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ネガイシステム  作者: ぼんべい
五章 とにかくレベルを上げて物理で殴れ
39/62

5ー5


 ○ ○ ○


 なぜ、ここに居る?

 ユージも殺される?

 俺は殺される?

 一条も殺されるのか?

 レディ・ピエロは殺すのか?

 誰を?

 俺を?


 突然の親友の笑顔に長谷川の心は奥底から安心を噴き上げた。しかしそれも最初の一瞬、すぐにこの状況に彼を巻き込む危険さに思い至り、パニックにパニックが加わる。

 (すぐにユージをここから逃さなきゃ)

 「あれ?腕、切ってんの?どしたどした?」

 トラブルの臭いに興味津々の間抜け顔を腕のハンカチに向けるユージ。まさに真剣勝負の最中の長谷川はそんなユージの態度にカチンと来る。

 「を、エアガンじゃん。なんだ、サバイバルごっこか?なら俺も混ぜろって。」

 ここで長谷川はちょっとした違和感を感じる。

 「・・・なんでそんなもん、持ってんだ?」

 ユージが短い鉄パイプを肩に担いでいたのだ。そこで改めて気付くが、ユージは作業着のような物を着ていてしかも所々どろどろに汚れている。

 「あぁ、これか?その先で(と、鉄パイプを向こうの角に向ける)バイトしてたんだよ、解体作業。ちと先輩がヘマっちまって、今まで残業、ってワケ。」

 ははぁ、なるほど。それで最近忙しいって言ってたのか。まぁでも解体現場でバイトなんて、体力ずば抜けのユージにぴったりかも、な。

 なんて事を思うのが精一杯の現実逃避だった。背後に迫る恐怖と狂気から少しでも逃げたい。その思いが長谷川にそんな日常パート的な考えを浮かばせ、長谷川もその考えに自ら溺れてしまう。

 例え、こののほほんとした瞬間に首を切られてしまったとしても。いや、むしろその方が苦痛無くこの悪夢の終わりを迎えられて楽かもしれない、とさえ思ってしまう。

 だが当然、現実はそんなに甘くは無い。


 【虎は獲物を選ぶだろうか。いや、選ばない。道化は客を選ぶだろうか。】


 【いや、選ばない。】


 「すまない。」

 「ん?なんて?」

 長谷川の言葉にユージが聞き返す。

 しかし長谷川は答えない。不思議そうに長谷川を見つめるユージ、やがて彼は長谷川が自分じゃなく自分の後ろを見ている事に気付く。

 「どした?」

 言いながら振り返るユージ。

 向こう、外灯も無い細い道路の奥から歩いてくる仮面の女性。

 「わぁお。」

 「なぁ、ユージ。」

 ぐい、とユージを脇へ押し出しながら長谷川がいつになく、いや、彼に対してはおそらく生まれて初めての真剣な声音で伝える。

 「もしも俺が死んでも、」

 俺の事、ずっと覚えていてくれよ。

 サオトメと気まずくなってから連鎖的にカガミともぎくしゃくしていた中で変わらずに、いや、普段以上に明るく接してくれたユージ。ユージからすれば普段どおり振る舞っただけなのだろうが、その能天気さが長谷川をとても元気付けてくれたのは事実だった。

 だからこその、嘘偽りの無い言葉。最後の、メッセージ。

 「逃げろ・・・・って、おい、待て!!」

 「よっしゃ、俺がもらいぃ!!」

 は、しかし、ユージには届かず、逆にユージはレディ・ピエロに自ら突っ込んで行った。本当に楽しそうに。

 間合いに入ると両手に握り締めた鉄パイプで叩き始めるユージ。レディ・ピエロの方は状況に付いてこれないのか様子見なのか、ただ刃物でそれを防ぐ。

 「そりゃ!」

 ユージが鋭く突くとレディ・ピエロは回転でそれをかわす。

 「待ってました!」

 そのタイミングで蹴りを叩き込むユージ。ばしん、と音がしてばっちりはいってる事がわかる。

 「そりゃ、そりゃ!!」

 しかも立て続けに蹴りを繰り出し道化の脇腹を痛めつける。たまらず飛びのいた道化はスイッチを切り替え刃物を構えて飛び込んでくる。

 しかし道化の連撃を鉄パイプを操ってことごとく防ぐユージ。それどころか、隙を見て前蹴りをいれてしまう。

 がふ!

 何か空気が漏れたような音が、かすかだが、した。それは今宵、レディ・ピエロが始めて出したダメージに対する呻きだった。

 (すげぇ、マジすげぇ!!ユージ、押してるぞ、あのレディ・ピエロ相手に押してるぞ!?)

 確かに体育の時間のユージのヒーローっぷりには目を見張るものがあった。確かに最近格闘技を習い始めたと言ってはいた。

 しかし、それらはどれもこの世界でのお遊戯のようなもの、まさか実戦でここまでやりあえるとは長谷川は思っていなかった。

 実戦はスポーツとは違う。

 ルールという枠組みの無いコートで自分の戦法というルールをいかに発揮するか。上手なプレイをしても誰も褒めてくれない。確実に点の入るプレイをしなければ生き残れない。それが実践。

 だけれども、ユージはその新しいルールを早くも自分の物にしていた。いや、それを楽しんでさえいるようだった。

 「へへ、もう終わりかよ?」

 間合いを取っている道化をリズムを取りながら挑発するユージ。

 ひゅん

 レディ・ピエロが消えた。高速でユージに飛びかかり連撃を繰り出す。左フック、右フック、左フック、右アッパー、回転切り。今までよりも更に高速になった、目にも止まらぬ攻撃の嵐がユージを襲う。

 だが、ユージはそれらを全て見切っていた。軽く鉄パイプを捌いて攻撃を防ぎ、合間を見て蹴りを繰り出す。

 右ミドルキック、右ローキック、左前蹴り、続けて鉄パイプを打ち下ろす。

 今度は道化も遅れは取らない。腕でガードし受け流して威力をそぐと、鉄パイプの打ち下ろしを紙一重で交わし、反撃に転じる。

 「ユージ!」

 レディ・ピエロの鋭い突きがユージの顔面を襲う。それをすんでで顔を逸らしてかわすとタイミングを合わせ同じく鉄パイプを道化の顔面に突き出すが、同じくすれすれで顔を逸らされその仮面の表面を撫でるように鉄パイプは空を切った。

 刹那、ユージと仮面が至近距離で向き合う。

 ユージの眼差しと仮面の色の無い目が交差したように、長谷川には見えた。

 それから、まるで仕切り直し、とばかりにお互いに飛びのき距離を取る。そこで長谷川はレディ・ピエロのその身体にぴったりの布が濡れ始めている事を確認する。

 (汗だ、レディ・ピエロが汗をかいてる)

 もちろん、ユージも汗をかいていたが、超人とさえ思えていたレディ・ピエロの発汗は彼女もまた人間なのだと証明してくれる。これほど長谷川達にとって有利な証明は無かった。

 「次は、本気だすぜ!」

 鉄パイプを構えリズムを取り出すユージ。レディ・ピエロも両手の刃物を胸の前で構え腰を落とす。いつでも二人共、いつでも飛び掛かれる、そして応戦できる恰好だ。

 (二人とも本気だ!こりゃ、次で決着が付くぞ)

 いつのまにか解説ポジションに収まってしまっている長谷川。

 しかしそれも仕方の無い話だ。これだけハイレベルな戦いをされてしまうと、長谷川ごときでは入る隙が無い。下手に針でも撃とうものならさっきの一条の二の舞になってしまう。


 ちりんちりん


 突如その緊張を切り裂いたのは自転車のベルの音だった。長谷川とユージが音のした方を向くと、角から自転車を押しながらアヤメ先生が現れた。

 再び二人がレディ・ピエロに向き直ると、彼女は消えていた。

緊迫感、戦闘感、そういうものはもっと文章をつなげる感じで書かないと出ないですね。接続詞の大切さを知りました。アクションを続けて書いて、ブレイクの状況・心理描写、そしてアクション、みたいな流れのメリハリが付けばもっといいでしょう。冒頭は気に入っています。パニック感がよく出てると思ってます。

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