遠足の落とし穴
5月9日。今日は絶好の遠足日和。翔哉くんとは同じ班ではないが、近くにいれば、なにかしらのアピールはできるはず。
そうはいうものの、バスの席もかなり離れている。
通路側に乗り出して見てみるも、後ろ姿が半分見えるくらいだ。
翔哉くんがどう思っているか分からないのに、私ばかりが焦っている。
「後ろ姿まで眺めちゃって、もう告っちゃえば?」
聖依が耳元で囁く。
「うわぁ!?」
私の声にみんなが注目する。言葉にもできず赤くなる。
「あ、みんな大丈夫。何でもないでーす」
聖依が代弁してくれたが、いったい誰のせいで大声出したと。
それに告白なんて、早過ぎる。前は長いこと近づいていたのにダメだったんだから、この時期に翔哉くんの心をつかめるはずもない。
「こ、告白なんて……。せめて、もう少し先の……」
ここで、言葉が詰まった。
そう言えば、今の私はいつ告白しようと思っていたのだろうか?
いや、違う。少しずつ気を惹かせようと思っていても、心の底では失敗の恐怖から逃れようとしている。
「焦っちゃだめだよ、努力が大事なんだから」
聖依は窓の方を見ながらそういった。
さっきは早く告れとか言って、どういうつもりかと思ったが、少なくとも私の目に映った聖依の横顔は本当の顔をしていなかった。
「ごめん。優ちゃん本気で好きですごい悩んでるのに。冗談でもあんなこと言っちゃダメだよね」
外を眺めて聖依はそう続けた。聖依がこんな行動を取るなんて思いもしなかった私には、幼馴染の感覚がしなかった。まったく別人のような、そんな感覚。
けれどもそれは、すぐに何処かへ行ってしまった。
目的地に着くと、分けた班ごとで対抗オリエンテーリングだ。
地図に書いてあるアトラクションとクイズに答えて先に進む。何通りもの行き方があるため、別班との駆け引きや情報交換もできる。
「それではみなさんグループ対抗オリエンテーリング、スタートです!」
実行委員の言葉で一斉に始まった。
ここは一つ、1位でゴールにつきたいところだ。
「さぁみんな! 早く行くよ!」
やる気が最頂にまで達し、1位になる自信まで出てきた。
これなら翔哉くんにすごいと言われられる。
だが、この私の考えはすぐに捨てるべきだったのだ。
それにも気づかず私は……
結局私達の班はぶっちぎりで1位だった。 チェックポイントからチェックポイントへは走って移動し、クイズやアトラクションの時間を十分に稼げたと思う。先生たちも褒めてくれたし、5月にして良い方向に向かってる気がする。
全班到着後、班長の集まりがあった。
私はもちろん、翔哉くんも班長だったので、話をするまで、気持ちの高ぶりは収まらなかった。
「ねぇ翔哉くん。私達の班1位なんだよ! 先生たちも褒めてくれたしー」
翔哉くんからはすごいと言われる事だけを考えていた。
だけど違った。普通に考えればわかるはずなのに、どうして私はこうも頑固だったのだろう。
「1位? オリエンテーリングって順位なんて関係あったか?」
私はその答えに戸惑いを隠せなかった。
「えっ? い、いやないけど……。でもすごくない!? ぶっちぎりだったんだよ?」
無意味なアピールを続ける。
「順位に拘る必要なんてなかったと思うけどな。それは班の奴らも同じ考えだったのか?」
その質問に頭が真っ白になった。どうして気づかなかったのだろうか。まったく周りも見ずにただひたすらに無意味なモノを追いかけていたなんて。
「班全員でそう考えたならいいけど、押原だけの考えならそれはどうかと思うぞ」
そう言って彼は行ってしまった。
たしかにゴールした時のみんなの顔、私とは全く違うものだった。この日1日中私の悪いところしか出てなかったということなのだろうか。
「ごめんなさい。本当に私、自分勝手で……」
お昼に班のみんなに謝った。
みんなは今の今まで何も言わなかったのだが、私が自分から謝ったことで許してくれるそうだった。
「希優、次は気をつけろよ。次自己中やったら絶交だからな!」
桃奈にはみっちり説教された。だけど私はこの日を最悪とは思わなかった。むしろ私が成長した最高の日だと、思うようにした。
お昼ご飯の味は少ししょっぱかったけれども。




