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ネガイシステム  作者: ぼんべい
一章 日常という名の人物紹介、回想という名の状況説明
8/62

1ー7

 ○ ○ ○


 土曜日。

 長谷川達の学校は二週に一度半日の授業がある。今日は授業がある日で、長谷川達はそういう日にいつもそうするように昼飯の後公園に集合していた。

 「んー?どうしたんだい。また、ハセの『この人気になる』が始まったのかい。」

 ブランコに座り一条から貰った雑誌の女社長のページを覗き込んでいる長谷川に、ブランコの枠に身を寄せているサオトメが声をかける。

 「うん?あぁ、まぁね。」

 「どれどれ。へぇ。あの『シュリーズ』の社長じゃないか。ハセはこういう年上の女性が好みなのかい?」

 「ば、ばか、違うって!」

 長谷川は慌てて否定する。

 「なんか、すごいな、って思って、さ。こんなに若いのに年商五億、なんてさ。」

 「家電から始まって、今じゃアダルトグッズから駄菓子まで、だもん。噂じゃ、一部資産家向けに土地なんかも量販してるらしいよ。はは、すごいよねぇ」

 「アダルトグッズ、ねぇ。」

 サオトメは単に何かを知る事が好きだった。情報、と呼ばれている類の物。それを片っ端から集めては自分の頭の中に蓄え込み、必要に応じて引き出す。その事だけが彼の楽しみで、その向こう側にある人の思惑だったり複雑な仕組みだったりするものには全く関心を持たない。

 だから、こっちの世界の事をほとんど知らない長谷川はサオトメの事を頼りにしていた。必要な事があれば、まず彼に聞く。それで間違いなく一般的な人が一般的に知っている事を知ることが出来る。

 「簡単に儲ける方法なんてない。手広くやったってそれは変わらん。それはどこかに皺を寄せてる事を意味している。」

 すぐ側のベンチに座り本に目を落としていたカガミがその眼鏡を押し上げながら割って入る。

 「どうせ、従業員を安く働かせたり、仕入先に無理難題言って安く卸させたり、違法スレスレの所で儲けを出してるんだろう。でないとあの安さの理由が説明出来ん。」

 「おっと、始まった、またカガミ理論、だ、」

 長谷川達の間で器用に体中でサッカーボールをリフティングしてるユージがカガミの理論にちゃちゃを入れる。

 「まるで、会社の、中の事、全部知ってるみたい、じゃんか、よ!」

 最後の掛け声と共に軽く蹴飛ばしたボールはカガミに一直線に向かい、カガミはそれを片手で受け取る。

 「俺は一般論を言ったまで、だ。」

 「はいはい。それよか、サッカーしねぇ?」

 「いいだろう。先々週に阻止された俺のバルチックシュート、今日こそ決めさせてもらう。」

 「じゃぁ俺はダブルスペクション、みせちゃおっと!」

 カガミが投げ返したボールをリフティングしたユージがそのままドリブルでコートの方へ向かっていく。それを追いかける皆。

 一緒に走りながら、長谷川は、やっぱり皆高校生だな、と、思ってしまう。

 急成長の企業の事を知っていたり、その方法になんらかの意見を持ったりしても、結局はこうやって皆でサッカーで楽しんでバルチックシュートだのダブルスペクションだのと言って盛り上がる。

 これが彼らの現実なのだ。

 長谷川の居た世界、向こう側の世界では常に誰かが誰かと戦っていた。こうやって遊ぶのはほんの息抜きの為、気を抜けばどこかから殴りかかられたり、向こうの技術で作られた銃で撃たれたりする。そんな事に怯えながら暮らす日々。しかし、自分たちを苦しめる王族を打倒せんと立ち上がり戦う日々。

 そんな日々じゃ、ここに居る皆みたいに笑いながらサッカーなんて、出来やしない。

 「おい、ハセ!」

 「おっけ、まかせろ!」

 飛んできたボールに長谷川は華麗にボレーを決める。

 「ナイスシュート、ハセ。」

 隣に居たサオトメが拍手。

 「なぁ、サオトメ。」

 「うん?なんだい?」

 「シュリーズの事、もちっと教えてくれないか。」

 「ああ、さっきの量販店かい。今は関東圏だけに店舗を増やしてるけど、その内全国展開するんじゃ無いかな。秋には大阪にも出店するらしいよ。きっとその為の布石だね。」

 「なるほど。」

 「扱ってる品目は、さっきも言ったけど駄菓子から家電、家具、アダルトグッズまで様々。薬もあったかな。とにかく違法じゃ無いものはほとんど手に入る。それもすっごく安い値段で。土地もやってるっていうのもあながち嘘じゃ無いかもね。」

 「土地、かぁ。でもなんでそんなに安く売れるんだろう。」

 サオトメはカガミにパスを出しながら言葉を繋ぐ。

 「さぁ。それは僕の領分じゃないよ。必要なら、カガミに聞きなよ。あ、僕にも言える事が一つだけあったかな。あの女社長、政治家との暗い噂も絶えないみたいだよ。」

 「暗い噂、かぁ。」

 呟くように言うと長谷川は踏み出し、こぼれてきたボールをシュート。それが緩やかな弧を描きゴールに刺さる。

 「ナイス、シュート。」

 ぱちぱちぱち。再びサオトメが拍手した。

 「さっすが、ハセ。」

 「いや、いつも、こっちこそ助かるよ。」

 「なぁに、知りたいって気持ちは僕もよくわかるからね。それに、実際に調べる労力、も。僕はその労力はそんなに苦にならないけれど。」

 「くらえ!」

 その時、カガミの声が響いた。

 「バルチック!シューーーーット!!」

 「あ、きたねぇぞ、カガミ!」

 「問題無い!サッカーのルールにはきちんと則っている!がはははは!」

 盛り上がってるユージとカガミを他所に、長谷川は小声でサオトメに問いかけた。

 「最後にいっこ、いいか。」

 「ん?なんだい?」

 「あの規模の会社だと、さ。社長の給料ってどんぐらいなんだ?」

 「ああ、役員報酬の事だね。だいたい、五千万ぐらいだったと思うよ、あの規模の会社。」

 「ほんと、なんでも知ってるんだな。」

 さすがに一企業の役員報酬の答えが帰ってくるとは思ってなかった長谷川は少し皮肉を言う。サオトメはそれを涼しい顔で受け流しながら、

 「なぁに、ついこないだ有名な企業の役員報酬を調べたばかりなんだよ。僕も、気になってね。ハセと一緒、だね。」

 もちろん、違った。長谷川にはこの女社長の『願い』を断念させるという使命がある。そうしないと彼の生まれ故郷が、本来生きるべき国が、消滅してしまう。

 それは単に好奇心を動機としているサオトメとは決定的に違っていた。

 でもそんな感情は微塵も顔に出さず、長谷川はこう返した。

 「だな。」

 ザッシュ、ザシュゥ(←ダブルスペクションが決まった音)

 向こうではユージがダブルスなんちゃらを華麗に決めたらしく、つっぷしているカガミの前で両手を上げ天を雄々しく指差していて、マジにうれしそうな顔をしていた。


あ、間違い発見wこっそり書き換えておきましたw。アルセニウスを書き出した大きな理由の一つが、ほんっとこういう場面とか書けなくて絶望して、それで練習しようと思ったのがあるんですよね。読めたものじゃないのは充分承知ですが、お話が展開するまでもう少しご辛抱くださいませ。

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