赤い小指
7話目です。
次の話はエピローグになります
隣の席はいつも空席だった
私は小指を見つめる
私は今でも彼と繋がっている
小指にかかる赤い糸が其れを証明する
…ネぇ、アイたい
「私もよ」
…はヤくおいデよ
「私も会いたい。」
最近は向こう側の彼の声も聴こえるようになった
赤い糸が私達を繋いでくれていた
私は愛しさを含んだ眼を彼に送る
「…もうすぐ会えるからね」
私を責める声は日に日に高まる一方
このままだと、私は殺されるだろう
でも…いいの
だって彼が呼んでる
愛しい彼がこの先で
私はクラスでも比較的仲の良かった女子に呼び出された
私の味方をしてくれるのではないのかと抱いていた微かな望みも消えて失せた
… まあ、その方がすっきり死ねるだろう
自暴自棄に似た想いが湧く
先日取り壊しの決まった旧校舎
…ここで私は死ぬのか
胃が重くなり足がガタガタと震える
…大丈夫
私は赤い糸を見えるように目の前にかかげ、深呼吸する
…大丈夫
私には、彼がついてる
そう、彼にもうすぐ会えるんだから
笑顔でいなくちゃ!
旧校舎の廊下は年期を抱えた空気の圧迫感がした
呼び出された教室からは明かりが漏れている
廊下の空気すべてが暴力的な力で全部あの教室に集まっているような気がする
そう感じると私の体温はそのエネルギーに引き寄せられたかのように体から奪われた
息が詰まり、過呼吸になりそうなのをグッとこらえる
…大丈夫
もう、ココまできたんだ
…笑顔で―
踏み出そう
今まで笑顔になろうだなんて考えたこともなかった
初めての其れは彼のため
私と彼の世界への―
一歩
その瞬間
怒号と共に無数の手が伸びる
私は
笑顔で飛び込んだ
部屋にはクラスの全員がいたと思う
私はすべての人と話したこともないし顔を知ってるくらい
だけど、彼らは一様に顔を憎悪に歪ませ、
私を苛んだ
始めに腹部を鈍器の様なもので殴られた
引きずり回され複数の靴が私を踏みつけた
絶叫と怨恨の渦
私は正に渦中の人だった
叫びも痛みも
私の願いも彼への笑顔も
溶けて混ざってすべて渦へ
私―すらも分からない
いたい―痛――
―たしはそのなか―いた
なに―いっ―るの?
―べては混―り―って
―か―ない
もう、―――らい?
じか――なにも
―――ない
「ヴヅッ…」
急に意識が戻った時、私はまだ教室にいた
最早身体があるのかすら、わからない
それでも目と耳だけは鈍脳ながら目の前を顕した
私は教卓に座っていた
両腕をつき出すようにして縛られてながら
其れを眺める様に席に座る人達。
私はぼんやりと席がほとんど埋まっているのをみてクラスの全員がいることを知った
埋まってないのは後二つ
「ヴッグッッググググ」
喉が潰されたのか嗄れた音が出る
「ゴデェヴォモ、ァイザワグンドイィィジョダ!!!!!!」
潰れた声で、私は勝利を宣言する
しかし―
「「「サセナイ」」」
クラスの声が木霊の様に広がった
一人が席から立ち上がる
クラス委員長の矢津原だった
「なぁ…何で相沢と死のうとした?
死ぬならお前だけで死ねば良かったのに」
また誰かが立ち上がった
「私、知ってるよ。
あんたのおまじないのこと」
そしてまた一人、また一人と立ち上がる
「小指に赤い糸を結んで死ぬ話」
「恋人同士が結んで死ぬとあの世と来世で一緒になれる」
「あんたが脅して相沢君を巻き込んだだろうがそうはさせない」
クラスの皆が立ち上がっていき私に詰めよってくる
…なんと言われようと、私は彼の真実と彼を知っている
朦朧とする頭に微かに血が巡る
ふつふつと沸き上がるそれは怒りではない
―もうこいつらが何を言おうが関係ない
それはもはや愉悦だった
―もう、私は彼と繋がってるんだ
ただし―
「小指があればな」
…ェ
そこまで言われて初めて彼らの“処刑”に気づく
…マッテヨ
私の目から涙が溢れる
後ろから誰かが大きな物を運んできた
作業台に分厚い鉄の棒でできた刃がついた
それは《裁断器》だった
「ヤメロ゛ッッ!!!」
初めて私は抵抗し逃れようと暴れる
皆は悦に入った笑みを私に見せた
私の教卓に固定された腕を掴み小指を
裁断器に押し付けられる
「ゾンナ゛ノッッ!!」
もう会えなくなる?
やめて
やめてやめてやめてやめてやめてやめろやめろヤメロ
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「モウ
ニドド。
アイザワクンニ逢ワセナイ。」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
何で…?
私、ばっかりこんなの?
おかしいよ……
「ノロッッッッデッッヤル!!!!!!!!!!!」
私は腹の奥底から全て吐き出し叫んだ
裁断器が下ろされる刹那。
相沢君の陰が浮かんで…
消えた