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エクエス  作者: 伊燈秋良
14/17

第013話 炎は力で何処までも

 爆発――それは人類の文明の象徴とも言える電気と並ぶ現象である。


   爆発の素となり、人間が爆発を生み出す際に必要な物である爆薬・火薬が初めて生み出されたのは6~9世紀の中国・唐の時代と言われている。それから13世紀の鎌倉時代、日本を侵略しに来た蒙古モンゴルが〝てつはう〟と呼ばれる、火薬を込めた投擲兵器を用いて日本へと侵攻、猛威を振るった。その一方、中東侵攻時には長柄の先端に火薬を入れて火を付けて相手にぶつける〝火槍(かそう)〟や、ロケット花火の要領で矢を飛ばした〝火箭(かせん)〟が用いられた。そしてその技術は更に西のヨーロッパに伝わり、銃や大砲が生み出され、日本にもそれが伝来する。


   大砲はそのもの自体は、攻撃力が無い建物や船舶では重宝されるも、銃は持久力や瞬発力の悪さから白兵戦では牽制・支援の領域止まりだった。だが、後に火薬は威力増加・無煙・消音と改良され続け、限界まで強化されたと言われた現代では、配置・形状の工夫と、技術向上によるに技術・設備が充実し、大砲は更なる性能向上を、銃は第一線で活躍する最強の威力を有する兵器へと進化した。


   その後は電子技術の発達で、大砲とは違いその威力を爆薬による爆発に置き換え、遥か彼方の目標を一寸の狂いなく狙い撃ちするミサイルの出現により、戦いの在り方は大きく変化し、それに順応していった――あの生物が現れるまでは――。




   ~5月10日 水曜日 14:17 インドネシア ティモール島~




 砲弾を受け止めた肉は肉片となって砕け散るも、本体への直撃は阻止した。肉は再度棒状に伸びて腕の様になり、グチャグチャの肉の断面は出血が止まって組織を覆い隠して手に変化した。穴の開いたもう片方も、同様に肉が伸びて腕を形成する。後ろ脚、そして腕の様な前足を得たファルマコは咆哮を上げた。


 爆炎と共に木っ端微塵になる、異形になったティラノサウルス型ファルマコの肩から生えた巨大な腕は、断面を膨張させて元通りにした。背中の外殻の大きな割れ目から生える、全身を隠す程の極太の腕はドラゴンを彷彿とさせた。


 落とし穴で動きを封じた上で、戦艦の主砲による第1射とハープーンと合わせての挟撃による第2射によって瀕死まで追い込んだというのに、異形の竜は穴から這い出ると、まるで自身が先程の個体とは別物と言わんばかりに怒涛の咆哮を上げた。


 そこには先程の弱った姿は微塵もない。小斉本は奥歯を噛み締める。これに似た状況はあった。今年の一月の北海道千歳市でのクマ型ファルマコと同じ。その時はファルマコは首を切断していた等差異はあるが、共通してファルマコ側が生死に関わる程の劣勢に陥った時だった。異形へと変態した際に齎されるファルマコの変化は、圧倒的なまでの凶暴性と戦闘力の向上。


 ティラノ型ファルマコは、砲弾で更地になった大地を巨大な手で掴んで白いヴィレッジ駆け出した。元々の脚に加え、全長と同じ大きさで鞭の様にしなる剛腕と合わせた4足歩行は、砲撃の爆風から逃れられる距離を一瞬で肉迫した。スタートダッシュの土を蹴る踏み砕く音と同時に、巨大な拳が機人の目前にまで襲い掛かる。


「ちぃッ!!」


 小斉本は咄嗟に機体の身体を捻って回避する。胸部の装甲が腕に掠り、振動で機体が揺れるも歯を食い縛って受け流し切って距離を取った。向き直すと、ファルマコはそのまま遠くにいる他のヴィレッジライトへと向かって行った。


「俺は無視か!!」


 右手に持った剣を肩にマウントして突撃銃に持ち変えて背後から弾丸を浴びせる。しかし、ファルマコは背後から攻撃を受けているが一切小斉本機に気を向けずに他の機体に拳を浴びせ続ける。ダイナミックな動きと、大きな腕を軸に逆立ちやターンピック等のアクロバティックな動きで圧倒。一度距離を詰められれば再度距離を取る事が出来ず、直撃をガードすれば腕が砕け、避けようにも動きが固く反応が鈍い。


(皆の動きが――動きがぎこちない、機体が限界か……!)


 ファルマコは振り返って小斉本機と向き合う。巨大な体格から想像もつかない速度で振り被られる腕を紙一重で避け切って腕に攻撃して足下に回り込む。滑り込みながら振り返り、ファルマコの身体をよじ登って背中から生える左腕の付け根に剣を突き立てる。


 剣の柄を両手で握り込むと、右から巨大な拳が巨人を振り落とそうと襲い掛かる。初撃は避けるも二回目の裏拳で機体を叩き落とされた。ヴィレッジは地面に落とされるがすかさず立ち上がって追撃を回避して回り込もうとした――その瞬間。割れる音が響いてヴィレッジが勢い良く大横転してしまった。


「しまッ!? ――右膝関節破損ッッ!!?」


 機体を起こして立ち上がろうにも、動かぬ右膝から下がだらりとなって動かない。頭上からファルマコが拳を振り下ろす。――が、顔が爆炎に包まれよろめいた。


(攻撃……?)

『こちらホワイトファング3、戦線に復帰します』

「雲井か!」


 2時方向からやって来たのは、右前腕が欠損したパングゥだった。爆発した箇所が顔だったからか、動き鈍る恐竜型ファルマコの隙を突き、パングゥはヴィレッジライトを抱き上げその場から退避した。


『後方で退避した方は補給を終えてます。後は任せて下さい』

「ああ、後は頼む……」


 隊長機を退避させて戦闘区域の海岸へと戻るパングゥ。身体に付けた武装がガチャガチャと音を立てながら向かう先にある彼方の目的地には、戦線復帰した他のヴィレッジ達が戦っていた。目の前に映るのは縦横無尽に暴れ回る暴君と、ギリギリの距離を行ったり来たりするロボット達だった。


『こちらブラックシェル1。ファング3聞こえるか?』

「こちらホワイトファング3、聞こえます」

『総隊長のホワイト1の小斉本が戦線離脱した以上、俺が代理指揮を行う。指示に従え」

「了解」

『状況は芳しくない。相手はデタラメな動きで掠り傷すら付けるのが辛い。だがここまで動けば相手も消耗しないとは限らないが、放っておけば甚大な被害が起きる。ここで撃破する』

『こちらホワイトファング1。……雲井聞こえるか?』


 小斉本の声は、長時間の戦闘故か掠れて聞こえた。


「隊長……」

『敵は背中から生えた腕は……柔らかかった。外殻に覆われていない。付け根を狙えば致命傷で動きを止められるかもしれない……一瞬を突いて砲撃すればあるいは倒せるかもしれない。戦艦の方には連絡を入れておく』

『分かった。お前は休め』

『すまない……』

『ファング3、現状では一番機動力があるのはお前だ。やれよ』

「了解ですッ……」


 通信を終えたと同時に、パングゥは戦域に到着した。


(イザナミさん。腕はあと何回飛ばせそう?)

(右手は1回だけ、左手は2回だけです、はい)

(分かった……!)


 パングゥはファルマコの視界に入らない様、背後から接近した。怪物が剛腕を振り下ろしている相手は青いヴィレジライト――ブルーテイル隊の隊長機である。


『お! 来たなリア充ッ――ととっ!! 作戦は聞いてる、あいつ行動パターン変わって俺に夢中になってる、お前後ろからロデオしろ!!』

「ホワイトファング3、了解っ」


 赤いヴィレッジは大地を砕く連打と、それに伴う振動と飛び散る瓦礫を掻い潜って手首を切り付ける。その一方、パングゥは後ろ脚を駆け上って背面に乗る。それに気付いたファルマコは、ヴィレッジ目掛けて前転して押し潰そうとする。


 押し潰されまいとヴィレッジは回避、背面のパングゥは前転の勢いで振り落とされてしまった。両者は受け身を取って体勢を整える一方、ファルマコは間髪入れずに追撃を仕掛けた。巨大な腕を軸に向きを変え、腕をしならせ力の限り振り被る。


 空気を乱暴に切り裂く濁った音と共に、大地とスレスレに振られた腕は突出した瓦礫と土砂を薙ぎ払い、巻き込み巻き上げながら攻撃する。ヴィレッジは手にした振動剣の刃先に手を添えて、迫る剛腕とタイミングを見計らい、剣の腹を当ててそのまま回転しながら乗り越えた。対してパングゥは回避出来ずにモロに攻撃を受けるが、咄嗟に剛腕を掴んでしがみ付く。

『おまッ、無茶すんな!』

「ですけど、これでぇぇえッッ」


 腕が振り切られた一瞬の硬直、何とパングゥはファルマコの正面に飛び出した。手にした円筒を恐竜の鼻先へと手を向けた瞬間、強烈な爆音と閃光が迸り、ファルマコがこの世のものとは思えない絶叫を上げた。


『――んなッ、何だ、閃光弾!?』


 突然の閃光と炸裂音だったが、小野は閃光が見えた瞬間、強化された反射神経によって瞬時に機体のセンサーの接続を切って回避する。再度センサーを起動すると、目の前には先程まで暴虐の限りを尽くして暴れていた恐竜型ファルマコが苦しみもがいていたのだ。通信が入る。ブラックシェル隊隊長の岳谷からだった。


『小野、聞こえるか? 今、音が聞こえた。恐らく新兵器の〝電磁パルス(EMP)スタン〟だろ。さっき大野口から送られて来た。至近距離でファルマコにぶつければファルマコを怯ませられるらしいが効いたか?』

『効いてるには効いたけど……雲井、大丈夫かっ!?』

「大丈夫です……他の皆さんは退避を」


 返事を返すと同時に、両手に振動剣を構えたパングゥは跳躍、蹲るファルマコの背面に飛び乗り、背中から生える剛腕の付け根に剣を突き刺し腕を埋め込んだ。前腕を奥へと埋め込んでから切り離したパングゥはその場から離脱した。


『ブラックシェル1から各員へ。俺ん所の〝鷹の目〟と戦艦がしてくれる。その場から速やかに退避せよ』

『鷹の目って――……!』


 状況をある程度理解した小野を始めた複数のヴィレッジ達は踵を返してその場を後にする。その一方、ファルマコの背後の遥か彼方から、銃口に大きな弾丸を取り付けたライフルを2丁、腰と肘で挟んで構えて佇む黒いラインが入った機体――三都のヴィレッジライトがいた。


「すぅ……――〝フォーセンス〟、発動ッ!」


 三都は感じる――感覚が澄み渡り、冴えていく。ハッキリと分かる。遠くにいる敵が、小さな音が、気付かない程の小さな照準のズレが、装甲下にある触覚センサーを通して伝わる微かな空気の流れが――怖い程に。銃身が静止し、引き金が引かれた。弾丸は放たれて空気を付き進み、両端にワイヤーを繋げた二つに分裂、ファルマコの腕の付け根に巻き付いて爆発した。


 背中は爆炎に包まれると同時に腕が切れ落ちると、空の彼方から砲弾が飛来し、剥き出しの背中の肉に着弾して胴体を吹き飛ばした。爆発によって身体が膨れ上がった暴君は、絶命する間もなく地へと倒れた。


『こちらブラックシェル1……目標を撃破しました』

『こちらコマンドポスト……了解した、作戦を終了する』

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