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ネガイシステム  作者: ぼんべい
五章 とにかくレベルを上げて物理で殴れ
37/62

5ー3

 一条の悪態はどれだけ本気が含まれているのか。そして軽口で返す長谷川も、それがどれだけ本音なのか。

 「とにかく、正攻法じゃ無理だ、俺たちじゃ叶わない。」

 「あら、オ・コ・ゼ・に・は、でしょ。」

 (その余裕は、今は心強いけど、な。)

 普段の馬鹿にする時の一文字一文字区切る言い方はまだ一条の気持ちに余裕がある事を示していたが、さっきの肉弾戦で力量差はいかんともしがたい事は身に染みたはずだった。

 しかし一条は強気だ。

 「いいわ。私が引き付けてあげるから。あんたは見えない所から狙撃しなさい。」

 言い終わらない内に戦いが再開する。

 レディ・ピエロが数歩の所に降りてきたのだ。そして今度も一条が果敢に立ち向かっていく。長谷川には一条の言葉の終わりの方だけが残響として聞こえていた。

 (頼むぞ、一条!死ぬなよ!)

 一条が戦法を変える。突き刺し、突き刺し、切り払い、そしてその後の隙に飛び込んでくるレディ・ピエロに、右脚のハイキックを合わせる。

 ごっ!

 少し反応が遅れたが、すんでの所で腕で受けるレディ・ピエロ。

 「ふんっ!蹴りまでは読めなかったでしょ?」

 続けての一条の左脚の蹴りをレディ・ピエロは飛びのいてかわした。

 (その為のあのワンピース、って訳、か。)

 公園の植え込みまで回り込みながらも二人の激闘から目を離さないでいる長谷川に希望が沸いてくる。

 レディ・ピエロの反撃、右の刺し、左の刺し、右フック、それを刺突剣で捌くと二段蹴りで応戦する一条、ひるんだ道化にするどく突きを見舞うが体の回転で避けられてしまう。そこを再び蹴り上げるとレディ・ピエロは飛び上がり間合いをとった。

 (っつーか、下着、丸見えなんだけど・・・)

 一条が動き易いように選んだワンピースは、動きやすさを追求する余りあまりに無防備だった、視覚的な意味で。

 (だめだだめだ、今はそんな場合じゃないぞ、下着なんか見てる場合じゃないぞ、黒いレースの下着なんか見てる場合じゃない、じゃないぞ!)

 蹴り上げる度に露わになるそれに長谷川は動揺を隠せないでいた。アンドウの時のような露骨な露出も充分彼を誘惑したが、今の一条のような『見せるつもりはない、というか、むしろ絶対見せたくない』のに見えてしまうものにまるで魔法のように長谷川の視線が吸い付けられる。

 (危ない!よし、いいぞ、そこで蹴りだ!見えた!じゃない、刺せ!あ、危ない!)

 心の中で実況しながらぐるりと回る長谷川。戦局は一条が若干押しているが、一発でもレディ・ピエロの一撃がはいってしまえばどうなるかわからない。

 それに一条は余裕を見せているが、注意を自分に引き付ける為に相当無理して攻撃を繰り出してるはずだ。きっと体力は限界に近いに違いない。

 (急がないと!)

 本当に急いでしまっては足音でレディ・ピエロに気付かれてしまう。ゆっくりと歩きながらも急ぎたい気持ちが長谷川を焦らす。

 そして、レディ・ピエロの一撃が一条の腕に一筋の赤い線を作るに至って、焦れは最高潮になった。

 「ふんっ。なまくらなんじゃない?刃物のお手入れも出来ないなんて、挌闘家失格ね。」

 凄んで見せるが一条の体には汗がじっとりと浮かび、肩で息をしているのを隠せない。対照的にレディ・ピエロの身体はまるで今の戦いなど無かったかの様に静かに佇んでいるし、例え息を切らせていたとしてもその仮面はそれを微塵も表に出さない。

 ただ、不気味に笑い続けるのみ、だった。

 今度はレディ・ピエロから飛びかかる。両手揃えての振り下ろし、それを後ろ飛びでよける一条、右アッパー、左アッパーと追いかける道化の攻撃を一条は後ずさりながらスウェイでかわす。一撃、突き刺しで応戦するがかつん、と弾かれてしまう。

 (ヤバい!)

 その次のレディ・ピエロの低目の切り払いが、長谷川の目には一条を捉えたように見えた。太股の付け根の辺りだ。

 だが、血飛沫が上がる事は無かった。どうやらすれすれだったらしい。切れたか切れてないかの微妙な所だったのだろう。

 捉えたと思ったのか間合いを取ったレディ・ピエロの姿が少し残念そうに見える。もちろん、仮面だから表情なんて最初っから笑顔しか無いのだが。

 対照的に、一条の顔ははっきりとそうわかるほど青ざめていた。

 「ふ、ふん。まぐれ、よ、まぐれ。ま・ぐ・れ。」

 かろうじて気を持ち直した一条が虚勢を張った時だった。


 はらり


 黒い布切れが落ちた。

 (うおぉ!??!!!?!??)

 目を丸くする長谷川、一条はいきなり顔を真っ赤にして咄嗟にその短いワンピースの裾を引っ張るようにして押し下げる。落ちたのは一条の下着だった。

 レディ・ピエロが何を思ったのかはわからない。ただ、体型からすれば彼女は女性だったし、だからそんなに興味を示さなかったのかもしれない。はっきりとわかる事はそれでも攻撃の手をゆるめない、という事だけだ。

 片手で裾を引っ張り下げ、もう片方の刺突剣で攻撃を捌く一条。しかしそれはかなり厳しい体勢になり、どんどん押されてしまう。

 一本、一条の腕にレディ・ピエロの刃物の通った跡が入る。それから次は太股に一本、もう一本。

 たまらず、一条はハイキックで目の前の道化を弾き飛ばそうとする。もう目は涙目で苦痛だか恥辱だかに必死に耐えるためにぎりりりと歯を食いしばっている。

 (くそっ!)

 長谷川は顔を伏せた。顔を伏せて動いた。その長谷川の耳にがこん、ばきん、かんかん、と二人の戦う激しい音が聞こえてくる。

 見ていないので場所感覚のわからない長谷川は何度かの応戦の音を聞いた後に適当な所で顔をあげ拳銃を構えた。

 (くっそ、何が見えても動揺しねぇぞ!)

 そう強く念じるが、実際に見えたのは二人が間合いを取り円を描くように動いてる所だった。勝手に湧き上がってくる残念、という気持ちを必死に押し殺しながら長谷川は一条の身体に付いている傷跡が何倍にも増えているのを見て取る。

 (一条・・・待ってろ、今助けるぞ!)

 丁度、円のこちら側はレディ・ピエロだった。このまま進めば銃口の先に彼女の背中が来る。それを知ってか知らずか、二人はゆっくりと円を描き続ける。

 (三歩・・・二歩・・・一歩・・・今だ!)

 ど真ん中。

 ユージ達とゲーセンのガンゲームで鍛えた腕前、もとい、自分達の世界でレジスタンスとして戦った時に染み付いた技術が長谷川にベストポジションを教える。

 かちゃん

 所詮針を飛ばす玩具、音こそしょぼいものだけれど先の尖った針は長谷川の引いた引き金に合わせ躊躇無く道化の背中に一直線に進んでいく。

 この奇襲でレディ・ピエロに隙が生まれれば、一条がそこを見逃すはずは無い。勝てる!と、長谷川は確信する。

見えろ!w

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