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ネガイシステム  作者: ぼんべい
四章 俺に体罰した先生ら皆殴り返してやりたいわ
32/62

4ー6

 ○ ○ ○


 「こうやって二人で帰るのも久しぶりだね。」

 校門でカガミとユージと別れると長谷川はサオトメと緩やかな坂を下っていく。目指すはこの先にある中規模の本屋だ。

 「そうだな。俺、カガミとは家同じ方向だしよく一緒んなるけど、サオトメとユージは反対方向だもんな。」

 「はは、そうだね。昔はよくお泊まりして一緒にお風呂とか入ったのにね。」

 「際どい言い方をするな、それにカガミ達だって一緒だったろ。」

 (まぁこっちの世界の植え付けられた記憶、だけどな、俺にとっては。)

 ふと、長谷川は現実感や真実感のようなものに考えを巡らせた。長谷川にとって幼少時代は圧政に苦しみ食べる物も無い日があった、というのが真実だ。

 でも、今隣に居るサオトメは長谷川達と一緒にお風呂に入ったりして無邪気に遊んだ、っていうのが幼少時代の真実。

 もちろん長谷川からしてみればサオトメの真実こそが嘘っぱちなワケだが、でも、サオトメからしてみれば長谷川の真実の方が嘘っぱちで、サオトメの記憶こそが真実なんだよな、と、異世界から来た人間という立場からすれば当然の事を思う。

 だから、きっとサオトメにはサオトメなりの、『ずっと一緒に居た長谷川像』があるんだろう。

 「まぁ、そうだね、違いないや。」

 「で。」

 長谷川は律儀にサオトメを見ながら歩く。

 「本当なら俺が偽者のチョーカーを校長の所に置いとくはずだったって思ってるんだろ。」

 「んー。」

 相変わらずサオトメの話し方ははぐらかすような寄り道をする。

 「まぁ、行動だけ言っちゃえば、ね。でも、僕が言いたいのはそういう事じゃないんだ。確かに僕達は一条を嫌ってる。向こうもこっちを嫌ってるし、あの高飛車な態度はどうしても好きになれないからね。」

 でも、二人は今寄り道せずに本屋に向かっている。リミットはそろそろだった。

 長谷川が黙ってサオトメの顔を見ていると、サオトメがいつも通りの爽やかな笑顔を見せながらこう聞いてきた。

 「もし、あれが一条じゃ無くても、同じ事をしたかい?いや、同じ事をしたって言うのは正しくないよね。同じように何もしなかったかい?」

 その『もしも』を想像してみる長谷川。しかし答えは単純だった。

 「さぁな。わからん。でも何もしなかったように思えるな。」

 「言い訳にしないんだ。」

 「何を?」

 「カガミやユージに止められた事を、ね。」

 長谷川は肩を竦めて見せる。

 「言い訳にはならないだろ。」

 「んー。」

 そう、そこ、それそれ、といった感情を皮肉たっぷりに表現する時のように、サオトメはにんまりとしながら両手をポケットに突っ込んで空を見上げる。

 なんだよ、と聞いてしまえば相手の挑発に乗る事になるし、ただでさえ遠回りするようなサオトメの態度に少し苛立っていた長谷川は黙って続きを待った。

 「僕の知ってるハセだったら、そういう状況なら、突っ走って助けたと思うんだよね。」

 「かもな。でも、俺だって校長に叱られんのは嫌だ。」

 「じゃー、一条はよかったんだ、あの時。」

 ちらっ、とサオトメが長谷川を見る。長谷川はそれを見て『これがチラっって奴か、なるほど確かにムカつく』と思う。

 「だって、カガミ達だって、お前だって一条の事は嫌ってるじゃないか。」

 「んー。嫌ってても助ける、ってのが、僕の知ってるハセだったんだけど、な。」

 カチンとくる言葉を重ねるサオトメにさすがに長谷川も怒ってくる。

 「あのなぁ、別にいいじゃねーか、俺が誰を助けようと、助けないだろうと。なんでそこまで突っかかるんだ?」

 つい長谷川の語気が荒くなる。今、長谷川はサオトメと一条の話をしている。でも、彼の頭の中には別の少女の笑顔が浮かんでいた。そう、あの三億稼いで長谷川達の故郷を消そうとしている眼鏡の女の姪の無邪気な笑顔が。

 しかしサオトメは長谷川の怒りを気にしなかった。

 「変わっちゃったのかな、って思って、ね。悪気は無いんだよ。いつでも情報は最新に保っておきたいだけなんだ。」

 「ふん。勝手にしろ。」

 「それに、なんかハセ、毎日に無関心になってきたかなって。」

 長谷川にしてみれば数ヶ月の『仲良し』でも、サオトメにしてみれば十数年の『仲良し』。お互いに土足で入る事を許しあえると思ってる範囲が違う。

 だから長谷川は怒りも手伝ってイライラしてくる。

 「そんな事はないよ。」

 もちろん、そんな事は無い。長谷川は毎日に夢中だ、でもそれは異世界を中心とした世界だ。だからそっちに労力を注いでる分、こっちの世界の日常、例えば学校生活なんかには自然と無気力気味になってくる。それがサオトメには、サオトメ達には『毎日に無関心』に映る。

 「なら、いいんだけど、ね。」

 それから一拍置いて、サオトメが聞いた。

 「なんか、悩みとか抱えてない?僕でよければ相談に乗るよ。」

 答えずに居る長谷川を促すようにサオトメは続ける。

 「そりゃ、カガミに比べたらいいアドバイスとか出来ないかも知れないし、そもそも僕はデータベースだからね。考えたりとかそういうのは苦手。そういうのが得意なハセにはその気にならないかもしれないけれど、でも、まったく違う人の意見聞いてみるとかってのも参考になったりするって、前言ってたじゃないか。」

 もちろん、サオトメにしてみれば本気で心配しての気遣いなのだろうが、今の長谷川には神経を逆撫でしてるに等しい。

 (だから、相談出来ないって言ってんだろ!!)

 胸の内でそう叫ぶ。相談出来たらどれだけ楽か、カガミのその明晰な意見を聞けたら、サオトメのデータベースを参考に出来たら、ユージの戦力を期待出来たら。

 でも、そんな事出来ない。これは長谷川の、長谷川の世界の物語り。サオトメ達を巻き込むわけにはいかない。巻き込みたくは無い。

 俺とお前達とは、違うんだ。

 そう言葉にして思うと、何故か長谷川の目から涙がこぼれそうになり彼は慌てた。その涙を無理やり押し込めてサオトメに向き直る。

 「いつからそんなにお節介になったんだ。」

 強めの言い方に少し驚くサオトメに長谷川が続ける。

 「データベースを自称するならデータベースらしくおとなしくしてればいいんじゃないか。」

 そしてくるりと背中を向けて本屋とは逆方向に歩き始める。

 「ついでに、数学の学参もそのデータベースから探しといてくれ。」

 と、言い残して長谷川は去って行った。

 こうして、二人の間に親友ならではの気まずさが植物のように根をおろした。例え心配が理由でも近付き過ぎるのを躊躇ってしまい、気まずいが理由でもあからさまに遠ざかる事が出来ない関係。

 そして次第に増えた長谷川の嫌味が希望的な展開を阻害し続けた。


区切りでの話の組み立て、というのを上手く意識出来なくて、ただただ書き連ねていたのを思い出します。それに比べたら今はちゃんと意識出来るようになってますかね・・・ううむw。こういう本題にまつわる感情なんかを書くのって面白いですね。その前の説明部分も面白くかければなお良いでしょう。がんばります。

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