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ネガイシステム  作者: ぼんべい
七章 事実と真実の境界線
51/62

7ー3

 ○ ○ ○


 その教会のような一条の家のステンドグラスは内側からの明かりで模様を浮かび上がらせていた。

 この世界でメジャーな宗教の昔話だったと思う。天使だとか聖女だとか、そういったものが描かれている。

 (中で待ち構えてるってワケか。)

 扉の前で暗証番号を打ち込む。難なく鍵が開く。扉を引いて中に入るが罠が発動するような事も無い。歩いて進むが落とし穴が作動するような事も無い。

 そしてドアを開け一条が訓練をしていた広間の二階に出る。

 シャンデリアが頭上で煌めき、敷き詰められた絨毯に反射している。その絨毯の向こうで彼女は待っていた。

 大きくスリットの入ったドレスのような服に身を包み、右手には例の刺突剣が握られている。

 長谷川は一段一段、確認するように階段を降りた。その間一条から片時も目を離さない。今まで自分の願望の為にさんざん利用された事に対する怒り、そして彼女の願望そのものに対する怒り、それらがその瞳に宿り視線だけで一条を撃ち抜くのかと思える。

 一方、一条はその視線を冷やかに浴びながら強欲な人間がよく見せる闇に淀んだ粘り纏わり付くような視線で彼を見つめ返す。

 階段を降りきった所で長谷川は止まり、言った。

 「よくも俺を利用してくれたな。」

 「あら、利用される方が悪くてよ。」

 「今までのは全て演技だったってワケか。」

 「全てが全て演技だったワケじゃないわ。レディ・ピエロに負けたのは本当に悔しかった。」

 「その他の事は演技だったんだな。」

 「そうね、大体、演技だったわ。そう、あなたを好きな素振りを見せたのも。」

 思わぬ挑発に長谷川は乗せられてしまい、奥の手と思っていた『魔銃』を一発、ぶっぱなしてしまう。しかし一条はひらりとその光線をかわした。

 ぽろぽろと砕けたメダルの破片が『魔銃』からこぼれ落ちる。こうして誰かが願った証が一つ、砕け散った。

 「もう少し真実が知られるのが遅かったら、完全にあなたを私の虜に出来ていたかもしれないのにね。敵を好きになってしまい、そんな自分に葛藤する。メロドラマとしてはよくあるシチュじゃなくて?」

 「ほざけ。」

 一条の余裕が少し長谷川にはひっかかる。正確には、長谷川を苛立たせる。戦闘能力に格段の差があるからだろう、あるいは俺を弄んで楽しんでいるか。そう長谷川は判断する。

 確かに戦闘になれば勝ち目は無い。策なんか練らなかった。怒りの余りそんな事に頭が回らなかったし、今、長谷川の頭にあるのは一発ぶんなぐる、一発ぶち抜く、とにかく、なんでもいい、このどうしようもなく湧き上がっている怒りをこの女にぶつけてやる、という事だけ。

 「まぁ、でもその必要も無いかもね。物語りは既に出来上がっているんだもの。」

 「なんの事だ。」

 一歩、一条が長谷川に近付く。長谷川は『魔銃』にレディ・ピエロが落としていったメダルを一枚装填する。

 ひゅん

 一条が飛びかかった。

 連続突きを放ち、それを長谷川は銃身で受ける。隙を見て銃口を向けると一条は飛びのいて間合いを取る。

 「私は『一条家の繁栄』を願ったわ。そうしたら、『あなたの願いを諦めさせる』って条件を付けられたの。願いの女神も考えがゆるいわよね。」

 再び攻撃を開始しながら一条が語る。

 「一条家は落ちぶれてなんかいない。きっとまたかつての繁栄を取り戻してみせるわ。」

 「その為に何を犠牲にしてもか!?」

 「努力しない奴等が悪いのよ。食うか食われるか。食われたくなければ食う側に回ればいい。」

 応戦しながら長谷川も怒声を飛ばす。

 「そんな身勝手な理論が通るか。お前のせいでどれだけの人間が苦しんだと思ってるんだ!」

 「あら、実行してくれたのはあなたじゃない。」

 かきん

 切り払いを銃身で受け止め、そのまま力相撲になる。ぎりぎりぎりと二人は力を込めながら敵意向き出しの顔を向け合う。

 「実行させたのはてめぇだ!」

 一条の刺突剣を無理矢理弾き、『魔銃』を放つが身軽な回転で一条はそれを避ける。

 ぼろぼろぼろ。

 こぼれ落ちる破片を気にもせず再びメダルを装填する長谷川。

 「ふふ、アンドウは今頃どうなってるのかしら。」

 「てめぇの仲間だ、容赦はしねぇ。」

 「見ものだったわよ。嘘を付けない、って、ある意味最悪じゃなくて?私があの子に不利になりそうな事を聞く度に、あの子ってば本当に泣きそうな顔をしながら答えてくれるんですもの。最後には泣きながら答えてくれて、本当に可愛かったわ。」

 「くそったれ!」

 ぴかっ!

 半分はその話を遮る為に『魔銃』を放つ。

 (アンドウも犠牲者だ、ってのかよ!?俺がした事は間違いだったのか?)

 メダルを再装填しながら、

 (いや、とにかく今は元凶を、この女を倒す事を考えるんだ!)

 と、言い聞かせる長谷川に一条が声をかける。

 「相当ストレスだったんでしょうね。鏡で自分の姿をうっとり見詰める事に没頭しちゃって。所で長谷川、そろそろ自分のメダルを使ってもいいんじゃなくて?」

 「俺は願いを諦めねーよ。」

 長谷川は装填の終わった銃口を一条に向ける。

 「私が仲間だったらよかったのに、とか、思ったりしたんじゃない?」

 思わず引き金に力が入るが、すんでの所で思い止まる。メダルは残り少ない。これ以上は無駄撃ちすべきでない。

 「ああ、そう思った時もあった。今じゃ、なんて馬鹿な事を思ったんだって後悔してるよ。」

 「メダルは砕けたら重なる事なんてないわよね。も・ち・ろ・ん。」

 「あたりめぇだ。」

 返事をしながら、長谷川は一条のもったいぶった言い方が気になった。

 「私も物語り書きの才能、あるんじゃないかしら。あなたがいなくなったら、代わりに名乗ってあげるわ。悪魔の物語り書き、って。」

 「さっきから何を言っている?」

 そう、一条はさっきから何か話すべき事をわざと話さずにいるような素振りを見せている。長谷川は気のせいかとも思ったが、どうやらそうでもないらしいといい加減、気付く。

 「一石二鳥、って結構簡単なものよね。私にとって邪魔な人たちをあなたは簡単に消してくれた。」

 「王様になりてーおまえにゃ、子供救いたい人や殺し合いを辞めさせたい人はさぞ邪魔だったろぉよ。」

 「もちろん、それもあるわ。でもそれだけじゃない。シュリーズの女社長からはまさに一石二鳥。まさかこんなにうまく行くとは思わなかったわ。」

 「だから何を言っている!?」

 一歩、二歩、一条が助走のように長谷川に近寄るとそのまま駆け出して飛びかかる。長谷川はその突進のあまりの早さに反応出来ない。

 刺突剣が突き刺さる。

 長谷川の顔の横、何も無い空間に一条の刺突剣が突き刺さる。間近で顔を向け合う格好になる二人。その姿勢のまま、一条は長谷川に聞いた。

 「オコゼ、あなたの『願い』はなぁに?」

 「・・・俺の願いは『奇跡が起きる』だ。」

 「その『条件』はなんだったかしら。」

 「『仲間のメダルが全て重なる』、だ。」

 「メダルは砕けたら重ならないって、さっき言わなかったかしら。」

 「・・・言った。」

 どくん

 長谷川の心臓が一つ、跳ね上がった。それから続けて動悸を鳴らす。長谷川が思い至った『ある考え』が長谷川から瞬時に全てを奪い去る。

 まさか、という思いと絶望とがゆっくりと長谷川の心に忍び寄る。

 すっ、っと一条はその刺突剣を降ろした。その顔はにやりと笑っている。まるで地獄に落ちる罪人どもを見下す閻魔のように。

 「タニグチがあなたの仲間を知っているわ。聞きに行ったらどうかしら。」

 長谷川も銃を降ろした。

 いや、力が全身から抜けて立っているのがやっとの長谷川に、もう銃を構えているだけの気力が残っていないだけの話だった。

 それから長谷川は歩いて再びSnowdropへと向かった。

 その様子は壊れた機械がただ与えられた命令を果たす為に倒れたまま足を動かし続ける姿のようにも見えたし、まるで見えない糸が長谷川の手足に結びついていて空にいる何者かが操り人形のように手繰っているようにも見えた。

気分が乗ってると文章力も乗るものですねw。まぁ全体的にのっぺり感でちゃってるのは抜け出したいです。後、通常部と盛り上がり部で止め方、体言止めだったり言い切り形だったり、その辺り変化させるとメリハリもっと付きそうですね。

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