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ネガイシステム  作者: ぼんべい
一章 日常という名の人物紹介、回想という名の状況説明
9/62

1ー8

 ○ ○ ○


 長谷川はベッドに横になると、よく自分の世界での最後の瞬間の事を思い出す。

 寝る前だったり、昼寝の時だったり、そういう時にベッドに横になり天井を見上げながら本当とも夢とも付かないあの時間の事を思い出す。

 敵が持ちかけてきた会合、仲間に散々忠告されたが臨んだ長谷川、どうしてもと付いて来てくれた仲間達、しかしやはり罠で奇襲にあい小屋を飛び出した長谷川達。

 敵に追われ皆で必死に逃げ、そして逃げ込んだ建物の底が抜け、落ちた洞窟。持っていたポケットライトだけを頼りに出口と離ればなれになってしまった仲間を探して歩いていると、やがて、長谷川は祭壇のような所に辿り着いた。

 周りは白銀に煌めく壁で上から差し込んでいるのか日の光が筋となり降り注いでいて、中央奥には両手を広げ、来訪者を、この場合は長谷川を迎えるように微笑んでいる女神の像。

 荘厳にして静粛。

 暗淵にして光柱。

 しばらく長谷川はその女神を讃える音楽さえ聞こえてきそうな神聖な雰囲気にただ驚き、佇んでいた。

 『若者よ』

 不意に頭に響く声に誰かに呼びかけられたのかとびっくりしてきょろきょろするが、誰も見つけられない。それからそれが頭に直接響いた言葉だと理解し、目の前の女神像に視線が移る。

 『若者よ』

 再度、女神像は長谷川に呼び掛けた。

 『汝、どんな困難もどんな制約も跳ね除ける強い意志と力を見せるならば、どんな願いでも叶えましょう。』

 その問い掛けは長谷川の頭に幾つかの単語を思い浮かばせる。願い、条件、制約、女神、異世界、試練、・・・・

 (これが、噂に聞いていた、願いの女神!?)

 『さぁ、若者よ。願いを述べなさい。さすればその願いに相応しい条件と制約と供に、ここでは無い世界へと送りましょう。汝はそこでその願いを追い求めなさい。』

 (ちょ、マジかよ、マジにあんのか、願いの女神!?どんな願いでも叶うっていう、幻の女神像!)

 『願い求めその条件を叶わば、こちらの世界にてその願いは現実のものとなるでしょう。ただし、願いを諦めたならば。二度とその願いが叶う事は無いでしょう。さあ、その覚悟あるのならば、そのメダルを手に取り願いを述べなさい。』

 いつの間にか現れたメダルが長谷川の目の前でゆっくりと回っている。

 今しか無い。

 そう、長谷川はこの時思った。閃いた、と言ってもいいかもしれない。自分にこの能力、悪魔の物語書きの能力が備わっているのは、今この瞬間の為だ、と。そして、その閃きに促されるままに今までで一番この能力を使用した。つまり、最善のシナリオを考え出した。

 残念ながら、こちらの世界の長谷川にはこの時の思考、何を思い出し、何を想定し、何を予想し、何をシミュレートしたのかは全く思い出せない。ただ覚えているのは、体中から吹き出す汗、冷える体、それに反して熱で焼ききれてしまいそうな脳、そして、俺達は誰も何も犠牲にせずに自由に幸せになれる、もうこんな疲弊し疲労し泣き悲しむだけの日々から開放される、という強い期待と希望、それが激しく脈打たせる心臓の鼓動。

 そして、長谷川は一つの答えに辿り着く。決心しそのメダルを手に取ると、言った。

 「奇跡を、起こしてくれ。」

 一瞬、動くはずの無い女神像の口の端が歪んだように長谷川には見えた。

 『いいでしょう。願いは奇跡が起きる、ですね。では、条件と制約を与えます。』

 ごくり。長谷川は唾を飲み込む。

 『条件は、仲間のメダルが全て重なる、です。』

 思わぬサービスに長谷川の期待がぐんと膨らむ。長谷川のシナリオの最大要因、それは仲間だった。ここで死地を一緒にくぐり抜けてきた仲間達。彼らといればどんな困難でも立ち向かえる。だからこその、この無謀な願いとその駆け引き。

 きっと、仲間もここを見つける。そして俺と同じように何かしらの願いをするはずだ。だとすれば、きっと向こうの世界でまた一緒になれる。

 記憶の無い今の長谷川ではこう思った根拠はわからない。でも、そう強く思った事実だけは忘れない。きっと仲間達とはその死地とやらでかけがえの無い絆を結んできたのだろう。

 だが、次の女神の宣告はその希望を無残に打ち破った。

 『制約は、誰が仲間かを覚えていない、です。』

 「ちょ、っと!!」

 湧き上がった期待が反転し絶望に近い不安に変わり、思わず長谷川は手を伸ばし、そして叫ぶ。

 「まってくれ!!」

 しかし願いの女神は非情だった。

 『汝の願いが叶わん事を。』

 半歩体が前に出た感触と目の前に女神に向かって突き出されている自分の腕の映像を最後に、長谷川は気を失った。

 演劇等で演出として行われる、暗転のようだった。さっと幕が引かれ真っ暗になり全てがそこで一旦途切れる。

 そして幕が再び開いた時、長谷川は別の世界、つまり今居るこの世界に居た。

 彼の試練が始まったのだ。奇跡を起こす為の。


雰囲気を描写する方法って幾つかあると思いますが、これはちょっとは成功したかな、と思ってます。まぁ説明べたなのは相変わらずですが。日常パートが続いて合間合間に設定説明が入るパターンも多くなりつつありますよね。特にRPGなんかで。

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