16.カウントダウン ~7時間前~
16.カウントダウン ~7時間前~
いよいよ決戦の日。とは言っても、いまいち実感がわかない。ボクの手元にはまだ1個のチョコもないのだから。
「今夜7時に集合ね!」
早速、りっきさんから号令がかかった。ボクはみんなにそのことを伝えた。
今日は土曜日。会社が休み。会社の女の子たちからいくつか貰えるのではないかと期待していたのだけれど、昨日は彼女たちにそんなそぶりは見られなかった。
「さて、どうしたものだか…」
悩んでいても仕方がない。果報は寝て待て…だ。
お昼が近くなって来たころ、律子さんから連絡があった。
「鉄人、お昼ご馳走してよ」
寝ていても仕方が無いので出かけることにした。律子さんに呼ばれたホテルのレストランへ行くと、バレンタインフェアをやっていた。まゆさん、美子さん、沢木香穂里さんも来ていた。少し遅れて午雲さんと大橋さんもやって来た。
「はい、これ!」
そう言ってまゆさんと香穂里さんがきれいにラッピングされた箱をボクたちに配ってくれた。
「ギリで申し訳ないけれど」
そう言って美子さんもチョコを配ってくれた。ボクたちは揃ってお礼を言った。
「ところで、みなさん、どうなんですか?」
まゆさんが心配そうに尋ねて来た。
「別に勝負にはこだわっていませんから」
と、午雲さん。
「ただ、罰ゲームが気になりますね」
大橋さんが言う。ボクはチョコをくれた三人の横で、ひたすらメニューを眺めている律子さんが気になっていた。ボクの視線に気がついたのか律子さんがふとメニューから視線を外した。
「解かってるって。大丈夫。もう決めたから。カオリンとまゆゆは決まったの?」
「いや、そういうことじゃ…」
「あら、鉄人たちのものはもう決まってるわよ」
「まさか、それって…」
「当たり!チョコパフェ。私からのバレンタインプレゼントよ」
「私からって…。払うのはボクだよね?それに、食べてしまったんじゃ、数に数えられないじゃないですか」
「大丈夫よ。レシート持って行けば」
「日下部さん、ゴチになります!」
「午雲さん、大橋さん!」
香穂里さんたちはあきれていたけれど、午雲さんと大橋さんは浮かれた様子で更にこう言った。
「レシートは一づずつ分けてもらって下さいよ」
食事を終えたところで午雲さんが女性陣に尋ねた。
「ところで、皆さんは決戦の舞台に立ち会うんですか?」
「ええ、面白そうだし、りっきさんがどれだけチョコを貰ったのか見てみたいしね」と、まゆさん。
「そうね。私たちからのチョコは要らないなんて言っていたし」
「えっ?香穂里さん、そうなんですか?」
「そうなのよ!私は別に誰が勝っても構わないんだけどね。ところで、この間、齋藤さんに教えてあげた銘柄がね…」
「美子さん、その話はまた後で…」
そう言いかけたところにスマホに着信が入った。かおりさんからだった。ボクは律子さんの視線から逃げるように席を立った。
「鉄人!浮気したら許さないからね!ムフ」
律子さんは優しく微笑んでいる。とても素敵な笑顔だ。けれど、とても恐ろしくもあった。