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ネガイシステム  作者: ぼんべい
七章 事実と真実の境界線
56/62

7ー8

 ○ ○ ○


 (どこいっちゃったんだろ!?)

 川辺のベンチに戻ったはいいが長谷川が居なくなっている事に焦りミキモトは小走りにその辺を動いてキョロキョロするが、長谷川の姿を見つける事は出来なかった。

 (私、私、なんか変な事言っちゃったかな?)

 不安が湧き上がるが、さっきの会話を思い出しても(と言っても、夢中でまくし立てたので何を言ったか、何を言われたか、あまり覚えてはいなかったが)、マズい感じはしない。最後なんかとってもリラックスしていたように思える。

 (そんな事ないよね、大丈夫だよね・・・とにかく、探さなきゃ。)

 道路まで引き返す。車が何台か通り過ぎる横の歩道をミキモトは歩く。

 (あ!)

 そこで思い出す、そういえばカガミ君達が長谷川君の部屋に行くって言ってたっけ。

 (カガミ君達なら長谷川くんを見たって言えば一緒に探してくれるよね!)

 長谷川の為に買ったおにぎりと缶コーヒーが入ったままの袋をぶらぶらさせながらミキモトはカガミに教えてもらった場所を目指す。

 そこは小奇麗なアパートで教えて貰った部屋の表札には『長谷川』と書かれていた。

 チャイムを鳴らすと中から男の声が元気よく、はい、と尋ねてくる。

 「あの、ミキモトです、」

 「あぁ、ミキモトか。開いてるから入れば?」

 長谷川君を見付けたの、と言おうとしたミキモトの言葉をカガミ(だとミキモトは思った)が遮って中に入るように促す。

 がちゃ。

 扉を開けると、男達の騒ぐ声が聞こえてくる。嫌な予感を感じながらミキモトは後ろ手で扉を閉め、靴を脱いで上がる。スリッパなんか見当たらなかったし靴下のままで我慢する。

 部屋の中ではカガミ、サオトメ、ユージの三人が何やら楽しそうに話し込んで笑っていた。真ん中のテーブルには炭酸やらオレンジジュースやらのペットボトルが置かれていて、三人ともコップを持ってその中に好きなのを入れている。よくアニメなんかで見る、大人の男の人の宴会。それとよく似た雰囲気にミキモトの中に嫌気と拒否感が募る。

 「っでさぁ、声がまた棒読みなんだ。だから女優声優にするのはだめだってあれほど言ったのに。」

 「ふん。くだらん。人気集めの常套手段だ。視聴者には声の質なんかわからないと思われてるんだろう。」

 「ねね、声優ってむずぃーの?俺もできっかな?」

 「あれ、ユージ、声優なんか興味あったっけ?」

 「なんか楽そーじゃん?だって喋ってるだけでいいんだろ?」

 ミキモトは大きく息を吸って、それから叫ぶ。

 「ねぇ、聞いて!!」

 ぴたり、と、喧騒は止んで三人はミキモトを見た。カガミは胡散臭そうに、ユージは驚きながら、サオトメは興味無さそう、に。

 「長谷川君を見たの!お願い、一緒に来て!一緒に探して!」

 その言葉に三人は顔を見合わせる。

 「帰るつもりなら、帰ってくるだろ。わざわざ探す必要は無い。」

 カガミが言い捨てた。

 それから三人はまた元の談笑に戻る。会話に花が咲き、ジュースが減っていく。

 「女子挌闘家も、今、すっげかわいーのいんだよ!グラドルなんかよりもマジかわいいんだって!」

 「ふん。俺は十四歳以下のアイドルにしか興味が沸かん。」

 「でも、殴られて顔潰れたらどうするんだい?」

 「そこは、あれだよ、あれ、ガードさ、ガード。」

 「美人アスリートというジャンルもあるからな。」

 「肉体美は素晴らしいよね、僕もそう思う。」

 唖然とするミキモト。上手く状況を受け止められない。いや、認識さえ出来ずにいる。

 親友が失踪して、しかもとってもとっても大事で深刻な悩みを抱えていて、今にも絶望しそうなのに、この三人は楽しそうに笑いながらいつものくだらない話で盛り上がっている。

 「どう・・し・・て・・・」

 ミキモトの呟きははしゃぐ三人にかき消される。

 「・・どうし・・てよ・・どうして・・なの・・」

 次第に霞み始めるミキモトの視界。

 「あんなに・・長谷川君・・悩んでて・・・」

 やがてそれは雫となりミキモトの頬を伝い始める。

 「苦しんでて・・なのに・・なのに・・」

 いつのまにか、三人は話を止めていた。ミキモトを見ているが彼女にはそれが見えない。

 「どうしてこんな事していられるのよ・・・友達じゃないの?・・・親友じゃないの?・・・」

 ミキモトは手で顔を抑えた。

 「・・異世界の人間だっていいじゃない・・・この世界の人間じゃなくたっていいじゃない・・・友達になったら、関係無いじゃない・・・」

 しゃくりあげながら絞り出すように言うミキモト。

 「おい。」

 とうとう見兼ねたのかカガミが声をかける。

 「親友を・・・なんで見捨てられるのよ・・・」

 「おい!」

 しかし耳に入らないミキモトに、カガミはさらに大きな声をかけた。おずおずと顔を上げるミキモト。でも涙が視界を潤ませている。彼女はそれを手で拭った。

 三人がミキモトを見ている。

 「どうして・・・長谷川君を見捨てるのよ・・・」

 「ミキモト。安心しろ。」

 がさごそ、とカガミは自分のズボンのポケットに手を突っ込む。他の二人もそれに習うようにそれぞれシャツのポケットやズボンのポケットに手を突っ込んだ。

 「俺達はハセを見捨てたりなんかしない。」

 三人を代表してカガミが話す。

 「あいつを救う。」

 そしてポケットから手を出すと、そこに掴んでいる物をミキモトの方へ翳して見せる。

 「その為に、ここにいるんだからな。」

 彼ら三人が持っていたのは、メダルだった。

 彼ら三人は、そのメダルを掲げながら、笑っていた。「まかせろ。」と言っているかのような、何故か安心の出来る、信用の出来る笑顔だった。

ある小説を読んだ時に、「それを日本語でどう表現するか」という事が執筆にあたって真っ先に考えるべき事なんだな、と思ったのです。この小説はそんな事とかまったく解らないままかいてるのでこんな感じですが、このシーンなんかもミキモトから見た印象の遷移を書けたら良かったですね。この最後の場面はずっと書きたかったものの一つです。書けてけっこう満足ですw。

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