EPー4
○ ○ ○
「めでたし、めでたし、ってワケかい。」
ここはバーSnowdrop、いつも通りに仮面を付け仕事をこなすバーテンの前で椅子に深く背中を預け脚を組みながら皮肉たっぷりにタニグチが言う。
片手にはウィスキーの入っているグラス、傾けると氷がカランと音をたてる。
「・・・。」
もちろん仮面の女性は何も喋らない。仮面は言葉を封じ込める。
代わりとばかりにタニグチが喋る。
「なんだ、この、『俺たちの戦いはこれからだ』エンドはよぉ。打ち切りか?おい、打ち切りなんか?」
「・・・。・。」
ぐい、とウィスキーを煽るタニグチ。その度に息が酒臭くなる。
「まぁ、でも、願いの女神様とやらも、してやられたんじゃねぇーか、今回は。」
胸ポケットから取り出したメダルに掘られている女性の横顔を眺めながらタニグチ。すると、バーテンは自分の頭の後ろに手を回し始めた。
「・・・なんだよ、もう店じまい、か。」
その動きを見て小さく尋ねるタニグチ。
バーテンはそのまま紐を解いて仮面を降ろす。
その奥から女性の顔が姿を表す。
女性はそのままタニグチの前を横切り奥の部屋へと入って行った。
タニグチはメダルに掘られた女性の横顔と、それと瓜二つのバーテンの横顔をその瞬間に見比べる。
「けっ。他人を弄ぶってな、さぞかし気分のいい遊びだろうよ。」
すぐにバーテンは鍵を持って戻ってきた。それをカウンターに置きながら、
「キーは置いていくわ。飲みすぎるんじゃないわよ。」
さんきゅ、と言いながらその鍵を一瞥した後、タニグチが真剣な声音で尋ねる。
「この結末を知ってたんか。」
「私はなんにも知らないわ。」
「んじゃ、この結末に満足かよ?」
にやり、と、女性は笑った。運命が自分の思っていたものとは違った場合に人が見せるような笑い方だった。
「どちらでもないわ。」
「お前の負けだな、今回は。」
「私は勝負をしているわけじゃないの。だから、勝ち負けは無し。」
「言ってろ。そうやって他人の『願い』を弄ぶ奴ぁ、一生自分の『願い』は叶わねぇだろぉよ。」
女性は何かを言おうとした。
しかし、それを止めた。そして微笑みながらタニグチの前を再び横切る。その時に片手を上げながら再度、
「いい?飲みすぎるんじゃないわよ?」
と忠告した。
こういう人を喰ったような態度はいつもの事だとタニグチが思い、奥の部屋にある裏口から出て行くつもりなんだろう、と、考えた時だった。
女性が奥の部屋に消えるのと入れ替わりのように、ちりんちりんと表の扉が開く音がした。
「あぁ?わりぃ、もう、閉店・・・なん・・だ・・。」
はたして、扉の所に立っていたのは新たな女性だった。
ばたん
閉まる扉、その現れた女性はまさに今にも泣き出しそうな潤んだ瞳でタニグチをまっすぐに見詰め、唇をぴくぴくと奮わせている。
「・・・ア・・ヤメ・・・」
顔一面に驚きを宿しているタニグチが、その女性を見て、恋人の名前を呟いた。
一歩、また一歩。
アヤメ先生はタニグチに近寄った。
がたん、と、椅子を倒してタニグチは立ち上がるとアヤメ先生に近寄った。
アヤメ先生は駆け寄りその勢いでタニグチに抱き付いた。
タニグチはそんなアヤメ先生を受け止め、精一杯抱き締めた。
簡単に言えば。
奇跡が起こったのだ。
タニグチからこぼれ落ちたメダルがカウンターの上でくるくると回る
女性の横顔と
その文字とを交互に写しながら
くるくると回り
やがて速度を落として
ぽとん、と倒れた
上側になったその横顔は
満足そうに笑っていた
これが、彼らの異世界での物語り。
(終)
読んでくださってありがとうございました。次に後書きで全体的な反省を書こうと思ってますので、もしここまで楽しんで頂けた方がいらっしゃいましたら、この後にまた最初の方を読み直して見てください。そこにはまた違った長谷川達の姿が書かれている事だと思います。




