今の私と過去の聖依
「おはよう希優。お前も今日から2年生なんだってなぁ」
その言葉と人物で過去に来ていることを確信した。私が洗面所に行く途中で兄貴の竜希が話しかけてきた。
本来なら野球部に入って私が起きる20分前くらいには家を出ているはずだからだ。もちろんココでは兄貴は高校生活2日目。部活などまだ入ってないに決まってる。
「おはよう、兄貴」
1年近くも家族と朝の会話をしていないと新鮮に感じてくる。
それだけ私も家族に冷めていたのかも知れない。
洗面所で支度を済ませ、部屋に戻って制服に着替える。
制服も2月と比べやはり綺麗だ。一度経験した出来事とはいえ、何かしら緊張するものがある。
この1年どんな行事があるか、どんな出来事があるか、私は知ってる。知ってるけれど、神とやらが言った通り、何かしらの変化が起こっているのだろう。だがまずは翔哉くんに好かれる行動をしないといけない。
いつも母が出る前に用意してくれている朝食を食べ、いつも通り最後の鍵閉めをする。 兄貴は多分私が洗面所使っている時にでも出たんだろう。まぁ気にすることでもないけど。
「いってきます」
いつもの公園、そこにはいつも通り聖依が待っていてくれた。
「おはよう、優ちゃん! 」
変わらない元気な挨拶。
「おはよう、聖依」
朝一じゃないおはようも久々だ。
たった1年前にやってた事なのに新しい事のように思えてしまう。それだけ私はこの1年間を翔哉くんのことだけを考えていたのかもしれない。
そんな事を思い返している時、聖依から驚きの言葉が飛び出した。
「優ちゃんそんな背大きかった? 昨日遊んだ時は私とそこまで変わらなかった気がするんだけど」
全くそんなこと聞かれるとは思ってもいなかった。だが、よくよく考えればわかることだ。この1年間の記憶があると言うことはつまり、私だけが身長から知識、体力まで今から1年後の状態のまま時間が戻っているだけなんだ。
「優ちゃん? どうしたの、考え事なんかして。てか身長、やっぱ高くない? 」
さっきの聖依の質問さえ返すことなく考え込んでいたのにやっと気づく。たしかにこの1年で急に身長伸びたのは間違いない。だがまさか140cm代の聖依と去年まで同じ身長だったとは。
「そ、そう? 気のせいじゃないかなぁ……。昨日夜めっちゃ牛乳飲んだしそのせいかなぁ」
なんという下手な嘘をついてしまったのだろう。幼馴染みにこんな嘘が通用するわけがない。聖依は頭いいし、早速私がここの私じゃないってバレるかも知れない……!
「そっか、まぁいいや。っていうかさ! 昨日のドラマ見た? 」
まぁいいやなんて、明らか怪しいと思っているのだろうけど、聖依にとってはそこまで気にすることでもなかったのかもしれない。
それにしても、1年前にハマっていたドラマなんてすぐ思い出せるほど、私の記憶力は優れていない。せいぜいどんな行事があったかくらいだ。
「ごめん、昨日はあの後すぐ寝ちゃってさぁ……」
適当な誤魔化をして聖依の様子を伺う。見下ろす視界にはちょっぴり残念そうな、だけど何か別のことを考えているような顔が見える。
私だけ、昨日の記憶がココと違っている。だが昨日関わりがあるのは聖依くらいだと思うし、うまく誤魔化せるかもしれない。と、言っても早速私の変化に怪しげな表情を見せているわけなのだが。
まぁこれで、人の感情が変わるという時空神の言葉が、私が実際見てきた人たちの言動がここでは違うものになると言うことでいい気がしてきた。
そうじゃなきゃ、聖依が私の身長に気づくわけもないし、怪しむこともないだろう。
いつもの坂を登り、頂上の学校を目指す変わらない風景。
私達より前を歩く人たちも、 "同じクラスだといいね" なんていう初日のよくある話でもしてるんだろう。
でも、私は知ってる。誰と同じクラスになって、誰と違うクラスになるかも。
「今年も優ちゃんとクラス同じかなぁ」
聖依が不安そうな声を上げる。そんな事気にしなくてもいいのに。
「同じだよ、クラス」
心の中で言ったつもりが、つい声に出してしまった。
「え? 優ちゃんなんでわかるの?」
さすがにマズい。私のココでの適応力があまりにもなさ過ぎる。
このままバレたらマズい? いや、時空神はそんなこと言ってないし……
「優ちゃんさっきからなんか怪しい。も、もしかして……! 」
あぁ、ダメだ。これはもうバレたにちがいない。ここはもう正直に話して、聖依には早速協力者になってもらおうか。
「占い師だったの?」
心の内を明かそうとした私をギリギリで止めてきた聖依。
まぁ幼馴染みなのにいきなり未来人なんて答えに辿り着くわけないか。
たしかに占い師や予言者のほうが現実性がある。
「いや~なんというか、言い切ったほうが本当にそうなりそうだからさ! それに全然占い師とかじゃないよ私。」
私の切実で純粋な願いだと思ってくれれば、これ以上深入りされないだろう。
「でもそういうこと言っちゃうと、違うようになったりするよね…… 」
ちょ、それな言っちゃダメなやつだよ。確定事項とはいえ、心配になっちゃうじゃないか!
いやでも、人の感情で変わるというのはクラスを決める先生の感情まで、変わったら本当にクラスが違うものになるのだろうか? そこまで広く感情変化があるとすれば、一度2年生を経験しているなんて関係なくなってしまう。
「だっ、大丈夫だよ。そんなことないって! 」
たぶん、ね……
「はぁ、よかった……」
新しいクラス表をみて安堵する。
というか、よくよく考えれば、クラス振り分けは春休み中にするだろうし、私の知らないクラスになるわけがない。
教室に入りすぐさま辺りを見渡し、翔哉くんを探す。見つけたところで彼は既に席についていた。
さて、どう声をかけるか。
この時点ではノートを拾ってもらったきりのはず。いきなり馴れ馴れしく話しかけるのは相手を困惑させるだけかもしれない。
「あ、もしかしてあの人? 優ちゃんが一目惚れしたって言ってた人って」
耳元で聖依が囁く。
そうか、聖依が翔哉くんを見るのは初めてになるのか。
適当に発言していると、何処かでボロが出るかもしれない。そこは、気をつけないと。
聖依の問いに頷く。
「じゃあ早速話しかけてみなきゃね! 第一印象大事だよ? あ、一回会ってるから違うか」
そうは言っても、一度失敗しているが故、声をかけるのさえ慎重になる。
「話すのは、始業式終わってからにするよ」
少しだけ猶予が欲しかった。ただ一緒いるだけじゃ翔哉くんは落とせない。
だからこそ、考えた第一声で挑まないと。
「そっかぁ、でも好きになったからには、絶対掴まなきゃだね! 」
式も終わって、教室へ帰る。だが私たちは何故かプリントを抱えていた。
「ごめん、聖依に手伝わせちゃって」
「いいよいいよ。気にしないで~ 」
この経緯を簡単に説明すると、1年のときの担任と今年の担任が同じだったからである。
1年の時、私は配達係と言う名の雑用を任されていたので、ついでにやってくれと式のあと直ぐに私に言ってきたのだった。
「はぁ、重い。なんで2年になってそうそうこんな仕事しなきゃいけないのさ」
愚痴を漏らしながら歩く私に同情してくれる聖依。
そんなとき、別の声が私たちに声をかけた。
「手伝おうか? 」
そう、優しく手を差し伸べる声。
私が聞き間違えるはずがない。
あの時のように翔哉くんは声をかけてくれたのだった。




