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ネガイシステム  作者: ぼんべい
五章 とにかくレベルを上げて物理で殴れ
35/62

5ー1

 「やるじゃん。」

 夜、長谷川の部屋に上がり込みベッドに陣取る一条はすっごくご機嫌で、いつもの缶コーヒーを飲んでる長谷川に笑いかけた。

 「まぁね。」

 「一人娘に毒盛るなんて、やるねー。」

 「娘、じゃない。姪、だ、姪。」

 「出産してないだけで、実質娘じゃん。願いの女神が辻褄合わせただけでしょ。」

 「かもな。」

 「涼しい顔してやるよねー。見直したわ、オコゼ。」

 「見直したなら、その呼び方辞めてくれないか。」

 「いいじゃん、褒めてんのよ、オ・コ・ゼ。」

 ぴん、ぴん、と願いメダルを弾き上げながら長谷川は皮肉たっぷりに言う。

 「確かに願いの女神は辻褄合わせが得意みたいだな。」

 「ちょっと、なくしたらどうすんのよ。メダル。」

 「別にかまわねーだろ。願いのシステムにゃ、関係無いシロモンだ。」

 願いのシステム。

 そう口にして長谷川はははぁ、なるほどな、と思う。『願いシステム』。いい名前だ。『願い』『条件』『制約』という決まり事もシステムっぽいけれど、それらを設定してる女神様の思惑もシステムと呼ぶに相応しい複雑さと一見そうとはわからない皮肉とに溢れてるじゃないか。これからこのシステムの事を『願いシステム』って呼ぼうか。

 「あんたの『条件』には必要なんでしょ。」

 「俺に必要なのはこいつじゃない。俺のは大事に取ってるよ。」

 「オコゼ、最近ちょーし乗りすぎよ?それとも、あれ?毒なんか盛っちゃったからやさぐれちゃってんの?」

 「俺は毒なんか盛ってないよ。」

 「なによ、責任逃れ?」

 「違う。事実だ、俺は何もしてない。」

 ご機嫌だった一条が興味を示す。

 「どういう事よ。」

 「説明するよ。情報収集は戦略を立てる為の第一歩、でね。一条にあの女社長と姪の健康状態の資料頼んだろ?」

 「覚えてるわよ。」

 「アンドウに、ね。教えてもらってたんだよ。姪は重病で、女社長も本人もそれに気付いてない、ってね。だからそれが何か知りたかったんだ。」

 なるほどね、といった感じで首を傾げる一条。

 「心臓病だった、それも珍しい、ね。発症は近かった。だからあたかも俺が何かしたかのように思わせられれば、後は勝手に自滅してくれる、と踏んだんだ。」

 飲み終わった缶を流しに置きにいきながら背中で一条に解説を続ける長谷川。

 「俺はただ訪ねてって可愛いお嬢ちゃんと一緒に遊んで、メロンジュースをご馳走しただけ。ただ、それだけなんだ。」

 「あきれた。ただそれだけで、願いを諦めさせたって言うの?」

 頷きながら長谷川は戻ってきた。

 「ああ。願いの女神がすでに矛盾パラドックスを仕込んでたんだ。俺はただそれに乗っかっただけ。でも、どうしてもわからない。」

 「なによ?」

 「あの人は、姪を本当に愛していると思う。少なくとも、俺にはそう見えた。」

 「愛してる、なんてくっさい言葉、よく平気で言えるわね。私なんか鳥肌が」

 ごにょごにょと続ける一条の言葉に長谷川が被せる。

 「俺たちの国を潰そうとする人には見えなかった。本当に、俺は正しい事をしたんだろうか。」

 「ねぇ、長谷川。」

 突如、一条がその態度と声音を変えた。それは真剣な物で、瞳も表現すれば慈しみをたたえたものになっていた。

 思わず魅入り、聞き入る長谷川。

 「あなたは向こうの記憶が、本来の記憶が無いからわからないでしょうけれど、私はずっと見てきたの。あの女が私利私欲の為に他の人たちを大勢踏み台にして、まるでその生き血を啜るような事を繰り返してきたのを。」

 長谷川の頭に調べた時の記事、労働者達の苦言が浮かぶ。例え会った時にそんな印象は無くても、実際にそうされているという証言があるんだ。それはつまり、あの女社長は会った時の印象だけで出来上がってるわけじゃない、っていう事だ。

 「そして、工場と労働者が欲しくて私たちの国を乗っ取ろうとしていた。あの人は自分や身内が大事なだけなのよ。だから、長谷川、あなたは正しい事をしたわ。あの人が犠牲にしただろう人を救って、あの人が本当に救うべきだった人を救う事に集中させてあげた。それを正しい結末って言わなくて、何を正しい結末、って言うのよ。」

 真剣な一条の話が長谷川の胸を打つ。暗闇の中を突き進む人間は絶えず不安という罠に嵌りそうになる。そんな時、落ちそうな身体を支えてくれるのはこういう『優しい言葉』なんだろう。

 ふっ、っと鼻で笑う長谷川に一条が空き缶を投げ付ける。

 「なによ!!他人がせっかく気休め言ってあげてんのに!もう、損したわ、二度と言ってやんないんだから!」

 長谷川はくい、と首を傾げて空き缶を避けると、

 「らしくねー、ほんとらしくねーよ、どうしちまったんだ、調子乗りすぎなの、そっちじゃねぇの?しかも気休めなのかよ!」

 「バカ!バカ!バカ~!」

 連投される空き缶を避けきれず、ぽん、ぽん、ぽん、と長谷川に当たる。

 「いってーーー。まぁ、なんだ。」

 その当たった箇所をさすりながら、

 「ありがと。」

 「ふん!」

 赤らんでる顔を背ける一条。

 その横顔に、少し魅入る長谷川。

 「何見てんのよ。」

 ややしてジト目を長谷川に向けながら一条が言うと、長谷川は

 「いいや、別に。」

 (ただの高飛車女にゃ、言えない台詞だよな。ありがと、マジ助かったよ。)

 長谷川の中で燻っていた不安、これで良かったんだろうか、という迷いが一条の言葉で消え去って行く。

 これで良かったんだ。

 例えそうじゃなかったとしても、今はそうだと信じよう。

 「別に、じゃないわよ。にやにやして、嫌らしい奴。」

 「ん?にやにやなんかしてたか?」

 言われて自分の顔がにやついてる事に気付き慌てて真顔に戻す長谷川。

 「と・に・か・く。悩んだり落ち込んだりはしゃいだりしてる余裕は無いの。」

 (誰だよ、一番はしゃいでたのは。)

 「次のターゲットの話をするわ。」

 「え?もう、か?」

 「私も休みたいけどね。」

 (お前は何もしてないだろ。)

 「まぁ安心しなさい。少しは休めるんじゃない?だって、次は私も出るから。」

 「はぁ?」

 今まで何度か指示はされてきたが、作戦立案も作戦実行も全て長谷川の一人舞台、情報提供や情報源への橋渡しといった後方支援が作戦実行時の一条の役割だった。いわばバックアップ、ロジスティクスだ。

 それがいきなり自分も一線に立つ、と言い出した。

 「っていうか。」

 もったいつけるように一条が話す。

 「次のターゲット、オコゼじゃ不安だからねー。あぁー、不安だわぁ。ほんと不安。あっというまにやられちゃうんじゃないかしら。果たして生き残れるのかなぁー?」

 (わかってはいるがムカつく言い方だな!)

 「なんだ、殴り合いで解決する相手なんか?」

 「正しくは斬り合い、ね。知ってるでしょ?」

 一条が足を組み直した。

 「次のターゲットはレディ・ピエロよ。」


後半の話の展開はちょっとだけいい感じになってますね。ただ、前半の説明はやっぱり下手です。一条の語りはよかったからと思ってます。練習は良い所を増やして悪い所を減らしていく事になる、ってどこかで読んだのですが、まさにその通りだと思いました。

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