったが、エステルはあえて強行したようだ。

「ここまでは狙い通りですね」

 先程まで、機嫌良くテレビを見ていた好々爺の色は完全に影を潜め、戦場に在る表情になったクルフは声を張った。

「本艦も直ちに次元移動航行に移る」

 待ってましたとばかりに、乗員の視線がクルフに集まる。

「然る後、エステルを拿捕する」

 緊張した面持ちを浮かべるのは一人や二人ではない。それもそうだ、マリアスには若い世代が多い。鋼鉄の艦体であるマリアスの操作は従来の木造の魔法船とは違う。勢い、順応性の高い若い世代を乗せることになるが、そうした世代は実戦経験がない。

「ついに行きますか」

「うむ、ここからは先は敵地と思って行動する、各員は警戒を厳にせよ」

 一斉に返事が返るも、上ずった声がまじる。

 それでもまあよい、と老艦長のクルフは考える。任務自体は簡単だが、内容は重要だ。緊張を持っているほうが何倍も良い。

 そんな経験が不足しているマリアスが今回選ばれた理由は、求められるのが時間であり、時間を有効に使うには機動性が必要だからだ。その基準ではフィセルドにおいて最も足の速いマリアスの仕事となる。その上、現役の王女の名前を有する鑑だ。火力と防御力についてもその名を汚さないために徹底した検討と強化が行われていた。

「次元移動航行、目的地はオムザートだ」

 乗員の練度や心構え以外にもこの作戦に対する懸念がクルフには二つあった。作戦ではエステルに乗る民間人に扮した政府関係者の二名の拘束となっているが、そのために虎の子の魔法艦を使うことだ。政治が絡むと、軍事作戦は理不尽を許容してなければならない。だが、それによって政治が上手くいくのなら、政府の一機関に過ぎない軍も恩恵があるから、なんとか納得できる。

 もう一つの懸念は、これは軍事とあまり関係ないことが、クルフに取って大きな問題だ。

 マリアスには貴賓室と呼ばれる部屋があり、狭いながらも高価な調度品が整えられている。ここは貴族が利用するために用意されているのだ。しかし、この任務に合わせて追加で持ち込まれた物品のリストを見る限り、その二人、もしくは片方は、やんごとなき身分の人間としか思えないのである。下世話な言い方をすれば、ファンのところに突然その有名人が現れるような心境なのだ。


 次元間通信を受けて、ディザストリアの通信士が報告をする。

「シンペイの大使館から連絡、エステルが次元移動航行を行いました」

 まだまだ序盤であるが、事前の予想通りの推移にドウトは安心感を覚える。

「ですが、直前に停船命令が出されています」

「どこからだ? いや、いい」

 ドウトは言い終えると視線を前に向けた。今エステルに対してそんな真似をする存在は一つしか思い当たらない。通信士もそれがわかっているし、通信の内容は肯定しているから、言葉を続けなかった。

「到着地点で待ち伏せる」

 到着位置は航路局から公開されている。

 これが世界と戦争できるどこかの超大国ならば自前で全ての監視、通信を行うのだろうが、所詮は新興の中小国に過ぎないオムザートには無理な話であった。大使館との通信とて通常回線を経由しているのだ。もちろん暗号化し符丁を用いるぐらいのことはしているが。

「僚艦に連絡、我ニ続ケ」

「了解、僚艦に送信」

「セイレス、ハミアからの受諾を確認」

 昔なら手旗信号や信号旗だったが、今ではデータリンクにより、タイムラグは皆無に近い。昔というのは、異次元の来訪者が来る前のことだ。最近ではすっかり慣れたと思っていたのにドウトはふと寂しさを感じてしまう。

「ディザストリア、発進」

 精一杯の威厳を込めて、ドウトは命令した。

 そして、高度五〇〇メートルの低空で待機していた三隻の船は見た目にはゆっくりと動き出した。

 彼女の名前は空中戦艦ディザストリア。敵対するものに災厄を与える名を持つ全長二〇〇メートルを越える巨艦。そうでありながら、わずか二歳の少女である。

 後ろには二回りは小さい船が二隻続く。ディザストリアの護衛として行動を共にする駆逐艦セイレス級のセイレスとハミアである。いずれも対空戦闘を主眼に置かれ、対ミサイル兵装が主体だ。主砲の七五ミリ速射砲や、搭載したミサイルの対艦戦闘能力は低いものの、全体的に流線型で空気抵抗が低く軽い船体とあいまって速力度と機動力は高いレベルにあった。


 そして、今までの三隻の船とは異なる存在がもう一つ。

「今日も平和だな、ナンバーワン!」

 わざわざ艦橋まで上がってきたハリトン艦長はやや大きな声で言った。ちなみに、ハリトンの「平和」とは「暇」と読み替えると正しい意味となる。

「はい、こちらも異常なしです」

 答えたのは副艦長だ。最後に主砲を撃ったのは半年前の演習時。以来、この戦艦の主砲が沈黙したままだ。

 今、この戦艦がいるのはシンペイであった。わざわざ戦艦と名乗る船がそんな場所に単艦でいるのは、パトロールをしていたからだった。ただ、パトロールなど本来なら巡洋艦にでも任せる仕事であり、わざわざ戦艦がでしゃばる事ではない。

 実はこの戦艦は改装したばかりのレーダーシステムに不具合があり、一度艦隊を離れていた。不具合自体はすぐに治ったが、艦隊への合流途中にいくつかの港をまわるように指示があり、現在はその途中だった。

 なぜわざわざ戦艦にやらせるのかといえば、あからさまな示威行為だからだ。さすがに戦艦、大きすぎる巨艦と前部に三基、後部に二基備えられた巨大な主砲の見栄えはいい。加えて、余計な構造物のないまるで簡易なCGで描かれたようなステルス性を考慮した多面的な艦体に、XYZ軸を全て見渡せる配置の平面フェイズドアレイレーダー、側面に配置された無数の水平ミサイル発射機、それでいて細身でいかにも速度の出そうな姿は、この艦を建造した国の技術力を余すところなく表している。役目はお巡りさんなのに、たった一隻で堂々の艦隊を演出させるだけの強さを魅せる艦だった。

「UFOでもいないのか、入れば問答無用でぶちかませるというのに」

 ただ、その艦の最高責任者はスマートな艦体とはまるで印象の違う男であった。

「こちらCIC、艦長はいらっしゃいますか?」

「俺だ、どうした」

「妙な命令を受信しました」

 正規の命令ならば、手順を踏んでハリトンへと伝えられる。そうでない場合は、緊急なり、指示を仰ぎたい場合だろう。

「貨客船に停船命令が出されました」

「停船命令? こんな場所でだと?」

 困惑したような文言とは裏腹に、その声はどこか弾むように副艦長には聞こえた。それは艦長としてどこか問題のあるような気もするが、そんな性格のハリトンであるからこそ乗員たちはこの戦艦の長所を活かしきることを信じて疑わなかった。

 中継港であるシンペイは、新しいこともいろいろと混乱は多いが、そこでの停船命令は穏やかではない。

 CICからの説明によればオムザート行きの一隻が停船命令を受けたらしい。しかし、その船は次元移動航行に移ってしまい、命令は無視された格好になった。ただ、タイミングが次元移動航行を始めた後に出ており、その船の行動が意図せずに命令を無視してしまったかもしれないとのことだった。

 そんなタイミングよく停船命令が出され、意図せずに無視というのは、明らかに不自然だ。そもそも停船の理由はなんだ? ハリトンは疑問を持つ。

「命令を出したのはシンペイの航路局か?」

「いえ、マリアスです、魔法艦マリアス、フィセルドの艦です」

「魔法艦だと、珍しいな、まだここにいるのか?」

 魔法艦の数は戦艦よりも少ない。それなりの金さえあれば用意できる戦艦と違い、魔法艦はコストもさることながら、核心部分を作れる国は限られているし、時間もものすごくかかる。

「はい、三時の方向、高度は……」

 艦長席から下り、早足で窓際に寄る。待っていたかのように双眼望遠鏡が差し出され、ハリトンは受け取ると教えられた方向に双眼鏡を向けた。

 覗いた先に距離はあるが、たしかにシルエットからして違う船が浮いている。

 艦体は規格化された汎用一万トン級の船体だ。数を揃えるもよし、小国が旗艦として使うもちょうどいい大きさだ。数が出るので価格もこなれている。

 しかし、見たところ平たい甲板には武装は見当たらず、まるで戦闘艦には見えない。艦橋は低く平に作られ、マストもない。一方、甲板にはほとんど設備ない代わりに、艦舷に五つの枠がある。あそこに武装があるのだろう。魔法艦の武装は魔法使いが魔法陣を使って作り出す、いわば人力の攻撃だ。しかし、精密に構成された魔法陣の攻撃力は現代の武装と比較しても遜色はないはずだ。煙突は艦舷の後部に設けられていて、航空機のエンジンのようにも見える。次元移動に必要な艦首の慣性制御装置は、装飾なのか、魔法艦には必要なのか、剣のように伸ばされ、鋭い印象を与えていた。

 ハリトンは魔法艦を何度も見てはいるが、その姿は千差万別に違う。それは思想が洗練されていないからではなく、魔法というものが、柔軟性に富んだ技術なゆえだ。

「艦長、マリアスがオムザートへの航路申請」

 軍艦といえど、平時は基本的に航路局への提出が行われる。

「こちらも移動する」

 控えていた従卒に望遠鏡を渡すと、ズレていた帽子をかぶり直して告げた。

「準備に掛かれ」

 太鼓を叩いたように一斉に艦が動き出す。その騒音は暇を持て余していたハリトンには最大に心地よい演奏会に聞こえていた。

「しかし、行った先でなにかあったら」

「なにかあれば、なおさらだ」

 わざとらしくゆっくり艦長席に腰を据えると、ハリトンは自信を持って声をあげた。

「安心しろ、レディレックスに対処できない戦いなどない」

 その艦の名前はレキシントン。レディレックスの愛称を持つアメリカ海軍の空中巡洋戦艦だ。

 一○万トンの艦体に三○センチ砲を連装五基、合わせて一○門を備える巡洋戦艦である。強固な結界と十分な近接防衛能力を与えられており、ミサイル攻撃はよほどの数を叩き込まなければ効果はない。同クラスの戦艦以外に沈めることはできないと言われていた。


 こうして四つの立場、六隻の船はオムザートの一角へ集まっていく。


「あの停船命令を出したのは私たちです」

 自然な歩みで船橋に踏み入れたライアは、そのままトワダ船長の前に進む。

「どうやってここに、いや、君は一体誰だ?」

 後ろにはボディーガードのような雰囲気の青年が立っている。ライネンが言っていた件の少女達であることをトワダは察していた。

「申し訳ありませんが、フィセルドの関係者としか乗ることができません。今は名簿にある通り、ライアとでもお呼び下さい」

 丁寧な物腰と落ち着きようだ。トワダには目の前の少女が十代中場であるとは思えなかった。

「ご存知の通り我が国とオムザートは仲がよろしくありません」

 少女はフィセルドを我が国と呼ぶ。そうした呼び方はあまり一般的ではなく、どちらかと言えば、外交の場や政府の人間の言い方だ。

「しかしそれはこれから工業化しようとするフィセルドにとって好ましいことではありません。そこで国王陛下と議会は一計を巡らし、私に親書を託して、それを我が国が妨害することになりました」

「自作自演ということか?」

 トワダはあえて先を読んで言葉にする。一息分、トワダの顔を見つめてから少女は続けた。

「話が早くて助かります。ほぼその通りです。オムザートから見たらどうみえるかわかりますよね」

 友好を求める国王とそれを妨害する勢力、オムザートとの関係が悪い原因はフィセルドの国内問題ということになり、オムザートは態度を変えやすくなる。なにより国の長たる国王が求めているのだからなおさらだ。 裏にはもっと複雑な事情があるのだろうが、とりあえずは建前としての筋は通っているようにトワダには思えた。

「話はわかった。しかし、証拠は?」

「次元移動航行が終わればわかります」

 少女の話は終わったらしい。女性はもう少し口数が多いものという印象を持つトワダには、どこか拍子抜けな印象があった。

「わかった。では二人はそちらの席についてもらおう。このあとなにが起こるのか、君たちにはわかっているようだしな」

 二人には船橋の隅の席に座ってもらい、トワダは二人には聞こえないようにライネンに声を掛けた。

「ライネンはどう思う?」

「嘘というにはタイミングが良すぎますね」

「ああ、しかもあの態度は、演技なら天才子役だな」

 状況と印象、そして堂々とした彼女の態度は嘘で固められたものとは到底主なかった。

「だとしても、なんであんな子供が国王の親書なんてものを持っているんだ?」

「ゆかりのある人物、なのでしょうか」

「見覚えはあるか?」

「見覚え……なにか見た覚えはあるんですか、わかりません。強いていえば女王陛下に似ているような気がする。傍流でしょうか」

「王族か、確かに口ぶりからすれば、普通の生まれじゃないだろうな」

 トワダは視線を二人へ向ける。

 すると、先ほどの外から来たときの表情とは打って変わり、どこか少年のような輝いた目つきで、船橋を眺める姿がライアの姿があった。

「……正体はともかく、これからの状況には注意だ。それとどうも私が飛ぶと判断をすることも計算されていたようだしな」

「しかし、飛行船を妨害するとなれば同じ飛行船で、なおかつ武器を持ったものが必要になりますよね、それって……」

「まあ、いきなりドカンということはないさ」

 十数分後、再びの次元移動航行を終え、エステルはオムザートの空へ飛び出した。


「捉えました」

 後から次元移動しながら、先にオムザートへ着いていたマリアスは、次元移動航行を終えたエステルを探査魔法で捉えていた。

「よし、手筈通りに通信を送る」

 マリアスはほとんどの装備が魔法由来のものであるが、法規的に必要なレーダーや船舶同士の通信に使う無線機は輸入品の工業製品が導入されていた。それはトランスポンダーも同様である。

 そうした機能は魔法でも再現できなくはないが、計算した結果、再現するコストがバカらしかったため、導入に文句をいう人間は皆無に近かった。

 マイクを手にとったクルフを、脇のスイッチを押した。

「停船せよ、こちらはフィセルド王国軍、魔法艦マリアス、繰り返す、停船せよ」


「停船せよ、こちらはフィセルド王国軍、魔法艦マリアス、繰り返す、停船せよ」

「補足されていたか」

 トワダは次元移動航行の完了直後に送られた通信に、半ば諦めたような声でつぶやく。

「ライネン、あの船ってやはり強いのか?」

「強いもなにもマリアスはフィセルドの虎の子ですよ」

 そう言われてからトワダは望遠鏡でマリアスを見る。

 サイズはあまり大きいようには見えない、せいぜい一万トン前後。艦橋などの構造物は空気抵抗を考えた形で、背の低いものが載っている。さりげなく小さなレーダーが回っているのも確認できるが、見る限り民生品らしい。武装らしいものは見えない。

「サイズは確か一万トン級の巡洋艦、うちの半分です。装備は魔法主体です。なにより」

 遮るように、艦橋の前の方に進みでたライアが横から口を挟む。

「マリアスは第三王女マリアス姫様から頂いた名前です。その艦が弱いわけありません」

 ライアの顔は誇らしげですらあった。

「ライネンさんは詳しいようですね」

「ええ、航行する国のことは少しでも勉強しておけば、いろいろためになりますから」

 フィセルドのアイドル事情、リズムゲームの腕前、軍艦についての知識、これだけ揃えばライネンがどういう人間であるかはわかるだろう。

「私達があの艦で本国に連れ戻されれば任務は完了です、短い間でしたが……」

 そのとき、船橋に警報が響いた。

「この警報は……そんなのありか!」

「どうしました?」

 ただならぬ様子で声を上げるトワダにライアは聞いた。

「近くに戦闘レベルの電波を出してる艦艇がいるようだ、ライネンどうだ?」

「レーダーが使用不能、故障でなければ妨害電波でしょう」

 用をなさなくなった画面に虚しくノイズが映る。

 そこに、通常無線に割り込んだ通信がスピーカーを震わせた。

「こちらオムザート国軍、ディザストリア。海賊行為と判断し、これより攻撃する」

 突然、空が光った。光は赤く熱を帯び、遅れて腹に響く低い音が抜けていった。

「ライネン、状況を確認だ」

 さらに続いて、全く違う爆発音が響く。

「マリアスが爆破したのか?」

 トワダが爆発の赤い光を見ながら、誰に向けたわけでもない問を投げた。

 マリアスは黒い煙をまとっている。

 一方で最初に閃光が光った方向に目を向けると、遠くて良くは見えないが、明らかに大型艦が浮いているのが見える。その後ろには小型の船が二隻見える。状況から考えれば護衛の駆逐艦だろう。

「いきなり撃つなんて信じられない」

 思わず立ち上がったライアはヒステリック気味に声をあげる。

「これじゃ友好どころじゃないよ」

「今のはもしかして、砲撃なのか」

 トワダの声に、ライアの後ろに控えていたジョシアがはじめて声を出した。

「あんな音を出せるのはディザストリアの大砲だけです。マリアスが撃たれました」

「撃たれたって、それは戦争では……」

 トワダは背中に冷たいものが流れてくるのを感じた。


 警報から着弾までの時間はわずかに十数秒。マリアスは初弾から直撃を受け、艦内は騒然としていた。

「被害は?」

 クルフは揺れが収まった艦橋で周りを見回しながら言う。

「集計中です」

 アスコルが艦内の思念通話と電話の集計を報告する。

「艦首部に直撃した模様、しかし大きな被害はありません」

 さら各所から報告が続くが、衝撃によって数名の負傷者が出た以外の被害はない。

 最終的な集計は前部に一発が直撃だ。その一発は結界による防御成功していた。つまり、無傷だったのだ。

「こちらも反撃を行う、目標は敵大型艦」

 クルフにはここまで突然に攻撃を受けるとは思っていなかったが、やられた場合どうすべきかは、彼の軍歴が教えてくれる。

 敵は大型艦一隻と僚艦の駆逐艦が二隻だった。駆逐艦の艦名まではわからないが大型艦はディザストリアと名乗っている。

 そのディザストリアの言うこと、海賊行為というのは見方を変えればそうなるものの、だからといって、いきなり主砲の斉射を撃つのは普通ではない。警告であれば、それに従うという選択肢もあるが、攻撃であるなら、まずは反撃して自分の身を守るのが先決だ。

 もちろん、クルフには敵の考えはわからなくもない。本来なら一万トン級の巡洋艦並の艦が戦艦主砲の直撃を受ければ、大きな被害を受ける。それは戦いを一撃で決着を付ける程の威力だ。相手に初戦で打撃を与え、交渉を有利に進めるのは戦術としては正しい。

 しかし、魔法艦マリアスは強力な結界を持っていた。結界の強度と装備する魔法攻撃の威力は、戦艦との戦いを想定されて設計されていた。戦闘で遅れをとることはないはずだった。


「二隻の駆逐艦がこちらに向かってきます」

 双眼鏡を構えて、目視で確認していたライネンの声に、トワダは望遠鏡を向ける。流れから見ればエステルを保護するつもりなのはわかる。しかし、その足並みは保護というよりは拿捕するつもりでいるようにトワダには見えた。

「オムザートはなんでこんなことを?」

「平和を望まない者がオムザートにいるのか、それともオムザートとフィセルドの平和を望まないやつが情報を伝えたのか」

 その時、ライアの後ろにいた青年が、ジョシアと自己紹介しつつ、発言する。

「どちらにせよ、手際が良すぎます。マリアスとの通信は開けますか?」

「先程から試させてますが、全部のチャンネルがだめですね、戦闘レベルの電子戦です。この船の無線では何もできません」

 通信機を操作する乗員と話していたライネンが答えた。

「マリアスが撃つ」

 ライアの声で船橋にいた乗員の視線がマリアスに向けられる。

 不思議な光景だった。マリアスの左舷に五つの窓が開き、そこからわずかな時間差を置いて五条のビームのようなオレンジの光が飛び出したのだ。

「魔法攻撃、か」

 トワダは独り言のようにつぶやく。光はディザストリアに当たるが、ディザストリアも展開していた結界がそれを受け止める。すると、ディザストリアを覆うように何かが見えた。それが攻撃を受けて可視化した結界、いわゆるバリアであることはトワダにもわかる。

 そこまでだった。

「効いてないのか」

「いや、結界へのダメージは今のほうが大きいよ」

 驚いてトワダはライアをみるが、ライアの表情に変化はない。興味がないとかそういうものではなく、別のことを考えているような様子だ。

「そんなふうにわかるものなのか」

 ふと思う、マリアスの魔法攻撃を目視よりも早い反応や今の説明といい、魔法艦に詳しいようだ。トワダはカマをかけるつもりで聞いてみた。

「すると君は魔法を使えるんだな」

「ええ、はい」

 さも当然のことのように答える。簡単に白状してしまったが、フィセルドの人間であれば決して珍しくはない。しかし、トワダは思う。魔法というのは普通にしていて使えるような便利なものではないはずだ。魔法陣の設置や呪文の詠唱などを使わなければ発揮することはできない。例外があるとするなら、そうした展開を周りに悟られずにできるほどの技量を持っている者だろう。

 そこで思い出した。一定以上能力を持つ魔法使いは完全武装の兵隊をなんなく制圧できる力があると聞く。親書を託されているような少女がそうした高い戦闘力を持つことは不思議ではない。

 そこまで考えてから気がつく。ライアがシージャックしようとすれば、それを止めることはできないことに。トワダは改めて、自分が今起きてる戦闘の当事者であることを強く意識する。

「それよりもこのままではどちらかが沈んでしまいます、だから私達は早く行かなきゃ……」

 半ば瞳をうるませつつ、ライアは訴えかける視線で船橋を見回す。何とかしてあげないと、という気持ちと同時に、計算された仕種にトワダはどこか寒いものを覚えた。

「お願いします、マリアスは私からに退くように伝えます。私はこのままオムザートに行って親書を届けようと思います」

「ライアさん、残念ながら親書が届けられることはないでしょう」

 ライネンが割り込んだ。

「この戦いが偶発的ではない、となれば国王陛下の計らいも知られているものと私は考えます」

 それは理論の飛躍では、とも思ったが、これが友好を邪魔するための戦いなら、十分に予想できる。

 すぐに理解したのかライアはくやしそうな顔をして唇を真一文字にする。そうしている間にも砲声はやむ事なくマリアスを襲い続ける。

 光が交差する戦いをなすすべなく見守っていたジョシアは襟首をつかまれ、無理やり引きずり倒された。

「ジョシア、ちょっといい?」

 襟首を掴んだのはライアだ。無理やり視線の高さを合わせられる。

「ちょっと待ってください」

 半ば引きづられるように部屋の隅に引っ張られ、ヒソヒソ声でライアが話しかける。

「なんですか? いやそれは……まさか、本気で言ってるのですか!?」

 ライアの話を聞いたジョシアはわざわざ部屋の隅に行ったのをムダにするように驚いた声を上げる。

「だって前例はあるじゃない」

「あるのとやるのではまるで違います! それにライアのスキルではそんな真似は……あれ?」

 五秒ほどジョシアは思案顔で固まる。

「先週習得してたか、まいったな」

「どうしたんだ?」

 トワダが声をかける。トワダの表情にはなにか嫌な予感を覚えているようにジョシアには見えた。まったくその通りなので、ジョシアは話す気が起きず、視線をライアに送った。

「戦いに割り込みます!」

 先程の瞳をうるませていた少女はどこへいったのか、これから突撃を行う果敢な指揮官のように瞳には危険な光が輝いていた。

「どうですか、船長?」

「この空域から離れる」

「船長!」

「と言いたいが、この状況をつくり出したのは本船だ」

 続く砲撃音に負けないように、トワダは声を上げる。

「君がそれを止めるつもりなら、手を貸す。戦いをやめさせられるのか?」

「もちろん、そのつもりです。これも見てください」

 ハンドバックから何かのカードを取り出して、トワダに見せる。フィセルドの古式文字で書かれた免許だった。その文字はトワダには読めないものの、題名のすぐ下には英語で訳文が書かれていた。魔法使いの免許状らしい。しかし細かい部分は訳されていないので、結局なんのことだかわからない。それを右手で握り、ライアは視線をディザストリアへ向けた。

 トワダの見るライアの表情は笑ってはいるものの、頬がわずかに引きつっていた。恐怖と不安を押し殺して、自分の存在を示している、そんな表情だった。

「いい顔だ、どうすればいい?」

「いいのですか?」

 ジョシアはライネンに声をかける。

「ああ見えても、船長の腕は確かです。それにこの」

 ライネンは言葉を区切り、戦闘している船に視線を向けた。

「ややこしい二つの国の貿易を担っているというのは、表に出ないながらも、裏ではいろいろとありますので」

 何か楽しい思い出話をするようにライネンは続ける。

「船長はいつも切り抜ける方法を知っていました、今日も同じようにしているだけです」


 ディザストリアからの艦砲射撃は続いた。

 第一射は奇襲とは言え、一斉射での初弾命中というなかなかの腕前を見せたが、様子見を兼ねていたのか、すぐに二射目を撃ってはこなかった。

 しかし、砲撃を再開して以降は数える気も失せる文字通りの連続射撃に切り替えてきた。

 二秒に一発の間隔で放たれる砲撃はボルトアクションの小銃よりも早い。三○センチ砲が四門のディザストリアは八秒に一発の間隔で射撃できるらしい。それを五月雨に撃ち込めば二秒ごとに攻撃できる計算だ。

「結界は?」

 クルフが魔法使いの士官に尋ねる。士官は片手をコンソールの魔法陣に置いたまま答えた。

「持ちこたえています。同じ弾ばかり使われ続けると気味が悪いですね」

 一般的に結界は相手の攻撃があらかじめわかっている場合、極めて強固なものとなる。逆に相手の攻撃がわからないと、その効果は半減する。

「ミサイルには注意しろ、この距離だと迎撃は至難だ」

 なので、結界への攻撃はいくつも弾種や爆弾を併用して行うこととなる。受ける場合は動的に対応する必要があるが、それにはどうしても限界があり、魔法艦への攻撃はこの限界を超えた時に初めて効果がある。

 どうも敵艦は魔法艦に対する攻撃方法熟知していないようだ。それは朗報であるものの、それ自体がブラフである可能性も考えなければ、クルフの仕事は務まらない。

「こちらの攻撃は?」

「あと十秒、次弾で敵艦の結界は無力化できるはずです」

「うむ」

 クルフの口元にはまだ余裕が見えていた。

 大きさでは四倍もの差がありながら、マリアスは十分に持ちこたえていた。

 その理由は結界の強度が極めて高いことだ。マリアスには結界を操作する魔法使いが多数乗り込み、さらに最新の魔法に基づく結界とガスタービンエンジンからの電力がそれをさらに高めている。問題があるとするなら、マリアスの装備が贅沢過ぎることだ。後に試算されることになるが、マリアスの値段はディザストリアの倍以上高い。魔法艦の装備は大きさの割に効果は高いが、費用対効果の点で、現代型戦闘艦には及ばないの実情だった。

 一方で攻撃に目を向けると、対艦攻撃魔法の結界に対する効果は極めて高い。そもそも対艦攻撃魔法は結界攻撃魔法として進化してきた歴史がある。しかもディザストリアの結界はマジックアイテムであるため、構造を変化させる柔軟性に欠ける欠点がある。

「次で敵艦の結界を破壊する。だが、敵艦に戦意がある限り戦いは終わらんぞ!」


「どういうことだ?」

 ドウトは首を傾げる。直撃はすでに二○発を超えている。三○センチ砲とはいえ、その威力は第二次大戦時最大の四○センチ砲を上回る威力を持つ。それを立て続けに受けながら、マリアスが損傷を受けた様子はない。

「強力な結界を持っていると思われます」

 そう参謀が話す間にもディザストリアの砲撃は休むことなく撃ち続ける。その間隔は二秒に一発。敵艦に向かってこの砲が放たれるのをはじめてドウトは見たが、斉射のような圧巻はないものの、休みなく打ち続ける巨砲の連続射撃は一方的に相手を殴りつけているような間隔を覚えさせる。

「たかが巡洋艦に戦艦並の防御を施してなんになるのだ?」

「本官にはわかりかねます。ただ設計思想が異なっているだろうとは考えられますが」

 確かにマリアスの艦体は巡洋艦のものだ。ついでに言えば計上された予算も巡洋艦相応のものであり、魔法に素人のオムザートとしてもその性能が戦艦級であろうとは考えていなかった。

 しかし、オムザートはよく知るべきだった。マリアスが就航するさいに廃艦にされて装備の多くが移設された魔法艦が存在していた理由を。

「誘導弾用意! 弾種、対結界と対艦の同時使用」

 後部甲板に垂直ミサイル発射基が二〇基一六〇セルが格納されており、その火力は十分に大きい。ただし、誘導装置に欠点があり、最大捕捉数には制限があった。近代戦を知っている艦ならばセルの数を抑えてでも、誘導装置に予算とスペースを譲るのだろうが、そこは近代戦を経験していないオムザートゆえに仕方のないところだった。

「照準完了、撃てます」

「砲撃を一時中止、ミサイル、撃て!」

「発射します」

 六発の対魔法ミサイルと六発の対艦ミサイル、合わせて一二発のミサイルはいったん垂直に飛び出し、弧描きながら、マリアスの方へその弾頭を向けた。

「畳み掛けるぞ、砲撃再開だ」

「ま、待ってください、正面に輸送船です! このままでは射線に入ってしまいます!」


 エステルの甲板にはライアの姿があった。白いブラウスはそのままに、頭には風防も兼ねたフルフェイスの白いヘルメット、ブラウスの下にはプロテクタ付きの黒いズボン、腰には大きなポーチ、右手には伸縮式の警棒が握られていた。戦う格好の様に見えるが、明らかに異様な格好でもあった。よく言って素人くさい。

 スカートと髪留めでまとめただけの髪は強風に遊ばれているが気にしている様子はない。そもそも黒い髪はかつらだ。ヘルメットのおかげで飛ばされないだけで、それ以上いたわる必要をライアは感じていなかった。

 これらの装備は全てジョシアが持っていたスーツケースの中に入っていた。そのスーツケースにはジョシアの装備の短機関銃もあったりして、ライアはトワダ達の固まった瞬間を思い出す。

 ヘルメットにディザストリアの発砲炎を照り返させながら、視線はまっすぐに前、ディザストリアを見つめていた。

 マリアスはディザストリアに向かっていた。どんなに遅い飛行船でも三○○キロは越えるため、飛行中の甲板は立っていることさえままならない風速となる。だが、ライアは平然とした様子だ。よく見れば右手に持った警棒は淡い光りが宿り、魔法の効果を生んでいるのがわかる。ライアは風の魔法で気流を操作し、風速を弱めているのだ。

 ちなみにライアの魔法の杖はこの警棒だ。畳めばハンドバックに入る大きさながら、優れた打撃力とライア専用に仕上げてあるおかげで使いやすい。ただし、値段を聞いたらこれを打撃武器と使う一般人はいないだろう。

 ライアを上甲板に乗せたエステルは制止する駆逐艦を押しのけるようにして、ディザストリアの前に向かっていた。駆逐艦としてはエステルは素直に従うと思っていたため、対応が遅れていた。しかも、指令を出すディザストリアはマリアスとの砲戦に掛かりきりで指令が下りてこない。

 気がつけば、エステルはディザストリアの上方を交差する機動を取っていた。ディザストリアが進路を変えてかわせば済むのだが、ディザストリアは砲撃中のため安易な進路変更は行えない。

「酔狂だよね、こんなの」

 ヘルメットには無線も付いているのだが、生憎ディザストリアの電磁妨害のおかげで使えない。

 そうしているとマリアスから二射目の魔法攻撃が放たれた。

 目視ではディザストリアに直撃する手前で結界に阻まれてしまったように見えるが、ライアの感覚は結界と相殺したことを読み取っていた。それでも一部は貫通したらしく、ディザストリアの艦体に閃光が光る。

 しかし、相手は戦艦だ。結界がなくなろうとも強固な装甲がある。マリアスの魔法はそこで受け止められてしまったようだった。

 戦艦という船は強力な砲力と強固な装甲を売り物にしている。マリアスがいかに優秀でも、まともに相手をすれば無傷で済むとは思えない。そして傷つくのは軍人であり、ライアにとっての国民だ。

 一方でディザストリアが放ったミサイルはマリアスからの盛大な歓迎を受けている。右舷の使っていなかった魔法陣にはあらかじめ近接防御魔法が仕込んであったのだろう。飛び出した小さな光の弾の雨は、艦の上下に回り込み、左舷から飛んでくるミサイルに向かっていた。大半の迎撃には成功するものの、撃ち漏らし何発かが、容赦なくマリアスを襲う。砲撃とは明らかに違う爆発がマリアスを覆い隠す。ミサイルも結界で防ぐことはできるが、結界は確実に削られているはずだ。

 ライアは警棒に念を送った。

「マリアス、停戦せよ。従わなければ王家の忠誠を背いたものとする」

 念はマリアスに向けた停戦命令だった。魔法艦ならば送られて来た念が誰のものか識別するのは容易だ。それにこんな内容を送られてきたら、確かめないわけにはいかない。

 そうしている間にもディザストリアとの距離は近づいていた。マリアスからの返信を待つ時間はない。

「失恋したお姫様!」

 相対速度と位置からあらかじめ考えていた台詞を叫び、ライアはタイミングを計って駆け出した。

「飛び降りたー!」

 エステルの左舷からライアは飛び降りた。眼下は青い海が広がり、自由落下の無重力感が体を軽く感じさせる。

 飛び出したライアを受け止めるかのように、海との間にディザストリアが割り込む。高度差は約一○○メートル。相対速度では五○○キロ以上あるはずだ。

 そんなダイブをやってしまうライアも無謀だが、操作性の低い輸送船でそこまで接近したトワダの操船技術と度胸はそれ以上だ。いかにして報いるべきだろうかとライアは一瞬思いをめぐらす。

 もちろん、そのままでは激突してしまうから、魔法で慣性を操り、落下速度を抑える。魔法使いは単独で飛ぶことは出来ないが、怪我をしない程度に減速することは出来る。

 さらにディザストリアの浮き上がる慣性と進む慣性を自分に強く作用させる。艦の慣性制御の力を利用し相対速度を出来る限りあわせる。まるで風に乗るようにライアの体はディザストリアの方に向かう。

「そのままそのまま」

 思い切りスカートがめくれるのがわかるが、構う暇はないし、ライアにそれを気にする羞恥心はない。着地の場所は砲塔のすぐ後ろ。艦の中央に近いから狙いやすい。着地直前、砲塔で乱れた風の流れに揺さぶられ、バランスを崩す。体勢を立て直すまでもなく、背中から落ちる。

 着地の瞬間にはブラウスの裏地に縫い込まれていた防御魔法陣が発動し、衝撃を立ち上がれる程度まで和らげる。パラシュートの上位互換となるマジックアイテムだ。ただし、使い捨て。値段のほうは、比べるのが間違っている。

 ライアは安堵のため息をつく。不格好を承知で着たままでいた意味があった。

 歯を食いしばって立ち上がり、ポーチから手榴弾のようなものを取り出すと砲に向かって軽く投げる。

 普通なら風に負けて後ろ向きに飛んでいっていまうのだが、ライアはそこで魔法を使い、動きを操作、手榴弾は不安定な軌跡を描きながら、砲撃を中止させられていた三○センチの穴にホールインワンを決めた。


「艦長、空から女の子が降ってきます!」

 ニアミスするエステルを指さし、見張り員が声を上げた。

「バカが!」

 ドウトは目を疑った。頭のすぐ上を通り過ぎるエステルにも驚いたが、交差する直前にエステルから人が飛び降りたのを目にしてそんな言葉が出てしまう。

 こちらに飛び移るつもりなのかもしれないが、ここはテレビの世界ではない。この高度差と相対速度からまず助からない。

 案の定、飛び降りた人間はディザストリアの甲板にたたき付けられた。頭にはヘルメットをしているようだが、そういう問題ではない。よく見れば、スカートのような白いものがヒラヒラとはためき、黒い髪がなびいている。あのままでは風に飛ばされてしまうだろう。

「砲撃は待機のままだ、マリアスの様子はどうだ」

「マリアスは沈黙、魔法攻撃の兆候はありません。いえ、進路変更、離れています」

 エステルの無謀な行動に目をむいたのは向こうも同じようだ。

「よし、今のうちにあの死体を回収しろ」

 いくら自殺行為だとしても、もしあの行動が命懸けでこの戦いを止めようとしたのならば、死体であろうと無下にできない。それに戦いは仕切りなおしとなりそうだ。どうせお互いが進路変更を繰り返せば砲撃は当たらない。誘導弾はそうした問題とは別だが、問題のエステルがこんな近くにいては、万が一被弾させてしまうこともありえる。誘導弾はよく当たるのだ。

「待ってください、動いてます!」

「飛ばされたか?」

 と思ってドウトは見たが、そうではなかった。甲板に手をついたと思うと、倒れていた女性はたしかに起き上がった。

 艦橋から見ていた人間はみな呆気に取られた。

 一○○メートルの高さから落ちて平気な人間がいるはずがない。生きていたとしても、それは瀕死であろう。そんなことを思って呆気に取られていた時間は、わずか十数秒だった。しかし、落ちた当人のライアにはそれで十分だった。

「砲塔内で火災」

「なんだと!」

 実際は火災ではなくライアの投げ入れた発煙弾だ。煙検知器が反応しただけで全く危険はない。

「このままでは誘爆の恐れがあります」

 しかし、発令されたのは誤報とはいえ緊急事態。てんやわんやになったディザストリアが戦闘を続けることはできなかった。


「まさか本当に止めるとはなあ」

 つぶやきながら、トワダは展望室を見回した。比較的広く作られたエステルの展望室は、視界のよさもあり開放的な場所だ。

 ところが今、展望室は息苦しささえ覚えるほど手狭になり、加えて張り詰めた空気が支配していた。並べられた机を挟み、右手にマリアスの乗員、左手にディザストリアの乗員が着席し、その中央、上座とかお誕生日席と呼ばれる場所には澄まし顔のライアが座っていた。真っ白だったブラウスは煤けているが、気に留める者はいなかった。またその斜め後ろには当然のようにジョシアが控えている。

 つまり、エステルの展望室に集まったのは両艦の主だった士官なのだ。

 マリアスはライアの念を受け取った時点で即座に戦闘を中止していた。その乗員はライアに対してうやうやしい態度で接しており、それに応対するライアも慣れた様子だ。

 一方のディザストリアはこちらも下にも置かない態度なのは変わりなかったが、どちらかと言えばおっかなびっくりな印象だ。ディザストリアには乗り込んだ後に強引にドウトと会って正体を知らせたそうで、どう接していいのか手探りなところらしい。

 ついでに煙幕弾だけで戦艦を止めた手腕を見せられれば、軍人として強い感銘を受けないわけにはいかないらしい。軍人とは面白いもので、普段は規律を順守し、冒険的な行為は戒められているのだが、無謀であってもここぞというときの英雄的な行動はなぜか称賛されて、羨望の眼差しが向けられるのだ。

 場所を提供した責任者としてトワダもそれなりの立場なのだが、腕は確かでも所詮は一介の船乗りだ。一国を代表する軍艦の艦長とその部下が、さっきまで撃ちあっていた相手と同席するという場の空気には気後れしてしまう。

 机の上にはわざわざマリアスから持ち込まれた、いかにも高そうな磁器がなぜかジョシアの指示の下に用意される。

 そして、全員が席に着くと、香り高いハーブティーが注がれる。

 最初に口を付けたのはライアだった。

「よいお茶ですね、クルフ」

 マリアスの艦長が軽く礼をする。それを合図にマリアスの士官も香りを楽しみながらお茶を口をつける。

 トワダやディザストリアの乗員はそれを見届けてからやっとカップを手に取った。

 なんのことはない、用意されたお茶は友好的な意味合いでも、調度品を見せ付ける意味合いでもなかった。落ち着いた様子で座るたった一人の少女のために用意されたのだ。

 ライアの扱いと施された銀の装飾の具合から考えて、あまり考えたくない値段であろうことは想像に難くない。それでもその場にいる人数から考えて二○セット以上は用意されている。なにかついていけないものを感じつつ、トワダは美味しいと思うお茶を楽しむこととした。味などわからなかったが。

 ディザストリアの乗員も同じように感じたのか、文字通り割れ物を触るように恐る恐るカップを手にしている。

 こうして顔を合わせるのは初めてだが、すでに通信で自己紹介やあらかたの立場や目的の説明は済ませてあった。ここで話し合われるのは今後のことについてだ。

「まずはドウト艦長、今日は決定的な事態となる前に懸命な判断をしていただきありがとうございました」

 そうライアが発言する。彼女の考えなのか、それともマリアスからの助言なのかはわからないが、いま一番強い発言件を持っているのは彼女だ。

 そのため、始まって早々にフィセルド側のペースで場は流れていた。この流れをひっくり返すことは、まあ無理だろうなとトワダは思う。

「はい、事情を知らないためとはいえ、無礼な対応してしまい申し訳ない。わかってさえいればこのような不幸な事態にならずに済んだものでしたが」

「お互いの誤解も解けたわけですから、いいのですよ」

 最初の印象とはまるで違うのに、ライアはまるで自然体でいるトワダには見える。

「さようです、おう……いえ、ライア様も今回のことは水に流すと言ってくださっています」

 ライアの呼び方を何故か間違えそうになりながら、クルフが助け舟を出す。マリアスはライアの正体をまだ隠し続けるつもりだが、どうしてだろうか。

「はい、面白い体験が出来ましたわ」

 ティーカップを片手に、皿をもう片手に持ち、無垢な少女の笑みで答える。後ろに控えたジョシアは服装こそジーパン姿のままだが、出で立ちは専属支給のようで二人の姿はよく様になっている。

「しかし、ライ……アさんはいつまでその姿を続けるつもりですか? すでにディザストリアの主立ったもの先程正体を聞いていますし」

「そうですよ、ライア様。そろそろ、孫とも姫様とも見えない真似は終わりにしてはどうでしょうか。戯れが過ぎましょう」

「いまさらやめられるものですか」

 非難めいた口調だったが、その直接に口元を隠すようにカップを口に運ぶ。視線を下げた顔が、明らかに照れ隠しをしているのがわかり、一同に朗らかな笑い声が上がった。

 それにかぶさるように展望室のスピーカーからライネンの声が響いた。

「船長、失礼します」

「どうした、ライネン」

「次元移動の反応があります」

「それならば」

 ドウトが声を高くして、答える。

「報告は来ています。大丈夫、少なくとも敵ではありません。国連軍ですよ」

「大型船舶が次元移動してきます、推定質量……10万トン!?」

 展望室の真っ正面、エステルから見ればちょうど真後ろに当たる位置に光の輪が現れた。


「次元移動航行終了」

 戦艦レキシントンのCICでは、SPY-1の捉えた船影をコンピュータが自動的に照合、正面のモニタに船名と位置関係を表示していた。

 CICの正面モニタをハリトン艦長はじっと見つめていた。

「艦長、エステルとマリアスを確認」

「さらに不明艦三、照合中」

「状況は?」

「いえ、それが……」

 言いにくそうにオペレータが報告をする。

「不明艦の一隻はディザストリア、他はオムザートの駆逐艦です」

「エステル、マリアス、ディザストリアは接舷しているようです。戦闘している様子はまるでありません」

 続いて、黙視による報告が上がってきた。

「ディザストリアに披弾の形跡、マリアスにも戦闘の結果らしい汚れが見えます。しかし、戦闘は完全に終了している模様です」

 中央に仁王立ちのまま固まってしまったハリトンに砲術長が声をかける。

「完全に出遅れましたね、艦長」

 ハリトンから返事はない

「艦長?」

「急速潜航、用意!」

 やけっぱちなハリトンの怒声がCICに響き渡った。


 突然現れたのは巨大な戦艦だった。

 展望室から見上げる位置に現れたレキシントンはまるで威圧するかのようにその場に停船していた。

「ディザストリアの倍はあるかしら」

「ざっと二.五倍です、ライア。米軍のレキシントン級巡洋戦艦です」

 事もなげにジョシアは答える。ライアにはそうした艦名などとてもわからないが、とにかく巨大なことと、五つもある巨大な砲塔にディザストリアよりもずっとすっきりした平面構成の船体、マークも書かれていない特徴的な板から科学文明の新鋭艦ということはわかる。

「こうして見るとディザストリアは意外に小さいですな」

 白いひげをなでつつ、クルフがドウトへ言った。

「はい、マリアスも駆逐艦にしか見えないですね」

「小さくて小回りの効くのが我が艦の売りでしてね、それにディザストリアに防御力では負けませんよ」

「そうだったとしても、実際には戦えば時間稼ぎにしかならんのではないですか?」

「まあ、相手にしたくないのは認めましょう」

「それは全く同意です」

 二人の艦長はレキシントンを出しに剣呑な会話を繰り広げる。乗員たちは聞き耳はたてているが、混ざる様子はないし、そんな話へ混ざりたい乗員はいない。

「あ、落ちる」

 ライアがつぶやくようにいう。

 次の瞬間、レキシントンは糸が切れたように、まっすぐ下へ落ちていく。

 おもわず展望室の窓に駆け寄り、ライアは落ちるよう様子をしっかり見つめる。見ているとやや違和感がある。着水直前に減速したようだ。思ったタイミングと落ちるタイミングが少しずれる。そして着水と当時に盛大な水しぶきが上がった。

 もしも飛行機そんな真似をすれば機体が破壊される。しかし、飛行艦にそんな心配はいらない。無理な着水や着陸には体当たりの魔法を応用して、船体のダメージを防ぐからだ。本来は古い時代の魔法艦が衝角の代わりに備えていた機能であり、墜落の際には、自艦の衝撃を全て地面や水に逃すことなる。

 ただ、一〇万トンの戦艦が空から落ちてきた時のエネルギーが海水に与えられ、膨大な熱量と衝撃を加えられた海水から盛大な霧と水しぶきが立ち上がる。

 水しぶきが消えたころにはレキシントンの姿は海中へと消えていた。


「なにしに来たのかしら?」

「戦闘をしているのをかぎつけたのかと思います」

 首をかしげるライアにジョシアがたぶん、と前置きをしながら説明をする。

「でも戦いは終わってた」

「はい、逃げたんでしょうね」

 遅れて来た騎兵隊は、笑いの種になるだけだ。

「米軍には面白い人がいるのですね」

 ライアの感想に、一同苦笑するしかなかった。


 今回のことは、高度に外交的な事柄となるため結論や保障は先送りにされた。また戦闘をしたという事実は当分は伏せることになった。いずれ国交が正常化すれば公開されることになるだろう。

 ただ、ディザストリアの艦長ドウトはライアに対していつでも力になるとの約束をした。新鋭艦の艦長であり、オムザート軍でも実力者なのは間違いない。

 乗客について幸いにもエステルの乗客はオムザートとフィセルドの国民だけだったので、両国がそれぞれに今回の保障と口止め料を払うことで合意した。

 そして、完全巻き込まれた立場の民間船でありながら、戦闘をやめさせるという殊勲を手助けしたエステルは……

「船長、今回の船旅は大変楽しいものでした。機会があればまたいずれ」

「いつでも、ライア」

 エステルとマリアスには桟橋が渡され、ライア達はマリアスへ移るところだった。

「あなた方の活躍には心からお礼申し上げます。つきましては、私達の私的なパーティーに招待したいと考えています。いらしていただけますか?」

 期待を込めた少女の視線を正面に受けて、断ることの出来る人間はいない。

「ありがとうございます。それとこちらを。ジョシア」

 ジョシアからライアに手渡され、それをまたライアからトワダに渡される。それは一枚のカードだった。表にはマリアスの軍艦揮と王家の紋章、裏返すと小さな文字が書いてある。

 その文字を読んだトワダは目をむいた。それは通行手形であり、フィセルドでは軍艦同等の扱いとなることが示されていた。

 いたずらが見つかったときのような、はにかんだ笑顔。そんな表情を隠すようにきびすを返して、赤い絨毯が敷かれた桟橋をジョシアを従えて渡っていく。

 ライアがマリアスに到着すると桟橋は何の駆動装置もないのに、ひとりでに折り畳まれて、マリアスに格納された。

「ライネンさん、またゲームを見せてちょうだい! 船長もまたいい旅をご一緒しましょうね!」

 ライアが声を上げた。

「腕を上げておきましょう、その時は一緒に!」

「ああ、いつでもおいで! 待っている」

 マリアスの扉がゆっくりと閉じる。ライアは姿が見えなくなるまで手を振っていた。

 その後、マリアスはフィセルドへ、ディザストリアは一旦陸地から離れて軽微とは言え、損傷を偽装するために離れる。そしてエステルは定刻よりも随分と遅れながら、オムザートへ向かった。


「ところでライアの正体って、わかるか?」

「……まさかお気づきになっていないのですか?」

「ライネンは気がついていたのか?」

「ええ、会議の話は聞こえてましたし、そこから予想すれば王族の誰かもすぐに」

「なん……だと」

 ライネンは船橋の端末を操作、以前のニュース映像の一覧を表示して、ある映像を映し出した。それはフィセルド王家の一同に介したときの映像だ。

「ここです、この端の」

 トワダは目をこらす。そこにはたしかにライアがいた。丸みのあるかわいらしい顔は見間違うはずがない。ところがその服装は男装で髪は短い銀髪だった。

「フィセルド王国第四王子、ライシス・フィセルド王子です」

「そうなのか、って王子!」

「女王陛下によく似て、とても愛らしいお顔だちでしたからね」

「王子ってことは男か。いつ気がついた?」

「クルフ艦長の様子ですよ。王族であるのは間違いないですが、姫ではないとすると王子としか思い当たりません」

「なんとまあ」

 ため息混じりに言う。

「女装が趣味とはなあ」

「変装ですよ!」

「わかってる、なあ、そこで突っ込まないでくれよ」

先に読まれると思うのでネタバレはなしで書きます。

物語の舞台装置は以前自分で考えたものから流用していますが、単体で読めるように作られています。

軍事的な描写が多く、読み手を選ぶ傾向がありますが、本筋は一人の魔法少女の奮闘記です。伏線を回収していけば、途中で落ちは見えてくるはずです。

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