4ー5
○ ○ ○
その後のホームルームも終了。頭の切り替えの早い生徒の中には部活だの塾だの、もう次の予定で気持ちを一杯にしている。アヤメ先生も内心はどうかはわからないが見た目は今日の学校はもう終わり、という雰囲気だった。
一条達もそそくさと教室を出て行ってしまう。
そんな中、とんとん、と鞄にしまう為に教科書を整理しながら長谷川が呟いた。
「なんだったんだろ。」
「校長の事かい。」
長谷川はおや、と思い声の方を振り向く。大抵はこういうタイミングでこういう呟きだと反応してくれるのはカガミだったが、何故かサオトメが聞いてきたのだ。
「ああ。だって、チョーカーは何処行ったか見てたじゃないか、俺ら。」
「うん、そうだね。」
「でも、校長は持ってた。」
「うん、そうだね。」
相槌を打つサオトメは楽しそうだった。サオトメが楽しそうなのはいつもの事だけれどやはり長谷川には引っ掛かる。
「何か知ってるみたいだな。」
「うん、僕が、かい?」
それとなく近寄って来ていたユージやカガミの前でサオトメは続けた。
「だって、あのチョーカーを校長の机に置いたの、僕だもん。」
「どういう事だ?」
とっさにカガミが辺りを伺う。もう他の生徒達は自分達の事に夢中になっていて誰も長谷川達の会話は聞いていないようだった。
長谷川がサオトメを問い質す。
「まさか、一条の鞄からこっそり抜き取って校長の机の上に返したってのか?いつ?」
サオトメは笑顔を崩さない。
「ははは、そんな事出来ないよ。僕だって勝手にレディの持ち物を漁る程不躾でも無いしね。」
「でも、チョーカーは校長が、」
「あ!」
ぽん、と手を叩くユージ。何か閃いたらしい。
「そっか、美術室のニセモン!」
「正解。」
(なるほど。)
長谷川の中で話が繋がった。
(さっき校長が持ち物検査をしようとこの教室に来る直前、サオトメは美術室のフェイクを校長の机に置いたって事か。)
一条に気を取られて気にはしていなかったが、確かにトイレと言ってサオトメは出て行っていた。
(しっかし、よくあの瞬間にあの短時間でそんな大それた事思い付いたな。それも、思い付いただけじゃない。実行までするなんて。)
「すごいな。」
素直な感想を長谷川が口にする。嫌味も何もない、純粋な賞賛の言葉。
見捨てろ、と、悪く言えばそう主張したカガミとユージとは真反対だ。
「んー。」
心なしかサオトメの笑顔が少し寂しいものに変わったように長谷川には思える。
「どうした?」
素直にその疑問をぶつけた長谷川にサオトメは意外な事を言い出した。
「んー。いや、ね。本当ならこういう事ってハセの得意分野だったかな、って。」
「どういう意味だ?」
座っていた人間はそれぞれ帰る為に立ち上がりながらも、お互いの真意を確かめようと目を走らせる。
「そうだ、ハセ、僕数学の参考書欲しいんだ。ちょっと付き合ってよ。」
「ああ、それは構わないけど」
それならカガミの方が、と言おうとしてその口を紡ぐ長谷川。
サオトメが何か自分に言いたい事があるのがわかったし、それに、カガミも何か深刻そうな顔をしていたからだった。
二つ以上の表現を組み合わせる事が出来るようにならないといつまでたっても同じ説明口調になってしまいますね。少し小説にリズムを付ける事を意識しようと思います。




