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ネガイシステム  作者: ぼんべい
五章 とにかくレベルを上げて物理で殴れ
36/62

5ー2

 ○ ○ ○


 夏休みにはまだ早い夏の夜、八時は回り外は暗い。

 一条から聞かされたレディ・ピエロの『条件』は『メダルを五十枚集める』事、それで叶う『願い』は『好きなだけ殺戮が出来る世界』を実現する事。

 薄着でも大丈夫な程の暖かさの中、長谷川はジーパンにネルシャツという普段着にリュックサック。一緒にいる一条は身体にぴったりと合った黒いワンピースからほっそりとした白い太股が露になっている。上にはゆったりとした薄手のパーカーを羽織っていて、ワンピースの露出を隠しているかのような印象がある。まるでパーティ用のドレスを着ている女がちょっと外へ出る時にそぐわないジャケットを羽織ったりした時のように。

 でも一条の足元はスニーカーでパーティーの帰りでもクラブの帰りでも無いのは確かだった。

 長谷川は緊張をほぐすために一条に軽口を叩く。

 「お前、ほんとにそんな恰好で戦うのか。」

 「言っとくけど。スカートの中覗いたらコロすからね。あんたこそ、武器持ってんでしょうね。」

 「ああ、ちゃんとリュックの中に入ってるよ。」

 ぽんぽん、と背中のリュックを叩く。それはジッパーが少し開いていて、そこから柄と取ってがのぞいていた。中に入ってるのはサバイバルナイフとエアガン。ナイフはこの世界で長谷川は持ち出せる唯一でそして最強の武器。だったが・・・

 「ったく、ナイフ一本で何が出来るってのよ。」

 一条は悪態を付く。

 彼女の得物は細身の刺突剣だった。短い代物でパーカーの内側に収まる程度。事実、今もそうやって隠していて、だからこそ羽織っているパーカーだった。刀身はしっかりとしていてただのお遊び目的の代物では無いことがわかる。

 「戦えない、とは言わない。でも、俺は戦うのは得意じゃない。むしろ意外だったよ、お前が戦士だったなんて、な。」

 「馬鹿ね、天才の嗜みよ。私だって観戦だけが脳じゃ無いわ。」

 確かに学校ではスポーツでそれなりに目立つ活躍をしていた一条を思い出す。身体能力がもともと優れているのだろう、と長谷川は推測する。

 「俺達の世界じゃ、銃とかそーゆんが武器だったからな。それもこっちの世界みたいに科学力一辺倒の代物じゃなくて、念力みてーなのとか魔力もんも沢山使ってたし。」

 「でもレディピエロはそういうまやかしは使わないわ。」

 「だろうな、多分。」

 いつぞやのレディ・ピエロの姿を思い出す。カガミと一緒に居た時の事だ。あの時、確かにレディ・ピエロは殺気を長谷川に向けた。その両手に持った刃物で長谷川を切り刻むつもりだった。今思い出しても背筋が寒くなる。

 あの時は何にもしらないカガミの素っ頓狂な声に助けられた、が。今回はまともにやりあおう、って言うんだ。

 (だいじょーぶ、私が戦ってあ・げ・る、とか言われても、なぁ。)

 不安気に一条を見て、それからリュックにも視線を向ける。中にはサバイバルナイフ、そして針が飛び出すように改造した文字通り玩具の拳銃。

 (こんなんで中距離支援つとまんのかよ、俺。)

 二人は歩き続ける。それも大きな通りは避け、裏道へ裏道へ、細い道へ細い道へ、と進んでいく。小さな公園を抜け、コンビニの前を通り、小川にかかってる橋を渡り、また元に近い場所に戻ってくる。

 「っつーか、出てくんのかよ。」

 「大丈夫。一度襲われてるんでしょ。また狙ってくるわ。」

 「襲われたって訳じゃねーぞ。」

 「なによ、似たようなもんじゃない。」


 【夜風は今宵も静かにそよぐ】


 ぴくん、と一条が反応し無駄口を辞める。長谷川の背中にも冷や汗が浮かんできた。リュックの中に手を差し込んで固い皮で包まれた柄を掴む。その固さが長谷川にちょっとした安心感を与えてくれる。


 【落ちた日は夜が明けるまで昇らない。】


 「遅れは許さないわ。」

 「お前、こそ。」

 いつのまにか背中合わせに二人は立って辺りを伺っていた。滑り台とベンチが二つしかない小さな公園の端だった。電灯の下を薮蚊が飛び回る。


 【刃物が切り裂くは闇かそれとも人の肌か】


 一条がパーカーを脱ぎ捨て右手に刺突剣を構える。同じく長谷川はサバイバルナイフを抜き出すと右手で強く握り締めた。と同時にリュックを落とす。二人の背中が重なり合うがその相手の肉の感触に頼もしさを感じたのか頼りなさを感じたのか、それとも何も感じなかったのか、わからない。


 【人の血をすするは刃物かそれとも道化の仮面か】


 「くるわ。」

 一条がそう言った瞬間だった。長谷川の目の前に影がすとん、と降りる。道化の仮面が電灯の明かりの下で意味ありげに笑う。

 がきん

 もう次の瞬間にはレディ・ピエロは長谷川に斬りかかっていて、長谷川はそれをナイフで辛うじて受ける。

 (なんて力だ!女とは思えない!)

 「何やってんの、よ!」

 一条の回し蹴りが二人を蹴り飛ばす。しかし、レディ・ピエロはすんでで飛びのき長谷川だけが弾き飛ばされた。

 「ぐはぁ!」

 そんな長谷川には目もくれず走り込み刺突剣をレディ・ピエロに突き刺す一条。一方、レディ・ピエロはそれを両手に持った小さな刃物で軽く弾く。

 弾かれた勢いを利用して回転突きを放つ一条、道化は身をよじってそれをかわすと右フック、左フック、右フック、左フックと連撃を繰り出す。それをタイミング良く刺突剣で交互に弾く一条。

 続いて隙を突いて一条がレディ・ピエロの顔面に連続突きを繰り出すが、軽く首を動かされ全てかわされてしまう。そして一条の攻撃の切れ目に道化は再びナイフを切り付けてくる。右フック、左フック、右フック、左フック。一条は同じく刺突剣で弾く。二回目の同じ攻撃、一条の防御が少し安定し、最後の一撃を受け止め鍔迫り合いに持って行く。その時だった。

 「もらったぁ!」

 その隙に立ち上がり後ろに回り込んでいた長谷川が、『刺すつもりで』レディ・ピエロの背中にナイフを突き立てた。

 だが、彼女が背中に回した片手の刃物がそれを阻む。もう片方の手の刃物は正面の一条の武器を抑えている。

 ぐぐぐ!

 一対二、暫く力での押し合いになるが、レディ・ピエロは微動だにしない。それどころか、少しずつ長谷川達を押し返し始める。

 長谷川だけでなく、一条も顔に汗が一滴落ちた時だった。

 不意にレディ・ピエロが飛び上がり両足を広げ、それぞれで二人の腹を蹴飛ばした。

 「ぐふ!」

 「がはぁ!」

 もろにくらった二人は飛ばされ尻持ちをつく。その目の前で天性の挌闘家気質の道化は飛び上がり闇夜に消えて行った。

 「大丈夫か!」

 急いで立ち上がった長谷川が一条を迎えにいく。が・・・

 がつん。

 「いって!」

 「なっにが、もらったぁ、よ!」

 一発、一条に頭をどつかれた。

 「いや、刺せると思ったんだ、まぁあの筋肉じゃ、どれだけダメージ通るかわかんないけど。」

 「なら失敗してんじゃないわよ!」

 「あのナイフで受けるとは思わないだろ!?」

 「ふんっ。」

 そして辺りを、主に上を眺め回す一条。長谷川もそれにならう。

 「まだいるわね。」

 「そうだな。」

 ちゃんと姿を把握出来るわけでは無い。しかし、飛び回る影の残像のようなものを二人は確かに目にすることが出来た。

 長谷川がリュックに近寄り中から拳銃を取り出す。

 「それが本物だったら、ねぇ。」

 「馬鹿言うな、この世界じゃそりゃ無理だ。」

戦闘シーン。近距離の殴り合いなので格ゲーみたいな雰囲気出せたら良かったですね。レディピエロのシーンの【】は全体的に気に入っています。後は情景描写とか入れて全体像浮かび上がらせられたらもっとよかったですね。

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