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チョーカー事件の顛末。
一条は真っ青な顔に冷や汗をだらだらと流しながら机につっぷしている。多分『人体地層』だとかその辺りの校長の噂を知ってるのだろう。アヤメ先生に歯向かうのとはまた訳が違う事を理解しているようだった。
そんな一条にミキモトとアンドウが不安そうに寄り添っている。まわりの皆は事情を知らないので不思議そうな顔をしてるが、一条の意味不明な言動はよくある事なので特に注意を払ったりはしていない。
(さって、どうするか。)
どうもしないのが一番かもな、と、長谷川は頭を巡らせる。
(壊れてなければ直すな、とも言うしな。)
このままチョーカーは紛失で終わり、という結果も十分ありうる。その時は不機嫌になるであろう校長の八つ当たりさえ回避すればまたいつもの学園生活に戻れる。あるいは全校生徒一斉テスト、とか始めるかもしれないが、それならそれで苦渋を全校生徒で共有出来るいい思い出にもなるだろう。全員が少し痛む事で誰もひどくは痛まない結末。学校や先生に面と向かって歯向かえない生徒という身分の俺らにはある意味グッドエンド、だ。
などと楽観的な事を考えながら次の授業の準備をしている時だった。
クラスメイトが一人、走って教室に入ってくるなりこう叫んだ、
「大変!ウチだけなんだって、持ち物検査してないの。それで、次の時間校長が来て検査するって!」
(ヤべ、最悪の展開だ!)
しかもそのタイミングでチャイムが鳴る。
「どうしたんだい?」
同じタイミングでトイレから帰ってきたサオトメの質問にカガミが、
「どうやらこのクラスだけらしい。持ち物検査をしてないのが、な。次の時間校長直々に検査だそうだ。」
ちらりと一条を見て、
「まさに自業自得だな。」
「ふーん。」
興味なさそうなサオトメの返事とは反対に長谷川の内心は焦りで一杯になる。一条に至っては意味も無く鞄に手を置いたり離したりを繰り替えしていて、アンドウとミキモトが固唾を飲んでそれを見守っている。
(これだけ動揺してるって事は、一条はアヤメ先生のように校長に歯向かうつもりは無いって事だ。なんとかしないと!)
思わず説明口調を頭の中に並べ立てた長谷川は席から立ち上がろうとするが、腕を掴まれ阻まれる。
振り返ると、カガミだった。
「やめておけ、ハセ。これはあいつの問題だ。」
「しかし、」
「誰でも助けようとするのはハセのいートコだけど、あいつ助ける必要は無くね?」
ユージもこぼす。
(しかし・・・)
二人がかりでの牽制にそれ以上進めない長谷川。あるいは具体的な手段を思い付けなかった事も彼を踏みとどまらせたのか。
のっしのっし
勢いよく足音が近付いてくる。それが近付けば近付く程長谷川の中で焦りが膨れ動かなきゃという気持ちを押すが、このまま放っておけという思いもまた膨れ上がり彼を抑え込む。
「大事の前の小事だ。犠牲はやむを得ん。」
カガミがトドメの様に言う。その言葉に頷いてしまう部分もある長谷川。
がらがらがら。
凄い勢いで扉が開き、巨体が教室の中に滑り込む。
(すまん、一条!俺たちの為に犠牲になってくれ!)
心の中で長谷川が一条を見捨て、そしてその事に賛成と反省の両方の気持ちを抱いた所に校長の大きな声が響いた。
「いやぁーーーー、あった、あった、あったぞぉい!」
アニメのようなにこやかな笑顔、掲げられた右手にきらりと光るチョーカー、笑顔に映える白い歯もきらりと光り、長谷川達クラスメイトは全員がぽかぁーんとする。
そこにさらに校長の大声が響く。
「ははははは、いやぁー、すまんかったなぁ。疑ってしまってのぉ。やっぱり、諸君らは儂の自慢の生徒達じゃ。それじゃ、授業がんばるよーに。がはははは!!」
そして入れ違いに入ってきた定年間近の現国の先生が始めた聞き取りにくいゆっくりとした授業によって、教室内、特に長谷川や一条達の中で極限まで高まっていた緊張はゆっくりと薄まって行き、授業が終わる頃には事件は数ヶ月前、あるいは数年前の出来事の様に皆が思い始めていた。
区切りの中で波を作る必要があるんですよね。あと、各キャラの心情ってどこまで書けば共感得られるのか、くどすぎるのか、さっぱりわからないでいます。




